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京大上海センターニュースレター
209号 2008417
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

○「経済統合と経済政策:欧州と東アジア」国際セミナーのご案内

      中国・上海ニュース 4.7-4.13

      青森県産リンゴの対中輸出事情

○中国ビジネス書新刊のご案内

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「経済統合と経済政策:欧州と東アジア」国際セミナーのご案内

 4月24日(木)の午後に、レギュラシオン学派の指導的経済学者であるロベール・ボワイエ教授を中心にした国際セミナーを開催します。テーマは「経済統合と経済政策」で、地理的拡大と通貨統合の進行する欧州における経済政策の整合性問題や、地域間・労働市場内の格差問題をふまえて、東アジアにおける経済統合とそれに結びついた政策問題を検討します。ふるってご参加ください。

  報告者 ロベール・ボワイエ(パリ社会科学高等研究院研究部長)

       「欧州の不完全な政策ミックス:東アジアへの示唆」

      八木紀一郎(京都大学経済学研究科教授)

       「経済統合と地域政策:欧州と東アジア」

日時: 4月24日(木) 午後2時から6時

   会場:京都大学経済学研究科研究棟8F東端リフレッシュルーム

  主催: 京都大学経済学研究科上海センター  後援: 京都大学上海センター協力会

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中国・上海ニュース 4.7−4.13

ヘッドライン

■ 中国:1−3月、GDP10.6%増、CPI8%上昇

■ 両岸:胡主席、蕭・台湾次期副総統会談

■ 台湾:大陸直行チャーター便、台湾本島の人民元両替、7月4日から

■ 中国:「貧困」基準が改正へ、「貧困層」倍増か

■ 中国:大学生に月20元の生活援助 物価上昇対策で

■ 西安:中国第2の宇宙産業基地を建設、地元への経済効果期待

■ 広州:第103回中国輸出入商品交易会開幕

■ 山東:3月の物価上昇が過去最大 食用油が高騰

■ 上海:地下鉄12号線が年内着工

■ 北京:都市バス排気ガス基準、五輪までにユーロVレベルに

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青森県産リンゴの対中輸出事情

弘前大学教授 黄 孝春(青森県農林水産物輸出促進協議会会長)

 

現段階における青森産リンゴの対中輸出

 青森県農林水産物輸出促進協議会が20045月に成立してまもなく満4年となる。名称から見れば、県の農林水産物の海外輸出を促進するための組織と思われるが、実際は中国への輸出促進が主たる目的で中でもリンゴの対中輸出が最大の眼目であるといってよい。

 県産リンゴの対中輸出といえば、1990年代初めに上海の空港で世界一が一個100元で売られていたことをいまも鮮烈に覚えている。ただ当時日本産リンゴの対中輸出は認めていなかったので、香港ルートの密輸で入ったのではないかと推測される。正式に中国への輸出が許可されるようになったのは2004年のことで、それを受けて上記の協議会が立ち上げられ、県産リンゴの対中輸出拡大に様々な活動を営んできた。旧正月の前に協議会メンバーが中国で商談会と市場調査を行うのが恒例となり、今年も122日から29日までの日程で北京、上海、青島の三都市を回ってきた。

 4年が経過してみて、県産リンゴの中国市場へのアクセスは順調のように見える。日本の税関統計によると、2006年産リンゴの対中輸出は約200トンであったが、2007産は今年の1月末現在約400トンと倍増している。まだ微々たる数字だが、中国という巨大市場への本格参入に大きな一歩を踏み出したと思う。現段階の特徴は次の3点に要約できる。

 第1に当初は上海、北京のような大都会の高級デパートでしか販売されなかったが、徐々に地方都市に広がり、中小のスーパーも扱うようになっている。昨年寧夏回族自治区の銀川市のスーパーで青森リンゴをみたとの証言がある。私は昨年12月末に北京の街角にある果物屋で青森のリンゴを見た時にここまで来たのか、隔世の感という思いをした。

2に世界一、陸奥や金星が輸出の主力品種となっているが、世界一がとくに人気である。その世界一はサイズが大きいほど好まれるという。明らかに贈答用が主な購入目的で、その希少性が評価されているのだ。2006年産リンゴの輸出にその傾向がはっきりしてきたために産地で2007年産世界一の買占めが起こり、買値の上昇をもたらした。問題は中国市場で必要とされる世界一の大玉(1ケースに入るリンゴの玉数、たとえば8玉、9玉)はなかなかとれず、もともと少ない生産量の3%程度にとどまっている。

そして第3に高い値段で販売されている。リンゴの等級や販売場所によってまちまちだが、世界一の小売価格は11000-1500円である。陸奥や金星などはやや安いが、それでも11000円ぐらい。それは、中国産はもとより、アメリカ産よりも数倍高い。

 ちなみに小泉元首相がよく口にしたりんご12000円という自慢話は北京の「賽特」という百貨店で販売された世界一の小売価格から来ているようで、その記録は今年大連商場で更新された。大連商場で3年続けて青森リンゴフェアを開催してきた片山リンゴ園は大紅栄という品種のリンゴを1188元(約3000円)で売り出し、完売した。

 

滑り出しが順調である理由

 対中輸出が同時に解禁された梨に比べると、リンゴの出だしが順調で、予想以上の成果を収めている。それには様々な理由が考えられるが、その根底にあるのは青森県産リンゴの持つ優位性だと思う。

文字通り世界一のサイズ、工芸品のような着色、それに独特な香りと口当たり・・・いずれも青森の風土に適した品種で、希少価値のあるものばかり。それが中国で贈答品として好まれるのは当然のことであった。

実は、中国は世界一のリンゴ生産大国である(年産2500万トン、日本の約30倍)。しかし、形、色、味のあらゆる面において青森産に大きく劣っている。昨年の1月に深圳の青果市場でサイズの大きいふじを世界一と偽り、キタエアップルと県認証マークの偽タグを付けたリンゴをみた瞬間、唖然としたが、本物とは雲泥の差があったので、あまり気にならなかった。おそらく日本産リンゴが高値で販売され、話題になったのをみて日本語のタグをつけば、本物を知らない人に日本産として売れると思ったのではないかと推測される。私は念のために確認したところ、店員は煙台産だと素直に認めてくれた。

ただし、モノがよいからといって自動的に売れるとは限らない。リンゴの好調は長年に培われてきたりんご関係者のバイタリティーによるところが大きいと思う。

周知のように日本の農産物輸出の筆頭はりんごで、そのほとんどは台湾向けである。台湾市場のへの売り込みは半世紀以上前までさかのぼれ、県関係者の心血が注ぎつくされてきたといっても過言ではない。2006年産リンゴの輸出は23000トンを超え、約80億円の売上を計上している。それが2007年農産物輸出総額2200億円の27%を占めている。リンゴ関係者にとっていま台湾は九州を上回る市場になっている。今年、ミカンの販売価格が低迷しているのに対してリンゴ価格が比較的堅調なのはこうした輸出による効果が大きいと考えられる。

 この台湾への輸出先行履歴はいまいろんな形で大陸への市場開拓に生かされている。たとえば、台湾と大陸の間に味覚や美観、文化などにおいて共通するところが多いので、台湾で経験した贈答用リンゴの販売経験が大陸市場への初期参入戦略として適用されやすかった。

 今年の青森県産リンゴの対中輸出にとってもっとも注目すべき変化は、台湾輸出を担ってきた台湾の商社が大陸との特殊関係を利用して青森産リンゴの対中輸出に参入してきたことであろう。関係者の話では、昨年は台湾へ輸出したリンゴのうち、約2000トン、今年はその倍の4000トンが大陸に流れているのではないかという。それが事実なら、青森県にとっても無視できないことになる。

 

直面する諸課題

 日本産リンゴの輸入許可を好機としてとらえ、動き出した青森県の対中輸出は順調に動き出したが、台湾業者の参入で正規ルートの10倍ともいわれる量のリンゴが大陸市場に流れていると関係者は見ている。しかし、それは青森県にとって福音ばかりではない。

たしかに中国市場への新規参入には複雑な流通仕組みや信頼できる地元取引業者の不在とそれに伴う代金回収への不安などの問題が指摘される。その解決策として協議会が応援する上海ルートでは日本から直接輸入したリンゴをできるだけ、小売のスーパーに卸して消費者に対面販売する、という方法がとられてきたが、それでは量的拡大に自ずと限界があった。

 台湾業者の参入はこの限界を突き破ることになる。彼らは委託販売、すなわち販売された箱数に応じて手数料を払うという手法で大陸の卸売業者と取引するので、卸売業者にとっては高く売るという誘因が弱く、自分の利益のためには大量に捌くことだけが関心事となる。他方、台湾の商社は台湾で売る予定のものが売れなくなって大陸に投げ売りを惜しまない。値崩れが生じやすい所以である。

 このような状況はさまざまな問題を引き起こしている。日本から直接輸入し、大陸で販売する業者が価格競争に巻き込まれ、その結果、青森県産リンゴのブランドイメージに傷がつく恐れがある。いまの中国では青森産リンゴの品質に関する知識が乏しく、また業者の等級表示もばらばらであるため、良いものが正当に評価されないということがいわれている。

 その解決策として、一つは中国向けに統一した等級の基準づくり、その表記の仕方などでほかのルートで入ったリンゴとの区別ができるようにすることである。いま一つは早急に中国語のホームページを開設して取引業者や消費者に正確な情報を提供することである。

日本人でもほとんど手を出さないリンゴ13000円という買い物。おそらく芸術品のような農産物であるリンゴに対する好奇心から買い物衝動が生まれたと思われる。店頭に並んでいるリンゴの表面に爪痕がよく見かけると聞くが、おそらくそれを見た買い物客が本当にリンゴかと疑い、指で試しただろう。売る側としてはリンゴの購入客に感謝の気持ちを持ってそのような商品がどのようにして栽培したのかを説明する義務がある。それがブランドイメージの早期確立にもつながるはずである。

 なお中長期の輸出戦略としては主力のふじの出番を考えるべきであろう。いまふじは世界のリンゴ生産量の20%(約1200万トン)を占めている。稀に見る優良品種を生み出し、それを世界に広めたことで青森リンゴ関係者はある種の達成感を持っていると同時に、もし知的所有権に則って栽培農家からロイヤリティーをとる仕組みが整備されていたならば、毎年100億円の単位のお金が入ってくるのに、という悔いもある。これからふじの原産地から、ふじの生産量がもっとも多い中国へ輸出していくにはどんな試練が待っているのか、その成功経験はいま大陸市場に照準を当てている多くの中小ビジネスに輸出モデルを提供してくれるに違いない。

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中国ビジネス書新刊のご案内

(亜細亜大学範雲濤客員教授よりご自身の新刊書の紹介を受けましたのでご紹介します)

上海センターニュースレターをいつも拝読いたしております。このたびは、3月13日付けで講談社より新しい著書を出版いたしました。題名は、『やっぱり危ない 中国ビジネスの罠』副題は、「日本企業が嵌った仰天トラブルのすべて」です。伊藤忠商事丹羽宇一郎会長がご推薦。「本書は、日中双方に精通した敏腕弁護士による豊富な具体例を交えたアドバイスであり、対中ビジネス成功の指針を与えてくれる」というコメントを寄せていただきました。
 これは、2004年7月に日本評論社から出た『中国ビジネスの法務戦略』の姉妹編であり、続編でもあるという位置づけであります。
 21世紀における日中関係の健全化、成熟化を期待する関係者や、日本企業の対中投資、経営マネージメントを構築するうえで役立つ助言やアドバイス、現状分析を私の12か年に渡る弁護士実務経験をふまえた中で試みた一冊であります。
 ぜひご参考にしていただき、皆様にも御覧になってもらいたく存じます。

亜細亜大学  範雲濤