=======================================================================================================================京都大学上海センターニュースレター
第255号 2009年3月2日
京都大学経済学研究科上海センター
=======================================================================================================================目次
○ シンポジウムのお知らせ
○ 中国・上海ニュース 2009.2.23-2009.3.1
○ 熱銭論争が提起した中国の課題
○ 長征:西路軍の壊滅
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シンポジウムのお知らせ

京都大学経済学研究科上海センター/経営管理大学院関西アーバン銀行寄付講座
中国企業シンポジウム
「中国の内需拡大政策下における日本のビジネスチャンス」

2009年3月16日(月)13:00-17:45
京都大学時計台記念館2F国際交流ホール

改革開放以降、中国経済は外資を積極的に取り入れることにより急速な成長を遂げ、GDPや対外貿易大きく拡大させ、世界経済におけるその存在感の高まりには目を見張るものがある。こうした中で、最近起きた世界的な規模での金融危機・経済危機は外需依存の強い中国経済を直撃し、輸出の急速かつ大幅な落ち込みにより、中国経済は急激な縮小傾向を示している。こうした事態を受け、中国政府はこれまでの外需依存体質を改め、内需依存への転換を目指して4兆元とも言われる大規模な内需拡大策を打ち出し、鉄鋼、自動車、造船、石油化学、紡織、設備製造、電子情報などの主要産業を対象として「重点産業進行計画」を策定中である。すでに飽和点に達している日本の内需と異なり、中国の内需は拡大の余地が膨大であり、そこに日本のビジネスチャンスがある。
本シンポジウムでは、中国政府が現在策定しつつある「重点産業振興計画」の内容を明らかにし、外需依存から内需依存への転換を図る中国経済に日本はどのように対応していくべきかを検討する。その上で、そこに日本にとってどのようなビジネスチャンスが存在しているのかについて、内外の研究者や実務家をお招きして検討していきたい。

報告内容(案)
杉本孝:大阪市立大学大学院創造都市研究科教授/京都大学経営管理大学院客員教授
「経済危機下の中国産業振興政策 −鉄鋼業の事例−」
稲田堅太郎 :法円坂法律事務所弁護士「中国の内需拡大策と対中ビジネス」(仮題)
山本晃:信永中和会計師事務所会計士「経済危機下の中国会計制度が直面する諸課題」(仮題)
宮崎卓:京都大学大学院経済学研究科准教授「京都環境企業の対中協力の可能性」

懇親会 18:00-19:30(会場検討中)

協力 京都大学上海センター協力会

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中国・上海ニュース 2.23−3.1
ヘッドライン
■ 中国:09年の財政赤字が過去最多9500億元に
■ 中国:全国社会保障基金が設立以来初の損失 
■ 中国:欧州4カ国に企業団派遣、独で100億米ドル買付契約
■ 中国:物価高で、08年外来医療費7.6%増
■ 中国:1月訪日中国人客数が31.4%増
■ 中国:08年生産現場での事故死亡者数9万人
■ 上海:万博チケット販売3月末開始、普通券160元
■ 香港:たばこ税大幅引き上げ
■ 北京:王府井繁華街で男性3人が焼身自殺を図る
■ 上海:実質財政収入の18%を社会保障費の不足分に補填
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熱銭論争が提起した中国の課題
伊藤忠商事理事 石田 護


2008年の熱銭論争
2003年以降、人民元切上げ期待から、中国に大量の熱銭が流入した。熱銭は流出に転じると、金融市場と為替市場の安定を脅かす可能性がある。中国経済学界では熱銭の規模と影響について論争が繰り広げられた。
熱銭は為替管理制度では存在しないはずの投機資金であるため、正確な統計がない。2007年までの熱銭流入額を1兆1000億ドルと推計した研究が注目を集めた。現在の外貨準備高の過半が熱銭流入の結果ということになる。
熱銭は貿易に潜んで流入すると言われた。典型的には、輸出のオーバーインボイス(契約価格以上の外貨を受取る取決め)である。日本商社における筆者の国際金融業務の経験から判断して、こうした方法による熱銭流入は否定できないが、言われる規模になることは考えられない。その規模の外貨資金の手当てが困難であり、また、中国の為替管理が障害となるからである。

為替管理強化のコストと効果
中国では従来から通関データと対外決済データを照合して、各取引の真実性を検証していた。以前の日本の為替管理と基本的に同じ仕組みであり、制度としての欠陥は認められない。それにもかかわらず熱銭が流入するため、外為管理局は昨年7月、為替管理を更に強化した。すなわち、輸出代金は「審査待ち口座」に入金され、外為管理局が商務省、税関と結ぶコンピューターにより取引の真実性を確認するまで、企業はそれを人民元に交換できなくなった。企業はその時点まで為替リスクを負う上、事務量増加と人員採用などの行政対応コストの増加を強いられている。
為替管理強化に熱銭流入の抜け穴封じに対し一定の効果があるだろうが、それが国を挙げての莫大な労力とコストに見合うか疑問である。一部の研究者は、中国の貿易黒字急拡大は主に輸出生産力増大の結果であって、偽貿易による熱銭は言われる程の規模ではないと考えている。スタンダード・チャータード銀行も5000億ドル程度と推測している。筆者は、中国はみずからが過大評価した熱銭に怯えて、必要以上に為替管理を強化したと考えている。
実際に、早くも昨年第4四半期には、熱銭は流出に転じた。厳しい為替管理と豊富な外貨準備から判断して、流入した熱銭が一斉に流出して、人民元の大幅下落を引起す可能性は高くない。

リーズ・アンド・ラグズへの対応
先進工業国では、企業は先物為替予約によって為替リスクを回避するものである。しかし、中国では、一般企業を対象とした為替先物市場が創設されたのは2005年8月のことである。現在のところ、まだ流動性が不足しているので、銀行は企業のニーズに充分に応えることができない。中国企業は、かっての日本企業と同じく、リーズ・アンド・ラグズと呼ばれる輸出代金回収の前倒しや輸入代金支払いの先延ばしなどにより人民元高リスクを回避した。
外為管理局は、こうした取引にも限度を課した。投機に利用されるとの理由からであるが、実際に企業の重要な為替リスク回避策である以上、合理的な為替リスク回避と考えられる金額と期間の範囲で許容すべきである。実際に、国務院は12月に企業の前受決済比率と輸入支払い先延ばしをそれぞれ前年度実績の10%から25%に引き上げると発表した。
中長期的対策は、先物為替市場育成である。その前提条件は、金融市場整備と資本移動の自由化である。何故なら、先物為替相場は、二国通貨の先物為替レートと直物為替レートの差(年率)が二国間の金利差に等しくなるまで、金利裁定取引が行われることによって形成されるからである。
熱銭流入を阻止するため資本自由化を一時停止する主張があるが、先物為替市場の前提条件である金融市場整備と資本取引自由化は、人民元が経済大国の通貨として成熟する過程で避けられない重要課題であることを忘れてはならない。

熱銭論争が提起した問題
熱銭は、マクロ経済問題にとどまらず、為替管理のあり方や先物市場構築など企業経営の環境整備に関するいくつかの問題を提示した。
日本は1980年代後半には世界最大の資本輸出国になったが、1998年まで時代遅れの為替管理を維持して、円と東京市場の国際化を妨げた。過剰な為替管理はその必要性が消滅した後も温存され易い。
中国は、熱銭の脅威が去り次第、早い機会に為替管理の過剰な部分を解消することである。そうしないと、中国企業は国際競争において不利益を蒙るばかりか、人民元と上海金融市場の国際化という長期目標達成が妨げられる。この意味で、国務院が昨年12月、輸出入の照合制度改革など手続きの簡素化とリーズ・アンド・ラグズの限度緩和に動いたことは、正しい方向への第一歩であった。

編集者注:本稿は中国『東方早報』に掲載された論稿の日本語版です。
http://www.dfdaily.com/node2/node23/node103/userobject1ai152247.shtml
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    以上