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京大上海センターニュースレター
222号 2008717
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

     中国・上海ニュース 7.7-7.13

○なぜ今、中国で、徳川家康ブームなのか?

○中国の近況と中国、ロシア、北朝鮮3ヶ国の国境交流とシベリア鉄道活性化の“兆し”について〜海外最新事情〜(下)

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中国上海ニュース 7.7−7.13

ヘッドライン

■ 中国1―6GDP成長率10.4%か

■ 中国:1―6月貿易黒字11.8%減、外貨準備高1兆8000億ドル超

■ 中国:中共中央組織部、第1回幹部人事満足度調査を統計局に実施依頼

■ 中国:原油輸出が急増 6月昨年比5.5倍に

■ 中国:08年大卒559万人、就業圧力一層拡大

■ 造船:船舶新規受注量は世界トップに

■ 重慶:財政出動で夏季発電用石炭を確保

■ 杭州:上海−杭州間高速鉄道、2009年に着工 

■ 上海:国内最大のばら積み貨物港が竣工

■ 北京:時差出勤を導入 五輪期間の交通渋滞緩和

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なぜ今、中国で、徳川家康ブームなのか?

 

                    07.JUL.08

                                               香港:美朋有限公司 董事長 小島正憲

                               

6月初め、私は上海で四川省の大きな地図を探し回った。地図はすべての書店で売り切れだった。しかし私はそこで異様な光景に出会った。どの書店でも、店頭に“徳川家康”の本が山積みにされていたからである。その後、私は地図を持たずに四川省の調査に向った。成都に着いてすぐに市中の大きな書店に行き、やっとそこで地図を手にいれた。ところがそこの書店にも、新刊書の特別話題コーナーに“徳川家康”が山積みにされていた。そして多くの人が手に取って読んでいた。

今、中国で、山岡荘八著の“徳川家康”がブームになっているのである。「商法」5/20付けによれば、今年の初め、第1部が出版されて以来、すでに20万冊が売れ、5/20時点で第7部までが刊行され、合計発行部数は100万冊を突破したという。計算してみると、中国全土で毎日1万冊ずつ売れたことになり、多くの中国人からベストセラーとして注目されているのもうなずける。ちなみに7/06時点の店頭では第10部が売り出されている。

出版社では“徳川家康”を刊行するのに、とても慎重だったという。それは反日意識などの問題ではなくて、この本が大著であり、分量が多すぎて採算が取れない恐れがあったからだという。しかも台湾で発刊されている山岡荘八著“徳川家康”は600万文字、52巻で26部の分量で、発刊当初は販売に苦戦したという情報もあったからである。

このような状況で、本書の出版企画責任者は、まず事前調査を徹底して行なった。図書に最も厳しい見方をすると同時に読者や販売にもっとも影響がある評論家と売り場担当者を100人選んで、彼らの意見を聞いたのである。まず企画責任者はこの本の内容や日本での売れ行きを紹介し、次に「日本の中曽根康弘元首相が内閣の構成員全員に必読を勧めたこと」、そして「日本では経営の神様として崇められている松下幸之助翁が社員の必読書として指定し、その理解度で幹部を査定していた」ことなどを知らせた。評論家の反応は非常に積極的で、中には早く出版するようにとの催促すらあったという。

逆に売り場の担当者の反応はあまりかんばしくなかった。中国の読者は日本版“三国志”などに興味を持たないだろうというのである。このような感想に対して、企画責任者は彼らに“徳川家康”が日本で4億冊も発行されており、戦後の日本の経済混乱期に日本人の思想に大きな影響を及ぼし、その後の日本経済の発展に寄与したと話した。また台湾でも“徳川家康”が翻訳出版されてから、政財界や学会など多方面で受け入れられ、よく閲読されているという事実を紹介した。このような努力の結果、売り場の担当者たちも、この本の出版に興味を示すようになった。

図書評論家と売り場担当者などの評価が確定したので、南海出版社は中文簡体字の“徳川家康”発刊を決めた。2003年に出版社は“徳川家康”の出版権を正式に取得し、翻訳に着手した。企画責任者はこの本をベストセラーにするために、さまざまな工夫を凝らした。とにかく優秀な翻訳者と編集者を起用し、チームを編成し、中国の読者にもっとも適した風格の本を作るように努力した。2年間かけて翻訳を終了したが、それをさらに100名以上のモニターに試読してもらい、彼らの意見を踏まえ修正して「読者に快感を与えるような翻訳」に近づけた。そして2008年初めに全13部のうちの第1部を発刊した。

これらの出版元の努力と、おりからの日中関係の雪解けムードが相乗効果をもたらし、“徳川家康”はベストセラーとなった模様である。いずれにせよ、日本の歴史上の人物への関心が深まることは、中国人が日本を理解する上で大きな力を発揮するし、さらなる日中関係の進展によい効果をもたらす。次には“西郷隆盛”などがブームになることを望むところである。

ネット上ではこのブームに対しておおむね好意的な反応が寄せられている。下記にその一端を紹介する。

@“徳川家康”は日本大和魂の精神的保塁であり、第2次戦争後、憔悴し切った日本人を再び奮い立たせ、 迅速に立ち直らせた世界経済大国日本の最大の功臣である。彼のお陰で、焦土の中から日本は立ち上がった。台湾の作家:柏楊は「第2次大戦後、日本は早期に復興した。中国は勝利したがとても悲惨だった。その原因は、中国には“徳川家康”のような崛起の精神を持った人物を紹介する文学作品がなかったから である」と語っている。

A徳川家康は日本史上でもっとも偉大でもっとも英雄的な人物であった。日本人は数百年間、徳川家康を尊敬し続け、彼の個性、謀略、思想などはすでに日本文化の一部分となっている。元米国駐日大使のライシャワー氏は、「日本を知りたいと思うならばまず徳川家康を理解すべきだ」と語っている。

B“徳川家康”の読者層は9〜99歳と言われているが、人生の間で一度は読むべき本である。しかも1回だけでなく何回も読む本である。この本は生存哲学と知恵の学習宝典でありながら、同時に商売人や経営幹部などに勝ち方を教える策略本である。

C織田信長と豊臣秀吉と徳川家康のホトトギスに対する態度は、たいへんおもしろかった。中でも徳川家康の「鳴くまで待とうホトトギス」という態度の中に、彼の成功の秘訣があると思った。日本の戦国時代の勝者になった徳川家康は忍耐と我慢の人間だったことがよくわかった。

D徳川家康の明言はとても好きです。「人の一生は重荷を背負うて遠き道を歩むが如し。急ぐべからず」、「堪忍は無事長久の基」、「勝ちを知り、負けを知らざれば、害その身に至る」などなど、私も自分の心に言い聞かせたい。

E“徳川家康”の内容はとてもよかったが、私たちが読むにはちょっと疲れる。とくに本の中の日本人の名前は覚え難かった。

                                                                以上

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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中国の近況と中国、ロシア、北朝鮮3ヶ国の国境交流とシベリア鉄道活性化の

“兆し”について 〜海外最新事情〜(下) 

 

(社)大阪能率協会 副会長 アジア・中国事業支援室最高顧問

                    京都大学上海センター協力会 副会長

                                    元住友銀行 取締役

大森經徳

 

9.20071月には元駐瀋陽日本国総領事だった小河内敏朗現リビア日本国特命全権大使の赴任しておられるアフリカのリビアとエジプト大使館へも、京大上海センター協力会の視察団長として行き、同大使よりリビアの大学院大学で“日本の良さ”をPRする様な講演をして欲しい、とのご依頼を受け、トリポリ高等研究学院で「世界をリードする日本の技術と産業」というテーマで講演をして来ました。

 中国の近況からやや話がそれて恐縮ですが、中国や北東アジア情勢と全く無関係の遠い国の話か、と言えば決してそうではありません。ご承知の通りリビアのカダフィ大佐は、20039月に大量破壊兵器開発計画の放棄を宣言して国際社会に復帰、ここ23年以内の同国での石油及び天然ガス採掘権の国際入札では、日本の商社や石油会社の企業連合チームが7鉱区の落札に成功し、目下その探鉱、探油田調査の準備が行われております。ちなみにこの7鉱区の落札はこの間の入札ではトップの数だったそうです。又、日本製品や日本の技術に対する信頼感も極めて高いそうで、中古車中心の様に見受けましたが新車も含め、トリポリでもエジプトのカイロでも日本各社の車が結構多く走っていたのにはびっくりしました。

 一方、これまでカダフィ大佐は北朝鮮の金正日とも親しかった訳で、2006818日の日本経済新聞(朝刊)によれば、「リビア、北朝鮮に核放棄を働きかけ」との記事が出ていたことと、元々はコリアンスクール出で、直近迄中朝国境地域を3年以上に亘り担当しておられた日本の前瀋陽総領事が、リビア大使として、日本から出張で来られる日本の大臣方ほかとカダフィ大佐や駐リビアの米国大使等とたびたび会っておられるということと、米朝協議の進展や6ヵ国協議の動き等と繋ぎ合わせると国際間の大きな動きが透けて見えて来るのではないでしょうか。

 私のトリポリ高等研究学院での講演内容の詳細は、当日の講演レジメを配布資料に入れておきましたので後程ご覧頂きたいと思います。時間の関係でさわりの部分だけ少しお話しておきます。まず、日本には自動車、家電をはじめ、工作機械、産業用ロボット、各種自動化機械、更には各種製品を作る生産設備一式、各種省エネ技術、各種公害防止技術、海水淡水化技術、素材産業を見ても、超高級鋼板、シームレスパイプ、炭素繊維等いずれも世界一の素材やロボットや最終製品や、又それらを作る生産設備一式やそれらを稼働させる製造ノウハウ等技術力、開発力も含め世界トップレベルの技術と産業が極めて多いことです。又、アメリカでの特許(含実用新案)出願数も日本企業が圧倒的な差でトップです。

 では何故こうなったのでしょうか?

 その理由はいろいろあると思いますが、私は先ず徳川時代に全国に寺子屋や私塾を作らせ、百姓、町民の子にまでヨミ、カキ、ソロバンを習わせていた基礎の上に、明治維新の成功の結果、義務教育や社会保障の徹底した、貧富の格差が極めて小さく、且つ教育の機会均等と戦後の民主主義の結果、社会階層が固定化していない、貴族や特権階級のいない、極めて自由、平等で安定した社会が出来ていたことが第1の理由だと思います。更に以下の伝統的な日本的企業経営の特長が相まって、世界に冠たる多くの企業が生まれ、育ったことが大きな理由だと思っております。

 即ち、一寸意外に思われるかも知れませんが、それは、@終身雇用制度、とA年功序列賃金(成果主義による若干の格差はあるが、そう大きな格差ではない)、とB企業内単一労働組合の存在、この3つが大いにプラスに作用して来た、と今でも確信を持っています。

 その理由は、これによりいいチームワークが出来、企業忠誠心が生まれ、原則終身雇用なので夫々の部署での技術の伝承がスムーズに、且つ、半永久的に続くことと同時に、技術流出の危険性が極めて小さい等のメリットは非常に大きいものがある、と思っています。このほかにもいろいろ理由はあると思いますが、時間の都合上この項目はここまでとさせて頂きます。

 尚、200811日より施行された中国の新労働契約法では、社会や労働者の安定の為に基本的に終身雇用が望ましく、今後はその方向を目指して行くと言っている通り、偶然ではありますが、私の言っていることとほぼ同じ考え方を今の中国政府が持っていることが判明した訳で、企業にとってはコスト高にはなりますが、中国経済の長期安定成長の為には好ましいことだと思っております。

 このほか中東やアフリカへの中国人の進出状況を23報告しておきます。今、ドバイの発展が著しく、よく話題になり出しましたが、先日上海の復旦大学管理学院の大学院生に聞いたところ、あの宏大なドバイの空港ビル内や同空港内のショッピング・モールで働いている一般労働者の約半分は中国人労働者だそうです。又、京大上海センター協力会の小島正憲理事の話では、ヨルダン等中東地区の衣料縫製工場では、多くの中国人女性が縫製工として出稼ぎに来ているそうです。中国は、アフリカ大陸へも資源外交、エネルギー外交を活発化させ、多くの有償・無償の資金援助を行い、インフラ整備、鉱山開発等を行っています。この為に多くの中国人労働者がアフリカ各地で出稼ぎに来ていますが、一説によればその数は20万人以上とも言われています。昨年9月にはパリへも行きましたが、泊ったホテルでは中国人女性が多く働いていました。又、現地日本人ガイドの話では、パリへの観光客数は数年前より中国人が日本人を上回っているそうです。

 リビアに関する話の最後にカダフィ大佐についてリビア日本大使館の皆様から聞いた話をご披露しておきます。それは、カダフィ大佐は意外なことに、社会主義者ではなく、直接民主主義を理想としており、金正日とは全く異なる、ということです。その証拠に、彼は27才の大佐の時革命を起し、国の実権を握って37年が過ぎ現在64才(20071月現在)ですが、大統領とか国家主席等の呼称は使わずカダフィ大佐のままなのはそのためだそうです。同じ発想から各省の大臣も、○○大臣とは呼ばせず、Secretary=秘書(国民に奉仕する者という意味)と呼ばせているのだそうです。

 海外最新情報の最後に、EUの成功と大発展についても少し説明しておきます。このところEU

とユーロの力が増大し、世界の政治・経済面での発言力が高まっていますので、昨年9月にヨーロッパへ行った時、EU本部のあるブリュッセルのジェトロ事務所とパリの日本大使館及びジェトロ・パリ事務所を訪問し、いろいろ取材して来ました。そのポイントを1つだけお話します。それは、EUは、100年戦争から第二次大戦迄の経験から、戦争程悲惨で非経済的なものはない。よって戦争のない社会を作ろうという各国の固い決意で生まれた政治同盟であり、政治・経済共大成功なので、この結束は簡単には崩れないであろう、とのことでした。

 

10中国、ロシア、北朝鮮3ヵ国の国境交流とシベリア鉄道活性化の“兆し”について、が最後になりましたが、全体の紙数制限の都合上、ここでは全体像の骨子説明のみに留めさせて頂きます。

 幸いこの項は同表題、同内容のやや詳しい地図付小冊子にまとめ、すでに当日のご出席者の方々

には配布資料としてお渡し済ですので、詳細は小冊子をご参照下さい。又当日ご出席でなかった方々で、ご希望の方はご遠慮なく事務局へお申出下さい。小冊子をお送りするか、メールで送信させて頂きます。同じく、本文中で説明させて頂いた中国への諸提言、第115ヵ年規画(長期計画)、企業所得税法の改正法案、新労働契約法、リビアの大学で講演した「世界をリードする日本の技術と産業」等のレジメも夫々余備がありますので、ご希望の方はご遠慮なくお申出下さい。同じく送付させて頂きます。

 このところの石油と天然ガスの高騰によりロシア経済は資源売却の一本足打法の経済乍ら、急成長しており、それにつれ自動車市場も急拡大中で、京大の塩地教授のお話では、2007年度の販売台数は257万台(+35%)で、その内日本車のシェアーは中古車50万台を含め約50%でした。仮に、来年度も35%増とすると347万台となり、2008年〜2009年度にはドイツ(2007年度348万台)を抜いてヨーロッパ最大の自動車市場になることが確実視されています。この状況を見て、昨年12月にトヨタがサンクトペテルブルグに完成車工場を竣工させたほか、三菱自動車、日産、スズキ、現代、フォード、GM等も進出予定です。しかし、ロシアには、外国メーカーの基準に合う部品メーカーや、工作機械メーカー、鋳物工場等が育っておらず、日本メーカーは、当分の間、これら部品も完成車も全てマラッカ海峡、スエズ運河経由6070日かけて運ばねばならず、地理的に近い欧米メーカーや、シベリア鉄道も活用している韓国や中国メーカーに比し、物流コストと日数面で不利となっています。そこで今後は、日本メーカーもシベリア鉄道を活用した物流対策を考える筈で、すでに完成車は中・朝国境に近いザルビノ港より日本メーカー、韓国メーカー共テスト運行を開始しているほか、部品はナホトカのボストチヌイ港から、約1,000mに及ぶブロック・トレイン(コンテナ専用列車)を使って、いずれもシベリア鉄道経由で運ぶテストを行っています。これらは、三井物産や近鉄エキスプレスがロシア鉄道との合弁会社等を作り営業活動をしています。昨年12月のトヨタ工場の竣工式に参列した森喜朗元首相は、同じく参列していた当時のプーチン大統領からこのシベリア鉄道をせいぜい使って欲しい、と依頼されたとテレビで話していました。一方、中国もこれに対抗し、1月には北京・モンゴル・ロシア経由ドイツのハンブルグ港迄国際コンテナ列車を試行運行させた(15日間で到着)ほか、江蘇省の連雲港−西安−阿拉山口−カザフスタン−ロシア−欧州への国際コンテナ列車の計画もあり、こちらは大阪のセンコー鰍ェ取組んでいます。これらの大きな動きも注視しておいて頂きたいと思います。

 本日は長時間のご静聴誠にありがとうございました。

 

(終わり)