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京大上海センターニュースレター
213号 2008515
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

○上海センター・シンポジウムのご案内

      中国・上海ニュース 5.5-5.12

○長江水運の現状と将来展望

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上海センター・シンポジウムのご案内

アジア共同体を京都から構想する」

 20021月、シンガポールで当時の小泉首相が「東アジア共同体」を提唱して以来、日本でも「東アジア共同体」の枠組みに関する議論が日本国内で、また多国間で交わされています。「ASEAN+日中韓」なのか、さらにインド、オーストラリア、ニュージーランドを含めた「ASEAN+6」なのか、などが論点となっています。今回は、これらの論点に加え、共同体の必要性、条件、現実性などの問題について、中国、韓国の関係部門の研究者に論じていただきます。日本側からも、この分野の研究書を最近出版された坂東慧国際経済労働研究所会長、また本上海センター設立に貢献された本山美彦京都大学名誉教授・大阪産業大学教授のご報告をいただきます。

 なお、本シンポジウムに先立ち、13:00-13:45には上海センター協力会総会を経済学部大会議室で開催、シンポジウム終了後には、再び当会場にて懇親会を開催します。合わせご参加いただければ幸いです。

日時 2008630() 午後2:00-5:45

会場 京都大学時計台記念館2階国際交流ホール

司会 山本裕美 京都大学経済学研究科上海センター長

報告者

@張 燕生 中国国務院発展改革委員会対外経済研究所所長「東アジア共同体-中国の視点-

A安 乗直 ソウル大学名誉教授「東アジア共同体-韓国の視点-

B板東 慧 国際経済労働研究所会長「東アジア共同体かアジア共同体か」

C本山美彦 京都大学名誉教授、大阪産業大学教授「日本は米国の軛から逃れることができるか」

 

共催    京都大学上海センター協力会  後援(予定) 北東アジア・アカデミック・フォーラム

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中国・上海ニュース 5.5−5.11

ヘッドライン

■ 中国:四川大地震、死者1万4千人超

 中国消費者物価指数8.5上昇 

■ 中国人民銀行:預金準備率を0.5ポイント引き上げ

■ 中国:1-4月、貿易額が8千億米ドルに迫る 

■ 中国:1-3月、対外投資額が昨年同期の4倍に

■ 中国:4月工業生産額15.7%増

■ 産業:国産地下鉄車両、インドに初輸出

■ 自動車:1−4月自動車生産台数は350万台

■ 商務部:36都市の農産物価格が5週連続で下落

■ 産業大型旅客機の開発と生産に新会社

■ 上海:1400人以上の観光客が四川震災地域に、1人が死亡

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長江水運の現状と将来展望

2008年4月10日

上海三統国際貨運代理有限公司 陳泰圭

2008年3月22日〜27日の日程で日中友好経済懇話会の主催、上海センター協力会などの後援による中国視察に参加させて頂いた。

訪問地は長江流域の三峡ダム、及び武漢地区であるが、長江流域の現状と将来展望について物流業者の視点から分析してみたいと思う。

 

三峡ダム

 上海から重慶までの長江水域の生命線である三峡ダムは、全長2.3km、堤高185m、ダムの上流域通常海抜水位175m※、下流域海抜水位75m弱※と、その水位差約100−110mというまさにマンモスダムである。(※海抜水位表示で水深ではない)

 また上流と下流を、1万トン級の船舶まで往来を可能にするシップロックと呼ばれる5段階のステップ式の水門が並列している。

 ダム自体は1万トン級船舶の往来までを見据えているが、問題は上海からここ三峡までの下流域について、地域ごとの水深とまた各都市に設けられた橋下の高さがネックとなり、1万トンクラスの船が武漢地区を通り抜けて遡ってくるのは現状やや難ありの模様である。 現状は通常3000t 〜5000tクラスまでは可能とのこと。

 逆にダムより上流の水深については、重慶まで1万トンクラスの船が行き来するのに十分な水深が確保されている。 近い将来ダム下流の水深に関する課題が解決でき、1万トンクラスの貨物の大量輸送が通常に可能となれば、地図上で見ても分かるように武漢、重慶は完全に中国大陸のど真ん中に位置しているが、一本の河を伝って大陸の中心部が沿岸地域へと変身するさまが想像できてしまう。 無論、まださまざまな課題はあると思われるが、中国の目論む西部開発政策を現実のものにするには、長江流域の物流網発展は絶対的に欠かせない要素であることに間違いはなく、三峡ダムはその要となるだろう。

 

武漢港

武漢は九省に通ずる中国の「へそ」と呼ばれる交通の要所であるといわれるように、長江流域上でも上海〜重慶、成都へつながるほぼ中心地に位置している。ネット上の調べによると記録の上では1931年に1万t級の「カリフォルニア号」という重油船が武漢まで来たとあるそうだが、1968年に南京大橋が掛かって以来大型船舶の長江乗り入れが禁止されたとある。

 そのため実質1万トンクラスの船舶が武漢までたどり着くのは事実上確認できずに来たわけだが、昨年2007年9月に武漢鋼鉄(武漢港より下流、陽羅港付近)のところまで1万トン級の船舶が入航したとのニュースが出たことで事実武漢までの航行が可能であることを証明した。 

武漢港付近の事情に詳しい港湾関係者の話によると、武漢鋼鉄に近い陽羅港付近より下流は水深が7M以上あるらしいが、そこからやや上流付近については渇水期の最低水深にして2.9M〜3.2Mしかなく、現実的には1万トン級の船舶が通り抜けるには水深が不足であるとのこと。

但し、この付近の川底を掘り下げる計画が既に11次5ヵ年計画に盛り込まれているらしく、水深整備が完了すれば現実味は一層増してくる。とはいえ、浅瀬と橋下の高さに対応できる長江専用に改造された船舶に限られると思われる。

 渇水期は10月から4月までで、実際に1万トン級船舶が安全に往来可能な時期は1年で5-9月の5ヶ月しかないとの調査結果もでているようである。

 

現状と将来展望

結論として1万トン級の船舶は近い将来に現実に重慶までたどり着くことができるという事になるが、この情報から言えることは、中国の推し進める労働集約型ローテク加工産業の西部誘致政策を後押しする大きな足がかりとなるといえる。

 その理由として、現在は外洋からの船は全て上海でトランシップし、内航は3000tクラスのフィーダー船が主流で長江流域をピストン往来しているが、通常でトランシップに掛かる時間は、コンテナ船で2−3日、バルクカーゴで1週間〜10日を要している。しかし外洋から上海港をスルーで抜けられる大型船舶の直行便が現実になれば、大量の貨物が積み替えに掛かる日数をそのまま節約できる計算になる。

もともと企業にとっては工場を内陸へ移転することに伴い、沿岸地域より輸送時間が3〜5日延びることを余儀なくされるので、2-3日の輸送時間短縮は大きな意味を成す。

 長江流域開発に時間とお金を掛けるよりは、既にインフラの発展した上海からフィーダーピストンをするだけでも事足りるのではないかとの疑問に対しても、国家政策として沿岸部からのローテク産業締め出しを進めているということは、実際に沿岸地域を最終目的地とする貨物は減少し、より多くの貨物が内陸へ運ばれることになる。それと同時に、将来的に武漢、重慶を円の中心とした物流網が構築されれば、沿岸部からの移転組みに限らず、新たに進出してくる企業の選択拠点として十分考えられ、内陸部への貨物の大量引き込みが必要となれば、いずれ大型船の乗り入れ需要は必然となる。

 過去にイースタンカーライナーが97年頃より数年間長江専用に改造した5000tクラスの船を武漢まで配船した実績もあるが、そのときはわずか9回の運行で航行を取りやめた経緯があるらしい。 

 

理由は需要不足

ただしこれからの展望を見据えれば需要は確実に増えると予想され、外国船籍の新たな挑戦も十分に考えられる。 (ただし外国船籍の長江乗り入れが増えることは、長江内航に利権を持っている国内フィーダー会社の利権を奪うことになる為、外国籍船籍の航行制限が厳しく管理されることは考えられるが・・。)

 環境、労働力という観点からも、沿岸地域では物価・人件費、雇用条件の上昇、それにともなう労働力確保の困難、加工貿易の制限といった整備がどんどん進み、労働集約型ローテク加工産業企業には魅力が薄れつつある。対米ドルの為替もどんどん勢いづき、4月10日にはついに7を割った。 それらさまざまな状況が重なりますます沿岸地域での呼吸が苦しくなってきている。 その一方で内陸都市での生活水準・就職環境がよくなることで、Jターンと呼ばれる沿岸部からの帰郷組みが内陸都市での雇用を求めて戻り始めているといい、そういった技術を伴った質の高い労働力が確保できる可能性、また、更に内陸の田舎から新たな労働力も吸収できる可能性、優遇措置の留保といった条件などから内陸都市の魅力はまだまだ余地がある。 

 そういう意味で、西部大開発を11次5ヵ年計画に組み込んだこの先の実質3年間は、中国にとって非常に大きな3年間となるだろう

 加えて中国の河川沿岸開発の意味においてメコン流域の開発も興味が深い。

日本からの水路については長江、そしてASEAN諸国への直行ルートではメコンという2本の大動脈が今後更なる中国の発展の鍵を握っているといって過言ではない。

 

※上記論稿へのコメント

 外航船の武漢への航行が殆どないということで、武漢地域の浚渫によっても外航船の通行は現実的には無理との意見もあるが、大局的には私はこの論稿の意見に賛成である。その趣旨は、中国のあまりの高成長でたとえば上海港がパンク状態となっており、今後の港湾拡張も今後の貨物取扱量の急増には対応できないと想像されるからである。このパンク状態は、まずは積み替え時間の長期化となって既に表面化している。

 したがって、私の考えでは、まずは南京長江大橋より下流までは外航船が入って、広義の「上海港」として扱われるようになる。が、それにとどまらず、「外航船」とは言わなくとも上海・南京あたりから武漢・宜昌あたりまでの物流が内航としての重要性を飛躍的に高め、また、三峡ダム水位がさらに上昇することによって宜昌から重慶までの物流が活発化、そして最後には重慶上流のダム計画が重慶より上流での水運条件を飛躍的に改善するであろう。

 私がこう考える理由は、やはり中国のまだまだ続く高成長にある。今までは、中国全体を「国」として扱ってきたが、ひとつひとつの省がヨーロッパのイギリスやフランス、ドイツといった規模を持つようになると、長江の中間点から中間点までの物流でさえ、一種の「国際貿易」としての規模を持つようになる。この時には、外航船が入る/入らないはそう重要な問題ではなくなる可能性が高いからである。

 以上、著者の求めにより、以上調査に同行した者としてのコメントをしました。

(京都大学教授 大西 広)