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京大上海センターニュースレター
223号 2008723
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

     中国・上海ニュース 7.14-7.20

     「中国大失速」は本当か?

     北京の近況:地震のあと、オリンピックの前

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中国上海ニュース 7.14−7.20

ヘッドライン

■ 中国:1−6月期の税収3兆2553億元、伸び率30.5%

■ 雲南:昆明市でバス連続爆発事件、2人死亡

■ 中国:WTOでの自動車部品関税率の紛争が初敗訴

■ 中国:1−6月固定資産投資が26.3%増

■ 中国:1−6月CPI伸び率7.9%、物価上昇の問題が依然突出

■ 交通:初の旅客輸送専用線、膠済鉄道(青島−済南)が20日運行開始

■ 広西:農家の4割がメタンガスを使用

■ 杭州:ビジネスホテル大手の漢庭集団、一泊25元の極安プランを開発 

■ 北京:汚染源企業、五輪期間の操業停止措置がスタート

■ 北京:新しい地下鉄路線3本が開通

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「中国大失速」は本当か?

                                     20.JUL.08

                                         香港:美朋有限公司 董事長 小島正憲

≪今回の内容≫

1.「中国大失速」はおおげさである。

2.今年度の政府諸施策の悪影響。

3.地場中小企業の苦しい実態。

4.政府の施策手直し機運。 

                                                                   

 

1.「中国大失速」はおおげさである

「エコノミスト」7/22特大号は、「中国大失速」と題した特集を組んでいる。その表紙には、「五輪後を予見―上海株バブル崩壊、インフレ急進/不動産価格急落/格差急拡大/過剰流動性の落とし穴/影響深刻な四川大地震/改革開放30年の歪み」という文字が躍っている。確かに2008年度に入って、中国経済は今までとは違う様相を呈し始めている。重ねて、大雪害・大地震・大洪水などの自然災害が追い討ちをかけている。果たして中国経済は大失速し、崩壊していくのだろうか。

前掲「エコノミスト」誌の「中国大失速」と題した朱炎氏の巻頭論文は、そのおおげさな見出しにもかかわらず、内容はいたって平凡なものである。文中で彼は、「五輪が原因で閉幕後に中国経済が落ち込むという可能性は小さく、この懸念は杞憂に過ぎない。ただし、五輪開催後、五輪と関係ない要因で、調整が始まる可能性は高い。中国の経済成長が減速する調整の開始は、五輪開催の時期と重なって表れる」と述べ、「中国政府はインフレ対策を最重要課題とし、ハードランディングを避けるため、さらなる厳しい金融引き締めを実施すると考えられる。輸出の減速も加え、中国経済のスピードダウンが避けられない。(中略)したがって、今年の経済成長は10%近辺に維持し、来年は8〜9%に安定するだろう」と結んでいる。

「エコノミスト」誌の他の論文も大同小異であり、その内容は「大失速」というには程遠い。「大失速」という表現は、日本のバブル経済崩壊のときのように、いっきょにマイナス成長に転がり込むような事態が生起したときに使うべきである。「中国大失速」はおおげさであり、「中国安定成長へ」と記すべきであろう。しかしながら、2008年度に入って、政府諸施策の結果、中国経済が変調をきたしていることは事実である。政府もこの点を重視し、諸施策の手直しに入っている。今回はこの点を見てみることにする。

 

2.今年度の政府諸施策の悪影響

上記の指摘に「大失速」という表現がぴったりであるかどうかはわからないが、最近では、2009年度の経済成長率が2桁には届かないだろうと予測する識者が多い。その原因は@金融引き締め、A労働契約法施行、B人民元高・輸出減速、C原材料・燃料高騰・電力不足、D環境保護規制強化、E産業高度化への施策、F企業優遇諸制度の後退、G株・不動産の暴落、などの政府諸施策の悪影響であると考えられる。

@金融引き締め。

・ 昨年末、合弁会社の総経理が暗い顔で、私に相談を持ちかけてきた。長年付き合ってきた銀行から、毎年末に借り替えていた分を、来年からは貸さないと言ってきたというのである。利息もきちんと払い、優良企業であったのに、急に銀行の方針が変わったようである。いわゆる貸しはがしというやつである。私は総経理に不動産や現金化できるものを処分して、借金を完済してしまうように指示し、それを乗り切らせた。

・ その後、友人を介して、ある銀行の支店長から金融引き締めの状況について聞くことができた。やはり、中

央から、昨年末に金融引き締めを強化するようにとの指示が来ているという。具体的には、A.企業への貸

付額は前年度の70%に押さえること、B.政府の貸し出しに関する監査を4半期に1度行なう(昨年までは

1年に1回)、C.基金担保公司(日本の信用保証協会のようなもの)経由の貸付も総量枠を減らす、などで

あった。

・ 時事速報:1/31付けによれば、中国建設銀行は、資金不足緩和のため、娯楽産業やホテル業界への  

貸し出しを全面停止する考えを明らかにした。

・ 時事速報:4/01付けによれば、中国人民銀行は、世界経済の不安定性が増しつつあるが、インフレ抑制に向けて金融引き締めスタンスを維持するとの見解を示した。

・ 時事速報:4/10付けによれば、中国国家発展改革委員会はこのほど、中国国内の外資銀行について、2008年度の中長期の外債発生額を審査して決定した規模を、各銀行に通達した。今回の金額決定は、金融引き締め政策を貫徹するためのもので、全体の規模は適度に緊縮したものとなっている。審査の原則は貿易金融と流動資金ローンに用いる短期需要、不動産やエネルギー浪費など国家重点調整分野について圧縮することである。この原則に基づき、既に契約したものについては基本的に満額を認めるが、未契約のものについては3分の1に圧縮する。

・ これらの金融引き締め政策は、多くの企業の経営を大きく圧迫し、2008年上半期の企業の廃業や倒産 

の大きな原因となっている。なお、深圳などでは、質屋が繁盛し始めたという。

A労働契約法施行。 

・ 時事速報:4/08付けによれば、広東省統計局はこのほどまとめた「2007年広東工業経済運行状況分析」で、企業の生産・運営にかかわるコストが20〜30%増加する見通しだと指摘した。省内の最低賃金基準が再度上がったことや、新労働契約法の実施などが原因。

・ 時事速報:4/10付けによれば、今年4月から企業が従業員1人を雇用する際のコストは、月額で最低1500元になる見込みだ。上海市は4月から月額最低賃金を840元から960元に引き上げた。しかしそれは従業員に現金給付される額で、社会保険費用や住宅積立金など会社が納付しなければならない費用を加えると1210元前後になる。さらに残業代や通勤手当、昼食手当などにおおむね300元はかかり、合計では1500元程度が必要になり、前年度と比較すると20%ほどのアップとなるという。

・ 日本経済新聞:6/30付けは、“中国で労働争議が急増中だ。上海市や深圳市の公的機関が受け付け た1〜3月の争議件数は前年同期比倍増、重慶市では約3倍に達した。今年1月に労働者の権利を強化した法律が施行された上、急速な物価上昇もあり、待遇改善を求める動きが広がっている。中国進出企業にとって労務問題への取り組みが改めて大きな課題となってきた”と指摘している。

・ 時事速報:6/23付けによれば、うつ病を理由に解雇したのは無効だとして、IBM中国の社員が訴えた労

働争議で、上海市浦東新区労働争議仲裁委員会は18日、同社に労働契約の履行継続と4か月分の給与と賞与計5万7332元(約89万円)の支払いを命じる裁決を言い渡した。うつ病で差別を受けたという中国で初めての訴えだった。

・ 時事速報:7/09付けによれば、広東省で7日、労働契約法の解釈などを定めた規則「“労働争議調停仲

裁法”、“労働契約法”適用の若干の問題に関する指導意見」が実施された。終身雇用契約に当たる「無固定期限契約」の締結を回避する不正行為を取り締まる狙いなどがある。「指導意見」によると、無固定期限契約の締結を回避するために、A.労働者に辞職を迫り契約を結び直す、B.関連企業を利用し名義上別会社との契約とする、C.違法な労務派遣を利用する、などの行為は無効となる。「指導意見」はまた、手当ての支払い対象となる残業の有無について使用者と従業員で見解の相違が発生した場合、従業員が残業していないことを証明する責任を使用者側が負うと定めた。このほか、「指導意見」には経済補償金の算定基準や支払い期限に関する具体的な規定なども盛り込まれた。

・ 人民網日本語版:7/15付けによれば、中華全国総工会は、先月、外資企業に労働組合を設立する行動に着手し、これまでに4100社で成果をあげ、合計は1万社に達したと発表した。

・ 時事速報:7/16付けによれば、湖北省労働社会保障局は14日、最低賃金を8月1日付けで見直すと発表した。地域によって上げ幅は異なるが、月額20%前後の大幅引き上げとなる。

・ 時事速報:7/16付けによれば、2008年上半期に上海市労働保障監察機構が受理した労働者の訴えは1万3717件となり、前年同期比32%増となった。このうち半数強の6978件を違法案件として処理した。

訴えの中でもっとも多かったのは「保険・福利」関係で、4843件と全体の35%を占めた。これに「賃金未払い」3688件、「超過勤務」2482件が続いた。1月からの労働契約法施行を背景に「労働契約を締結してもらえない」との訴えも、前年同期比2.6倍の881件に増えた。監察の結果、雇用者に命じた社会保障料の追徴や賃金の支払いの総額は2億8千万元、関連する労働者は30万人余りに上ったという。

B人民元高。

・ 時事速報:4/14付けによれば、台湾経済紙は、中国元の対ドルレートが、10日、1米ドル=7元を突破、

このまま上昇が続けば中国に進出している輸出型台湾企業の経営が悪化し、3分の1は閉鎖に追い込まれるとの見方が出ているという。輸出型産業は「買い手市場」で為替差損分を価格に転嫁するのは無理。

顧客との契約は3〜6か月、または1年の長期が普通で、期間途中の契約変更は困難。中国元が1米ドル

=6.5元になれば、採算的に受注はできなくなるという。

・ 東方早報:4/11付けによれば、人民元高のため長江デルタ地域の紡績業は、その3分の1が赤字操業に陥っている。さらに1元上昇すれば、転廃業が続出するであろうと予測している。為替差損などのコストアップ要因を輸出製品価格に転嫁できないからである。顧客先に価格交渉を始めると、すぐに顧客はベトナムなどへ逃げてしまう。

C原材料・燃料高騰・電力不足。

・ 時事速報:6/30付けによれば、広東省の今年下半期の電力不足は最大で650万キロワット水準に達する見通しだ。電力不足の背景には、省内で電力需要が拡大する一方、発電設備の建設が遅れていることがある。今年、省内では新たに出力30万キロワットの発電機3機が稼動するが、需要拡大には追いつかない状況。今後3年間は深刻な電力不足が続く見通し。

・ 時事速報:7/11付けによれば、香港商報は、香港や北京のアナリストの話として、中国の今夏の電力不足は最大4000万キロワットが不足した2004年度と同じ危機的状況になる恐れがあると伝えた。山西省ではすでに500万キロワットが不足。山東・広東・浙江の各省でも今後、それぞれ700万キロワット、650万キロワット、300万キロワットが足りなくなるとみられる。石炭生産の設備不足やコスト上昇、水力発電所の水不足などが原因とされる。また、毎年夏に電力を他地域に供給してきた四川省では5月に大地震が発生。多くの電力関連設備が破壊されたため、今年の夏は逆にほかの地方からの電力供給を受けなければならなくなる可能性があるという。

・ 時事速報:7/14付けによれば、上海市は猛暑により水道使用量が増大していることを踏まえ、緊急事態には使用量の多い一部企業や娯楽施設などへの給水制限を初めて盛り込んだ「臨時限水計画」をまとめた。市水務局は、水の安定供給を保証するには、供給能力が最大使用量を10〜15%上回る必要があると指摘し、給水制限に理解を求めている。同時に、市民がシャワーの水を流しっ放しにせず、1人1分間蛇口を閉めれば、1日20万立方メートルの節水につながると協力を呼びかけている。

・ 時事速報:7/08付けによれば、中国有数の産炭地である山西省が記録的な電力不足に見舞われており供給制限に加え、首都・北京からの電力購入を余儀なくされている。しかし同省の電力関係団体幹部は、「北京五輪が近づいており、もはや追加購入は不可能となろう」と語っている。同省では、発電所に供給される石炭の約半分が小規模炭鉱が産出したもの。しかし安全面の問題から、そのうちの多くが閉鎖されている状況だ。

山西省が石炭不足による電力不足に陥っていることは、上海など長江デルタ地区の石炭調達に大きな影響を与えそうだ。同地区は石炭の約5割を山西省からの供給に依存しているという。実際、浙江省政府が6/27に開いた会議では、発電用石炭だけで1200万トンが不足するとの試算が報告された。上海のある火力発電所関係者は「石炭の在庫は4日分もない。警戒線の7日分を大きく下回ったままだ」と明かす。山西省に次ぐ調達先である安徽省も石炭は不足状態であるという。

D環境保護規制強化。

・ 昨年来、政府は環境保護政策に反する企業への規制を強めており、老朽セメント工場、零細石炭採掘場、化学工場、染色工場などを強制的に閉鎖している。

E産業高度化への施策。

・ 政府は、労働集約型企業を沿岸部から内陸部に移転させ、沿岸部にはハイテク企業を誘致している。

F企業優遇諸制度の後退。

・ 政府は外資企業への優遇制度を廃止し、内資と同等の扱いに移行している。

G株・不動産の暴落。

・ 人民網日本語版:7/01。 上海A株市場は先月30日、暴落を続けた上半期にひとまず幕を下ろした。この半年間、A株市場はほぼ壊滅状態で、世界最悪の株式市場となった。ある統計によると、上海証券取引所の6月の累計下げ幅は20%に達し、過去14年間で最高を記録した。年初以来の累計下げ幅は48%で、世界でもっとも低迷する市場となった。わずか半年間に617銘柄が取引中止となり、下げ幅が40%を超えた銘柄は1038に達した。また取引記録がある1500銘柄のうち、株価が上昇したのはわずか78銘柄だった。機関投資家も個人投資家も等しく損害を被り、9割以上が損失を出した。現在、上海・深圳両市場を合わせた時価総額は、昨年末の32兆元から17兆8千億元に低下し、半年間で約15兆元が消滅したことになる。

・ 時事速報:7/01付けによれば、上海株市場は30日続落し、市場全体の値動きを反映する上海総合株価指数は0.45%安の2736.103で引けた。これにより、同指数の今年上半期の下落率は48%に達し、半期ベースでは1990年の市場創設以来、最大の下げ幅を記録した。年明けに5200を上回っていた同指数は、非流通株の市場放出による需給悪化懸念や政府の金融引き締め策継続を背景に下落。3月下旬の印紙税引き下げ効果も長続きせず、6/12には1年3か月ぶりに3000を割り込んだ。市場関係者には8月の北京五輪相場を期待する声もあるが、経済減速に伴う企業業績の悪化懸念は消えておらず、反転のきっかけをつかめるか不透明だ。

・ 時事速報:6/23付けによれば、広東省深圳市の不動産価格が昨年10月以来、下落し続けている。同市の不動産研究センターがまとめたデータによると、5月の平均住宅価格は1u当たり1万1014元となり、昨年のピーク時期と比べ25〜30%下落した。こうした状況下で、高額物件を購入した多くの投資家の住宅ローンが不良債権化しつつあるという。ある銀行関係者は、第1・4半期までに市の個人住宅の不良債権額は13億3600万元に達し、第2および3・4半期にはさらに増える可能性があると指摘した。

・ 日本経済新聞:7/07付け。 最近は北京でもマンションの値引き販売が広がる。国家統計局などによると、北京市の今年1〜5月の不動産販売面積は前年同期比5割近く減った。

 

3.地場中小企業の苦しい実態

・ 同業者間の情報によれば、上海でも浦東や金山地区の同業者は1/3が廃業か移転しているという。

・ 日本の信用情報:7/09。 同業者で南通市に合弁会社を有している大阪のI社が自己破産した。中国への設備投資などに伴う資金を金融機関からの借り入れに依存していたことで、資金繰りは多忙化。近時はコスト高が収益面を圧迫し、厳しい経営に陥っていたことから、遂に今回の事態となった模様。

・ 中央電視台:4/02によれば、旧正月以降、浙江省温州市の中小企業の閉鎖が相次いでいる。人件費の上昇や原材料コストのアップが原因で、使い捨てライターや剃刀など、「薄利多売」を特徴とする同市の経済は、深刻な事態を迎えているという。温州市では、使い捨てライターでの中国全国の90%、剃刀の6

0%、衣類の10%、靴類の20%を生産している。いずれも安価な労働力を背景に、低価格戦略で全国的

な地位を築いた企業群である。しかしライターの場合は、亜鉛・銅・プラチナ・ニッケルなどの原材料が高

騰。ここ1〜2年で、亜鉛は4倍、銅は3倍に値上がりした。人件費では、1月に施行された労働契約法の影

響が大きく、温州中小企業促進会によると、同法を厳密に順守した場合、人件費コストは従来と比べ、平均で15〜20%増加するという。

同会の周徳文会長によると、1年前には600社あったライター製造会社が現在は50社以下になり、中小企

業全体では約20%が操業停止かそれに近い状態とみられる。中小企業の危機的状況は、浙江省全体や

江蘇省を含む長江デルタ全域で発生しているという。

・ 時事速報:6/30付けによれば、香港中小企業連合会はこのほど、燃料高騰や賃金上昇などによるコスト増で、年内に中国広東省の香港企業2万社が倒産するとの見通しを示した。同会の劉達邦主席は「広東省の香港企業7万社のうち、年末までに現地にとどまれるのは5万社だろう」と指摘。「香港企業は最近、新労働契約法の適用による従業員支出の増加や人民元高などへの対応に追われている。それに燃料高騰が加わり、泣き面に蜂だ」と語った。

・ 時事速報:6/15付けによれば、広東省の東莞市経済貿易局が10日公表したデータとして、同市の一定規模以上の工業による利益が今年上半期に前年同期比4.0%減少したと報じた。利益額がマイナスになるのは2001年以来初めてという。同市には輸出向け製品の生産に従事する中小企業が集積しているが、昨今の人民元高や生産コスト上昇で経営が悪化し、多くの企業が移転・廃業を迫られているとされる。

・ 時事速報:7/02付けによれば、広東省朱江デルタ地域の靴輸出企業数は1〜5月期で2428社となり、前年同期からほぼ半減した。この背景には、優遇制度の見直しや人民元高、労務費上昇などがあり、中小の輸出企業が採算を確保するのが難しくなったことがある。ある税関関係者は「実力のない靴メーカーは朱江デルタ以外への転出や廃業を迫られている」と指摘する。

・ 時事速報:7/02付けによれば、広東省統計局のデータによると、同省の一定規模以上の鉱工業企業で1〜5月期に赤字だった企業の数は前年同期より13%多い1万1千社となり、鉱工業企業全体の4分の1を占めた。同局によれば、燃料・原材料価格の高騰が企業収益を圧迫した。

・ 日本経済新聞:7/11付け。 中国「外需頼みに」に限界。中国経済を牽引してきた外需の陰りが鮮明になっている。中国税関総署が10日発表した今年1〜6月の貿易黒字は前年同期比11.8%減少した。原油価格の高騰などで輸入額が膨らむ一方、世界経済の減速で輸出の伸びが鈍化したことが大きい。貿易黒字の縮小が経済成長を下押しするのは確実で、中国政府内では人民元相場の上昇を抑えるべきだとの意見も増えている。

・ 時事速報:7/16付けによれば、税関がこのほど発表した統計で、今年1〜5月の広東省の紡績・衣料品輸出額は前年同期比15.7%減の115億1000万米ドルだった。業界関係者は「紡績業を営む3分の2の企業の利益率がわずか0.62%となっている」とした上で、「政府から支援がなければ、これらの企業は苦境に陥り、約1500万人の就業が脅かされる」と指摘している。

 

4.政府の諸施策手直し機運

・ 時事速報:4/14付けによれば、中国共産党広東省東莞市委員会の劉書記は、「産業構造を転換しなけ

れば、東莞経済に将来はない」と警告した。同市での加工貿易を将来的には認めないとの方針を中央政

府が示しているほか、先進諸国が数々の貿易障壁を導入する中で、これまで東莞経済が依存してきた労

働集約型の加工貿易による発展モデル継続は難しくなっている、との考えを示したもの。併せて産業構造

転換と経済成長のペースダウン、社会構造転換への批判、一時的な利益喪失の4つの要因からもたらさ 

れる痛みに、今後の東莞市は耐えなければならないと述べた。

・ 時事速報:7/14付けによれば、広東省の万慶良副省長はこのほど、同省広州市の南沙輸出加工区開業式典の席上、「多くの政策が積み重なり、同省の加工貿易産業は現在、困難な状況に直面している」との認識を示した。万副省長は「広東省には7万社以上の加工貿易企業があるが、このうち4万3千社が困難な状況に直面している」と指摘。「これは広東省の経済発展の過程で非常に大きな問題だ」と述べ、さらに「経済の安定的な発展を維持するため、広東省貿易産業の転換に際し5年から10年の保護期を与えてもられるように、商務省に働きかけを行なっている」と明らかにした。

・ 時事速報:7/08付けによれば、原料高に伴う化学肥料の価格高騰で中国政府は、農家の食料生産意欲の減退を強く懸念、肥料の市場価格の監視強化や農民の増収に向けた補助金の大幅増額などの対策を緊急に打ち出している。中国石油化学工業協会の調査では、化学肥料の価格は4月、主要13品目平均で前年同期比60%高。このため農家は、生産コストを抑えるため、化学肥料の使用量を減らしている。収穫減を避けようと家畜の糞の使用を検討する農家も多いという。

・ 時事速報:7/09付けによれば、中国証券報は、同国の貿易黒字が縮小する中で、同国政府が繊維製品・衣料品輸出を対象とする税還付率の引き上げを承認する見通しだと報じた。同紙が意思決定機関の関係者の話として伝えたところでは、税還付率は繊維製品が現行の11%から13%に、衣料品については11%から15%に引き上げられる見込み。

温家宝首相と同国の経済政策の指導者らは週末、世界的な需要減速や労働コストの上昇、人民元の上昇で打撃を受けている主要な輸出地域を訪問し、景況の改善を図ることを約束した。繊維製品の輸出は中国の貿易黒字の主な要因だが、税関統計によれば、5月の繊維製品輸出の伸びは前年同月比9.7%にとどまり、今年1〜4月の平均(15.4%)から大きく減速している。

・ 時事速報:7/10付けによれば、香港紙・明報は消息筋の話として、中国国務院が8日の会議で、金融の引き締めをやや緩めることを決めたと伝えた。資金不足に悩む企業を支援するため、銀行融資の規制を緩和するという。同紙によると、経済過熱とインフレを防ぐという基本方針は不変。しかし「具体的な(政策)執行で適当な変更が加えられる」という。

・ 中国情報局:7/15付けによれば、人民元レートの急激な上昇が進む中、中国商務部は輸出企業への打撃が大きいことを理由に、国務院に対して元の対ドルレートの上昇速度を緩めるように提言した。金融当局は経済引き締めなどを理由に元高を容認しているが、特に衣類・玩具・靴など輸出依存度の高い分野の企業では経営状況が急激に悪化し、倒産が激増している。商務部は今回、これらの分野の企業への支援策として、当局に対し、輸出戻し税の率を引き上げることも働きかけたという。

                 時事速報:7/10付けによれば、深圳市政府は20億元を投じて市内企業を支援する。このほど発表した「優れた政府サービス促進に関する産業発展の若干の措置」に基づくもので、産業転換期に直面している企業の発展を促す措置を講じる。この中には、企業の海外進出を促したり、産業用地逼迫や中小企業の融資難などの深刻な問題に対処するための28の方策が盛り込まれている。

 

          上記「優れた政府サービス‥‥」の日本語訳全文は↓

                                   http://www.shanghai-doyu.net/doclink/shinsen.doc

・ 時事速報:7/10付けによれば、中国の李克強副首相は6日から8日まで浙江省温州・杭州各市を視察し、人民元切り上げなどの影響で輸出不振となり経営難に陥っている紡績業などの企業を見て回った。新華社電によると、李副首相は企業や政府部門の代表らが集まった座談会で「各級政府は政策を整備し、中小企業などが直面している困難を解決するのを助けなければならない」と述べた。

9日付けの第一財経日報によると、温州市には今月初め、商務省や銀行業監督管理委員会の各調査チームも訪れ、企業などから聞き取り調査を実施。温州市中小企業発展促進会の周徳文会長は「政府は温州市の中小企業の現状を十分に認識している。多くの官庁が調査に来たことから見て、政府は来年上半期までに中小企業の圧力を緩和する一連の政策を出すことになるだろう」と述べた。

一方、温家宝首相は4日から6日まで江蘇省と上海市、習近平国家副主席は4,5の両日に広東省、王岐山副首相は3日から5日まで山東省を視察。貿易や金融政策によって大きな打撃を受けた地域や企業の現実を調べている。

・ 時事速報:7/15付けによれば、香港紙・文匯報は、中国共産党政府が週内に「中央経済情勢分析会」を開き、同国経済が直面する諸問題への対応策を話し合うと報じた。今月に入ってから、温家宝首相が上海市と江蘇省、習近平国家副主席が広東省、李克強副首相が浙江省と、中央指導者が相次いで輸出の盛んな地区を視察。同分析会では、こうした視察の結果を受け、人民元高や米景気減速などの影響を受けている輸出企業に対する支援などがテーマになると見られる。

・ 時事速報:7/16付けによれば、中国商務省の高虎城次官は紡績産業などで輸出の伸びが減速している現状を受け、政府部内で調査を進めており、適切な時期に対外貿易政策の見直しを打ち出す方針を示した。同省がマクロ政策の調整に言及するのは初めて。

・ 時事速報:7/16付けによれば、市場関係者の話として、14日付けの中国共産党機関紙・人民日報が「資本市場の安定した運営を全力で擁護しよう」と題する異例の特集を組んだことから、関係当局が近く何らかの株価てこ入れ策を打ち出す可能性が大きいと伝えた。さらに「この特集は政府上層部が北京五輪の前後に株価が着実に上昇することを望んでいることを意味する」と指摘。「今後も株式市場の安定を脅かす要素が出てくれば、株価安定を図る措置が取られるかもしれない」との見通しを示した。

・ 時事速報:7/16付けによれば、中国の改革・開放を長年リードし、貿易額がもっとも大きい広東省が米経済の失速や人民元高、原材料の高騰などで苦境に陥っている。貿易全体の加工貿易への影響は特に深刻で、省政府が中央政府に救済措置を求めるという異例の事態になっている。

 

 

北京の近況:地震のあと、オリンピックの前

                                 

     協力会会員 小林治平(北京在住)

 

 723日の午後7時のCCTV(中国中央電視台)のニュース「新聞聨播」のトップニュースで、胡錦濤国家主席が習近平副主席、劉[王其]氏などを引き連れて朝からオリンピック選手の訓練・仕上がり状況を視察したと報じた。

 その中でシンクロナイズドスイミングを、中国としては「始めたのは遅かったが急激に力を向上させた」競技で、特に「日本の高名な指導者、井村雅代氏が招聘されてからその成長が著しい」として、胡錦濤氏と井村氏が話を交わす場面の映像に添えて紹介していた。井村氏は「中国の為に最大限の力を尽くす」と応じたとの事である。

 四川汶川大地震で日本の派遣した緊急援助隊や医療支援隊に対する異例・

意外(日本人としては)と言ってよい高い評価@、これに続く支援物資の輸送に自衛隊機を使用する事を取りやめた日本側の判断に対する評価、更には624日広東省湛江を訪問した自衛隊の「護衛艦」『さざなみ』の答礼訪問時の応接儀礼・手順A などをみると、現政権が如何に「日本」の取扱いに腐心しているか、対日関係改善の方向への世論の「強い誘導」を感じさせる。

 それはいつも中国の一般大衆にむけて「様子窺い」的に行われているようにも感じるのだが、胡錦濤氏が指導者として初めて行った人民日報社の主宰するネット『強国論壇』でのネット書き込み者とのチャット(620日)をした事にその一端が現れているように思うB

 尚、083月刊の『中国 危うい超大国』スーザン・L・シャーク(NHK出版)は中国指導者のそのあたりの「事情」をいろいろな事例とインタビューでまとめている。特に日本、台湾、そして対米国の問題の扱いは指導層にとり扱いの非常に厄介で細心の注意を要する問題との分析である。

 知己である在北京のイトーヨーカドー(J/V、現地名:華堂商場)の某店の店長によると、日本の緊急援助隊派遣後、本来店内のサービスや商品に対する意見を投函する意見箱に『救援隊を派遣してくれてありがとう』の趣旨の投書が入っており、店内巡回中にも声をかけられお礼を言われた事があるという。案外政府の「誘導」も成功しているのかもしれないが、我々北京に住む邦人にとってはこの対日感情の「好転」ほどありがたいものはない。程度の差はあれ、何かどこかで緊張感を持って暮らしているのが常であり、非難される材料は数々あっても礼を言われる事絶えて久しく、という感じであり、このたびの援助隊は在留邦人にとっても誠にありがたい活動となった。

(以上)

 

 @『環球時報』08519日『災難は中日の民間の感情をより近づけた』

   同上   08522日『多数の中国ネット利用者が投票で表明:

                日本は震災で「より親切」になった』

 A『東京新聞』08629

 BNHK Radio Japan 中国語放送 08620日『胡錦濤首次與網民直

  接交流』 同日 英語放送 'Hu chats online with Internet users'

 

                                        (08年7月24日記)

 

 

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編集者からの補足: 

ニュースレター第220号から3号続けて掲載された大森副会長の中国の近況とシベリア鉄道関連の記事は、(社)大阪能率協会の機関誌・産業能率2008年6月号及び7−8月合併号に掲載された講演録を再掲させて頂いたものです。編集者のミスでこの旨の説明文が漏れてしまい、関係者の方々にご迷惑をお掛けしました。お詫び申し上げます。