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京大上海センターニュースレター
221号 2008710
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

     中国・上海ニュース 6.30-7.6

○長征・チベット族騒動・四川省大地震 ‥その1

○中国の近況と中国、ロシア、北朝鮮3ヶ国の国境交流とシベリア鉄道活性化の“兆し”について〜海外最新事情〜(中)

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中国・上海ニュース 6.30−7.6

ヘッドライン

■ 中国:6月CPIは7.1%上昇か、2ヶ月連続伸び幅減

■ 中国:胡錦濤主席、四川地震での日本救助チームに感謝

■ 貴州:大規模暴動事件が発生した県の党と政府幹部が免職

■ 中国:一人っ子人口1億人超え、専門家が早期教育に注意点

■ 中国:温家宝総理、江蘇省・上海の経済運営を現地調査

■ エネルギー:ウズベキスタン−中国天然ガスパイプライン着工、総投資額1430億元

■ 産業:1−5月ソフトウェア輸出額、45%増の41億米ドルに

■ 西安:地下鉄1号線来年初めに工事開始 

■ 金融:外銀に元建て債解禁

■ 上海:7月5日、135年以来もっとも暑い日、38.8度

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長征・チベット族騒動・四川省大地震 ‥その1

 

              03.JUL.08

                                香港:美朋有限公司 董事長 小島正憲

 

≪今回の内容≫

1.長征・チベット族騒動・四川省大地震:相関地図

2.四川省の核関連施設情報

3.海自護衛艦“さざなみ”の湛江入港:現地調査報告   小島高典                                                    

                                                                   

1.長征・チベット族騒動・四川省大地震:相関地図

 

複数の読者の方から、既報の「カルフールと聖火リレー」の文中の、「≪余談≫ 1.チベット騒動についてコメントできず」の長征部分の記述において、重大な歴史的事実の誤認があるとの指摘をいただいた。その指摘は基本的に正しかったので、下記2.に訂正文章を載せさせていただいた。ご寛恕いただきたい。

しかし一部には実際に現地調査をしてみないと、判断がつかないところもあった。したがってすぐに現地調査に行こうと日程調整をしていた。その矢先に、当の四川省に大地震が起きてしまい、即時の現地入りが不可能となってしまった。2週間ほど過ぎた時点で、ようやく四川省に足を踏み入れることが可能となったので、私は長征とチベット族騒動と四川省大地震の調査を兼ねて、四川省に入ることにした。

6/13〜16までの4日間、まず私はかねてから視察を予定していた四川省の瀘定橋をたずねた。成都から雅安・天全・瀘定橋・康定・塔公・安順場・石棉・漢源と、レンタカーを借り、かつ成都在住の運転手さんを頼んで、地図を頼りに悪路を走った。途中、なんども地元の人に地図を見せて道を聞いた。またホテルで夕食後、運転手さんと地図をテーブルの上に広げ、翌日のコースを入念に検討した。そうやってなんども地図を見ているうちに、ふと私は、長征のとき紅軍が歩いた道と今回のチベット族の騒乱の街、そして直近の四川省大地震の被災地が重なっているのではないかと思った。そこでそれらの地点を同一地図上に記入してみることにした。それが上記の地図である。

私は宿命などというものを一切信じない人間だが、この3件の事象が四川省の西北部で重なっている地図を見て、それらがなにかの糸で結ばれているのではないかと感ぜざるを得なかった。この3つの事象の関連を解析することに意味があるのかどうかもわからないが、とにかく私はこれに挑戦してみたいと考えている。ただし多大な労力と時間を必要とするので、判明した部分からシリーズでお伝えしていきたいと考えている。結論についてはしばらくの猶予をいただきたい。

 

2.四川省の核関連施設情報

今回の四川省大地震の現地に、核関連施設が数多く建設されていたということは、中国当局の発表からも推察できる。しかし信頼に足る情報は今日に至るまで未確認である。なお、6/29付けの日経新聞によれば、中国人民解放軍は大地震発生後、核・化学物質処理に当たる専門部隊2700人を被災地に投入していることを始めて明らかにしたと伝えている。この情報は事態がかなり深刻であるということを伝えている。通常の災害ではないだけに、原発事故などで経験豊富な日本は、この面でも中国政府に積極的な協力を申し出てもよいのではないだろうか。以下に核関連情報を列挙する。

@新浪ネット5/19付けは、四川省における核関連施設を下記のように伝えている。なお、この情報は1週間後、ネット上から削除された。

「1960年代中期に、NPIC(中国原子力研究設計院)は四川省夾江県(楽山市近辺)に原子炉工程実験研究施設を多数建設した。それから四川省における一連の原子力工程実験研究が始まった。四川省はわが国の重要な原子力科学生産基地であり、省内に中国工程物理研究院、中国空気動力研究及び発展中心、中国燃料気渦輪研究所などの国防研究所が18個所ある。主なものは下記であり、1.の相関地図に、   マークで記入済み。

 ・原子工業中国原子動力研究設計院(bX09):夾江県

 ・中国工程物理研究院(bX02):棉陽市

 ・中国原子武器研究基地:棉陽市

 ・西北原子武器研究設計院(国防第9研究院):棉陽市

 ・総装備部中国空気動力発展研究中心:本部は棉陽市、各研究所は安県の各鎮にある

 ・楽山原子聚変研究院(bT85):楽山市

 ・白竜江原子基地(bW21)、中国第2原子能生産連合企業:広元市 3万人規模の工場

 ・西南物理研究院:棉陽市 1968年青海省から移転、前身は1964年原子爆弾第1号の製作に成功

 ・峨眉機器製造工場(bT25):峨眉山市

 ・中国第3家原子能生産連合企業(bW14):楽山市 4万人規模の工場

 ・涪陵原子燃料組立工場(bW16):現在は大型化学肥料工場に転換

 ・中性子爆弾製造工場(bW57):江油県

 ・第23原子工業建設総公司:広元市

 ・第24原子工業建設総公司:棉陽市

◎大地震における原子工業の被災状況

 5/12の地震後、第23原子工業建設総公司棉陽基地管理処、広元基地管理処、四川原子工業工程学校都江堰分校、夾江双福基地と909基地は被害が重大、通信と交通は中断状況に陥った。5/17朝までに、四川軍工・民爆業界に21人死亡、63人受傷(そのうち9人は重傷)。19社は重大な被害が発生したが具体的な損失状況は統計中である」

A時事速報5/23付けによれば、中国環境保護省の呉暁青次官は記者会見で、四川省大地震で被害を受けた建物の中に放射性物質50個があるのを確認し、35個は回収したものの、15個は回収できていないことを明らかにした。

B時事速報6/05付けによれば、四川省の棉陽市政府は、四川大地震の報道をめぐり、同市内の核兵器施設「中国工程物理研究院」などを例示し、「市内の敏感な部門に及んではならない」とする注意事項をメディアに発した。

C時事速報6/13付けは下記のように指摘している。

中国政府は「危険な状態にあった放射性物資は回収を完了した」と安全を宣言したが、「放射性物質」が何を指すのか説明はなく、不安は残されたままだ。

棉陽市には、核兵器の研究基地(bX02)がある。地震後、周辺に至る道では公安当局が検問を実施。進もうとする人に「立ち入り禁止区だ。目的はなにか」と問いただし、近づかせないようにした。震源地に近い市北部の山間部の大きなトンネルは核兵器庫となっている。

地震発生直後に温家宝首相が、5月16日には胡錦涛主席がそれぞれ棉陽市を訪問しており、「極めて重視している地区であることがわかる」と指摘。一方で、最高指導者の現地入りは「放射能漏れがなかったことを内外に示した」との見方もある。

棉陽市への核施設集中は米ソとの対立時代、当時の毛沢東主席が安全を考慮して沿岸部や国境から離れた内陸の四川省などに軍事関連施設を集団移転した歴史的背景がある。胡主席ら現指導者は今回の大地震を教訓に、施設の安全をどう確保するのか対応を迫られている。

 

3.海上自衛隊護衛艦“さざなみ”の湛江港入港:現地調査報告

@海自護衛艦“さざなみ”は、湛江市で歓待されなかった。日中双方のメディアでは、“さざなみ”の湛江港入港が好意的に扱われたが、現地はそれらの報道とはかなり違った様相であった。詳細は小島高典の現地報告を参照していただきたい。 ⇒ http://www.shanghai-doyu.net/doclink/sazanami.pdf

小島高典の現地調査報告を要約すれば下記のようになる。

・“さざなみ”は一般公開ではなく、市民は見ることも近づくことも写真を撮ることも許されていなかった。

・湛江市民は入港の事実は知っていたが、停泊場所などの詳細情報は知らされていなかった。

・湛江軍港に行くには、市内から渡し船を利用しなければならず不便な場所であった。

・最終日のセレモニーにも、一般人が艦内に入った様子はなかった。

A日本のメディアの入港に関しての報道は、今回の相互交流を好意的に描きすぎている。

6/25付けの日経新聞によれば、日本の石破防衛相は24日の記者会見で「交流する意味は大きい」と相互訪問の意義を強調した。6月24日午後、海上自衛隊の護衛艦“さざなみ”が中国海軍南海艦隊の基地・広東省の湛江に入り、歓迎行事の終了後、中国南海艦隊の蘇士亮司令員は記者団に「艦隊の相互訪問は安全保障の信頼を強め、戦略的互恵関係の全面推進に役立つ」と述べた。海自部隊を指揮する第4護衛隊群司令の徳丸伸一海将補も「交流はアジア地域の平和と安定に寄与する」と強調した。

これらの公式見解から、両国のトップレベルでは、今回の海自“さざなみ”の湛江入港を通じて、日中の安全保障面での信頼醸成が新段階に入ったという共通認識にいたっていると判断できる。

各メディアでも「その後、艦艇は湛江港に5日間滞在し、艦上レセプションや一般市民への艦内公開を予定している。南海艦隊とのスポーツ交流や合同演奏会、出港後には両国間で初の通信訓練などを行う」などと好意的に報じている。

しかしながら、実際の現場では、なお「日の丸アレルギー」が強く、湛江港での対応も非常に慎重なものであった。レセプションはともかくとして、小島高典の現地報告を見てもわかるように、一般公開とは名ばかりでその現実は程遠いものであった。

時事速報6/25によれば、中国海軍は20日、国内メディアを通じ、「日本国旗を掲げた艦艇が入港すれば苦痛の記憶がよみがえる」としながらも、「平和を維持する中国の姿を世界に発信することにもなる」と歓迎を国民によびかけた。国民の対日感情に理解を示しつつ、日中交流を進めようという苦心がうかがえると報じている。現地は、まさにこのような表現がぴったり当てはまるような状況であった。

B一方、中国のネットなどでは興味深い意見が数多く載せられている。

6/27中華ネットは、“さざなみ”の入港時の状況を次のように報じている。

「日本の“さざなみ”は6月25日に中国の民衆に開放され、1000名ほどの一般市民がデッキに上って見学した。見学者の中には、制服を着ている小学生や高校生もいたし、家族連れもいた。波止場では中日両軍のバンドが、京劇の曲や日本のアニメの主題歌を演奏しました。中日両国の兵士も艦上で交流し、主人も客も丁寧に対応しました。3日目には大雨の中、中日両国の兵士たちはいっしょに、サッカーやバスケット、綱引きなどのスポーツを楽しみ、中日両国の言葉で応援し合い、どよめきが聞こえました」

さらに海自“さざなみ”を見学するためにわざわざ上海から来た中学教師:金恵欣さんの話を載せている。「私は今までに、15の国の艦艇を23回にわたって見学しましたが、日本の艦艇に入るのは初めてです。やっと念願がかない、今回、さざなみに入ることができました。私が一番興味を持っているのは、軍艦のミサイルシステムです。昔、日本人は私たちを侵略したことがありましたが、今日では私たちは平等と平和の関係です。中国は日本の長所を勉強して、国を発展させます」

中国社会科学院日本研究所日本問題専門家:高洪氏は、「日本の艦艇が中国の港に来て、中日両国は相互訪問が完成しました。これで21世紀中の互恵関係の発展が大きく推進されました」と話している。

中国艦艇“深圳”の士官:潘蘭波は、「日本の軍人は、私の記憶の中の印象と違っていました。私たちは日本の軍人を融通が利かない堅物だと思っていましたが、実際に会ってみると、彼らも生き生きとした素直な人でした。私は昨年11月に、“深圳”号で日本を訪問しました。このように両国の防衛交流が増進すれば、両国の信任と相互理解がもっと深まると思います」と語っている。

雑誌“軍事世界”のベテラン編集者:陳虎氏は、「今回の海自護衛艦“さざなみ”の訪中によって、中日の信頼と協力の希望が見えてきた。ただし希望だけでは不足である。さらに交流を深め、両国人民の未来の利益を確実にしなければならない」と述べている。

中新社湛江の6/28付けは、“さざなみ”の離港の様子を下記のように伝えている。

「日本の“さざなみ”は28日、5日間の訪問を終え湛江港を離れた。送別の軍楽演奏の中、“さざなみ”はゆっくり埠頭から離れ、艦上の日本将兵は列を作って、手を振りながら中国軍将兵に脱帽して別れを告げた。湛江港を出た後、“さざなみ”は付近海域で中国海軍と通信連絡や編隊運動を主な内容とする連合訓練を行った」

                                                                      以上

 

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中国の近況と中国、ロシア、北朝鮮3ヶ国の国境交流とシベリア鉄道活性化の

“兆し”について 〜海外最新事情〜(中) 

 

(社)大阪能率協会 副会長 アジア中国事業支援室最高顧問

                    京都大学上海センター協力会 副会長

                                    元住友銀行 取締役

大森經徳

 

 

200811日より中国では企業所得税法の改正と新労働契約法が同時に施行されましたが、これらは中国進出の外資企業にとって特にその影響が大きいと思われますので、そのポイントの解説とどう考えるべきかの私見を述べておきます。

 先づ企業所得税法ですが、これは中国の一般企業に適用される企業所得税は基本税率33%でした。これに対し、外資企業には従来様々な優遇政策がとられていました。その主なものは、ハイテク企業等には15%の低率優遇、その他企業でも24%が適用されていました。更に経営期間が10年以上の生産型企業に対しては、黒字化して以降、最初の2年間は免税、その後の3年間は1/2免税(23減半)でした。又、奨励類プロジェクトに対しては、設備の免税輸入が認められていたほか、中国の国産設備を使う場合は、増値税17%が全額免税でした。

 これに対し、中国企業の方から競争上こんなに大巾な税優遇策をとられたのでは、国内企業は競争出来ない、あまりにも不利であるとの強い要望が出、労働力不足、立地不足等も考慮し、この際外資優遇税制を大巾に縮小させることとしたものです。

 具体的には、基本税率を内資、外資共25%一本に統一し且つ23減半制度を廃止し、不公平感を無くすこととしました。

 但し、ハイテク企業及び条件に符号する企業へは引続き15%の優遇税率の適用を認めています。

同じくハイテク企業等条件に合うプロジェクトについては、許可を得て23減半を認めることとしているほか、低税率や23減半制度を現在適用中の企業へは最長5年間の経過措置を認めています。

 次に、新労働契約法の主なポイントのみを説明の後、この法律に対する私の所感を述べさせて頂きます。両法とも内容をやや詳しく、且つ分かり易くまとめた資料を配布してありますので、詳細はそちらをご覧下さい。

 中国では199511日に、初めて労働法が制定施行されました。この労働法があるにも拘わらず今回新たに労働契約法が制定されたのは、従来以上に労働者を保護する必要あり、との判断からであり、従って労働者の保護に重点が置かれている法律であります。その立法精神は第1条に明確に規定されていますので、その全文をご紹介しておきます。「第1条(権利と義務)労働契約制度の改善、労働契約双方当事者の権利と義務を明確にし、労働者の合法的権利を保護し、調和の取れた安定した労働関係を発展させるため、本法を制定する」

 この新労働契約法の概要は次の通りです。

1)書面による労働契約の義務強化 企業は採用日から1ヵ月以内に書面による労働契約を締結せねばならず、未締結の期間が1年未満の場合は、その間の賃金は2倍を支払わねばならない。未締結の期間が1年以上となった場合は、期間の定めのない労働契約とみなされ、無固定期限の労働契約を締結しなかった場合は、この未締結の期間についても、2倍の賃金を支払わねばなりません。

2)試用期間の規定の具体化 使用者は3ヵ月以上の労働契約期間の契約を締結する場合は、契約期間に応じて、1ヵ月以内〜6ヵ月以内の試用期間を定めることが出来る。但し、同一の使用者は同一の労働者と試用期間を1回のみ約定出来ることとされています。

3)無固定期限労働契約の適用条件の拡大 @連続して満10年間就業した労働者、A連続2回の有期限の労働契約を終らせた労働者が、労働契約の延長か新たな締結を希望した場合、会社は無期限の労働契約を締結せねばならない。(但し、これには重大な過失等があった場合はその限りではない、等の除外規定あり)

4)時間外労働の強制禁止

 会社は労働者に時間外就業を強制してはならない、との規定が加えられました。

(参考)現労働法の時間外手当規定

    通常残業150%、休日出勤200%、法定休日出勤300%

5)人員削減の条件の厳格化

 破産又は経営に重大な困難が生じたときに人員削減出来る条件が、削減人員20人以上又は、

従業員総数の10%以上の場合は可能、と改定されました。

 

6)労働契約解除時の経済補償の対象拡大及び

  基準の明確化

@労働契約期間の満了についても、経済補償の対象とすることとなりました。

A経済補償の基準

(イ)就業年数満1年毎に1ヵ月の賃金(労働契約解除前12ヵ月の平均賃金)かつ最高12

月分の上限が撤廃されました。

(ロ)但し、雇用単位が直轄市か区を設置している市にあり、対象者の賃金がその地区の前年度平均賃金の3倍よりも高い場合は、3倍として計算し、且つ12ヵ月分が上限とされています。

 

7)会社の規則に対する従業員の参与権の明確化

@労働契約法では、会社の規則の制定、実施の場合、従業員の参与の権利が規定化されました。

A雇用単位が、労働報酬、就業規則等労働者の切実な利益に直接関わる規則制度又は重大事項を制定、改定又は決定するときは、従業員代表大会又は従業員全員との討議を経て、案と意見を提出し、工会(労働組合)又は従業員代表と平等な協議を行って確定しなければならなくなりました。

Bこれらの規則制度が法律に違反しているときは、労働行政部門が是正を命じ、又労働者に損害を与えた場合は、賠償責任を負うこととなりました。

 

8)「集団契約」の促進

 集団契約は、工会が企業の従業員側を代表して雇用単位と締結する。工会が設立されていない雇用単位では、上級の工会が労働者の推挙する代表を指導して雇用単位と締結させることと規定されました。

9)この他、派遣労働者やパートタイマーの雇用条件の明確化その他も規定されましたが、本日は省略させて頂きます。

 

(私の意見)

 以上の労働契約法の内容から容易に推測されることは、今後は労働者の権利意識が高まり、工会結成の動きが活発化するほか、「集団契約」の締結を求める動きも強まるものと思われます。その結果、当然のことながら、所謂労使の団体交渉的な場も増えて来る筈で、企業経営者は、西側諸国と同じ様な労務対策の必要性が従来以上に増して来ることを覚悟し、常日頃から、従業員及び工会(労働組合)代表との会話や諸要求の吸い上げ等に真剣に努力をしておくことが肝要となります。

 要するに、中国政府は、今迄極端に労働力を安売りしすぎて来た、との反省から、労働条件の改善と長期雇用を目指し、ひいては終身雇用者を増やすことにより、雇用の安定と社会の安定を図ることを狙いとしたものであります。又この制度は、企業側からみても、コスト高にはなるが、うまく運営すれば、人材の質と量の確保に役立つ制度である、とも言えます。

 基本的な考え方は上記の通りですが、昨秋以降中国内部より伝わる情報の多くは、個別企業経営者にとっては人件費の大幅増加となる同法の施行前に、例えば、勤続10年前後の社員に、突然今後の契約は更新はしない旨伝えるとか、1ヵ月前の予告により退職させてしまう等の可なり強引なリストラ策が打ち出される等現場では混乱やトラブルも発生しました。これに対し当局は、多数の退職者を出す場合には、事前の届け出が必要、等の規制策を打ち出したりしました。

 しかし、これらの対策は邪道であり、今後労働契約を書面で締結していなかったり、時間外手当等を規定通り支払っていなかった経営者が是正を迫られるもので、労働条件の世界水準への引き上げ命令と受け止めるべきであると思います。従って、この新法により赤字倒産となる企業は、市場から退場せよ、との国家の命令と受け止めるべきです。例えば、東莞市の台湾、香港よりの靴メーカーの大量廃業(2008.4.1付週刊チャイニーズドラゴン紙によれば、3,367社中1,85555%が撤退したと)等は、己むを得ないものと考えます。今年の全人代でも、企業経営者の代表からは、この法律は厳しすぎて、経営者には大幅コスト増となり問題である、との意見も出されたそうです。しかし、一方直近の2008.3/223/30迄三峡ダム視察、武漢市の東風本田汽車他を訪問しましたが、本田や松下等の大手有力企業は、元々賃金水準も高く、諸規定も順守しているので、大きな影響はない、との回答でした。

 いずれにしろ、こういう状態になってきたので、最早、中国は、人件費が相対的に安い「世界の工場」時代は終りつつあり、政府もこれにより、産業構造のハイテク化等の構造転換を目指しているので、むしろその線に沿った前向きの対応が望ましい、と思います。

 (続き)