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京大上海センターニュースレター
242号 2008121
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

     京都大学・ソウル大学共同国際シンポジウムのご案内

     青島・連雲港・開封・鄭州ツアーのご案内

     中国・上海ニュース 11.24-11.30

     中国経済にカンフル剤、その効果は?()

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京都大学・ソウル大学共同国際シンポジウム

テーマ「東アジア経済の競争力と持続可能性」

'Competitiveness & sustainability of East Asian economies.'

 

主催 京都大学上海センター

後援 京都大学上海センター協力会

日時 1218日(木曜)・19日(金)午前

会場 経済学部2階大会議室

 

■第1セッション(1218日(木)9:00

Prof. Lee Jisoon - Some remarks on the long run prospects of Japanese, Chinese and S. Korean economies

植田和弘  東アジアの持続可能な発展――:環境ガバナンスと環境
経済の視点から

司会                   コメンテーター

 

■第2セッション (13:00

Prof. Pho Hak-kil - A comparative estimation of total factor productivity in Japan & Korea

遊喜一洋  地域経済統合動学のシミュレーション分析

司会                    コメンテーター 大西広

 

■第3セッション(15:15

Prof. Cho Dong-Sung - Designing a sustainable enterprise, and developing a guideline for sustainability report

塩地洋 東アジア優位産業の競争力――その要因と競争・分業構造――

司会 渡辺純子              コメンテーター

 

■レセプション  1218日(木曜)夜 (会費無料)  会場 未定

 

■第4セッション1219日(金) 9:30

Prof. Lee Chonpyo - Global Financial Crises and Competitiveness of East Asian Economies

白須洋子(寄付講座准教授)  社債流通市場における社債スプレット変動要因の分析

―日本金融危機からの教訓―        

司会 岩本武和 コメンテーター 山本信一(立命館大学経済学部教授)J.C.マスワナ

 

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ハイアールと韓国企業のまち青島と物流大動脈・黄河を訪ねる旅

青島・連雲港・開封・鄭州ツアーのご案内

開催日時 2009324()-29()

 日中友好経済懇話会が主催し、上海センター協力会、大阪能率協会、北東アジア・アカデミック・フォーラムなどの後援による中国視察ツアーが今年も企画されています。今回のこのツアーは

@          世界に急成長する中国企業ハイアールの調査

A          青島に集中する韓国企業の大量撤退の調査

B          大陸横断鉄道の始点連雲港と中国を南北をつなぐ道路網の調査

C          「干上がっている」とされる黄河と水問題の調査。黄河を渡る南水北調の橋も見る。

という4つのテーマをもったもので、協力会参加の三統株式会社や積水化学さまなどにも協力いただきます。具体的な日程は以下のとおりです。

3/24

CA利用

関空から北京経由で青島入り。

青島JETROのレクチャーを受ける

青島泊

3/25

ハイアール、韓国企業および積水化学青島を訪問

時間があれば旧租界地、海軍博物館を訪問

青島泊

3/26

連雲港にバスで移動、連雲港を視察

連雲港泊

3/27

日本からの進出企業を視察?

バスで開封に移動

開封泊

3/28

午前中 開封大学を訪問

午後 鄭州に移動して黄河と南水北調の橋を視察

鄭州泊

3/29

鄭州-北京-関空で帰国

 

予定しています旅行費用は、189,000(21室利用)です。ご希望の方は2009130日までに以下までご連絡いただければ幸いです。

615-0042 京都市右京区西院東中水町17 京都中小企業会館中小企業家同友会内 日中友好経済懇話会 FAX 075-314-5323

 

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中国・上海ニュース 11.24−11.30

ヘッドライン

 

■ 中国:1.08%の大幅利下げ、11年ぶり

■ 中国:GDP「来年は7.5%増へ」、世界銀行予測

■ 中国:国美電器創設者の黄光裕主席、株価操作の疑いで身柄拘留

■ 中国:09年交通インフラ整備に1兆元を投入

■ 中国:家電製品の農村展開キャンペーンを実施

■ 中国:深刻な土壌流失、国土の3分の1で発生

■ 中国:世界の野菜の49%を生産

■ 自動車:新エネルギー車の普及に補助金など200億元

■ 鉄道:温州−福州鉄道、全線開通へ 

■ チベット:動乱で拘束された人々、千人以上が釈放へ

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中国経済にカンフル剤、その効果は?()                                

景気対策出動:100兆円超

17.NOV.08

                   香港:美朋有限公司 董事長  小島正憲

 

〔今回の内容 : 1.中国経済の負の動き  2.経済活性化対策  3.来年度の経済成長率予測  4.カンフル剤は無効〕

 

2.経済活性化対策。

@地方政府の企業救済・経済活性化対策。

・09/22 深圳市、加工貿易企業の支援強化。

・09/22 広州市、サービス業の振興策発表。

・09/23 株式など非現金資産を資本金に=天津が新条例を施行。企業の資金調達を緩和、起業支援。

・10/07 南京で不動産支援策。 価格暴落回避を視野に。

・10/09 北京に小企業向けサービス、工商銀行が拠点。

・10/09 上海証券取引所、債権取引の手数料免除。

・10/13 上海、戸籍制度を柔軟化=地方出身父母のどちらかが上海企業勤務の子女の出生届け受理。

・10/15 温州市初の小口融資会社が開業。

・10/15 江蘇省宿遷市、マンション購入に最高7%補助=不動産市場活性化で。

・10/24 上海、不動産テコ入れ策上乗せ=融資枠と営業税免除を拡大。

・10/27 東莞の企業向け10億元(143億円)補助、実施細則の制定進む。

・10/31 浙江省、「居住証」制度、09年度末までに全面導入=出稼ぎ労働者の待遇改善。

・11/04 山東省、1520億元(2兆2千億円)で大型鉄道敷設、内需拡大へ。

・11/07 上海市、新戸籍政策12月に公表。 中低所得者向け住宅購入支援策も。

・11/10 厦門市が中小企業の融資支援ガイドラインを制定。

・11/11 東莞、企業支援基金30億元(約430億円)を設立決定。中小企業経営支援と危機脱出のため。

・11/13 9月末までに100億元(約1430億円)以上投資=産業移転計画に関し副省長−広東省。

・11/13 企業支援で年16億元(228億円)の費用減免=東莞市。

・11/13 8000億元(約11兆4千億円)で内需拡大。 来年の重要計画で=山東省。

・11/13 広東省が経済促進独自具体策=3000億元(約4兆3千億円)を投入。

A賃金などの未払いなどへの地方政府の対策。

・10/21 玩具メーカー合俊集団の従業員約7000人の一部が、未払い給与を求めて地元政府にデモ。

       政府は給与の総額(2400万元=約3億4千万円)立替払いを約束して収拾し、数日後実施。

・11/07 未払い1か月で監察対象=広東省が新規定。 賃金未払い会社激増への対応策。

・10/24 深圳、失業労働者(1200人)に4400円支給=香港企業が給与未払いのまま突然閉鎖のため。

・10/27 東莞、賃金未払い多発でファンド設立へ。

・10/28 深圳市宝安区、賃金未払い問題で、1億元(約14億3千万円)の基金設立。

・10/29 深圳、地元当局、未払い給与(855万元=約1億2千万円)を立替払い。

       香港の家電メーカー「百霊達国際」倒産。

・11/06 深圳全区で賃金保証基金=相次ぐ倒産で。

・11/06 東莞、地元当局、未払い給与(700万元=約1億円)を立替払い。台湾系靴メーカーの倒産で。

B中央政府の経済活性化対策。

・09/25 中小企業資金法を修正へ、資本金注入も視野に。

・09/26 ハイテク製品の輸出還付率引き上げ。 4〜8ポイント引き上げへ、一部製品は17%へ。

・09/28 大株主の買い増し規制を緩和=株式市場テコ入れ継続。

・09/30 社会保障基金、国家開発銀への出資検討。同基金は国内上場企業への投資も増やす方針。

・10/06 中国、再利下げ。前回の利下げから1か月足らず。

・10/10 市場に800億元(1兆1千億円)流入も、信用取引解禁で。 

・10/13 証券取引印紙税の徴収停止も。株価テコ入れで。

・10/15 国務院、預金利息への課税を一時免除へ。

・10/20 農業・中小企業など支援へ。 国務院常務会議は財政、税制、金融の措置を緊急出動決定。

・10/21 紡績品などの輸出還付引き上げへ。14%に引き上げ。

・10/24 不動産振興策を本格化、住宅購入に優遇策。 契約税や頭金比率、ローン金利引下げなど。

・10/27 株取引資金の利息、個人所得税を免除。10/09にさかのぼって免除。

・10/30 中国政府が保険会社に株式買い増しを要請=市場テコ入れで。

・10/30 中国が追加利下げ。9月以降3回目。

・10/31 自宅の事務所登録も可能に、起業を支援。

・11/10 6000〜8000億元(約11兆4千億円)の規模の株式安定基金を創設。

・11/10 中国の交通運輸部門、5兆元(約72兆円)の投資計画を検討。 3〜5年間で。

・11/11 企業内設備投資の付加価値税軽減、来年1月から。

・11/11 中国政府、4兆元(約57兆円)規模の内需拡大策、2年間で。

       金融危機の影響軽減=融資制限撤廃も。

・11/11 人民元切り下げ、可能性排除せず=現時点では時期尚早―周小川中国人民銀行総裁。

・11/13 鉄道建設投資で来年600万人の就業機会創出。

・11/13 年内に1〜2回の利下げも。 中国工商銀行発表。

・11/13 パイプライン、原発など認可=景気刺激策で輸出税撤廃も。

・11/13 鉄道・道路建設に600億元(約8千600億円)追加投資。 今年度第4四半期に。

 

3.来年度の中国の経済成長率予測。 

・10/13 7%以下に急減速も=来年の中国成長率−中国国際金融のチーフエコノミスト。

・10/21 内需拡大で減速に歯止め=9%成長を堅持−中国政府。

・10/22 中国は9%前後の成長率を維持=国家発展改革委員会の張平主任。

・10/22 来年の中国成長率、8%前後に低下=元全人代副委員長の成思危氏が見通し。

・10/27 09年の成長率、8〜9%=世銀エコノミストの林毅夫氏。

・11/05 09年の中国経済、成長率8%割れの公算=クレディ・スイス見通し。

・11/11 中国、09年は8〜9%成長=周小川中国人民銀行総裁。

 

4.中国の景気対策には持続力はない。カンフル剤の効果が切れる前に、政策の転換をすべきである。

@五輪開催は4年早すぎた

中国首脳は北京五輪を成功させるために、多くの施策を打った。ことに労働者慰撫政策として労働契約法と社会保険への加入を企業に強制した。さらに人民慰撫対策としてインフレ撲滅のために金融引き締めを強化した。これらの政策の結果、中国全土から瞬く間に外資工場が逃げ出した。中国経済の本質は他者依存型で、自力更正型ではないので「中国は世界の工場」に群がった外資が撤退したら中国経済は崩壊する。 

中国首脳は中国を「世界の工場」から「世界の市場」・「内需拡大」へと脱皮させようとした。しかしながら「世界の工場」の下地があってこそ「世界の市場」や「内需拡大」が成り立つのである。工場を追い出して、市場だけで生きていくというのは幻想にすぎない。工場を定着させて、その力で内需を拡大することが必要なのである。その環境を整えてから北京五輪を開催すべきであった。北京五輪は4年早過ぎたのである。とにかく今は、外資工場の呼び戻しが急務である。

中国首脳にとっては、不運にも今年初めから華中・華南大雪害、四川省大地震、華南大洪水と天災が続き、チベット暴動も起きた。しかもとどめは世界金融恐慌の襲来である。これらが重ならなければ中国経済はこのような苦境に陥らなかったかもしれない。歴史とはこのように皮肉なものである。

A金融引き締めは緩和、労働契約法は厳格に実施。

中国経済の大失速は、金融引き締めと労働契約法の施行が両因である。したがってその両方を抜本的に改善したときに、景気は浮揚する。今回、中央と地方を合わせると100兆円を超える景気対策出動を決定し、金融引き締め政策は大転換した。しかしながら労働契約法の見直しは皆無である。むしろ強化される傾向にある。今回の政府の政策は明らかに片肺飛行であり、中国経済を正常軌道に戻すことはできない。この状況では厳しい労働契約法を嫌って中国から逃げ出した多くの外資工場を呼び戻し、中国経済を浮揚させることは容易ではない。

B東莞市は労働集約型産業の呼び戻し対策をはじめたが、逆に工場労働者は大量に帰郷し始めた

数年前から東莞市は産業高度化(ハイテク産業化)を唱えて、市中から労働集約型産業を追い出し、ハイテク産業の誘致を積極的に行なってきた。ところが労働集約型産業の追い出しには成功したが、ハイテク産業はおいそれと進出してこなかった。今や、東莞市はゴーストタウンと化した。そこで東莞市政府は慌てて、再度、労働集約型産業の呼び戻しにかかったが、厳しい労働契約法を嫌って、中国を後にした企業が戻ってくる気配はない。それどころか工場の廃業や閉鎖で賃金未払いなどを心配した工場労働者が、東莞市を見捨てて旧正月を待たずして大量帰郷を始めた。今、広州市の駅は帰郷する労働者でごったがえしている。

C労働契約法の運用を見直し、労使関係を日本型(労使協調)に持ち込めば外資工場は戻る

労働契約法の施行は労働者の人権意識を目覚めさせた。したがってその見直しは難しいだろう。しかしこのままでは「世界の工場」は終わりを告げる。そこでひとまず運用の段階で柔軟におこなうことを提言したい。

労働契約法施行後、労務紛争が激増しており、裁判に持ち込まれるものが急増している。そしてそのほとんどが経営者側の敗訴となっているという。この事態を経営者は、きわめて脅威と感じている。この際、各地方の労働局の段階で、労働者側の理不尽な要求に経営者側が一方的に追い込まれないように、できうる限り法律を柔軟に運用したらどうであろうか。また社会保険や最低賃金制の強制適用についても、適用期間に猶予を設けるなどの工夫をしたらどうか。いずれにせよ各地方労働局の現場の裁量を拡大すれば、見直し同然の効果を生むことが可能である。

さらに中国首脳は、労使関係を日本型(労使協調)の方向へ進ませるように誘導すべきである。なぜ中国首脳は労働契約法施行に当たって、日本型(労使協調)を選ばず、韓国型(労使激突)を選んだのだろうか。今からでも遅くはないので、労使関係を一段階高い次元に引き上げ、安心して多くの外資が戻ってくる環境を整えることが必要である。そのためには日本の経営者と労働者の特質を学ぶことである。

D先進資本主義国の後追いではなく、独自の経済政策を打ち出すこと

中国首脳は今回の莫大な景気対策の財源をなにでまかなうつもりなのか。情報によれば税収入や国債の発行、社会保障基金の借用などを考えているという。いずれにせよ新味はなく、このまま行けば財政赤字が急増し、やがて先進資本主義国と同じ袋小路に入ることは必定である。日本を含む資本主義国の悪しき道=解決不可能な道を踏襲するわけである。最近の経済政策は、欧米などで経済学を学んだ海亀組が主導しているという。したがって先進資本主義国と似通ったものになるのは止むを得ないのかもしれない。

しかしながら中国は大国なので、その趨勢は世界経済を揺るがす。せっかく「社会主義市場経済」という独自の旗を振っているのだから、悪しき資本主義の猿真似ではなく、「資本論」を再読して独自の経済政策を繰り出し、国家規模の詐欺まがい行為がまかり通っている先輩諸国とは一線を画し、金融恐慌などに無縁の社会を作り出してもらいたいものである。                            

                                  以上