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京大上海センターニュースレター
244号 20081215
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

     京都大学・ソウル大学共同国際シンポジウムのご案内

     中国・上海ニュース 12.8-12.14

          OPECとシベリア鉄道に関する情報

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最終案内:

京都大学ソウル大学共同国際シンポジウム

テーマ「東アジア経済の競争力と持続可能性」

主催 京都大学上海センター

日時 1218日(木)・19日(金)午前

会場 経済学部2階大会議室

 

第1セッション  1218日(木曜)9:0012:00

李根教授(ソウル大)「韓国と日本の企業間における産業間の革新と生産性のキャッチアップ

植田和弘教授(京大)  東アジアの持続可能な発展――:環境ガバナンスと環境経済の視点から」

司会                   コメンテーター

 

第2セッション  13:0015:15

表鶴吉教授(ソウル大)  日本と韓国における全要素生産性の比較推計」

遊喜一洋准教授(京大)「 地域経済統合動学のシミュレーション分析」

司会                    コメンテーター 大西広

 

第3セッション  15:3017:45

趙東成教授(ソウル大) 「最適企業の設計と持続可能性評価への前進」

塩地洋教授(京大)「東アジア優位産業の競争力――その要因と競争・分業構造――」

司会 渡辺純子              コメンテーター 黒澤隆文

 

レセプション 1218日(木)18:00   会場 カンフォーラ(京大正門横)

 

第4セッション  1219日(金) 9:3012:00

李天杓教授(ソウル大) 「世界金融危機と東アジア企業の競争力」

白須洋子准教授(京大)「流動性への逃避及び質への逃避−日本金融危機からの教訓.

司会 岩本武和   コメンテーター 山本信一(立命館大学経済学部教授)J.C.マスワナ

 

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中国・上海ニュース 12.8−12.14

ヘッドライン

■ 中国:中央経済工作会議閉幕、成長維持に重点

■ 中国:11月社会消費財小売総額は20.8%増

■ 中国:11月のCPI、PPIそれぞれ2.4%、2.0%上昇、伸び大幅鈍化

■ 中国:鉄鋼業界が鉄鉱石供給の海外大手に大幅値下げを要求

■ 中国:2020年までに有人宇宙ステーションを整備

■ 中国:欧米からの輸入食品の安全性に警告

■ 中国:水処理膜産業の年生産額が20億ドル突破へ

■ 鉄道:北京−上海間「高速鉄道の寝台車」12月21日始発

■ 新疆:08年天然ガス生産量、前年比13%以上増の240億立方メートル

■ 上海:環球金融センタービル、家賃半額でもテナント誘致は難航

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OPECとシベリア鉄道に関する情報

                        京都大学上海センター協力会

副会長 大森經コ

 

去る2008926日に大西広教授も顧問をしておられる京都の日中友好経済懇話会の例会で、西安及びウィーン他で取材した最新の海外情報に関してショートスピーチを行いました。このスピーチの内容は懇話会ニュース誌上に掲載されましたが、ここで転載させて頂きます。

 

はじめに

 お配りした京大上海センターのニュースレターから二つ。一つは、京大の塩地先生や大西先生が努力されておられる京大上海センターの中国自動車産業発展に関するシンポジウムです。111日(土)13時から京都大学百周年時計台記念館百周年記念ホールでおこなわれます。非常に評判がよく参加者も年々増えており、今年は250名を越える見込みです。ぜひお越しいただければと思います。

 次に、京大と西安交通大学との間で学術交流協定が締結されたことです。尾池総長から頼まれまして、3年がかりで取り組んできました。西安での調印式に山本先生、大西先生と私の3人で参加し、記念講演も行ってきました。大西先生と私の報告がニュースレターに掲載されていますので、読んでいただければ幸いです。

 

 京都府と陝西省の交流協定締結25周年記念式典ほかで西安へ

 今年は、京都府と陝西省の交流協定締結25周年です。京都府の副知事を団長にしたチームで、私も16日から行きます。また、陝西省の大学生に対する日本語弁論大会のスポンサーを15年間続けている全国日本学士会の本部が京都にあります。この15周年記念の日本語弁論大会が西安で同じ頃に行われますので、それにも参加します。この訪問団には、京大上海センター副センター長の宮崎先生も参加されますので、ご一緒に西安交通大学の主任教授とも諸打ち合わせをしてくるつもりです。5月の西安交通大学での記念講演会では、私は「中国経済が今のサブプライム問題などによる大混乱を起こさずに、何十年も長期安定成長できるような新しい第3の経済理論を打ち立てて、それが成功したらノーベル賞以上だ」と提言してきました。併せ、「累進課税の強化と相続税、贈与税制の新設その他による中国の貧富の格差解消の為の税制改革・大森私案」についても提言をしてきました。

 2001年に、私は西安交通大学に留学して1年間滞在していました。それから、今年3月の「日中友好経済懇話会の訪中視察ツアー」に参加して、三峡ダムと武漢に行きました。帰りに、江西省の景徳鎮や廬山にも行きました。その結果、西安留学以来7年間で中国の31省・直轄市・自治区、全部の視察訪問を完了しました。この結果、中国内総走行距離は12万kmを越えました。全部で地球3周分くらいです。この完走記念に(社)大阪能率協会で記念講演をやれというので、去る4月に大阪倶楽部で話しました。55人の方が聞いてくれました。その講演録的なものが、これです。それから、よく使った小さな旅行会社ですが、そこもそれを知っていて、その辺の記録を書いてくれ、と言われて書いたのが、「中国と私」です。そういう一連のものを配らせていただきました。

 

 OPEC情報・・・ウイーンにて

 中国以外にも行っています。昨年は1月にリビアとエジプト、8〜9月にはフランス、ベルギー、ドイツ、11月にロシアのウラジオストクとナホトカに行ってきました。フランスの大使館や、ジェトロのブリュッセル、ジェトロ・パリをまわって、EUのことをいろいろ聞いてきました。今年はベルリンから東ヨーロッパをまわりました。ポツダム、ドレスデン、プラハ、ウィーン、ブラチスラバ、ブダペストと、ウクライナ、グルジアなど今ごたごたしている近辺です。

 ウィーンの大使館では、大江一等書記官経済班長と1時間半ほど話をしてきました。訪れたのは7月14日で、石油が1バレル147ドルのピークになっていて、値上がりの真最中でした。丁度ウイーン市内で運河沿いにやや青みのかかった総ガラス張りの瀟洒なOPEC本部ビルがあり、大きくOPECの看板が掲げられており、その前を何度も通っていましたので、「この石油高騰に対して、ここにはOPECの本部があるが、OPECの皆さんはどう言っていますか?石油はどこ迄値上がりしそうですか?」と質問したところ、その大江一等書記官の回答は以下の通りでした。

ここのOPEC本部では、3ヶ月ないし6ヶ月に一度総会が開かれています。その総会時の記者会見に私(大江一等書記官)も出席しています。その席で、彼らは、「この急騰は、我々OPECには何の責任もない。この高騰は、単なるマネーゲームによるものだ。我々の全く預かり知らないところで起こっていることだ。我々は需給を最重視して迷惑をかけない様にやっている。現在は需要を賄うに十分な原油が供給されている(ので増産の必要はない。・・・の意)。責任はマネーゲームだ」と言っています。むしろ彼らは、“Security of demand”ということを盛んに言っており、(景気後退とか、代替エネルギーの開発などにより)石油の需要が減ることの心配の方にウエイトを置いていますよ、ということでした。

これを私なりに解釈しますと、マネーゲームが原因なのだから、それを抑えるような何らかの規制などをやれば値下がりするはずだ、という趣旨のことを言外に匂わせているのだと思います。

 

 シベリア鉄道の活性化について

 シベリア鉄道についてお話をします。本日の日経新聞に、マツダが、シベリア鉄道を利用したロシア向けの自動車(完成車)輸送を開始するという記事が掲載されていました。私が顧問をしている吉林省琿春市の先のザルビノ港から、年間5万台くらい、とりあえず2年間輸送するそうです。最終的には、ロシアも含めたヨーロッパへの輸送がねらいです。

 昨年5月に、プーチンがロシア鉄道の総裁を連れてウイーンに来て、シベリア鉄道の活用について、こんな話があったそうです。現在、シベリア鉄道は、モスクワから西方のヨーロッパへ入るルートとして大きく2つあります。基本的なものはほぼ真西へベラルーシ、ポーランド、ドイツ(ベルリン)、ハンブルグほかへのルート。(この場合、旧ソ連圏は広軌(レール巾1520mm)、ヨーロッパや中国、北朝鮮、韓国は標準軌(1435mm)ですので、ベラルーシからポーランドへ入る時、貨物の積み替えが必要です。)

 もう1本は、モスクワ、キエフ(ウクライナ)、リヴオフ(ウクライナ)、コシツエ(スロバキア)、ブラチスラバ(スロバキア)、ウイーン(オーストリア)へ入るルートです。こちらはウクライナ迄が広軌です。実際にはスロバキアに入ったところのコシツエ迄が広軌で、ここで貨物を積み替えて、ブラチスラバ、ウイーンへ入るわけですが小国で、積み替え施設や能力も劣り、道路事情も多くのトラック輸送には無理がある等、ネックが多いのです。こういう状況のところへ、プーチンの持ち込んで来た話は、第2のスロバキアからオーストリアへ入るルートについて、現在スロバキアのコシツエで終わっている広軌道の鉄道を、更にブラチスラバ経由ウイーン迄延長させれば、ウイーンは、しっかりした鉄道、道路、更には、ドナウ川の船便(上、下)ルートも確立した、しっかりした都市なので、ヨーロッパとロシア、中国、日本を含むアジア諸国並びに中央アジア諸国との貿易を大きく進展させることが出来、お互いのメリットは大きいので、是非実現させたい、との提案でした。この提案に対して、関係各国は、基本的に賛成し、同年(2007年)10月に、ロシア、ウクライナ、スロバキア、オーストリア4カ国の各鉄道会社による作業グループが発足し、20084月に基本協定の調印が行われました。

 しかし、その後、オーストリア連邦鉄道は、広軌と標準軌の巾が1520mmと1435mmでその差85mmしかないので、レールを1本追加して広軌と標準軌両方に使う案は不可能で、結局、既存のルートの横に、広軌鉄道を新規に敷く必要があり、コストがかかり過ぎる、として難色を示しています。これに対し、この提案は、将来、ヨーロッパとアジアを結ぶ重要ルートとして大きな経済効果が見込めるチャンスと考えているオーストリア企業家連盟は、政府の消極姿勢を批判し、それなら、EUレベルに持ち込んで、EU全体の活性化に役立ち、双方の利益になる、との政治判断をしてもらおう、と訴えているのが現状だそうです。

 

 シベリア鉄道とドナウ川物流との連結について

 今回の旅行では、ウイーンからブラチスラバ(スロバキアの首都)迄ドナウ川クルーズもしました。ウイーンで何度もみていましたが、実際にクルーズしてみると、ドナウ川は水量も多く、川幅も広く、長江やライン川程ではないが、結構多くのはしけ(バージ)が各種貨物を積んで上・下に航行していました。そこで聞いたところによると、このドナウ川上流には、ベンツの本社がある南ドイツのシュトットガルトが近くにあり、新車、中古車、部品の区別は聞けていませんが、ドナウ川の物流貨物の中では、この自動車関係が一番多いのだそうです。又、ルーマニアのジェトロブカレストセンターの余田所長の報告では、ルーマニア東部の黒海沿岸のコンスタンツア港には、アジアからの貨物船も週7便就航しているが、近年ここの貨物取扱量が急増しており、2007年の実績は約141万TEUで、02年の10倍だそうです。又、このコンスタンツア港にはドナウ・黒海運河の出入口に隣接して4つのコンテナターミナルがありますが、ここで一番大きな南ターミナルは、全量の約8割を取り扱っています。この南ターミナルは、03年に日本の円借款で完成したものですが、今尚、拡張工事が続いており、2010年には取扱い能力が200万TEUに迄引上げられる予定だそうです。昨年(2007年)1月に、ルーマニアとブルガリアがEUに加盟したことで、EUとしては初めて黒海に面することになり、それにつれ、コンスタンツア港の取扱量も増加しているそうです。ここへ陸揚げされた貨物は、ドナウ川をバージ輸送されるだけでなく、鉄道や高速道路網を使って、中・東欧へも送られている他、この港から、各種貨物が船便で輸出もされているわけです。

 

 シベリア鉄道活性化のその2・中国シルクロード鉄道の拡充について

 昨年11月にウラジオストクとナホトカに出張し、”シベリア鉄道活性化の兆し“についてレポートを書きましたが、細かいことは省略しますが、1年近く経過した今現在でチェックしてみますと、北朝鮮の羅津港と、ロシア国境の街ハサンを結んでいる55kmの国境鉄道の補修工事も含め、ザルビノ港の改修問題その他、殆ど全てに近い項目が、その通りに着々と実現しています。

 更にその後の情報として、中国から、シルクロード鉄道を通ってカザフスタン経由ロシア各国へ行くルートとして、今年新たに2本の鉄道工事が着工されましたので、ご報告しておきます。

 1つは、ウルムチから阿拉山口経由カザフスタンへ入るルートの、阿拉山口の一寸手前から、南西に分岐し、伊寧を通ってカザフスタンに入りアルマトイへ合流する鉄道新線と、もう1本はもっと南のカシュガルから西へキルギスへ入りフエルガナ盆地からサマルカンドへ通ずる鉄道新線工事です(こちらのルートは一部未確認)。

 更に、直近のニュースとして、この辺りの中国からカザフスタンにはいり、カザフ国内を2,000km通ってロシアに入る現代版シルクロードとも言うべき道路整備にアジア開銀が7億ドル(約680億円)を融資することが決まっているほか、カザフから天然ガスを輸入する為のガスパイプラインの話も出ています。こちらは、西部大開発の西気東輸の既存天然ガスパイプライン(上海迄のもの)が飽和状態になったので、第二パイプラインを敷くものでもあります。

 この様に、昨年は、主として、極東ロシア及び北京、天津、大連、連雲港等中国東部からのシベリア鉄道及びシルクロード鉄道の活性化の報告をしましたが、今回は、その面に加え、西の出口の方の状況も大きく動き出していますので、その報告を主にさせて頂きました。

 

付録: 在オーストリア日本国大使館の大江一等書記官・経済班長から翻訳の上お送り頂いたスタンダード紙(2008,7,18付け2面)の記事を資料として転載しておきます。

スタンダード紙(18日付、2面)

「露が広軌鉄道のウィーンへの延長に強い関心」

 

2007年5月にプーチン露元大統領が墺を公式訪問した際、露国営鉄道総裁を同行させたのには理由がある。露は、モスクワからウクライナを経由しスロバキアのコシツェで終わっている広軌鉄道をスロバキアを経由してウィーンにまで延長したい意向である。同年10月には露、ウクライナ、スロバキア、墺の各鉄道会社による作業グループが発足し、2008年4月に基本協定の調印が行われている。コシツェからウィーンまでの約380キロメートル(うち約80キロメートルが墺 内)の総工費は少なくとも40億ユーロと見積もられる。クマー・ウィーン経済大学教授が墺企業家連盟のために作成した研究報告によると、露、ウクライナ、中央アジア諸国との貿易が拡大する中で、もし広軌鉄道がコシツェで止まったままになれば、コシツェから西方でのトラック通行量が今後も増加すると予想される(コシツェから西方は軌道が狭く、同地で貨物の積み替えが必要であるが、スロバキア鉄道の輸送能力は低い)。逆に広軌鉄道がウィーンにまで延長されれば、道路輸送から鉄道輸送への転換がなされ(ウィーン・ブラチスラバ地域から西方は鉄道網及び 船舶輸送網が整っている)、ロジスティックセンターとしてウィーン・ブラチスラバ地域には大きな経済効果(雇用創出、企業誘致促進等)が期待される。また、広軌鉄道延長は欧州と中国の貿易をも容易にする。現在、中国への海上輸送は約30日間を要するが、ウィーンからシベリアを経由して北京への鉄道輸送が可能になれば、15〜18日間へと短縮される。これに対して墺連邦鉄道は、露の軌道幅と墺の軌道幅の差が小さ過ぎるために(露は1520ミリメートル、墺は1435ミリメートル)、レールを一本化して3線軌条とすることが不可能で、現存する軌道の横に新たに広軌軌道を敷く必要があることから、コストがかかり過ぎる旨指摘している。広軌鉄道延長を大きな経済的チャンスと見る墺企業家連盟は墺交通省と墺連邦鉄道のこれまでの消極性を批判、EUレベルでの政治的決断の必要性を訴えている。

 

以上