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京大上海センターニュースレター

280号 2009824
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

○ 上海センター主催講演会のご案内

○ 中国・上海ニュース 2009.8.17-2009.8.23

○ ウルムチ暴動について

   09年7月:暴動情報検証

   【中国経済最新統計】(試行版)

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上海センター主催講演会のご案内

 

近年、中国企業の海外進出(「走出去」)が世界的に注目されるようになりました。その背景にはどのような企業戦略、または国家戦略があるのだろうか。これを理解するために、下記のような講演会を企画することにしましたので、大勢のご参加をお待ちしております。

 

 

時 間: 2009年9月19日(火) 15:30-17:30

場 所: 京都大学経済学研究科(部屋未定)

講 師: 康栄平(中国社会科学院世界経済と政治研究所世界華商研究中心主任)

テーマ: 「中国企業の海外進出戦略」(仮)

 

講師紹介:

 1949年生まれ。1968年に知識青年として農村に下方、1970年に都市に戻り企業に勤務。1980年代、遼寧省社会科学院科学技術発展研究所副所長、1990年代初め首都鋼国際化経営研究所所長。1994年社会科学院世界経済と政治研究所に転職し、現在に至る。現在は同研究所の世界華商研究中心主任のほか、中国国際華商理事会副理事長、中国国際経済関係学会常務理事、『世界華商経済年鑑』常務副編集長を兼務。

 氏は長年中国企業の海外進出を研究し、多くの研究業績が残された。代表作として『中国企業的跨国経営』、『企業多元化経営』、『中国企業評論:戦略与実践』、『華人跨国公司成長論』などの著書がある。現在の研究課題はWTO加盟後の中国企業成長戦略、華人国公司走出去」戦略家族企業など

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中国・上海ニュース 8.17-8.23

ヘッドライン

■ 中国:国務院が中小企業支援策示す、市場環境整備や融資拡大など

■ 中国:新型農村養老保険―2020年までに全国カバー

■ 中国社会科学院:「日本白書」、日中関係は新たな共通認識を形成する時期に

■ 経済:上半期の経常黒字が32%減、外需減少による輸出減で

■ 商務部:貿易額、年内にはプラスに―中国

      教育:中国、大学の研究費654億元の半分は産学研事業で

■ 三峡ダム:立ち退き住民127万人!年内にも完成へ

      環境:「海水利用」で水不足の解消に挑む、雨が降らないのは大気汚染が原因か

      上海万博:大気汚染対策に全力、「青空の日」95%を目標に

      江西:エコな竹製マウスとキーボード、海外でも大人気

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ウルムチ暴動について

京都大学経済学研究科教授 大西 広

 

暴行を受けていた私の友人

 今回のウルムチ暴動について私は『週刊エコノミスト』91日付け(824日発売)4ページの論稿を書いたので、事態の基本的な線はそちらでご理解いただきたいが、さらに815-19日の間にウルムチを訪問し、いくつかショッキングな情報を現地で得た。その最初のものは、現地の大学新疆財経大学で働くウイグル族の私の弟子の妻で、彼女自身も私の友人であるウイグル女性が例の75日の暴動で暴徒から暴行を受けていたことである。これは「漢族と間違われて」とのことであるが、その現場も見、状況を聞くに及んで、75日の混乱の様子を垣間見ることができた。

 その様子とはこんなこととなっている。まずはその暴動が始まるとともに「学生を学外に出さないように」との大学からの指示が彼女に届く。彼女もまた新疆財経大学で管理者として働く仕事についているからであるが、そのため彼女は近くのタクシーをとって大学に急行しようとした。が、暴動で入れない道があるので迂回をしたところ、そこでもまた暴動が始まったばかりでタクシーが投石、破壊を受ける。そして、その際に乗客であった彼女の後頭部も石で殴られ大怪我をしたということである。彼女はとっさに「私はウイグル族」と叫んだものの暴徒たちは「なぜこんな時に漢族のタクシーになど乗っているのか」と逆に怒ってきたという。このタクシーの運転手はこの場からすぐ逃げ、その後は分からないという。

 また、私が宿泊したウイグル族経営のTumaris ホテルからも、暴動当日多くの漢族を助けたという美談を聞くことができた。市内の何箇所かで同時発生した暴動はこのホテル前でも起き、殆どがウイグル族であるホテル従業員は逃げ込んできた漢族たちをとっさに地下と上層階に誘導し、怪我人にはホテル常備の包帯や薬で応急措置をし、怖がる被害者を安心させる措置をした。全部で120人くらいかくまったという。この美談は各種メディアでも報じられ「暴動に反対したウィグル族も多かった」ことを宣伝するために使われている。しかしこれは本当のことであり、こうした宣伝は重要だと私も思った。[1]

 [1] ただし、美談の陰に醜聞もある。そのひとつは、被害者に対する補償金目当てに障害を持つ老人や障害児にわざと重症を負わせ、補償金を騙し取ろうとした漢族がいたということである。見苦しい。

現在の様子と流入ウイグル族との社会的分裂

 現在のウルムチ市内は一応平静を取り戻している。暴動の中心となった箇所、共産党事務所前など重要ポイントには数多くの武装警察が24時間警備にあたり、多数の武装警察を載せたトラックが一日中巡回していること、「天山網」という政府の宣伝ページを除いてネット接続がすべての自治区内で遮断されているためネットバーが完全に閉められていることを除けば、漢族地域でもウイグル族を見、逆にウイグル族地域で漢族を見かけることができるようになっている。武装警察も広大なウルムチ市から見ると一部地域にのみおり、昨夏のラサを知る私としては回復が速いと感じた。昨年8月のラサは暴動5ヶ月後にも焼き討ちの後が何十箇所と残っていたが、ウルムチ市内ではほぼ何も残っていなかった。一般のウイグル族はあのような暴徒の行為に賛同していないのだ、と私はこの様子から改めて感じることができた。

 が、しかし、このことを逆に言うと、誰がこの暴動の主犯であったのか、ということになり、それはこの「一般のウイグル族」とは区別された南新疆などからのウイグル族民工たちであった答えざるをえない。確かに75日の行動は当初は学生たちが主体のものであり、後に言及する政府のキャンペーン「75事件収束図片展」の写真でも当初のデモでは女子学生に見える者などちゃんとした服装の若者が中心であったことが確認できるが、暴動の現場写真、武装警官と衝突している写真を見ると明らかにほぼ全員が若い男性で着る服も異なる者たちとなっている。日本での報道でも当初は平和的なデモであったのが、急にある時刻から投石が始まったとされている。よって、「暴動」という行為に関する限りは南新疆などからのウイグル族民工が「主犯」であったと断定できる。その背景に問題のラビア・カーディルらの海外ウイグル族組織が関与したかどうかは確認できないが、である。

その南新疆へは2004年と昨年に「農村調査」をしたので当地の状況がよく分かるが、国家指定・自治区指定の貧困地区が並び、ホータン地区で朝から晩まで働く絨毯職人の月収はわずかに400元であった。そして、この貧困から逃れるべく、沿海部の漢族地域には食習慣などで行けないもののウルムチ市に集まる彼らの生業は、街の片隅で小物や果物を売る露天商や、一枚50元の携帯電話カード(中国の携帯電話は前払いカードを挿入する形式となっている)を路上で20元で売る「商売」、それに建物の解体などとなっている。特定の「店」も持たず、その多くは戸籍も持たない彼らはウルムチ市内の何箇所かに集住している。私は二箇所のそうした地区を見学したが、そのうちの一箇所は多数の暴徒を出した地区ということで武装警察・現地警察が厳重に監視。実際、その地区の対面にある自動車ディーラー店には焼き討ちの痕が今も残っていた。ついでに言うと、ここでは暴動で破壊された多数の自動車の修理中であった。

 したがって、ここでまず確認しておきたいのは、市内に住む元からのウイグル族と南新疆からやって来た外来のウイグル族をはっきり区別して考える必要があることである。暴動の後、政府は追加で南新疆からの500人をウルムチで就職させるということを行ない、それを宣伝している。また、今後、戸籍を持たない民工への政策も強化されるという。が、これ自体が、南新疆人の行政への不満が暴動の根底にあったことを示している。

 

一般のウイグル族の感情と不満

 が、もちろんそれと同時に、当初の平和的デモに集まった学生たちの不満にも目を向ける必要がある。というのは、全般的な学生の就職難の下で、特に少数民族学生の就職は悪く、一説には5割を切るとも言われている。経済成長率の高い時期はともかく、海外貿易や海外からの旅行客への依存度の高い新疆自治区の経済は現在は厳しい。そして、それはすぐに少数民族の雇用減に直結する。暴動の後、中央政府は漢族企業に少数民族雇用を進めるためのキャンペーンを開始した。ここでも雇用問題が不満の中心であることが伺われる。

 ただし、この事件に関してはやはり経済格差以外のウイグル族側の不満もある。たとえば、先に少し触れた「75事件収束図片展」というキャンペーンでなぜ暴動翌々日の漢族の「逆暴動」が触れられないのか、というものである。帰国中の私の学生はその「友人の友人の友人」がこの際に漢族に殺されているという。また、この事件で死亡した197人には「暴徒」とカウントされて武装警察などに射殺された人数が含まれず、また上記民工のように所在の分からない死者もカウントされていないという。

 もちろん、世界ウイグル会議側の情報も偏っており、たとえばそこには民工の問題は一切触れられず、広東省工場などへの労務輸出が「強制」であるとの誤った情報も流されている。そして、実際、ラビア・カーディルの評判もこの暴動で地に落ちている。それまでは、政治犯として捕まっている際も「可哀想に」との受け止めがウイグル族の間で一般的であったのが、ここに来て、少なくとも暴動に対する彼らの姿勢に違和感が持たれている。それだけ一般のウイグル族にとって今回の暴動は受け入れがたいものであったということである。

 政府の対応は上でも少し見たように速い。上で論じられていないものを補足すると、たとえば中央幹部が自治区にきて警察の中にウイグル族が少なすぎると指摘、慌ててウイグル族警察の補充がされていると聞いた。私が昨年ラサで見た警察はほぼ全員がチベット族であった。ラサでも武装警察や軍隊となるといきなり漢族が中心となるが、それでも現地警察だけはチベット族で占められていたから、ここから見ても新疆自治区に問題があったことを否定できない。

 ただし、それでも改めて最後に述べておきたいことは、やはり何らかの経済困難が民族問題を起こしているということである。私はあちこちで書いているが、中国の高度成長も2025年には終わる。ということは、後16年で終わるが、その後の低成長でも民族関係は悪化せずにすませられるのか。今回のように高成長過程のちょっとしたリセッションでも問題が深刻化したことを考えると、2025年への準備は決定的に不足している、というのが残念ながら私の現時点での評価である。

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09年7月:暴動情報検証

                            18.AUG.09 

美朋有限公司董事長

   中小企業家同友会上海倶楽部代表

上海センター外部研究員   小島正憲

 

7月5日に、ウルムチでウィグル族の暴動が発生した。これについてはすでに緊急短信として情報を提供しておいたが、今回は現場検証の結果の追加情報をお届けする。しかしまだ不明な点が多いので、結論としてではなく中間報告とさせていただく。9月に再度、現地に入り、慎重に調査して最終報告を行う予定である。7月15日には、広州市でアフリカ人の抗議行動が起きた。これも現地検証を行ったので参考にしていただきたい。なお、3.~9.は未検証である。

また中国政府は7/18に、22日の皆既日食の際、不法分子が暗躍し暴動になることを警戒し、治安対策の強化を上海などの地方政府に指示する通達を出した。結果としてこの日は何事もなく、単なる自然現象の観象だけで終わった。

                                              暴動レベルについては文末に掲示。

1.7/05 新疆ウィグル自治区ウルムチで暴動発生   暴動レベル5以上。

①6/25 広東省韶関市の旭日玩具工場でウィグル族と漢族の従業員が衝突。 ウィグル族従業員2名死亡。

・この韶関市の旭日玩具工場の衝突が、7/05のウルムチ暴動の原因となった。以下にこの事件を詳しく見てみる。

・韶関市の旭日玩具工場は、香港系企業で、2007年に地元政府の誘致で進出。現在、拡大建設中のため、表門などに看板なし。すでに16000名の従業員を抱えており、その中に1000名のウィグル族がいる。

・韶関市の旭日玩具工場のウィグル族従業員の大半の出身地は、新疆喀什地区疏附県(カシュガル)である。

・ウィグル族従業員が出稼ぎに来た背景には、中国政府の「対口支援」政策がある。少数民族地域の経済と生活レベルを向上させるために、中央政府が先進発展地域に支援任務を課しているので、先進地域の地方政府は、工場に対し補助金を出して、少数民族の作業員を採用させている。

・韶関市の旭日玩具工場も、その政府の方針に沿ってウィグル族従業員を採用していたものと見られる。

・新疆喀什地区疏附県の地方政府と旭日玩具工場との間に、ウィグル族従業員雇用に関して、取り決めや優遇政策があるかどうかは現状では不明。この点については、次回、新疆喀什地区疏附県に行って調査をしてみる。ただし、一部マスコミが報じているような、新疆喀什地区政府による強制的で従業員の意思を無視した派遣ではないと考える。新疆喀什地区政府の労務輸出の命令に従わなければ、住民に年収の数倍の罰金が課せられるという説もあるが、私の経験から考えてこれは信じ難い。新疆喀什地区疏附県では、2003年から労務輸出をはじめ、08年度では県外に出稼ぎに出ているものは7万人を超え、新疆以外の地方へ行っているものは1.2万人に及ぶという。現在までのところ、各地で大きなトラブルは起きていないという。

・一般的に言って、中国は7年前ぐらいから沿岸部では労働者不足であり、日本の高度成長期のように、沿岸部の工場に労働者を派遣するために地方に労務派遣業務を請け負う組織ができ上がっている。沿岸部の工場の大部分は、それらの組織と密接な提携を行い、労働者の円滑な供給源を確保するように努力している。

・韶関市は、広東省の最北部にあたり、深圳や東莞などの先進地域ではなく、周囲はほとんど農村であり、そこには100万人が住んでおり、しかも湖南省や四川省からの出稼ぎ者も多く、労働者不足という感じのしない地域である。また昨年、近隣の玩具工場が倒産したこともあって、旭日玩具工場はその地域では数少ない大型工場である。昨年の金融危機以来、広東省の東莞地域などでは玩具工場の閉鎖や倒産が相次いでいるが、この旭日工場の業績は順調に伸びており、地元の期待の工場でもある。工場が拡大中であるため、地元の従業員だけでは不足で、各地から従業員を募集してきていたと見られる。したがって今回の衝突を、失業者が増大したことによる漢族従業員とウィグル族従業員の職場の争奪と考えるのは明らかな間違いである。

・ウィグル族従業員と漢族従業員との間には、給料や福利厚生面での格差はまったくない。給与は出来高制度で、全従業員一律であり、だいたい1000元から1500元の間である。工場周辺の飲食店の店主によれば、ウィグル族従業員には政府から特別食事補助金が出ており、漢族従業員よりもよい待遇であるという。

・工場内や寮内、工場周辺などで、漢族とウィグル族のいさかいは日常的にあった。ウィグル族の従業員が漢族の女子従業員をからかうなどの行為も珍しいことではなかった。一般的に言って、中国の工場では漢族同士でも、出身地別に派閥ができ、大喧嘩になることもしばしばである。したがって工場では、できるだけ従業員の出身地を統一して採用するようにしているところが多い。ましてや今回の旭日玩具工場のように、漢族と少数民族とを同一工場で働かせる場合には、かなりの工夫と努力が必要であると思う。

・旭日玩具工場を退社させられた漢族の男性従業員が、再入社を頼み込んだが公司側は拒否。そのことに立腹した男性がネット上に、ウィグル族男性従業員が漢族女性従業員に猥褻行為をしたとデマ情報を流した。これが漢族男性従業員の間にウィグル族に対する怒りの感情を募らせ、今回の衝突の伏線となった。

・6/25夕 工場近辺の飲食店で、ウィグル族男性従業員が地元出身漢族女性従業員に、卑猥な行為をしたので、それに抗議した漢族男性従業員との間で口論。それが喧嘩に発展し、1000人規模の乱闘になった。政府発表では、120人の負傷者(ウィグル族81人、漢族39人)、このうちウィグル族2名が脳挫傷で死亡。

・旭日玩具工場では、ただちにウィグル族従業員だけの分工場や寮を整備し、漢族従業員と分離した。

・6/29 死亡したウィグル族従業員の遺体は、飛行機で故郷に搬送され埋葬された。遺族には弔慰金が支払われた。

・7/07 韶関市公安部は、今回の衝突事件で暴力を振るった疑いで、13人を逮捕した。うち3人がウィグル族。

◎私見 :

・韶関市旭日玩具工場での漢族とウィグル族との衝突事件は、ことさらに民族紛争としての側面を強調すべきではないと考える。中国の地方工場では、漢族従業員同士でも衝突事件が起きることは少なくないからである。しかしウィグル族と漢族は、容貌や習慣や言語も違い、従業員間でコミュニケーションをとることがきわめて難しい。したがって雇用者側が作業や生活環境に大きな配慮をすることが必要である。旭日玩具工場では、この点での工夫が不足していたものと考えられる。

 

②「7/13付けのウルムチ暴動緊急短」について、現場検証後の修正と追加情報。

・6/28のウルムチ市でのウィグル族学生の政府抗議の有無は、現場では確認できなかった。したがって緊急短信における上述部分は未確認情報とする。

・私がウルムチに調査にはいった7/28の時点(暴動後23日間経過)では、商店などはほとんど修復済みであった。ただし建物の裏側や内部は不明。昨年のラサ暴動では、5か月後の時点でも黒焦げになったビルなどがまだ多数残っていた。

・ウルムチ暴動の規模は、昨年のラサ暴動より小さいという印象を受けた。ことに商店などの破壊が少なく、銀行や貴金属商店、高級洋品店などの略奪がほとんどなかったことが特徴的であった。唯一はっきりと確認できたのは、黒焦げ   

の建物1棟のみであった。焼き討ちにされた漢族の車両は運動場の中に、お

およそ100台が黒焦げのまま集めてあった。当局発表では、焼き討ち破壊された店舗は331軒、壊された車両は627台を上回るという。

・武装警察の警戒もラサ暴動ほどではなかった。主要道路の交差点付近には武装警察が10名ほど待機していたが、ラサとはその緊迫感が違った。また暴動現場付近を巡回している武装警察の部隊にも緊張感が少ないように感じた。

※ラサ暴動の実状については、大木崇著「実録チベット暴動」(かもがわ出版刊)に詳しく書かれているので、参照していただきたい。             

・7/05の午後6時ごろ、インターネットや携帯電話で呼びかけられたウィグル族の学生や市民、不逞のやからが人民広場に三々五々集まって、平和的にデモを始めた。警察も多数で暴発を警戒していた。その後、デモが暴動に発展した。そのとき警察の発砲が先であったか、デモが暴発するのが先であったかは確認できなかった。

 いずれにせよ、その後ウィグル族は携帯電話で連絡を取り合って、二道橋、新華南路、三屯碑、競馬場、新疆大学、団結路、電視台、二道湾、幸福路などに結集して、破壊略奪を同時多発的に行ったため、計画的な様相となった。

 暴動発生時、ウィグル族は同じイスラム教徒である回族をまず第一に攻撃した。回族商店の焼き討ち破壊を行い、次に漢族商店に向かった。スローガンも最初は「回族をやっつけろ」というものだったという。

・その後、武装警察が大量に出動し、暴れまわるウィグル族を武力で鎮圧した。暴動発生1か月後の8/06時点での、当局発表では死者197人。そのうち市民の死者156人(内訳は漢族134人、回族11人、ウィグル族10人、満族1人)。拘束された容疑者は2000人を超え、83人が正式逮捕。

・7/07からの漢族の反撃の実態は、暴力組織関係者が多く、漢族の経営者に雇われたものが多かったという。

・一部マスコミでは人民解放軍の出動も報じられたがその可能性は低い。ラサ暴動のときのように、戦車が10台も出動したという状況ではなかった。ただし装甲車が出動した可能性は否定できない。

・7/28時点でも、ウィグル族と漢族の反目は続き、午後7時以降は、ウィグル族地域では外出を控えていた。観光客もほとんどなく、大バザール近辺の商店は売り上げが激減し、商品は7割引と表示となっており、さらにそこからディスカウントするという状態。漢族地域には大きな問題はなく、午後7時以降も人通りは多い。                                           

・ウルムチには温州商店街をはじめとして、漢族資本が目立つ。改革解放後、漢族が新疆ウィグル自治区に大挙進出し、商売を始めウィグル族商人を駆逐してしまった。一般に漢族商人は勤勉で、かつ商売上手なため、ウィグル族が負けたのであって、漢族商人が政治的関係を構築することが上手だから、ウィグル族商人に勝ったということは、一概には言えない。その結果、漢族の経営者の下でウィグル族の労働者が働くという構図を定着させてしまった。さらに漢族商人はできるだけ漢族の労働者を雇用しようとしたため、ウィグル族労働者が失業するという悪循環になっていった。この現象は、チベットにおいても同様であった。

 ウルムチで江蘇省出身の漢族商人から、彼の苦労話を聞いたが、裸一貫で故郷からウルムチに来て、15年間必死に働いたという。その間、政府からの援助は

なにもなかったという。現在では、新疆ウィグル自治区全体に電子部品の販売店      ≪温州商店街≫

を50店舗ほど持っており、近年ではロシアにも積極的に進出しており、彼はきわめて事業意欲旺盛であった。次週にはウズベキスタンの販売店への出張があるということで、談話中にしょっちゅう電話がかかってきていた。私は漢族の商売精神の旺盛さに感心すると同時に、本来ならば旧ソ連諸国への進出などは同じイスラム教徒として、ウィグル族が得意としなければならない分野ではないかと思った。   

・ウルムチ市内のウィグル族地域に、南疆出身者の大規模なスラム街があった。私は中国でかなりの田舎まで足を運んでいるが、このようなスラム街はあまりみたことがない。案内してくれた知人が、危険だから写真を撮らないようにと忠告してくれたので、その街の中では撮れなかった。写真は高速道路からこっそり撮ったスラム街のほんの一部である。ウィグル族の中にも、もともとウルムチに住んでいたウィグル族と、近年、南疆の喀什地方から来たウィグル族との間に大きな格差が存在している。上述の韶関市の旭日玩具工場への派遣労働者の出身地も南疆の喀什地方である。今回の暴動はこの南疆出身のウィグル族が中心だったという。     

③ウルムチ暴動についての私見。

ⅰ.「世界ウィグル会議」のとるべき態度。

・今回のウルムチ暴動で、ウィグル族が漢族(回族)への暴行・破壊・略奪を行ったことは事実である。またそのウ

ィグル族を武装警察が虐殺・拉致したことも事実であり、漢族が報復行動に出たことも事実である。つまりこのウ

ルムチ暴動では野蛮で次元の低い暴力の応酬の結果、漢族・ウィグル族ともに多大な犠牲者を出したのである。したがってこのウルムチ暴動では、ウィグル族も漢族も中国政府も「世界ウィグル会議」も、多くの人命を犠牲

にしたという点では同罪である。この点では、私はどちらにすることもできない。またマスコミ関係者をはじめと

して、世界の有識者はどちらにもするべきではない。日本人は判官びいきであり、反中意識も強いので、どうし

てもウィグル族の肩を持ちたい心情は理解できるが、ここは冷静に判断して、喧嘩両成敗が正しい。

・ウルムチ暴動が、ウィグル族の不逞のやからだけの行為であったとは言い切れないが、ウィグル族の学生や住民たちにどんなに不満が鬱積していたとはいえ、彼らの暴力、破壊、略奪行為を許すわけにはいかない。「世界ウィグル会議」は、この暴発を絶対に食い止めるべきであった。「世界ウィグル会議」は、結果として「漢族とウィグル族に多くの犠牲者を出したウィグル族の暴発を食い止められなかったこと」をまず猛省し、それを世界に発信すべきだったのではなかったのか。

ⅱ.ウルムチ暴動は、中国が民主主義社会へ移行する過程の事件と捉えるべきではないか。

・現状の中国を冷静に分析した場合、中国人民の民主主義意識はまだ低いと判断せざるを得ない。この1年間、私は中国における暴動を追い駆けてきた。結果として、中国人民は些細なことでも暴力に訴えて解決しようとする傾向が強く、遅れた意識が払拭しきれていない民衆が多いということがわかった。

・今回のウルムチ暴動も、中国政府が挑発して暴発させたという論には組みせない。現時点で、中国政府がウィグル族を挑発して暴発させても損することはあっても得することはない。中国政府はウィグル族を漢族に同化させようと考えていても、武力で根絶やしようとするような政策をとっていないし、中国政府にとってみれば、ウィグル族を挑発して武力で弾圧し、中東産油国をはじめとするイスラム諸国や国際世論を敵に回す方が損であることは自明の理である。したがって私はウィグル族にも武装警察側にも、計画的意図はなかったと考える。単なる偶発的暴動であり衝突である。

・暴動が同時多発的に多地点で発生していることから、ウィグル族の側もこの暴動が計画的であったと見る向きもあるが、計画的とはもっと戦略的なことをいうのであって、今回の場合などは半径1kmの範囲内で起きており、ウィグル族の多数の小集団が偶発的に暴発したと考えた方が妥当である。それでも計画的と言い張りたいのならば、それは児戯的計画と表現した方がよい。

・しかしながら中国政府が各地の暴動を武力で鎮圧していることも事実である。私は中国政府にできうる限り武力を行使しないで鎮圧をしてもらいたいと望んでいる。それでも残念ながら、現状では暴動を武力で鎮圧する以外に方法はないことも理解できる。たとえば先日、北京の日系会社で日本人総経理が労働者に6時間に及んで軟禁されたが、もう少し長くなっていたならば、おそらく警察の実力行使があったと思われる。最近、吉林省通化市では社長が労働者に囲まれ殴り殺された事件が起きた。つまり、中国人民の中にも民主主義意識はまだ希薄なのである。そのような社会で、大規模な暴動に対応するには、まだ武力に頼らざるを得ないというのが実状なのではないか。

・文化大革命は30年前のことである。文革当事者は当時のことを語りたがらないが、殴りあい殺しあった人たちが社会にまだ現存しているのである。この人たちの心中から憎しみが消え去るまで、中国社会に真に民主主義が定着することは難しいのではないか。考えてみれば、民主主義の国として大手を振っている韓国でも光州事件で大虐殺を行ったのは、わずか30年前であり、民主主義の本家である米国でもロス暴動は20年前のことである。日本の血のメーデー事件や山村工作隊は60年前であり、連合赤軍事件は40年前である。まだ社会主義を標榜している中国に、先進資本主義国と同等の民主主義を要求するのは、少々無理があるのではないだろうか。

・「衣食足りて礼節を知る」ということわざがあるが、中国はその過程にあると考えるのが妥当であろう。中国政府の行動をヒステリックに批判するのではなく、先進民主主義国から30年遅れで民主主義の体制に追いつこうと努力していると理解したらどうか。中国政府も社会をソフトランディングさせようと必死に努力していると理解してはどうか。

・中国の労働政策は急速に民主化している。これはこの数年、私がしっかり発信してきたので、読者各位にはよく理解していただいていると思う。最近の情報は、「多発・過激化する労働争議」として、4/29にお届けした。それを読んでもらえばわかるが、現在の中国は、かつての軍事独裁国家:韓国が光州事件を経て、盧泰愚大統領のもとでソウル五輪を開催し、急速に民主化し労働者天国になったことを彷彿とさせる状況である。

ⅲ.中国政府は少数民族政策を再検討すべきである。

・中国政府は、暴動を武力で弾圧する方策から、できうる限り早く脱却すべきである。

・中国政府は、従来の少数民族政策が最良の結果を導き出していないことを認めて、再検討すべき時期に来ている。

※中国政府は少数民族に対して、民族の融和のために優遇政策を与えている。たとえば子どもを一人以上産んでもよい、大学試験では加点される、犯罪が軽罰化される、納税額が少ない、自治区内の国営企業においては漢族の割合が60%を超えてはならないなど。しかしこれらの援助が、ウィグル族に自助努力を怠らせ、堕落させたという指摘もある。この現象はチベット族の間でも見られ、大学入学後に統一試験を行うと、チベット族と漢族との間に格段の平均点の差が生じるという。また一般的に言ってその後も漢族学生の方が着実に努力する傾向があるという。おそらくウィグル族にもこのような傾向があると思う。

ⅳ.ウィグル族が真に民族独立を願うのならば、非暴力無抵抗主義で戦うべきである。

・暴力の応酬からはなにも生まれない。今回、ウィグル族は暴発してどのような成果があったのか。

・ウィグル族は漢族を超える精神の気高さを示し、中国政府からの支援を拒むぐらいの自主独立の気概を待たなければならない。経済支援はたくさんもらって、自助努力をせず文句だけを言うのでは虫が良すぎる。

・学問水準、スポーツ、文化芸能、経営などのあらゆる分野で漢族を凌駕することが必要である。たとえば1928年のベルリン五輪のマラソンで金メダルをとった韓国のマラソン孫基禎選手のように、あるいは1968年メキシコ五輪の200mで金メダルをとったトミー・スミス選手のように、世界のひのき舞台で高らかに民族の尊厳をうたいあげたらどうか。

・チベット族には、深遠なチベット哲学と伝統あるチベット医学がある。昨年のラサ暴動以後、私は素晴らしいチベット哲学に惹かれ、ブンツォク・ワンギェル氏の「自然弁証法新探」の邦訳に取り組んでいる。きっとウィグル族にもこのような文化遺産が多く遺されているはずでる。それを世界に披瀝し、ウィグル族の高尚さをうたいあげるべきである。

・中国における少数民族の生き方としては、朝鮮族が見本になると思う。

 私の工場は吉林省の延辺朝鮮族自治州の琿春市にあるが、その工場の幹部はほとんどが朝鮮族であり、従業員が漢族である。なぜなら朝鮮族には日本語を話す優秀な人材が多く、勤勉だからである。近辺には韓国系企業が多く進出してきており、それらにも朝鮮族が幹部として勤めている。またこの地方では、韓国への労務輸出が盛んであり、朝鮮族の若者がこぞって韓国へ赴いている。小金を貯めて帰国した朝鮮族の起業家も多く、朝鮮族の経営者のもとで漢族が働くという構図も少なくない。つまりチベット族やウィグル族の状況とはまるで反対になっているのである。これには朝鮮族固有の問題と、そのおかれた地域性の問題などもあろうが、やはり少数民族として参考にしなければならないのではないか。もちろん統治体制については、朝鮮族の中に不平不満がないわけではない。しかし暴動を起こして民族独立を勝ち取ろうという動きはない。

・先進資本主義国が果たさなければならない役目は、ウィグル族が平和を希求する素晴らしい民族であり、能力も高く、漢族とともに成長していけるということを実証する「場」を用意することではないか。

ⅴ.ウィグル族が是が非でも武力で民族独立を勝ち取りたいならば、戦略を練り直し、時期を待つべきである。

・革命を成功させるには、漢族内部に呼応勢力が必要であり、次に他の少数民族とも連携しともに決起できる状況となり、さらにイスラム諸国からの国際的な物心両面の支援が獲得でき、同時に中国共産党の全国支配体制にほころびが出始めることなどが必須である。

現在はその条件が満たされていない。ことに漢族を中心とする中国人民は、経済発展の果実を十分に受け取っており、政権を転覆させて再び社会主義国家に戻りたいと願ってはいない。不満はありながらも、現体制を支持している。このような時期ではウィグル族が暴発してみても、民族独立を勝ち取ることはできない。

・しかしあと2~3年後にはバブル経済が崩壊し、経済混乱期が来る。そのときになれば経済格差がさらに拡大し、異分子の策動に乗る漢族が出る可能性がある。

ⅵ.私は10年ほど前に、新疆ウィグル自治区のトルファンで、ウィグル族に囲まれて身の危険を感じたことがある。

トルファン市内の高昌古城遺跡を見ていたときのことである。些細なことでウィグル族から文句をつけられ、30人ほどの男に取り囲まれた。20~30分ほど揉み合っていたが、漢族のタクシー運転手の忠告もあり、罰金を払ってその場をようやく離れることができた。したがって個人的にはウィグル族には良い印象はない。

※詳細については、拙著「多国籍中小企業奮戦記」のP.234~を読んでいただきたい。

④ラビア・カーディル議長の評価は冷静かつ公平に

ⅰ.ラビア・カーディル議長(以下、ラビア氏と記す)に、ウィグル族の民族独立を標榜する資格はあるのか。

・水谷尚子氏は「中国を追われたウィグル人」の冒頭で、ラビア氏はかつて中国の10大富豪に数えられた資本家であったと紹介している。ラビア氏は1990年代初の中国の激動期に、裸一貫で洗濯屋からスタートして、艱難辛苦に耐え、巨額の富を築きあげたという。その経営者としての手腕は高く評価できる。しかし当時の中国においては、清廉潔白を売り物にしていては、大金儲けは不可能であった。私は、同時代を中国で勝ち抜いてきた資本家の一人として、ラビア氏がまともな稼ぎ方だけで、富豪になったとはとても信じられない。私は、ラビア氏の金儲けの軌跡を、冷静にかつ公平に分析してみたいと思っている。

 たとえば、中国政府はラビア氏の罪名の一つを脱税だとしているが、ラビア氏はそれを否定している。この点についてはどちらにも軍配は上げられない。なぜなら当時の納税については、地元政府の裁量巾が大きく、その額が話し合いで決まるようなところがあった。したがってその時点では正しく納税していたとみなされても、地元の政府役人が代わり、その後に話し合いが決裂すれば過去にさかのぼって脱税行為をおかしていたとみなされることになる。だから脱税行為の有無で論争してみても、それは水掛け論になるだけである。

・しかしいったん金儲けの道を選んだ者が、その人生をしっかりと総括しないで、そのまま清廉潔白な社会運動の指揮者におさまることには、私は納得できない。金儲けは性悪の人間の所業である。したがって私も性悪な人間であり、ラビア氏も性悪な人間なのである。だから水谷尚子氏をはじめとする、マスコミ諸氏はラビア氏を、聖人君子のように持ち上げるべきではない。民族独立というような崇高な使命を帯びた運動の指導者には、資本家や経営者として金儲けに専心したような人間は馴染まない。

ⅱ.ラビア・カーディル議長に、ウィグル族の民族独立闘争を指導する能力があるのか。

・もし私が「世界ウィグル会議」の議長で、真に民族独立を志向するのならば、今回のような軽挙妄動はさせない。民族独立闘争を成功させるには、それなりの条件(上述)が必要であるが、現在はそのどれをとっても可能性はきわめて少ない。このような時期に蜂起してみても、それは弾圧の絶好の口実となるだけである。このようにラビア氏に民族独立闘争を戦略的に構想し、それを指導する能力がなかったから、今回の暴発を食い止めることができなかったと判断するのが妥当なのではないか。

・今回の暴動でウィグル族は、まず同じイスラム教徒である回族を襲撃した。ウィグル族は、民族独立の際には、漢族の中での呼応部隊として味方につけなければならない回族を最初に襲ったのである。かつての東トルキスタン独立においても、ウィグル族は回族を味方とは見ていなかったという。ラビア氏がやっておかねばならなかったのは、せめてことが起きたときには、回族を襲撃しないようにと宣伝教育をしておくことではなかったのか。

ラビア氏は、7/29に日本を訪れた。なぜイスラム諸国に行かないで日本へ来たのか。今回のウルムチ暴動に最初に政府として抗議の声をあげたトルコに行くべきであった。その戦略眼に疑問が残る。しかもアメリカの公聴会が開催されるということで、急遽帰国した。アメリカ国内で公聴会が開催されるだろうことは簡単に予測できたはずである。情報不足もはなはだしい。また日本などに来てみても中国に対する圧力にはならない。むしろ、中国で反日意識をかきたたせ、さらに漢族を団結させるだけである。このようなことが読めないラビア氏をあまり高く評価するべきではない。

ⅲ.中国政府は今回のウルムチ暴動を、ラビア氏の率いる「世界ウィグル会議」の仕業だと主張している。

 私はこの主張は正しくないと考える。なぜなら上述のように、冷静に見て、ラビア氏にはその資格も能力もない

と考えるからである。

 

⑤ウルムチ暴動とその余波

・私は、7/28~30の3日間、ウルムチに調査に入った。事前に友人から、「ウィグル族地域に入るときは、漢族と間違えられて殴られないように、胸に日の丸をつけて行け」と冗談交じりに忠告された。実際にはそれほどでもなかったが逆に30日の早朝、漢族の知人から、「ホテルから出ないように」との電話があったのでびっくりした。私が泊まっていたホテルは暴動発生現場からはかなり離れた漢族地域にあり、ウィグル族に襲われる危険性はないと思い安心していたからである。続いて知人は、「ラビア氏が訪日したということで、漢族の反日意識が高まり、今度は漢族地域で日本人への反発が強くなったからだ」と説明してくれた。おかげで30日に予定していた調査は中途半端なものに終わってしまった。

・中国の少数民族の中で、朝鮮族の今回のウルムチ暴動についての反応は、遠い地域で起きている事件として、きわめて淡白なものであった。つまり朝鮮族には呼応して蜂起しようというような状況はまったくないということである。

 今回私は、ウルムチ暴動が起きてからすぐに、延辺朝鮮族自治州に住んでいる朝鮮族の反応を友人に聞いてもらったが、「あまり興味がない」、「政府発表には虚偽が多いので真相はわからないが、われわれには関係がない」、「これから少数民族に対する漢族からの風当たりがきつくなるのではないか」といった返事が多かったという。

 吉林日報では、新華社や人民日報社説をそのまま転載せているだけで、独自の記事や論説は一切なし。

 延辺日報にいたっては、ウルムチ暴動に関する情報を7月末までまったく紹介していない。

 インターネット上では、「中央政府の少数民族への不平等政策がもたらした結果である」という批判がある程度で、ウィグル族に殺された漢族を擁護するものや、漢民族の立場から日本など外国政府を批判するものが目立つ。中央政府からは「ネット上での論争に口を挟むとかえって過激化するので触れぬように」という通達が出ている模様。

・広東省共産党の汪洋書記は、ウルムチ暴動に関して、少数民族政策の一部見直しの可能性を示唆した。従来の少数民族地区で経済発展のみを促す方策ではなく、文化的摩擦への対処をも重視することを視野に入れているという。

・アルカイダ系組織が報復宣言。国際テロ組織アルカイダ系の組織が、ウルムチでイスラム教徒のウィグル族に死者が出た報復として、アフリカ北西部で働く中国人をテロの標的にする宣言した。

 7/14、「世界ウィグル会議」は、アルカイダの報復宣言に反対し、「暴力はいかなる問題の解決にもならない。国際テロリストはウルムチの悲劇を利用すべきではない」との声明を発表した。

 7/15、在アルジェリア中国大使館は、国際テロ組織の報復宣言に対して、在アルジェリア中国人に安全対策を呼びかけた。

8/03、アルジェリアの首都アルジェで、現地人と中国人の殴打事件が発生し、これがきっかけで中国人商店への略奪へと発展した。

 8/01、中国政府はトルコ在住中国人に対し、外出を控えるなど身辺の安全を強化するようにネット上で呼びかけた。

 ウィグル族と歴史的に関係の深いトルコでは、エルドアン首相が「中国の事件は大虐殺」と非難するなど、関係が緊張していた。

 

2. 7/15 広東省広州市 アフリカ人の抗議行動 200名規模  暴動レベル0。

①マスコミ報道 : 7/15 広州市で、アフリカ人200名ほどが、広州駅北方の広園西路を塞ぎ、警察の鉱泉派出所を取り囲み、抗議行動を行った。警察100名ほどが出動し、ただちに解散させた。このとき道路際にあった数台の一般車の窓ガラスなどがアフリカ人に壊された。

②原因 : 7/15の午後1時ごろ、警察が広州市に来ているアフリカ人のビザの一斉取締りを行ったところ、逃げようとしたナイジェリア人男性がビルから転落し、瀕死の重傷を負った。これに200名ほどのアフリカ人が抗議し、ビル前の広園西路を塞ぎ、道路を挟んで対面にあった鉱泉派出所を取り囲んだ。

③実状 : 

・2003年以降、広州市には、安価な製品を買い求めるアフリカ商人が急増している。ことに広州駅を中心とする地域の広園西路、王聖堂、下唐西路、小北路などにはリトルアフリカと呼ばれるような場所が出現しているほどである。

・1990年代には、西アフリカやマリから来たアフリカ人が多かった。その後、ギニア、ナイジェリアなどが増え、最近はコンゴ、カメルーンなどからも来ているという。

・アフリカ人の中にはビザの期限が切れても不法に滞在している人たちも多く、それらのアフリカ人の間での麻薬の取引や不法行為などが行われており、今回の一斉取締りに至った。現在、広州市には不法滞在者を含めて、約20万人のアフリカ人がいるという。

・すでに顧客をアフリカ人に定めた卸売りビルが数棟できており、その中の商店にアフリカ人が中国人オーナーに販売店員として採用されている。しかし就労ビザを取得しているアフリカ人は少なく、今回、ビルから転落したナイジェリア人もそのような店員(労働者)であったという。

・今回の事件の現場となった卸売りビルは、唐旗服装城といい、顧客をアフリカ商人にしぼっており、衣類や鞄、靴などを販売する店が200店舗ほど入居している。その中の店員の半数ほどがアフリカ人であった。それらの商店の店頭では顧客のアフリカ人と店員のアフリカ人が、よくわからない言葉でやりとりをしていた。

・広園西路付近の道路を通っていると、通行人の約半数はアフリカ人であった。私が道端でその光景を見ていると、果物を売っていた露天商の中国人が、「昨日午後4時ごろ、また警察の一斉取締りがあったので、今日はアフリカ人が少ない」と教えてくれた。

・今回の抗議行動には、中国人の野次馬もかなり集まったが、さすがに彼らが便乗して騒ぐという事態には至らなかった。したがって100人ほどの警察の出動でアフリカ人はすぐに解散させられた。アフリカ人と共謀して抗議行動に立ち上がり、暴動に発展させようとした中国人はいなかったということである。

・義烏市のアラブ人街と比べると、かなり貧弱な感じであった。アフリカ料理店などを探したが、なかなか見当たらなかった。ただしここにも回族商人が進出しており、ペルシャ料理の店はすぐにみつかった。

4. 7/02~04 雲南省楚雄彝族自治州武定県 バスオーナースト  暴動レベル0。 

・7/02~04、楚雄彝族自治州武定県で、バスの車両個人オーナーによる集団ストライキ発生。

・従来、この県では個人がバスを所有し、それを会社に貸し、個人が路線運営を請け負っていた。ところが公司側がバスを独自に購入し運営することにしたため、バスの車両個人オーナーが抗議して、8路線全部でストライキ。

 

5. 7/04 広東省白雲区江高鎮  給与支払いを求めて道路占拠  暴動レベル0。

・7/04午後3時、白雲区江高鎮付近の靴工場の従業員ら100人が、未払い給与の支払いを求めて高速道路を占拠。 

・駆けつけた警察が、首謀者18人を交通妨害で逮捕し、沈静化。

 

6. 7/04 チベット自治区昌都地区江達県  約1万人のデモ行進  暴動レベル0。

・7/04、昌都地区江達県のチベット人1万人が江達県で平和的なデモ。 

・僧侶や住民が、中国当局の昌都地区江達県の二ドンシャ・ジェチェ寺院の緑地の強制収用に抗議したもの。

・当局が合理的な解決方法を提案することを約束したため、解散。

 

7. 7/14 湖北省武漢市  武漢ボイラー工場の従業員1000名が道路を塞ぐ  暴動レベル0。

・武漢市の武漢ボイラー工場の従業員約1000名が、武絡路をデモ。数百人の警察と衝突。逮捕者10名余。

・武漢ボイラーは50年の歴史を持つ古い企業で、最近、経営者側が工場の一部を不動産会社に売却し、それにともない解雇される人員があるため、それに従業員が抗議。道路を占拠。

 

8. 7/24 吉林省通化市  通化鋼鉄集団で新社長、殴り殺される  暴動レベル1。

・7/24、吉林省の鉄鋼大手・通化鋼鉄集団で、労働者3万人が経営への不満を表明し、抗議デモ。1000名ほどの武装警察と衝突。それを制止しようとした新社長(建竜鉄鋼の社長:陳国軍)が労働者に取り囲まれ殴り殺された。労働者側にも数百人の負傷者が出た模様。

・鉄鋼業界の再編にからみ、リストラなどが行われた結果、労働者側に不満が鬱積していた。また通化鋼鉄集団を買収しようとしていた建竜鉄鋼に労働者のうらみが集中していた。さらに陳国軍社長の年収が300万人民元(約5500万円)ともいわれており、怨嗟の的になっていた。

・温家宝首相は、25から27日にかけて吉林省の国営公司を視察し、「経済構造の高度化をさらに進めなければならない。企業経営に当たっては、労働者の素質を上げなければならない」と発言した。

 

9. 7/28 浙江省温州市  タクシースト  暴動レベル0。

・温州市において、7/28早朝から、約2000台のタクシーが待遇の改善を求めてストライキ。市内タクシーの約2/3が参加。同日午後には通常に戻った。

・ガソリン高騰で経費が激増している上、市政府が営業許可証の競売制度を導入したためその価格が高騰し、多くの運転手の生活を追い詰めた。運転手は12時間働いても、月収は3000元に満たないという。

・今回のストは安徽省出身者が中心になって呼びかけられ、運賃システムの改訂などを要求して行われた。

・温州市では、タクシー車両を運転手が仲介人から借りる場合が多く、それも3から4重の又貸しもあり、賃借料も高騰しているという。

 

附.10. 06月暴動情報検証 : 湖北省石首市の追加情報

・7/25 鐘鳴石首市共産党書記、唐敦武石首市公安局長が免職処分。

・事件後、ネット上に石首市政府への多くの抗議が寄せられたため、上記の処分となった模様。ネット上では、事件のあったホテルが麻薬と犯罪の温床であったことを明らかにし、公安の幹部が堂々と犯罪に加担する姿が目撃されていたと報じている。

 

≪私の暴動評価基準≫

暴動レベル0 : 抗議行動のみ 破壊なし

暴動レベル1 : 破壊活動を含む抗議行動 100人以下(野次馬を除く) 破壊対象は政府関係のみ

暴動レベル2 : 破壊活動を含む抗議行動 100人以上(野次馬を除く) 破壊対象は政府関係のみ 

暴動レベル3 : 破壊活動を含む抗議行動 一般商店への略奪暴行を含む  

暴動レベル4 : 偶発的殺人を伴った破壊活動

暴動レベル5 : テロなど計画的殺人および大量破壊活動

 

                                                                 以上

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中国経済最新統計】(試行版)

 

上海センターは、協力会会員を始めとする読者の皆様方へのサービスを充実する一環として、激動する中国経済に関する最新の統計情報を毎週お届けすることにしましたが、今後必要に応じて項目や表示方法などを見直す可能性がありますので、当面、試行版として提供し、引用を差し控えるようよろしくお願いいたします。    編集者より

 

実質GDP増加率

(%)

工業付加価値増加率(%)

消費財

小売総

額増加率(%)

消費者

物価指

数上昇率(%)

都市固定資産投資増加率(%)

貿易収支

(億㌦)

輸 出

増加率(%)

輸 入

増加率(%)

外国直

接投資

件数の増加率

(%)

外国直接投資金額増加率

(%)

貨幣供給量増加率M2(%)

人民元貸出残高増加率(%)

2005

10.4

 

12.9

1.8

27.2

1020

28.4

17.6

0.8

0.5

17.6

9.3

2006

11.6

 

13.7

1.5

24.3

1775

27.2

19.9

5.7

4.5

15.7

15.7

2007

13.0

18.5

16.8

4.8

25.8

2618

25.7

20.8

8.7

18.7

16.7

16.1

2008

9.0

12.9

21.6

5.9

26.1

2955

17.2

18.5

27.4

23.6

17.8

15.9

  1

 

 

21.2

7.1

 

194

26.5

27.6

13.4

109.8

18.9

16.7

 2

 

(15.4)

19.1

8.7

(24.3)

82

6.3

35.6

38.0

38.3

17.4

15.7

 3

10.6

17.8

21.5

8.3

27.3

131

30.3

24.9

28.1

39.6

16.2

14.8

 4

 

15.7

22.0

8.5

25.4

164

21.8

26.8

16.7

52.7

16.9

14.7

 5

 

16.0

21.6

7.7

25.4

198

28.2

40.7

11.0

38.0

18.0

14.9

 6

10.4

16.0

23.0

7.1

29.5

207

17.2

31.4

27.2

14.6

17.3

14.1

 7

 

14.7

23.3

6.3

29.2

252

26.7

33.7

22.2

38.5

16.3

14.6

 8

 

12.8

23.2

4.9

28.1

289

21.0

23.0

39.5

39.7

15.9

14.3

 9

9.9

11.4

23.2

4.6

29.0

294

21.4

21.2

40.3

26.0

15.2

14.5

10

 

8.2

22.0

4.0

24.4

353

19.0

15.4

26.1

0.8

15.0

14.6

11

 

5.4

20.8

2.4

23.8

402

2.2

18.0

38.3

36.5

14.7

13.2

12

9.0

5.7

19.0

1.2

22.3

390

2.8

21.3

25.8

5.7

17.8

15.9

2009

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1

 

 

 

1.0

 

391

17.5

43.1

48.7

32.7

18.7

18.6

2

 

3.8

(15.2)

1.6

(26.5)

48

25.7

24.1

13.0

15.8

20.5

24.2

3

6.1

8.3

14.7

1.2

30.3

186

17.1

25.1

▲30.4

▲9.5

25.5

29.8

4

 

7.3

14.8

1.5

30.5

131

▲22.6

▲23.0

▲33.6

▲20.0

25.9

27.1

5

 

8.9

15.2

1.4

(32.9)

134

▲22.4

▲25.2

▲32.0

▲17.8

25.7

28.0

6

7.9

10.7

15.0

1.7

35.3

83

▲21.4

▲13.2

▲3.8

▲6.8

28.5

31.9

7

 

10.8

15.2

1.8

(32.9)

106.3

▲23.0

▲14.9

 

 

28.4

38.6

 

注:1.①「実質GDP増加率」は前年同期(四半期)比、その他の増加率はいずれも前年同月比である。

2.中国では、旧正月休みは年によって月が変わるため、1月と2月の前年同月比は比較できない場合があるので注意

されたい。また、(  )内の数字は1月から当該月までの合計の前年同期に対する増加率を示している。

  3. ③「消費財小売総額」は中国における「社会消費財小売総額」、④「消費者物価指数」は「住民消費価格指数」に対応している。⑤「都市固定資産投資」は全国総投資額の86%2007年)を占めている。⑥―⑧はいずれもモノの貿易である。⑨と⑩は実施ベースである。

出所:①―⑤は国家統計局統計、⑥⑦⑧は海関統計、⑨⑩は商務部統計、⑪⑫は中国人民銀行統計による。