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京大上海センターニュースレター
208号 2008410
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

      中国・上海ニュース 3.31-4.6

国立台湾大学訪問記

○寧夏自治区貧困地域の草原再生計画

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中国・上海ニュース 3.31−4.6

ヘッドライン

■ 中国:全面的インフレ発生のリスク

■ 中国:1−2月工業企業利益が16.5%増

■ 国際:中国、ニュージーランドが自由貿易協定に署名

■ 中国:加工貿易禁止商品が1816品目に

■ 中国:資金貸付は引き締めるが農業支援は拡大

■ 中国:国内商業銀行の米株式投資が可能に

■ 自動車:1−3月国産乗用車販売20%増の185万台

■ 天津:濱海新区総合保税区の設立が認可

■ 北京:月収1万元超える申告者が増加

■ 大連:物価高が飲食店を直撃、1−3月倒産数10%増

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国立台湾大学訪問記

経営管理研究部教授 徳賀芳弘

 220日から24日まで、台北市に滞在し、国立台湾大学で報告をしました。国立台湾大学は1897年に台湾大学として創立され、1928年に日本政府によって設立された台北帝国大学(そのため、第四代までの学長は日本人です)を前身として、中華民国政府によって1945年に接収・新設された大学です。

 正式名称は、"國立臺灣大學"であり、大学所有の森林や牧場まで含めると中華民国の国土約1%程度の土地(台湾全体で日本の九州程度の広さですから福岡市よりやや大きいことになります)を専有している巨大な大学です。現在は11学部、54学科と夜間部を擁し、2万人を越える学生が通っています。

 経営管理学部での報告は2006年に続いて2度目です。前回は、「国際会計基準と日本のジレンマ」という若干政治的なテーマであり、東アジアでの問題意識の共有という使命感を多少は持ってお話しをしましたが、今回は、「経営者の短期主義とR&D投資の関係」という経営戦略的なお話し(実証研究)でしたので、気持ちは楽でした。

 メールの連絡では、報告時間が40分程度とのことでしたので、私が31分で問題提起、先行研究のサーベイ、分析結果のインプリケーションについてお話しし、共同研究者の田中氏(慈恵医科大学)が残る9分で当該分析について計量経済学上の問題点の解決について説明しました。報告が40分ということでしたので、討論は10分か20分と予想していたのですが、なんと50分でした。最後の15分は、我々の集中力も限界を超えて、かなりいいかげんな英語を話してしまいました。

 以前の交流から感じていたのですが、台湾大学では学生・院生の英語能力が高く、ほとんどよどみなく話を続けられるレベルです。聞くと、幼い頃から日常的に英語を話してきたということです。本人の努力もさることながら、社会の環境等が特に英語教育に関しては整っているということでしょうか。

 台北では陽明山の桜がすでに咲き誇り、つかの間の春を楽しむことができました。

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寧夏自治区貧困地域の草原再生計画

-成長の成果のひとつの分配-

京都大学 大西 広

砂漠の緑化が進む寧夏回族自治区東部の塩池県での禁牧と退耕還草による砂漠の草原化の様子を昨秋調査しました。西夏時代には青々としていたその草原も今は砂漠ですから、簡単には草原に戻りません。ですので、点在する農家の小さな耕地を放棄させ、さらに放牧を禁止するなどが不可欠ですが、このような厳しい措置に貧しい農家が対応できるのか、そのことが貧困解決のネックになっていないかが調査の目的でした。

 

万全の保障措置と各種の補助金

結論から言うと、この措置に伴う保障措置は万全なものでした。たとえば、耕地を放棄すると家族一人につき1ムーの放棄で年間200元の保障金が配られ、一人当り年収2000元余りの貧困地区にとっては大きな収入源となっています。ある農家はこの保障金制度のためには家族が多いほど得だというようなことを述べていました。また、放牧の禁止(禁牧)も、違反をすれば1頭当り5元の罰金がとられますが、草を買わねばならなくなった分だけの補助金があります。この他、当地の貧困家庭にはまた特別に小麦粉と米が月単位で、食用油が年単位で、そしてさらに肉を買うための手当ても支給されているということですので、かなり多様な補助金システムが整備されていることになります。ついでに述べますと、訪問した五軒の家庭のうちの一軒は娘が清華大学に在学中ということですが、この学費補助に自治区政府が年間で5000元出していました。

 

経済成長の成果の分配

このため、一般の平均的な農家の収入のうちに占める補助金の比率はかなり大きいものと思われます。この地区の農民の平均的な一人当たり年収は上述のとおり2000元余りですから、まずは「耕作放棄」で年収の10分の1がカバーされ、それに上記の補助金が上のせされています。ただし、それでもこの「耕作放棄」や旱魃の影響で狭義の農業収入はほとんどなくなり、「農業よりは儲かる」牧畜業やその他の副業収入に頼っています。牧畜業では飼料の中心であるトウモロコシの値上がりが響いていますが、それでも肉価が一年で倍になったので利益は増えています。消費者にとってつらい農産物価格の上昇も貧困な農家からすればこうして良いこととして写ります。

また、その「副業」の中身も興味深いものでした。周辺で採掘している石炭掘りに毎日出たり、高速道路建設の出稼ぎに出れば月1000元の収入になるそうです。先の補助金の源泉も沿海部の工業発展にあるのであれば、この副業収入の大きさも農業収入との格差を浮き立たせます。砂漠の緑化も経済成長のおかげというのが実情のようです。