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京大上海センターニュースレター
249号 2009119
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

     上海センター学術セミナー「中国農業:持続的発展への諸課題」のご案内

     中国・上海ニュース 2009.1.12-2009.1.18

     米金融危機からアジア通貨協力へ

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上海センター学術セミナー

「中国農業:持続的発展への諸課題」のご案内

 

 京都大学上海センターでは昨年度に続き、中国の農業問題についての以下のような学術セミナーを計画しました。「三農問題」といわれる現代の農業問題とともに、中国農業史の長い歴史を振り返る部分も含んだものとなっています。我々と学術協定を結ぶ中国人民大学と西安交通大学から2名ずつの専門家をお呼びして開催するものです。参加費は無料ですので、多くの参加を期待します。また、上海センター協力会の後援もいただきます。記して感謝いたします。なお、本事業は現代中国地域研究京大拠点の事業の一環として行なわれます。

 

会場はすべて京都大学経済学研究科2F大会議室です。

 

■第1セッション 2009216() 午前 10:00-12:00

山本裕美(京都大学教授)  日中農業政策の比較

高徳歩(中国人民大学教授) 農村自治:古代と現代の比較

 

■第2セッション 2009216() 午後 1:30-6:00

張思鋒(西安交通大学教授)  農村人口都市移住の問題について

(西安交通大学准教授) 農民生産技術を革新する新しい農村金融メカニズムの構想

(中国人民大学准教授) 中国農業成長段階の変化と発展方向

沈金虎(京都大学講師)     家族経営体制、経済発展と草原地域の砂漠化

−中国草原地域の砂漠化の原因と今後の対策について−

 

レセプション 2009216() 午後 6:00 

於 カンフォーラ(京大正門横)

 

■第3セッション 2009217() 午前 10:00-12:30

大西広(京都大学教授)      中国農業史研究におけるチベット農奴制研究の意義について

安部治平(青海民族学院講師) アムド=チベットの土地家畜所有について

宮崎卓(京都大学准教授)   中国の地域間経済格差問題と財政分権化

 

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中国・上海ニュース 1.12−1.18

ヘッドライン

■ 中国:春節をはさんだ40日に、5.8億人が大移動か

■ 中国:景気は09年下半期に底打つか

■ 中国:08年の税関収入、対前年比20.8%増の9061億元

■ 中国:世界第3位の経済体に

■ 中国:都市、農村住民の所得差1万元超、穀物の最低買い上げ価格を引き上げるか

■ 自動車:小型自動車の車両取得税を5%に

■ 河北:最後の人民公社、一人あたり“配当金”6000元

■ 浙江:杭州、住民に消費券1億元分を配布、内需拡大狙い

■ 福建:福州、「食用ワニ」販売、500g118元

■ 上海:松江区で断水発生、35万世帯に被害

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米金融危機からアジア通貨協力へ

         20081129日 

伊藤忠商事理事 石田 護

 

金融危機とは何だったのか

グリーンスパン前米連邦準備制度理事長は、「市場には時に熱狂しては、おのずから破裂するというリズムがある」と書いているが、バブルは自然現象ではない。バブルは時の政権が特定の政策課題に迫られている時に発生し易い。

ブッシュ米政権の政策課題は、有権者の経済拡大と雇用創出の要請に応えることであった。ブッシュは大型減税で景気を刺激し続け、グリーンスパンの低金利政策が住宅ブームに繋がった。両名は、住宅所有者層を拡大した住宅関連金融革新を高く評価した。多くのアメリカ人が値上がりした住宅を担保に借入れを増やして消費に励んだ。ノーベル賞経済学者クルーグマンは、「中国人から借りたカネで住宅を互いに売買し合って生計を立てるアメリカ人のライフスタイルが長続きできるとは思えない」と警告した。

中国の重要政策課題は高い経済成長による雇用創出である。中国は、アメリカが年々消費を拡大し、中国がそれに応えてアメリカに輸出を拡大することで高度成長を遂げた。国際収支黒字拡大が過剰流動性を通じて資産価格バブルを引起した。

今般の金融危機は、世界的好況を支えた世界経済不均衡拡大が破綻したことの結果である。中国などアジアの新興工業国は、アメリカが引き起こした金融危機の被害者であるとの思いが強いが、世界経済不均衡拡大の受益者でもあった。中国は経済を一段と拡大して次の発展の基礎を作ることができた。経済急拡大に伴う所得格差や環境悪化などの矛盾は、これから手当てする他ない。

世界の成長地域アジアは、経済成長を従来のアメリカの最終需要依存型から、域内需要依存型に転換しなければならない。地域の為替安定はその必要条件であるが、今まで東アジア経済一体化を支えてきた為替安定が失われつつある。 

 

通貨不安定がアジアの経済発展を脅かす

2005年7月以降、中国人民銀行は対ドル人民元レートの穏やかな上昇を誘導してきた。他の東アジア諸国も自国通貨の対ドル安定を図った。東アジア諸通貨が連動したので、東アジアに為替安定圏が形成されるように見えた。

ところが、最近、この動きに水をさす二つの重要な変化が現れた。第一は、人民元の対ドル連動度合いが下がったことである。丁一兵吉林大学准教授によると、人民元の通貨バスケット中のドル・ウエイトは、2005年からの2年間の1近くから、2007年7月から2008年9月の0.878に低下した。第二は、いくつかのアジア通貨が下落に転じたことである。2007年7月から2008年9月の人民元と東アジア主要通貨の相関係数は、シンガポール・ドル、マレーシア・リンギを除き、連動が失われたことを示している。

東アジア為替安定圏形成への動きは後退を免れない。それとともに、東アジア経済の一体化を固めて、更なる経済発展を目指す東アジア地域の戦略の実現が覚束なくなる。

東アジアは、経済の好調と外貨準備の累増に安住して、世界経済不均衡拡大が破綻した場合への備えを怠ったままで、今回の金融危機を迎えた。危機の今こそ、意図的な為替政策協調に着手すべき時である。

 

なぜアジア通貨協力か

東アジアには、アジア通貨危機後、緊急時の信用供与の仕組みCMI(チェンマイ・イニシアティブ)の構築と拡充を経てアジア通貨単位の研究合意に至る金融協力の積み重ねがある。各国のマクロ経済、為替政策、金融監督体制などを調査・監視する常設機関を創設するというアセアン+日中韓の最近の動きはその流れに沿ったものである。

次の課題は為替安定メカニズムの構築であるが、その政治意思は存在してない。余永定世界経済政治研究所長が語った通り、東アジアの問題は50年先の目標を持っていないことである。アジア通貨危機がCMI構築を可能にしたように、今回の危機は為替安定メカニズム構築の契機となる可能性がある。

取り敢えずは、いったん後退した東アジア諸国通貨の連動を回復した上で、東アジア為替安定圏形成を目指すことである。手順としては、中国と東アジア諸国が共通の通貨バスケットを参考とする為替政策協調から始める。そのためには、現在の人民元の通貨バスケットを徐々に主要三通貨ドル・ユーロ・円で構成される単純明快なバスケットに変えていくことが望ましい。3通貨間の変動も相殺されるので、従来のようにドル円レートの大幅変動に悩まされることはなく、参加通貨間の為替レートも安定する。参加できる国から参加して、徐々に為替安定圏の形成に至る。

ここで終わると、東アジアは事実上の人民元通貨圏と円だけの円圏に分裂する。日本と中国がアジアの生産と貿易のネットワークの中核であることを考えると、円が域外にあって東アジア諸通貨に対して変動する体制は、アジア諸国の利益でも、日本の利益でもない。円も参加する東アジア為替安定メカニズム構築が、東アジア全体の利益である。

危機の今こそ、アセアンと日中韓の政治指導者が、先ず、より現実的な、円を除く東アジア通貨の為替安定圏形成を目指し、その実現後に、より理想的な、円も参加するアジア為替安定メカニズム構築に進むという二段階構想の全体に、現段階で合意しておくことが、アジアの平和と繁栄に役に立つ。取り分け、東アジア経済の一体化の中心である日中の通貨協力は、両国が通貨を超えてアジアの将来への責任を共有することの表明になる。

以上

 

注記:これは中国の『東方早報』に掲載された会員石田護様の原稿の日本語版です。元の記事は下記のサイトからも見ることができます。http://www.dfdaily.com/node2/node23/node103/userobject1ai143423.shtml