=======================================================================================================================京大上海センターニュースレター
275号 2009720
京都大学経済学研究科上海センター

=======================================================================================================================目次

○中国経済特別講演会のお知らせ

   「中国経済研究会」のお知らせ

   若手研究者による国際ワークショップのご案内

   中国・上海ニュース 2009.7.13-2009.7.19

   中国の省エネ・環境ビジネスの留意点

   稲荷神社と関帝廟

   【中国経済最新統計】(試行版)

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「中国経済研究会」のお知らせ

 

2009 年度第4回目の研究会は下記の要領で開催されますので、ご自由に参加してください。

 

 

  時 間: 721() 16301800 

  場 所: 京都大学吉田キャンパス・法経済学部東館3階・第三教室(いつもの会場と同じ建物)

  報告者: 範雲涛(亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科教授

テーマ: 中国の環境・省エネ・排出権市場戦略について

 

講師略歴:

1963年、上海市生まれ。84年、上海復旦大学外国語学部日本文学科卒業。85年、文部省招聘国費留学生として京都大学法学部に留学。92年、同大学大学院博士課程修了。その後、助手を経て同大学法学部より法学博士号を取得。東京あさひ法律事務所、ベーカー&マッケンジー東京青山法律事務所に国際弁護士として勤務後、上海に帰国し、日系企業の「駆け込み寺」となる。現在、亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科教授、上海対外貿易学院WTO研究教育学院客員教授などを務める傍ら、上海朝陽総合法律事務所パートナー弁護士。日中関係や日中経済論、国際ビジネス法務について、理論と現場の両方に精通した第一人者として知られる。著書に、『中国ビジネスの法務戦略』(日本評論社)、『やっぱり危ない! 中国ビジネスの罠』(講談社)などがある。

 

注:本研究会は原則として授業期間中の毎月第3火曜日に行います。2009年度における開催(予定)日は以下の通りです。

 前期: 421日(火)519日(火)616日(火)721日(火)

  後期:1020日(火)、1117日(火)、1215日(火)、119日(火)

 

(本研究会に関するお問い合わせは劉徳強(liu@econ.kyoto-u.ac.jp)までお願いします。なお、研究会終了後、有志による懇親会が予定されています。)

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中国経済特別講演会のお知らせ 

 

アメリカ発の世界的同時不況が深刻さを増す中で、中国政府は大規模な景気刺激策や内需拡大策を打ち出して、8%の経済成長を目指して努力してきました。果たして中国経済は世界の景気回復のけん引役になりうるのか。今、世界が中国に注目しています。

そうした中で、中国の景気対策の司令塔とも言える国家発展と改革委員会において、政策決定に大きな役割を果している楊偉民副秘書長を本学に招き、中国景気回復の実態、課題と将来の展望について講演していただくことにしました。大変貴重な機会ですので、大勢の方のご参加をお待ちしております。

 

 

時 間: 2009年7月28日(火) 15:00-17:00

場 所: 京都大学吉田校舎時計台2階国際交流ホール

講 師: 楊偉民(中国・国家発展と改革委員会副秘書長)

テーマ: 世界的金融危機下における中国経済の回復」

 

      (後援会終了後、懇親会が予定されています。参加費無料)

 

講師紹介:

吉林省長春市生まれ、53才。1989年から、国家計画委員会(のちの国家発展と改革委員会)に勤務するようになり、産業政策司処長、発展規画司副司長、司長を経て、現在は国家発展と改革委員会副秘書長。中国の重要産業政策及び重要発展規画の主要参加者と責任者の一人。

氏は『中国国民経済と社会発展第九次五カ年規画綱要』の執筆者の一人であり、第十次、第十一次五カ年規画、『汶川大地震震災復興再建総合規画』の起草グループの責任者であった。また、『九十年代国家産業政策』、『自動車産業政策』、『国家重点奨励産業・産品・技術目録』など中国重要産業政策の起草にも参加。現在、中国初の『全国主体機能区域規画』の作成に取り組んでいる。

氏は中国の著名な経済学者によって構成されている「中国経済50人フォーラム」の一人である。主な研究領域はマクロ経済政策、産業政策、発展規画問題、都市化、地域経済などである。代表的な著書は『中国の産業政策:理念と実践』、編著書には『中国持続可能的発展の産業政策研究』、『規画体制改革に対する理論的探究』、『「十・五」都市化発展規画研究』などがある。

 

本講演会に関するお問い合わせは劉徳強(liu@econ.kyoto-u.ac.jp)までお願いします。)

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International Workshop for Young Scholars

“Comparison of the Economic Transformation in Eastern Europe, the Commonwealth of Independent States and East Asia

27 July 2009, Large meeting room 2F

 Graduate School of Economics, Kyoto University

 

9:00-12:30  Morning session

Chair: Dylan Underhay, Master course student, Graduate School of Economics, Kyoto University

 

9:00-9:05   Opening address by Prof. Hiroshi Ohnishi, Graduate School of Economics, Kyoto University

 

9:05-10:05   Presentations

Tran Quang Tuyen, PhD candidate, Vietnam National University, Hanoi

“Economic Freedom and Vietnam’s Economic Transition” (jointly with Huang Van Cuong)

 

Van Cuong Hoang, PhD candidate, Vietnam National University, Hanoi

“Economic Reform and Development in Vietnam: Outcomes in 2008 and Prospects for 2009” (jointly with Tran Quang Tuyen)

 

Sthabandith Insisienmay, Director of the Macroeconomic Research Division, Ministry of Planning and Investment, Laos

“The Lao Economy in the Post-Reform Era: The Crisis and the Dutch Disease”

 

10:05-10:20   Discussion

 

10:20-10:50   Coffee break

 

10:50-12:10   Presentations

Ryo Kanae, PhD candidate, Graduate School of Economics, Kyoto University

“Neoclassical Marxian Two Sector Model”

 

Liu Yang, PhD candidate, Graduate School of Economics, Kyoto University

“Determinants of Urban Unemployment in China

 

Pham Quoc Trung, PhD candidate, Graduate School of Economics, Kyoto University

“Measuring the ICT Maturity of SMEs: A Case Study of Vietnam

 

Phinseng Channgakham, Lecturer, National University of Laos

“The Reform of Rural Financial Institutions in Laos: A Case Study of Credit Access Constraints” 

 

12:10-12:30   Discussion

 

12:30-14:30   Lunch break

 

14:30-18:00   Afternoon session

Chair: Victor Gorshkov, Master course student, Graduate School of Economics, Kyoto University

 

14:30-15:30   Presentations

Nguyen Thi Ngoc Anh, Lecturer, National Economics University, Hanoi, Vietnam

“Economic Transition and Business Culture in Vietnam 

 

Hoang Minh Hang, PhD candidate, Vietnamese Academy of Social Sciences

“Maintaining Vietnamese Cultural Identity in the Context of International Integration”

 

Ngo Huong Lan, Vice Director of the Center for Japanese Studies, Vietnamese Academy of Social Sciences

“Cause-Effect Relationship in International Marriages: A Case Study of Vietnamese Brides in Taiwan

 

15:30-15:45   Discussion

 

15:45-16:15   Coffee break

 

16:15-17:35   Presentations

Vu Manh Toan, PhD candidate, Vietnamese Academy of Social Sciences

“Some Theoretical and Practical Issues of Vietnam’s Political Reform”

 

Tran Thi Tuyet, PhD candidate, Vietnamese Academy of Social Sciences

“How to Raise Social Responsibility in Present-Day Vietnam?”

 

Luong My Van, PhD candidate, Vietnamese Academy of Social Sciences

“Corporate Social Responsibility and Civil Society”

 

Elena Rotarou, PhD candidate, Graduate School of Economics, Kyoto University

“Economic Transformation and Development in Tanzania

 

17:35-17:55   Discussion

 

17:55-18:00   Closing comments by Prof. Dimiter Ialnazov, Graduate

School of Economics, Kyoto University

 

18:30-   Dinner

 

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中国・上海ニュース 7.13-7.19

ヘッドライン

■ 統計:1-6月GDP成長率は7.1%、伸び率回復傾向

■ ウイグル暴動:ネット遮断、「段階的解除」へ

■ 産業:国有企業の1-6月利益27%減、単月では回復傾向

■ 貿易:1-6月の貿易総額が大幅減少、黒字やや縮小

■ 貿易:下半期の対外貿易に影響する要因とは

      自動車:買い替えに補助金、最大で8万2000円

■ 新型インフル:軍事キャンプで123人集団感染か

      通信:インターネットユーザー3億人以上、携帯経由が急増

     上海:121階建て、632mの「上海センター」基礎工事始まる

     重慶:6000人を投入、推定埋蔵量数千億立米の天然ガス田発見か

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629日に行われた上海センター・シンポジウム「中国の環境問題と循環型経済への転換」での報告要旨:

 

 

中国の省エネ・環境ビジネスの留意点

 

日中環境協力支援センター有限会社 大野木昇司

はじめに

11次五ヵ年計画(20062010)の環境資金見込みは14000億元(GDP1.4%~1.6)2010年の環境産業の売上見込みは1兆元規模。4兆元の内需拡大政策で環境・省エネ分野は5%~10%程度見込まれる。しかも環境汚染取締り強化、環境法制・規制強化の流れにあり、環境産業の市場ニーズがさらに高まっていくと予想される等、中国環境ビジネス市場の将来は“バラ色”に見える。しかし現実は、日系企業にとっていまだ厳しい。

 

(1)先入観を排して中国を徹底研究し、日本ビジネスの感覚を脱すべし

・中国のビジネス習慣は日本とは大きく異なる。日本人と中国人は見かけ上似ており、しかも「同文同種」の関係にあるとして、中国のビジネス習慣は日本と似ていると無意識的に錯覚し、知らぬ間に日本式ビジネス習慣を押し通そうとする。多様性にも富む中国をしっかり研究することが必須である。

・中国ビジネスを日中バイで考える傾向があるが、実際には日中だけでなく欧米や韓国、シンガポールなど世界の多彩なプレイヤーが集まるマルチ市場である。

 

(2)必要な人脈ネットワークと協力相手の選び方

・中国ビジネスでは人脈がものを言う。規制ビジネスである環境ビジネスは尚更である。キーパーソンや人脈構図などを事前に調査し、別系統の人脈を複数持っておく。かつて「袖の下」は重要であったが、汚職対策のためストレートな形での「袖の下」は難しくなり、関連会社への仕事委託、調査費、訪日視察など形を変えている

・中国ビジネス成功の最大のカギはよき協力相手を見つけ互恵の関係を作ることである。国の組織体制やシェア、信用度、技術力等から、協力相手の候補を比較して絞り込む。みな「自分が最もふさわしい」と主張する。協力相手を複数に分けてもいい。技術を持つ日本側こそが中国側を天秤にかけられるはず。単に「お友達」「知り合い」という理由だけで協力相手に選ぶのはリスクあり。相手を正しく評価できる「評価基準」が必要。

 

(4)市場・技術動向を把握

・低価格では中国地元企業との競合、質で勝負する場合は欧米企業との競合、その中間では韓国やシンガポールなどアジア勢との競合を覚悟する必要がある。

・引き合い情報では、中国側はダメもとで言うケースが多い。

・中国の技術力は近年、向上しており、国産化戦略もある。中国の技術力を甘く見ない。今後の中国環境ビジネスでは、単に日本の技術を普及させる従来方式から、共同開発・投資協力・自社技術のアジアンスタンダード確立という新ビジネスモデルも考慮すべき。

・中国では儲かると思えばみな同じビジネスをやり、過当競争を引き起こして業界共倒れになり劣悪企業しか残らないこともある。安価な劣悪製品の入る余地をなくす工夫が必要。

・日本の環境技術や設備はそのままではオーバースペック・高価格で使えない場合が多い。仕様の違いや中国の各種環境規格という制約もある。

 

(6)情報収集と情報発信

・中国市場・政策の変動は激しく、常に最新情報を仕入れておく必要がある。以前の経験は参考程度にしかならない。中国ビジネスでは情報収集が重要であり、まず公開情報を押さえるのが原則であるが、環境分野の公開情報だけでも情報量は相当多い。日本の新聞に載るような中国環境ニュースは断片的情報が多い。これでは全体像はわからず、本質を見誤る可能性がある。

・中国の業界関係者、政府当局者、政策立案の研究機関などが集う展示会、見本市、シンポジウム、セミナーなどにこまめに参加して情報を取り、また余裕があれば中国語で国際会議、ホームページ、環境展などを活用して情報発信していくとよい。

 

(7)中国の行政組織や研究機関を知る

・汚染対策は環境保護部門、リサイクル・新エネ・省エネ・節水は発展改革部門、汚水・ゴミ処理は建設部門、自然保護は林業部門、製品汚染規制は工業・情報化部門などに分かれている。環境保護部門の権限は意外に小さい。水分野だけでも、水利省、環保省、海洋局、建設省、発展改革委、国土資源省等に権限が分かれている。

・各省庁直属の研究機関、大学、中国科学院系列、各種業界団体なども影響力を持っており、組織的には複雑に入り組んでいる。分野別に強い機関・大学、研究室、教授がいる。

 

(8)通訳

・通訳の重要性がわかる人が意外に少ない。日中のビジネス文化の違いを熟知し、専門分野の知識に熟知し、さらに過去の協議の流れを把握していなければならない。環境・省エネ技術に詳しくない通訳では、対応できない。

・専属通訳を確保する、中国語の分かる人物を複数用意する、日本人の通訳も用意し議論が中国寄りにならないようにする等の工夫が必要。

 

(9)技術コピー、知財対策

・知財対策には近道はない。一般には、中国や他地域で有効な国際特許を取得する。簡単に技術の詳細内容を公表しないよう配慮する。技術レベルに自信がある場合はブラックボックス方式も一考の価値がある。

・知財を押さえてもコピーリスクは消えるわけではない。最初から技術コピーを念頭においてビジネスモデルを構築すべし。一技術だけで長くビジネスするのではなく、次々に新しい技術を開発して市場投入する方式がよい。またその後の付随ビジネスを狙って、情報開示し中国の産業スタンダードを握る方法もある。

 

(10)コンサルの必要性・選び方

・「いい技術」だけでは中国環境ビジネスは難しい。中国環境市場に関する人脈・知識・皮膚感覚・ビジネス戦略構築能力・ビジネスの進め方に対する習熟度・マーケティング能力など「ビジネスマネジメント能力」が不可欠である。

・ふさわしいコンサルタントの基準は、①現場の環境市場の「皮膚感覚」があるかどうか、②技術メカニズムを理解しているか、③多彩な環境人脈を持っているか、④日本のビジネス習慣と中国のビジネス習慣の両方に精通し、戦略的に中国ビジネスを進められるか、⑤環境市場・政策情報に精通しているか――等の環境ビジネスマネジメント能力にある。

 

(11)具体的交渉時の注意点

<交渉前に>

・「環境ビジネスはカネになる」と安易に環境産業に参入した業者も多い。日本のカネや技術移転だけを目的にした業者もおり、中国側の意図をしっかり見抜く感覚が必要である。

・交渉相手とその上級機関に対する事前調査をしっかり行い、意図や弱点を把握して交渉戦略を立てておく。

・日本側にとっては、中国環境ビジネスの現場担当者の声や意見を社内の上の方に反映できる体制作りも重要で、全社的な理解とサポートがないと成功しにくい。

<交渉時の注意点>

・中国側は日本側に気を遣わずに要求できるものは全て要求するが、真に受けない。日本側も同じようにしてよい。疑念がわずかでもあればそのつど遠慮なく聞くこと。中国側は日本側の事情が分からない。基本的なことから説明する必要も出てくる。

・交渉決裂を恐れない。帰国直前に折れる場合もある。手ぶらでは帰国できないという日本側の足元を見ている。

・交渉時には、日中両言語による覚書を残すべき。口頭ではいい間違い、うる覚え、あいまいさが残ってしまう。特に価格面での詰めはしっかり行う。

・日本の行政機関とのつながりをちらつかせれば抑止力にはなる。彼らは外交問題化されるのを恐れている。

・最後に中国側のメンツを立てることを忘れずに。

 

(12)中国環境ビジネスに予算必要

・中国環境ビジネスには、相当な覚悟(全社挙げての取り組み)と準備(マーケティング)が必要である。そしてその準備に先行投資となる予算をつける必要がある。

 

行政向けの提言

・欧米は、中国で環境・省エネの国家規格を押さえようとしている。規格・基準を押さえれば、その後のビジネスも長く続けられる。日本も、対中環境・省エネビジネスについて、政策支援・規格策定支援・啓蒙活動・留日人材活用・産学連携などと合わせたパッケージ型で、戦略的総合的に行わなければ、10年後に欧米の後塵を拝することになろう。

 

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稲荷神社と関帝廟

               15.JUL.09

                                                       美朋有限公司董事長   中小企業家同友会上海倶楽部代表

上海センター外部研究員   小島正憲

 

                

日本人の商売繁盛の神様は稲荷神社(お狐様)である。

中国人の商売繁盛の神様は関帝廟(関羽様)である。 

日本には「お客様は神様」という俗言がある。今、「お客様=消費者=神様」が日本人から中国人に代わりつつある。

日本人は商売繁盛の神様を稲荷神社(お狐様)から関帝廟(関羽様)に変えるべきである。

 

1.稲荷神社。              

 京都市伏見区にある伏見稲荷大社は、全国4万社の稲荷神社の総本宮とされている。毎年初詣の時期には300万人ほどの人がこの神社に商売繁盛を祈願する。

この神社は近畿地方の社寺では最多の参拝者を集めている。

もともとこの稲荷神社は稲という字が示しているように農業の神が配祀されており、一般民衆が五穀豊穣を祈った神社であった。また元来日本では神聖視されてきた狐が奈良時代ごろから稲荷神のお使いとして、門前に鎮座するようになった。ところが江戸時代に入って、いつのまにかこの稲荷神社が商売の神として公認され、そのころからお狐様が稲荷神であるとの誤解も一般に広がった。

私は伏見稲荷大社に出向いて若い宮司に、「なぜ五穀豊穣の神が商売繁盛の神になったのか」と聞いてみたが、はっきりとした回答はなかった。仕方がないので「伏見稲荷大社 商売繁盛御」と書かれたお札とお狐様のストラップを買って帰った。岐阜県の西濃地方にある千代保稲荷にも行ってみた。そこの門前ではお狐様にお供えする油揚げがたくさん売られていたので、お店のご主人に「本当にお狐様は油揚げが好きなのですか」と聞いてみたが、怪訝な顔をされただけで返事はなかった。千代保稲荷は小さな神社だが、ここにも商売繁盛を願う参拝客がたくさん訪れる。しかし「なぜお狐様に祈ると商売が繁盛するのか」など、誰も深く詮索せずとにかくご利益を願って手を合わせている。

日本の会社では社内に神棚を祀り、その前で朝礼などを行っているところが多い。庭に稲荷神社を建て、社員総出でお祈りしている会社もある。私の推測だが、商売を行っている多くの人が、無意識下で、商売では騙し合いが多いので、「商売で相手に化かされないように」とお狐様にお願いしているのではないだろうか。

 

2.関帝廟。

関帝廟に祀られているのは、三国時代の蜀漢の劉備に仕えた関羽という武将である。三国志の中では、関羽の武将としての輝かしい戦歴が謳われている。その武勇を魏の曹操が義理堅いと評したことから、後世の人たちが関羽を神格化したのである。また関羽が信義に厚く、商売にいちばん必要な約束を守るという精神を貫いたことなどから、現在では商売の神様として世界中の中華街で祀られている。関羽が商売繁盛の神様として崇められているのは、彼が戦術に長けおり、駆け引きがうまく、そろばん上手であったからだという説や、塩の密売に関わっており、蓄財にも長けていたからだという説もある。                                             

文化大革命以前、中国では「文の孔子廟、武の関帝廟」として各所に祀られていたが、孔子廟の多くは文革中に破壊された。現在では古くからの関帝廟が中国各地に数多く残っている。関羽のお墓は湖北省當陽市の「當陽関陵」に胴が祀ってあり、河南省洛陽市の「洛陽関林」に首が祀ってあるという。関帝廟の最大のものは、関羽の出身地である山西省運城市解州県にある。2番目に大きなものは湖北省荊州市荊州城内の関帝廟であるという。

関羽の守った城とされる荊州城は、四周の城壁が完璧に残されていた。観光用電気車に乗って城壁を見て回ったが、それは四角ではなく東西に長細い特異な形をした城だったので、ガイドに聞いてみたら、河に沿って作ってあるからだという。説明を聞いて、もう一度見てみるとたしかに、濠を掘ったのではなく、まさに河の中に城を作ったという感じであった。関帝廟はその荊州城の中にあった。そこの係員に「なぜ、武将の関羽様が商売繁盛の神様なのか」と聞いてみたら、「財産を守ってくれる強い神様だから財神です」と簡単明瞭に答えてくれた。重ねて「そろばんが上手だったという話は本当か」と聞いてみると、「それは誤りです」ときっぱり否定された。

湖北省當陽市の「當陽関陵」は、大規模な関羽の墓所だった。ここには財神を祀っているという雰囲気はなく、まさに武将関羽のお墓という感じの場所であった。下記の写真は入り口の正門と最終のお墓を撮ったものであり、その中間にまだ4つの建物がある。それぞれに立派な門と中庭があり、関羽像や関羽と息子の関平、重臣の周倉などが祀られていた。関羽は孫権との戦いで荊州を失い、麦州の戦いで敗れ、臨沮(遠安県回馬坡)で息子の関平ともども切り殺されたという。麦州には街道沿いに小さな神社が作られており、ここで自害したという周倉が祀られていた。私は臨沮にも行ってみたかったので、関陵の係員に場所を聞いたところ、まだ車で3時間ほどかかり、そこにはなにもないといわれたので、あきらめた。

 

華僑の間では関羽は商売の守り神として、広く信心されており、ほとんどの会社に関帝廟がしつらえてある。けばけばしい赤のミニミニ関帝廟を、香港やシンガポールのみやげ物屋やレストランで見かけた人も多いのではないだろうか。私の香港事務所の隣のビルの玄関にも、近くのパン屋さんや電気店の店頭にも関帝廟は祀られている。それは毒々しい赤色なので、日本人にはちょっとなじめないが、中国の商売人は毎日欠かさずこの関帝廟に礼拝する。私の推測だが、彼らは心中で、商売という戦いで負けないように、必死に関羽様の武力にすがっているのではないだろうか。

福本勝清氏は「中国革命を駆け抜けたアウトローたち」の中で、関羽が財神である理由をうまく説明している。つまり国家が腐敗堕落して、手工業者や商人たちが自分の生活を自分で守らなければならなくなったとき、義侠心が強く、あれこれと世話をやく勇気があり肝っ玉の太い人間が現れる。なけなしの金をはたいて隣人を助けたり、顔役から言いがかりを付けられた友達に加勢したり、いわば遊侠無頼の徒が活躍し始める。そんな象徴として関羽が祀られてきたのではないか。現代中国では、土匪まがいの行為、土匪らしきものも復活している。人民中国の皮を1枚めくれば、民国が顔を覗かせる、そんな雰囲気である。民国期の共産主義者、とくにもっとも困難な時期に党に加わった農民の多くがこの種の人々であった。彼はこれらの人間の共通特性を“打抱不平”だと指摘し、関羽信仰の根拠としている。

 

3.先頭走者は中国。

 今や、世界経済復興レースは、「先頭走者は中国」が共通認識になってきた。

 ジョージソロス氏は、6月7日、上海市の復旦大学の講演で「中国が金融危機からもっとも早く回復する国となることを確信している」と発言した。またガイトナー米国財務長官は、6月1日、北京大学の講演で「米国の消費者はもはや世界経済成長の圧倒的なけん引役とはなりえない」と発言し、「中国側には輸出と設備投資に偏重した成長形態を消費主導に改めるように要望する」と強調した。

それらの期待に応えるかのように、中国経済は確実に復興してきた。6月24日、経済開発協力機構(OECD)は、現下の中国経済の見通しについて、確実に景気が回復していると判断して、GDP伸び率は09年に7.7%、10年に9.3%になるとの予測を発表した。また6月23日、日経新聞では、「先頭走者 中国の悩み」と題して、世界の先頭を切って金融危機後の経済恐慌から抜け出しつつあると書き、さらに7月8日には電子部品受注が急回復、中国需要が牽引との記事を載せている。これらは中国の経済復興が、世界経済を引っ張るという構図で、今後の世界が動いていくということが共通認識になりつつあることを示している。

 

4.中国人は神様である。

日本には「お客様は神様」という俗言がある。これをこのまま現在の日本を取り巻く経済環境にあてはめれば、中国が消費大国となるということは、「中国人がお客様」つまり「中国人が神様」になるということである。したがって私たち日本人には大きな意識改革が必要になる。つい数年前まで、日本経済は米国輸出に全面的に頼っていた。だから「米国人は神様」と思っていればそれでよかった。また米国輸出でうるおった日本人の旺盛な内需のおかげで、「日本人自身を神様」にした商売も結構儲かった。ところが昨年来の金融危機で米国の消費者が疲弊し、輸出が激減してしまい、日本国内の景気も極端に落ち込んでしまった。突然、「米日の神様」がいなくなってしまったのである。

代わりの神様は西方からやってきた。閑古鳥が鳴いていた日本の観光地には、中国人セレブの観光客が押し寄せはじめた。また日本製品が中国内需に向けてたくさん輸出されるようになってきた。日本人は生きていくために西方に顔を向けなければならなくなった。つまり日本人は明治時代以降続けてきた脱亜入欧思想を修正しなければならなくなったのである。だからなによりも反中・嫌中意識をなくさなければならないのである。これからは揉み手をして中国人に接しなければならないということである。

「中国人が神様」になる時代だから、商売人は信仰の対象を稲荷神社つまりお狐様から、関帝廟つまり関羽様に変えなければならない。金儲けをするにはそれぐらいの発想の転換が必要なのである。これからは中国から大量の観光客が日本を訪れる。だからそれらの中国人観光客を相手にするような商売、たとえば旅行会社やホテル、みやげ物屋などはただちに店頭のよく見える位置に、関羽像を飾ることである。そうすれば、その店は他の店に先んじて儲けることができるだろう。まだ横浜や神戸の中華街を除いて、観光地で関羽様を見受けることは少ないので、けばけばしい赤の大きな関羽様を祀れば、話題にもなる。また日本国内で関羽様を専門に販売している店は少ないから、この販売を手がけたら儲かるのではないだろうか。

政治においても対米一辺倒の政治路線の手直しが必要になっているのではないか。次回の総選挙では政権交代が予測されており、日本人民の気持ちよりも政治構造のほうが早く変わる可能性が高い。これは日本にとっては好都合かもしれない。6月5日、韓国を訪問した民主党の鳩山由紀夫代表も李明博大統領に、「新しいアジア重視の外交を作り上げていくためにも政権交代が必要だ」と強調した。

 

5.志を曲げたくない日本人へのアドバイス。

私がこのように書くと、日本人の沽券に関わるといって、我を張り通し、隣の商店が店頭に関羽様を祀って、そのおかげで繁盛するのを横目で見る人もいるだろう。それでも結構だが、商売人はお金をたくさん儲けた方が勝ちである。霞を食って生きていくわけにはいかないのだから、意地を張らない方がよい。どうしても節を曲げたくない人は、店頭の目のつきやすいところに関羽様を置き、奥の間の滅多に人の入らない場所に稲荷神社の神棚を置けばよい。江戸時代、敬虔なクリスチャンでさえ、迫害を避けるために仏像の中にマリヤ像を隠しそれを拝み続け、思想をまっとうしたではないか。彼らは隠れキリシタンと呼ばれ生き続けたではないか。日本の商売人にもそれぐらいの腹芸が必要である。稲荷神社が店頭に出てくる時代もまた来る。

                                          以上   

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【中国経済最新統計】(試行版)

 

上海センターは、協力会会員を始めとする読者の皆様方へのサービスを充実する一環として、激動する中国経済に関する最新の統計情報を毎週お届けすることにしましたが、今後必要に応じて項目や表示方法などを見直す可能性がありますので、当面、試行版として提供し、引用を差し控えるようよろしくお願いいたします。    編集者より

 

実質GDP増加率

(%)

工業付加価値増加率(%)

消費財

小売総

額増加率(%)

消費者

物価指

上昇率(%)

都市固定資産投資増加率(%)

貿易収支

(億㌦)

輸 出

増加率(%)

輸 入

増加率(%)

外国直

接投資

件数の増加率

(%)

外国直接投資金額増加率

(%)

貨幣供給量増加率M2(%)

人民元貸出残高増加率(%)

2005

10.4

 

12.9

1.8

27.2

1020

28.4

17.6

0.8

0.5

17.6

9.3

2006

11.6

 

13.7

1.5

24.3

1775

27.2

19.9

5.7

4.5

15.7

15.7

2007

13.0

18.5

16.8

4.8

25.8

2618

25.7

20.8

8.7

18.7

16.7

16.1

2008

9.0

12.9

21.6

5.9

26.1

2955

17.2

18.5

27.4

23.6

17.8

15.9

  1

 

 

21.2

7.1

 

194

26.5

27.6

13.4

109.8

18.9

16.7

 2

 

(15.4)

19.1

8.7

(24.3)

82

6.3

35.6

38.0

38.3

17.4

15.7

 3

10.6

17.8

21.5

8.3

27.3

131

30.3

24.9

28.1

39.6

16.2

14.8

 4

 

15.7

22.0

8.5

25.4

164

21.8

26.8

16.7

52.7

16.9

14.7

 5

 

16.0

21.6

7.7

25.4

198

28.2

40.7

11.0

38.0

18.0

14.9

 6

10.4

16.0

23.0

7.1

29.5

207

17.2

31.4

27.2

14.6

17.3

14.1

 7

 

14.7

23.3

6.3

29.2

252

26.7

33.7

22.2

38.5

16.3

14.6

 8

 

12.8

23.2

4.9

28.1

289

21.0

23.0

39.5

39.7

15.9

14.3

 9

9.9

11.4

23.2

4.6

29.0

294

21.4

21.2

40.3

26.0

15.2

14.5

10

 

8.2

22.0

4.0

24.4

353

19.0

15.4

26.1

0.8

15.0

14.6

11

 

5.4

20.8

2.4

23.8

402

2.2

18.0

38.3

36.5

14.7

13.2

12

9.0

5.7

19.0

1.2

22.3

390

2.8

21.3

25.8

5.7

17.8

15.9

2009

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1

 

 

 

1.0

 

391

17.5

43.1

48.7

32.7

18.7

18.6

2

 

3.8

(15.2)

1.6

(26.5)

48

25.7

24.1

13.0

15.8

20.5

24.2

3

6.1

8.3

14.7

1.2

30.3

186

17.1

25.1

▲30.4

▲9.5

25.5

29.8

4

 

7.3

14.8

1.5

30.5

131

▲22.6

▲23.0

▲33.6

▲20.0

25.9

27.1

5

 

8.9

15.2

1.4

(32.9)

134

▲22.4

▲25.2

▲32.0

▲17.8

25.7

28.0

6

7.9

10.7

15.0

1.7

35.3

83

▲21.4

▲13.2

 

 

28.5

 

 

注:1.①「実質GDP増加率」は前年同期(四半期)比、その他の増加率はいずれも前年同月比である。

2.中国では、旧正月休みは年によって月が変わるため、1月と2月の前年同月比は比較できない場合があるので注意

されたい。また、(  )内の数字は1月から当該月までの合計の前年同期に対する増加率を示している。

  3. ③「消費財小売総額」は中国における「社会消費財小売総額」、④「消費者物価指数」は「住民消費価格指数」に対応している。⑤「都市固定資産投資」は全国総投資額の86%2007年)を占めている。⑥―⑧はいずれもモノの貿易である。⑨と⑩は実施ベースである。

出所:①―⑤は国家統計局統計、⑥⑦⑧は海関統計、⑨⑩は商務部統計、⑪⑫は中国人民銀行統計による。