=======================================================================================
京大上海センターニュースレター
224号 2008730
京都大学経済学研究科上海センター

=======================================================================================
目次

○上海センター主催セミナーのお知らせ

     中国・上海ニュース 7.21-7.27

     北京の近況:地震のあと、オリンピックの前(2)

     長征と貴州省暴動

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 

上海センター主催セミナーのお知らせ

 

タイトル
『アジアの防災・減災にたちはだかるラスト・マイルと重層的なimplementation
〜分かっていても実践されない社会のボトルネックとその克服への挑戦課題〜』
(京都大学防災研究所 巨大災害研究センター 岡田憲夫教授)

 

日時:812日(火)14301630

場所:京都大学吉田キャンパス本部構内 法経済学部東館 8F リフレッシュルーム

 

概要:
都市・地域や近隣コミュニティにおいて、後悔や後知恵ではなく、転ばぬ先の杖としての減災や災害リスクのマネジメントが極めて重要である。しかしながら、そのことは、ごく簡単そうなことでも、事前の実行にはなかなか結びつかないことがむしろ普通である。これは、防災の分野では、「ラスト・マイル問題」と呼ばれる。さらに重層的な実践障害の問題も含めたimplementation problemが根幹にあるともいえる。

災害が多いアジアは、地域の持続的発展を進めていく上で、この問題にどのような解決の糸口を見つけていくかが、とりわけ切実な問題となっている。阪神淡路大震災の教訓も、そのような問題の存在と、その克服の必要性をしめしている。

本講演では、このような問題に焦点を当てるとともに、それが、新潟中越沖地震などの我が国の震災や最近起こった中国・四川における大震災にも当てはまる可能性と、その地域的・政治経済的文脈が及ぼす影響についても推察する。

 

=============================================================================

中国上海ニュース 7.21−7.27

ヘッドライン

 中国:政治局会議召集、経済政策転換、成長維持に重点 

 中国:1−6月都市住民の可処分所得増加幅前年同期より低下

 中国: ネットユーザー2.5億人に、世界1位

 北京:五輪の経済効果は6000億元以上

 四川:復興事業費総額1兆元以上、入札制導入

 湖南:長沙の都市部で最高気温が41.7度に

 上海: 1−6月GDP成長率が全国平均下回る

 上海: 南京東路歩行者天国で切りつけ事件発生、5人負傷

 南京:通関一本化に向け、長江デルタ地域検査検疫機関協力覚書調印

■ 北京:五輪チケットの最終販売に2万人殺到

=============================================================================

 

北京の近況:地震のあと、オリンピックの前(2)

                                       協力会会員 小林治平(北京在住)

 

〈ホテルの予約状況〉

 オリンピック開会まで10日となったが、北京市内のホテルの予約状況は芳しくないようである。725NHKの報道によると北京市旅遊局局長張慧光氏が五ツ星クラスのホテルは80%予約でうまっているが、四ツ星クラス以下は部屋の空き率が50%以上あり、(旅客獲得のための)関係者の更なる努力が必要と語ったという事である。 @

 NHKはその原因として旅行関係者が1)ホテル代を大幅に値上げした 2)新たに建設されたホテルが増えた、事を挙げている。

 また、724日のThe Japan TimesAP電を紹介して期間中50万人の外国人旅行客が期待されていたが、それには届きそうにない事、その原因として中国が警備の強化をした事とビザの発給、特にマルチビザ(有効期間中複数回の出入国が可能)の発給に制限が加えられた事を挙げている。また、ルームレートがかなり下がってきているが、今の段階で部屋代を下げてもあまり効果はないだろうとのホテルの責任者の言葉も紹介している。 A

 時間はやや遡るがこの4月あたりから北京に住む日本人が、住居の所有者から突然退去を要求されたという話を何件も聞いた(こちらはホテルではなくアパート式の住居の話)。B 結果、喧嘩をして出て行った人、違約金をもらって出た人、値上げを呑まされた人(私自身はこの類)さまざまではあるが、どうも一致しているのは家主がオリンピック期間中に高い価格で一時的な旅客を掴む事を狙ったらしいという点である。これらの家主の狙いはどうやら「如意算盤」とはいかない可能性が濃厚で、当方としては「活該!」(いい気味だ・ざまをみろ程度の意味)と叫びたい感情はあるが、彼らも不確定な情報に踊らされた「被害者」なのかもしれない。

 オリンピック終了後、既に始まっている株価の大幅な値下がりとどの程度関連・影響し不動産市場に変化がでるかは大きな注目の的でもある。南方では既に値下がり現象が起きているという。C

 

〈市内の交通制限と環境〉

当局は、車のナンバーを奇数・偶数に分けて走行日を制限する方式を720日から始めた。私は住居が二環路に面しており建物の14階なので車の流れをよく見ているが、普段とあまり変わらない感じである。またバスで二環路を何回か移動したがやはり運転速度は遅く車は依然混んでいる。それは、オリンピック専用レーン「奥運專用車道」を二環路、四環路を中心に決めて一般車は通行できなくした、即ち上下二車線を「つぶして」しまったためで、走行する車は確かに減ったかも知れないが渋滞・低速走行は相変わらずか、或いは以前よりひどい感じを受ける。そんな中、専用車線を公安部門・軍車両等が高速で走っていくのを見るとやはりいやな気分にはなるのは人情。官・軍・党の強いこの国の「特徴」を示しているかなとも思う。まあ、一ヶ月余の辛抱というところ。

 排気ガス「尾気wei1qi4」が減って空気がきれいになったか? これは何とも言えない。少なくとも実感はまだない。報道によると効果が出るのには20日間くらいかかると北京市環境保全局の責任者が言っているとの事である。D 現状、中国語で言う「陰霾yin1mai2」(空気中に大量の塵・埃等微粒のものが浮遊しているにごったような状況『新華字典』第10版)が連日続いている。青空はめったに見られない。そして今日は雨が降っている。                                  

                         08729日記)

 

 

@NHK国際放送 中国語放送 725日「北京一些賓館空房率居高不下」

ABeijing hotels slash rates as demand falls, The Japan Times July 24,

  '08

Bブログで顛末を紹介している人もいる。たとえば産経新聞北京駐在記者    

 福島香織氏のブログを参照。氏は引越しを余儀なくされた。

C『エコノミスト』(毎日新聞社)08722日号「不動産価格の急落は経

 済をハードランディングさせかねない」関志雄氏

DBeijing makes switch to mass tranisit to cut haze before Olympics,

  The Japan Times, July 23, '08

 

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 

長征と貴州省暴動

                                          04.AUG.08

                                         香港:美朋有限公司 董事長 小島正憲

 

 1935年1月、紅軍:第1方面軍は、長征途中で貴州省を横断した。そのとき遵義市で、共産党の重要な会議が開かれ、そこで毛沢東が指導権を奪取したと言われている。さらにその後、毛沢東は赤水河の渡河作戦を指揮し、国民党軍を翻弄しその追撃を振り切った。これによって毛沢東は共産党内に不動の地位を確立したと伝えられている。しかし最近になって、これらの事実を見直すような見解が発表されるようになった。

2008年6月28日、日本のマスコミでは中国貴州省瓮安県で2万人を超える規模の暴動が起きたと報道された。この瓮安県の位置を地図で確かめてみると、それは遵義市の近くであり、紅軍:第1方面軍もその周辺を通過し、戦っている。そこで今回、私は長征(“遵義会議”と“四渡赤水”)とこの瓮安県の暴動の調査を兼ねて、7/23〜27の5日間、貴州省の現地を歩いてみた。

 

1.貴州省暴動の実相

現在、瓮安県では、外国人の取材活動は許されておらず、私は中国人を装って隠密行動を取らなければならなかった。したがってカメラで生々しい現場を撮ることはできなかった。それでも事前に現地の通訳と入念に打ち合わせておき、いろいろな人から多くの貴重な情報を得ることができた。その結果、日本のマスコミでは報道されていない重要な事実が、数点、判明した。

@まず、日本のマスコミの貴州省瓮安県の暴動に関しての報道を整理しておく

日本経済新聞7月1日付けは、「6月28日貴州省瓮安県で数万人規模の暴動が発生した」と伝え、さらに「同県では6月下旬、少女暴行事件が発生。公安局が容疑者数人を逮捕後間もなく釈放したため、親族らが28日、公安局に抗議に向った。容疑者には地元公安局幹部の親族がいたとされ、不透明な捜査を巡り住民らの不満が爆発、暴動に発展したと見られる」と付け加えている。

時事速報:7/02付けは、「香港紙:リンゴ日報は、瓮安県の暴動のきっかけとなった少女殺人事件を、もみ消そうとしたのが同省公安庁長(警察本部長)経験者だとの説がインターネット上で流れていると伝えた」と

報道した。

時事速報:7/03付けは、「死亡した少女の捜査を巡る警察への不満がきっかけとなって発生した瓮安県の大規模暴動で、地元政府は1日夜、記者会見し、少女の死因は水死で自殺と発表した。遺族らが疑った性的暴行の形跡はなかったと強調した。政府は情報公開により、事態収拾につなげたい考えだ。警察は暴動の発端について、自殺との判断を受け入れなかった遺族の求めに応じ、検視を再び実施し、その結果に遺族もいったんは納得したが、少女の親類が約300人を集め、デモ行進、暴徒も加わって騒ぎが拡大したと説明した。発表によると、省政府や公安当局の庁舎が焼打ちに合うなど大きな被害が生じ、警察官ら150人が負傷したが、死者はいない。警察は、地元の暴力組織メンバーら約50人を拘束、暴動が悪質な不法分子による犯罪であると訴えた」と伝えている。

A瓮安県暴動の実態

上記のような日本のマスコミ報道と、私が見聞した現地の状況とは、以下の諸点でかなりの相違がある。

・ 第1点は、この暴動が2千人規模であり、数万人という報道はオーバーであり間違っているということである。暴動現場は旧市街の真ん中にあり、政府と公安の庁舎はL字型に建っていた。その前は道路と広場になっており、道路の突き当たりが政府庁舎、公安庁舎と道路を挟んで反対側に、一般商店が並んでいた。その広場に通じるすべての道は、車が対抗して通れないほど狭かった。私はその広場の真ん中に立って、壁面が破壊され修復中の政府と公安庁舎を見上げた。そしてその広場で暴徒が走り回り、投石や放火をしている様子を想像してみた。そしてこの広場に入ることができるのは、2千人が限度であると確信した。さらに狭い道路を50mほど行ったところに、人民武装部の建物があり、それはまったく破壊されていなかった。つまり暴動は広場だけであったということであり、そこに数万人が集結することは物理的に不可能だと断定できる。タクシーの運転手に聞いてみたところ、広場に暴徒が2千人強、狭い道路を含むその他の場所に野次馬が数千人だったと話してくれた。

・ 第2点は、瓮安県の暴動では政府と公安庁舎だけが破壊されており、チベットの暴動とは違って、一般商店には、被害がまったくなかったという点である。マスコミはこの点をまったく報道しておらず、チベットと同じ暴動という表現を使用している。政府への抗議に限定されている行動と、一般商店の破壊略奪を伴う行動とは、明らかに違いがある。この点を区別して報道するべきではないか。

・ 第3点は、この暴動の主体が暴力組織であったという点である。広場近くのレストランの主人に聞いたところ、この瓮安県は中国でも偽札が多いことで有名な場所だそうであり、その店でも勘定の際には神経を尖らせているという。おもしろいことに広東省あたりの偽札は最新IT技術を駆使して作られているが、瓮安県の偽札は手作りだそうである。この瓮安県には大きな暴力組織が3つあり、それらが始終抗争を繰り返しており、レストランや商店なども、これらの暴力組織に日本でいうところの“みかじめ料”を払わないと恐くて営業できないという。今回の暴動は、これらの暴力組織の抗争に公安が巻き込まれたというところではないかということだった。

・ 第4点は、瓮安県は黔南布依族苗族自治州に属しており、少数民族地域である点である。ただし布依族と苗族を合わせても5%ほどであり、残りの95%は漢族だということだった。瓮安県の人口は4万人で、周辺人口を合わせれば46万人ほど。この自治州の南部の方では、少数民族が半数を超える県があり、貴州省の東南部には苗族を中心にして自給自足状態の少数民族も多数存在している。貴州省の少数民族は雲南省とは違い、あまり観光地化されておらず有名ではない。レストランの主人の話しによれば、今回の暴動には民族問題は絡んでいないということだったが、チベット問題と比較検討するためにも、マスコミはこの点を開示しておくべきではなかっただろうか。ちなみにレストランの看板料理は布依民族料理であった。

・ 第5点は、瓮安県の近くにアジア最大の燐鉱石の採掘場があり、数年前にその鉱山の拡大が行なわれ、農民の土地が強引に接収されたため、それに不満を抱いている人間が多いという点である。またその接収の際に、暴力組織が絡んでおり、その恨みや対立抗争も尾を引いているという。

・ 第6点は、タクシー運転手の話によれば、少女が暴行され殺されたというのは作り話で、実際には夕方、2人の友人といっしょに酒を飲んだ少女が、発作的に川に飛び込んだので、友人たちは慌てて助けたが、すでに死んでいたのだという。運転手は、慎重に言葉を選びながら、その少女の関係者に問題の人たちがいたようだと話してくれた。

B瓮安県の暴動は、マスコミが大規模な暴動に仕立てあげたものである

暴動を、民衆の不満の爆発と理解することは間違いではない。現代中国に、民衆の間に多くの不満が鬱積し、それが政府機関の破壊という行為に向わせているという底流が存在していることは否定できない。しかしながら、事態を詳細に眺めていくと、底流だけではない多彩な要素が絡んでいることがわかる。むしろその要素の方が強く影響を及ぼしている場合もある。したがってすべての暴動を一律に、虐げられた民衆と腐敗した政府との対立という単純な構図でのみ語るのは、真実を誤認する危険性がある。

7/27の日本経済新聞は、社説「五輪を迎える中国:人権の改善と民主化を加速する契機に」と題して、「中国では今年、多くの死傷者を出した3月のチベット騒乱など暴動やテロ未遂事件が続発している。6月下旬も貴州省で住民3万人と警官隊が衝突した。農民や住民らによる暴動は年間数万件に達する。経済の高成長が続く反面、貧富の格差や官僚腐敗で民衆の不満が高じ、社会不安を増幅している現実を反映している」と主張している。この中の貴州省の住民3万人の暴動という表現は事実誤認であるし、チベット騒乱についてもまだその評価は確定していない。これらを引き合いに出して中国の現状を語るのは軽率である。

C貴州省瓮安県の暴動の結末

時事速報:7/14付けによれば、「貴州日報は、瓮安県の大規模暴動をめぐり、同省公安庁は12日までに355人を取り調べ、100人を身柄拘束し、このうち39人は暴力組織メンバーだったと報じた」

時事速報:7/23付けによれば、「22日付けの香港各紙は、中国共産党貴州省委員会は19日、黔南布依族苗族自治州の幹部会議で、同自治州党委の呉廷述書記を解任し、省農業庁の黄家培庁長を後任とする人事を発表した。大暴動に絡む懲罰人事とみられる。この暴動は、県党委書記・県長・県公安局長らに続いて、省主要幹部の一人である自治州トップが更迭されるという異例の事態に発展した。暴動の背景には現地当局の横暴や腐敗に対する長年の不満があるとされ、一連の人事は“人民に近く”“人を持って基本とする”といった方針を掲げる胡錦涛主席ら中央指導部が指示した可能性が大きい」

新華社:7/26付けによれば、「7/25、瓮安県公安当局は今回の暴動の首謀者として、暴力団“玉山幇”の幹部:韓波ら30人を逮捕した」

 

(つづき)

 

=============================================================================

 

編集者からの説明:

 7月21日から27日までのニュースは何らかの技術的な原因により、届くのが大幅に遅れてしまいました。その影響でニュースレター224号の発行も大変遅れてしまいまして、お詫び申し上げます。今後このようなことがないように編集関係者間の連携を強化していきたいと思います。