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京大上海センターニュースレター
226号 2008812
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

OMA インド・ネパール視察研修交流の旅へのご案内

     中国・上海ニュース 8.4-8.10

     温州商人と浙江省騒動(上)

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当上海センター協力会の法人会員である(社)大阪能率協会アジア・中国事業支援室より恒例の海外視察旅行のご案内がきていますので、掲載させて頂きます。
 去る630日の京大上海センター協力会総会時の大きな国際シンポジウムの表題が「アジア共同体を京都から構想する」だった直後でもあり、Bricsの一角のインド・ネパール視察は時宜にかなった企画といえます。当協力会の大森經コ副会長が団長でもあり、まだ若干の余裕があるそうですので、ご希望の方は825日迄にお申込ください。(申込先:大阪能率協会 事務局 Eーmail:oma@crux.ocn.ne.jp)TEL:0669412709
FAX:0669474369

 

            OMA インド・ネパール視察研修交流の旅へのご案内

企画運営:(社)大阪能率協会 アジア・中国事業支援室

 

私たちの()大阪能率協会(OMA)中国事業支援室は、これまで6回、沿岸部から内陸部まで中国の主要な工業地帯の視察を終え、昨年は念願の青海省、チベット視察旅行も行いました。

 これを契機にアジア共同体の議論も活発化している昨今の情勢を反映させるべく、今年41日より「アジア・中国事業支援室」と名称変更をしました。この新名称による最初の視察旅行となる本年は、近年目覚しい経済成長を遂げつつある一方で悠久の文明が今も佇むアジアの大国インドとヒマラヤの大自然の恵みに満ちたネパールの二カ国の視察を企画しました。

 インドの首都デリーでは日本大使館、JETRO及び現地企業を訪問し、ソフトウエア産業を始めとする各分野の急成長の秘密や日本企業の進出状況について動向を探り、又現地の有力弁護士の家庭訪問を通じ社会生活の一端にも触れます。

 ムガール帝国の繁栄を今に伝える世界歴史遺産の街アグラでのタージマハール観光、ヒンドゥー教の聖地ベナレスでの聖なる川ガンジスでの沐浴と4000年以上の歴史を誇り豊かな自然と多種多様な民族・言語・文化が共存する国インドでの観光も充分お楽しみ頂けます。

 ネパールでは首都カトマンズで日本大使館を訪問するほか、市内の視察観光とヒマラヤの展望台ナガルコットに1泊し、雄大なヒマラヤの山々をお楽しみ頂きます。

 是非、この機会に多数の皆様のご参加をお誘いいたします。

 

日程: 2008928()106() 89日 参加費:258,000(ホテル:四つ星〜五つ星)(二人部屋)

     一人部屋追加料金53,000円。 その他:空港税、燃料サーチャージ等必要。

 

訪問先:

 928()       関空からタイ国際航空、インディアン航空をバンコク乗り継ぎでデリーへ

     29()       市内視察、クトゥブ塔(世界遺産)等、午後 日本大使館、JETRO訪問

                    夕食 現地有力弁護士宅でホームパーティ参加、デリー郊外泊

     30()       デリー市郊外工業団地内2社訪問后アグラへ アグラ泊

10 1()       アグラ視察、タージマハール(世界遺産)、アグラ城(世界遺産)訪問后 聖地ベナレス     

                    (寝台車泊、2等・エアコン付)

      2()       サルナート視察、仏塔、寺院、考古学博物館、シルク工場など     ベナレス泊

      3()       早朝、ガンジス川での沐浴場見学后カトマンズ(ネパール)

                    日本大使館訪問后ヒマラヤ展望台のナガルコットへ        ナガルコット泊

      4()      カトマンズへ、途中カトマンズの谷(世界遺産)見学后、

カトマンズ市内視察、寺院、王宮ほか                       カトマンズ泊

    5()      バンコク経由タイ国際航空にて帰国へ

    6()      午前6:10 関空着、解散

 

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中国・上海ニュース 8.4−8.10

ヘッドライン

■ 中国:1−6月財政黒字1.2兆元、環境関連支出増

■ 中国:北京五輪開幕、205の国や地域の代表団参加

■ 新疆:ウイグル・クチャで爆弾テロ、容疑者5人射殺

■ 北京:アメリカ人観光客殺害事件発生

■ 中国:豚肉価格が21週連続で下落

■ 中国:五輪開幕の日、各都市で結婚ラッシュ

■ 鉄道:京九鉄道、電気化工事スタート

■ 新疆:毒草まん延、牛1291頭死亡

■ 上海:8月の空気が一番良い、五輪競技の順調な進行を確保

■ 上海:会社資本金引き下げ、3万元から起業可能に

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温州商人と浙江省騒動(上)

                                          08.AUG.08

                                         香港:美朋有限公司 董事長 小島正憲

 


 

 

 

 

 

 

 

 

≪修復された公安のビル≫

 

 

 

 

 

 

 

 


                                                      

≪隣の破壊されなかったビル≫

 

時事速報:7/15付けは、中国浙江省玉環県で12、13の両日、出稼ぎ労働者1000人以上が警察の派出所を包囲、拘束された仲間の釈放を求め、レンガを投げつけるなどして建物を壊す騒ぎが起きたと伝えた。騒動は、暫定居住証の手続きに際し労働者が治安当局と口論になり、殴られたのがきっかけ。家族や労働者ら数百人がこれに抗議したが、労働者23人が拘束され、騒ぎが拡大した。現場には武装警察官300人以上が出動して取り締まりに当たったという。

私はこの記事を読んですぐに、地図上で玉環県の場所を探してみた。それは温州市のすぐ側にあった。温州市とは、現代中国経済を揺り動かしている温州商人の発祥の地であり、大金持ちが多数居住している都市としても有名であるという。私はその温州市周辺で起きた今回の出稼ぎ労働者の騒動は、「貧富の格差に怒りの声を上げる民衆の騒動」として取り上げ記事にするには、絶好の題材であると思った。私は8/05、06の両日、上海から車で片道6時間余り走って現地取材を行った。今回はその報告と、中国の暴動一般に対する私見を述べる。温州商人については本稿末尾に簡単に触れておくので、参照していただきたい。

 

1.浙江省玉環県騒動

@玉環県騒動の実態  (以下は、複数の現地人から取材し合成)

・ 7/10 玉環県で働く外地人労働者の老人(50代後半と思われる)が、街中で警察に尋問され、その際、身元証明のため暫定居住証の提示を求められた。老人は暫定居住の手続きをしていなかったため、坎門派出所へ連行され、手続きを強要された。(派出所という名前になっているが、日本の署に相当する大きく立派な建物であった。写真参照)。手続き終了後、警察から費用の40元を請求されたが、老人は20元しか所持しておらず、支払いをめぐって警察と口論となった。その際、老人は警察に殴られ、額から少し血が出るぐらいの怪我をした。

・ 7/11 昨日の老人が息子2人と100人ぐらいの外地人仲間を連れて、午後8時ごろ坎門派出所を訪れ、昨日の警察官に抗議した。(ある外地人タクシー運転手によれば、息子とその友人たちは暴力組織と関係があるという)。彼らはひとしきり騒いだあと、10時ごろ解散させられた。

・ 7/12 午後6時ごろ、老人とその仲間は再び坎門派出所に押し寄せ、猛抗議をした。その騒ぎを聞きつけた外地人などの野次馬が1000人ほど派出所周辺に群がった。そのうち老人を含む中心人物が、投石を始め、派出所の窓などが壊された。警察側は坎門派出所の警察官だけでは、この騒動を防ぐことができず、玉環県全体の警察を出動させ、派出所前の道路を封鎖した。ところが近所の工場の退勤時間と重なったため、30分ほどの間に警察前の道路は2000人ほどの野次馬でいっぱいになった。警察は野次馬の排除に実力行使を行なったため、一般の通行人にも殴打されるなどの被害が出た。8時ごろには騒ぎも収まり、抗議グループも解散した。

A私の見た玉環県騒動

・ 浙江省玉環県の騒動は、さほど大きなものではなく、抗議行動が行き過ぎたぐらいの程度のものであった。マスコミの「騒動」という報道はおおげさである。

・ 貴州省瓮安県の暴動現場と比べると、はるかに穏やかであった。建物の被害は最小限であり、騒動日から20日後の8/05には、すでに完全に修復され、その痕跡はまったくなかった。(写真参照)

貴州省瓮安県の公安のビルは、同じように暴動発生20日後でも、焼打ちされた黒い焼け跡が外壁に広範囲に渡ってくっきりと残っていたし、人民政府の建物はひどく破壊されたため、最上階まで足場を組んで修理中であった。

・ 坎門派出所のすぐ隣の公安交警のビルはまったく襲われず無傷であった(写真参照)。道路を挟んだ一般商店もまったく被害はなかった。この事実は騒動の目標が坎門派出所に限定されていたことを示し、規模が小さかったことを表している。

・ 8/05 坎門派出所前はまったく緊張感がなく、私がタクシーから降りて写真を撮っていても咎められることはなかった。貴州省瓮安県の現場ではパトカーが10台余、現場周辺に配備され、警察官が不審者を誰何しており、道路を歩いているだけで緊張感がただよっていて、とても撮影どころでなかった。

B玉環県の環境

・ 玉環県は小さな島で温州市の対岸にある。温州市から車で30分ほど走った蒲岐からフェリーが出ている。そのフェリーは片道20分ぐらいで、20分ごとに便があり、往来客が結構多かった。大型トラックなどは島の北部の橋を利用しているということで、フェリーには乗り込んでいなかった。

・ 私の予想に反して、温州市と玉環県とはかなり離れており、「貧しい玉環県の外地人が大金持ちの温州商人との格差に不満を持ち、騒動を起した」というストーリーは現実的ではなかった。

・ 玉環県は従来の現地人の人口が40万人で、外地人が50万人(推定)、合計90万人ほどとされている。

発電所、港などが整備されており、工業園区ではかなりの企業が稼動中であった。ここに外地人が多数雇用されている。外地人の出身地は主に四川省・安徽省などということだった。

・ 玉環県は麻薬の常習者や密売者が多いといわれており、街中で「禁毒」の立て看板をよく見かけた。また

隣接する温嶺市には麻薬患者のために、船で半年間ほど外洋に出る治療コースが用意されているほどである。そのような背景から、玉環県に暴力組織があるであろうことは容易に推測できる。

 

2.提言:「中国の暴動の客観的評価基準を設ける」

多くの中国ウオッチャーは、中国における暴動をすべてひとくくりにして「暴動」として報道している。(今回の浙江省玉環県のように騒動として報じている場合もあるが、私は浅学なので、暴動・騒乱・騒動・騒擾などの用語のそれぞれの明確な定義を目にしたことがなく、それらを区別することができない。したがって以下の記述ではすべてを暴動として表記する)。彼らによれば、2006年度には中国全土で8万5千件以上の暴動が発生しており、それは中国をきわめて危険な状況に陥らせていると報じられている。しかしこれらの暴動が全部、政府の転覆を目指した暴動とみなすのは早計であり、「貧しく虐げられた民衆と腐敗し権力を持った政府当局との対立」と捉えるのは誤りである。むしろ暴力組織がからんでいたり、民衆の側の法外な要求が原因であることも多い。したがってこれらの暴動が多数生起しているということを根拠にして、中国が今、崩壊の瀬戸際に立っているかのようにと論じるのは間違いである。これは私の前回の貴州省暴動と今回の浙江省騒動の取材報告で明らかである。

私はこれらの多くの暴動がやがて政府の転覆につながるような、大きな流れになる可能性があることを否定するものではない。しかし私は中国早期崩壊待望論に組みするものでもない。中国とのビジネスに深く関わった者として、全世界と日本と中国自身のために、今後の中国が安定した政治経済社会体制に軟着陸することを望むものである。だから暴動を針小棒大に報道し、すべてを「虐げられた民衆と腐敗した政府当局との対立」という構図で描き、国外からの反感を喚起しようとすることには反対である。現在中国に必要なのは、中国で生起している現実を直視し、正確に分析し、よりよき解決方法を提言することであり、それこそが先輩民主主義国の責務なのである。いずれの先進国も程度や多少の違いこそあれ、歴史上で暴動などの洗礼を受け、それをくぐりぬけてきた経験を持っているからである。もちろん私は中国が覇権国家となることにも反対である。

そこで私はマスコミに以下の提言をしたい。≪今後の暴動に際しては、地震の際の「震度」や「マグニチュード」のように、客観的・科学的な評価基準を設け、それで評価し報道する≫ これを用いて報道すれば、中国の暴動の現実を誤解なく、伝えることができる。また中国の実情を明確につかむことができる。さらに学者諸氏には、このような観点で過去の暴動を整理してもらい、先進各国の暴動との比較検討などをしてもらいたいものである。そうすれば中国が暴動で崩壊するかどうかがもっとはっきりつかめる。

≪私の暴動評価基準≫

暴動レベル0 : 抗議行動のみ 破壊なし

暴動レベル1 : 破壊活動を含む抗議行動 100人以下(野次馬を除く) 破壊対象は政府関係のみ

暴動レベル2 : 破壊活動を含む抗議行動 100人以上(野次馬を除く) 破壊対象は政府関係のみ 

暴動レベル3 : 破壊活動を含む抗議行動 一般商店への略奪暴行を含む  

暴動レベル4 : 偶発的殺人を伴った破壊活動

暴動レベル5 : テロなど計画的殺人および大量破壊活動

 

                                              (つづき)