=======================================================================================
京大上海センターニュースレター
210号 2008424
京都大学経済学研究科上海センター

=======================================================================================
目次

      中国・上海ニュース 4.14-4.20

○激変する旧正月後の工場経営環境

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

中国・上海ニュース 4.14−4.20

ヘッドライン

■ 中国:北京−上海間高速鉄道が着工

■ 中国:上海株式指数、6ヶ月で半減 

■ 中国:商務部、カルフール不買運動の中止を要求

■ 中国:07年分高収入者申告213万人、平均所得36万元

■ 四川:成都の外資利用額、前年同期比90.7%増

■ 北京:北京モーターショー開幕、国内過去最大規模

■ 広東:1−3月、自動車輸入が急増

■ 上海:急速な高齢化で労働人口がマイナス成長

■ 上海:「レジ袋制限政策」に対応、スーパーが「過渡期」政策

■ 湖北:武漢で第6回「中国光バレー」国際光電子博覧会開催

=============================================================================

 

激変する旧正月後の工場経営環境

 21.MAR.08

香港:美朋有限公司 董事長 小島正憲

中国政府は各界の反対を排して、労働契約法を予定通り08年1月から中国全土でいっせいに強制実施した。実施に当たっては、私はまず上海や深圳などの代表的な都市で先行し、その反響を確かめてから全土に普及するものと予測していた。しかし政府は1月に入るや否や中国全土での同時実施に踏み切った。私の工場がある上海市・湖北省黄石市・吉林省琿春市などでも、地元労働局から「月末までに全従業員と労働契約を結べ」という強力な指示が下った。他地域の同業他社の状況もほぼ同様であったことから判断して、労働契約法は1月末までに、中国全土の企業に徹底されたと見てよいだろう。その結果、金融融引き締め・委託加工貿易の制限・環境規制の強化などの悪条件の上に、予想外の雪害まで加わって、旧正月後の工場の経営環境は各地で激変した。時事通信の速報から情報を抽出して、以下にその状況を紹介する。

前回の小論で山東省煙台市の韓国企業の夜逃げを紹介したが、最近山東省では中国人の韓国人への暴行や拉致事件が頻発している。社屋の賃貸契約を中途解約したり、取引上の負債を踏み倒したり、従業員の給与も未払いのまま帰国しようとする韓国人が相次いでいるからである。代表的な例として、即墨市の皮革工場で中国人家主が暴漢を雇って韓国人を監禁した事件や、青島市の韓国人電子部品製造業者が中国人の取引先業者に拉致され、2時間後に公安の手で救出された事件がある。青島の韓国商工会は、進出企業の10%に当たる500社が今年度の前半で撤退する意思を固めており、その過程で韓国人への暴力事件が多発するのではないと危惧している。

夜逃げは韓国企業だけでなく、広東省の台湾企業でも起きている。広州市の台湾企業:利昌鞋業公司は700人余りの従業員の給与を支払わず、旧正月中に工場を閉めて逃げてしまった。広東省の朱江デルタ地帯では労働契約法による労働コストの上昇を嫌い、夜逃げする台湾企業が増えており争議も頻発している。

中国各地で大型工場の閉鎖や大量リストラ、労使紛争が相次いでいる。広東省東莞市では、繊維染色の大手会社が経営困難を理由に4000人余りの社員を解雇した。河南省では、中国最大のプラスティックメーカー(社員2万人)が労働契約法による人件費の上昇を主な理由にして生産停止、身売りを決定した。さらに

カシオの広州市の下請け工場では、4000人余りの従業員が給与体系の変更に不満を持ち、ストライキや路上での抗議行動を行ったため、警官数百人が出動する事態となった。

このように労働契約法は中国各地の工場経営に深刻な影響を与えており、早急な撤退や構造転換が求められている。韓国商工会議所が会員企業350社を対象にした調査によれば、約3割の企業が労働契約法による人件費急騰を嫌って、撤退を検討しているという。香港工業総会の朱江デルタ地域のビジネス環境調査によれば、32%の企業が今後の同地域の投資環境に悲観的で投資を縮小する見通しであり、約30%の企業で労働契約法施行後に労働争議が発生したと答えたという。台北経営管理院基金会の中国各地の台湾企業300社への訪問アンケート調査結果によれば、進出台湾企業の8割は輸出還付税率の引き下げや労働契約法の実施などによる経営環境の悪化で、構造転換を迫られているという。上海米国商工会議所が行った中国進出製造業型外資系企業への調査によれば、54%の企業が「さらに労働コストが安い国に比べ、中国は製造基地としての競争力を失いつつある」と見ていることがわかったという。

かくのごとく労働契約法は中国から多くの外資企業を撤退させてしまった。その結果、深圳加工貿易協会の陳永漢会長の言によれば、深圳市の第1・四半期の加工貿易輸出が前年同期比で3割以上落ち込む可能性があるという。労働契約法などによる生産コストの上昇により、朱江デルタの企業が旧正月前後に相次いで加工工場を閉鎖したことが原因である。さらに工場の大量閉鎖は、労働市場の需給バランスにも影響している。東莞市だけでも約3000の工場が閉鎖、少なくとも80万人の労働者が周辺都市に流れたことになり、深刻な人手不足に悩んだここ数年の旧正月後とはちがい、今年は従業員が余っている状態で、工場前に人員募集の張り紙をしておくだけで、1日に50人ほどの応募があるという。

たしかに私のすべての工場で、旧正月後、労働者の応募が例年よりはるかに多い。これは大工場だけでなく、各地の無数の中小零細工場が閉鎖された結果であると考えられる。実際に私の数年前に私の工場から独立したり、転職した元幹部社員がふたたび戻ってくることも多くなった。この状況を見て、私は各工場に増員と生産キャパの拡充の指示を出している。

3月9日、田成平労働社会保障相は北京の人民大会堂で記者会見し、今年の雇用情勢について「依然として非常に厳しい」との見通しを示した。この事態は労働契約法の強制執行により、外資を撤退させ、中小零細企業を閉鎖に追い込んだ中国政府自らが招いた帰結である。