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京大上海センターニュースレター
第282号 2009年9月7日
京都大学経済学研究科上海センター
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目次
○ 上海センター主催講演会のご案内
○ 中国自動車シンポジウム:中国農村におけるモータリゼーション
○
中国・上海ニュース 2009.8.31-2009.9.6
○ 9/04:ウルムチ暴動緊急短信
○ 日本の政権交代の日中金融通貨協力への影響について
○ 中国人経営者はビセキを知っているか?
○ 【中国経済最新統計】(試行版)
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上海センター主催講演会のご案内
近年、中国企業の海外進出(「走出去」)が世界的に注目されるようになりました。その背景にはどのような企業戦略、または国家戦略があるのだろうか。これを理解するために、下記のような講演会を企画することにしましたので、大勢のご参加をお待ちしております。
記
時 間: 2009年9月19日(土) 15:30−17:30
場 所: 京都大学経済学研究科第3教室(法経東館3階)
講 師: 康栄平(中国社会科学院世界経済と政治研究所世界華商研究中心主任)
テーマ: 「中国企業の海外進出戦略」(仮)
講師紹介:
1949年生まれ。1968年に知識青年として農村に下方、1970年に都市に戻り企業に勤務。1980年代、遼寧省社会科学院科学技術発展研究所副所長、1990年代初め首都鋼国際化経営研究所所長。1994年社会科学院世界経済と政治研究所に転職し、現在に至る。現在は同研究所の世界華商研究中心主任のほか、中国国際華商理事会副理事長、中国国際経済関係学会常務理事、『世界華商経済年鑑』常務副編集長を兼務。
氏は長年中国企業の海外進出を研究し、多くの研究業績が残された。代表作として『中国企業的跨国経営』、『企業多元化経営』、『中国企業評論:戦略与実践』、『華人跨国公司成長論』などの著書がある。現在の研究課題はWTO加盟後の中国企業成長戦略、華人跨国公司、「走出去」戦略,家族企業など。
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京都大学上海センター・東京大学ものづくり経営研究センター
共催
中国自動車シンポジウム
中国農村におけるモータリゼーション
――多元的発展プロセスの下での参入戦略――
後援:京都大学上海センター協力会
2009年11月7日(土) 13時
京都大学百周年時計台記念館百周年記念ホール
総合司会 京都大学大学院経済学研究科教授 徳賀 芳弘
13:00-13:10
挨拶 京都大学大学院経済学研究科長
八木紀一郎
東京大学ものづくり経営研究センター 新宅純二郎
13:10-13:30
京都大学大学院経済学研究科 教授 塩地 洋 汽車下郷と参入戦略
―テーマと報告構成―
[第1部 中国農村における多元的発展プロセス]
13:30-14:00
桃山学院大学経済学部 教授 厳 善平 中国農村の経済社会構造
14:00-14:30
東京大学社会科学研究所 教授 田島 俊雄 軽型車から農用車へ―中国的モータリゼーションの展開過程―
同現代中国研究拠点・北京研究基地代表
14:20-14:40
小島衣料 元社長 小島 正憲 農村の交通事情
15:00-15:20
同志社大学商学部 准教授 西川 純平 農村における販売店・修理工場・中古車
[第2部 いかに農村に参入するか]
15:40-16:00
大阪商業大学経営学部 教授 孫 飛舟 石家庄市近郊農村でのアンケート調査
16:00-16:20
東京大学ものづくりセンター 助教 李 澤建 民族系メーカーの農村戦略
16:20-16:40
熊本学園大学経済学部 准教授 三嶋 恒平 タイにおける日系自動車メーカーの農村戦略
16:40-17:10
伊藤忠商事 シニアフェロー 石岡 徹 日系メーカーによる中国農村戦略
17:10-17:15
閉会挨拶
17:30-18:30
懇親会 カンフォーラ
司会 京都大学大学院経済学研究科 教授 劉 徳強
挨拶 京都大学上海センター協力会 副会長 大森經徳
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中国・上海ニュース 8.31−9.6
ヘッドライン
■ 中国:企業トップ500 5年連続1位 売上総額364兆円
■ 中国新疆:ウルムチ市トップを更迭=暴動やデモで引責
■ 新型インフル:各地で感染者確認、すでに流行は拡大の兆し
■ 通信産業:携帯電話の契約者が7億人突破
■ 鉄道:チベットに2本目の鉄道、成都とラサを結ぶ「川蔵鉄道」着工へ
■ 社会:青少年の死因1位は「自殺」
■
四川大地震:生存者の脳機能に変化
■ 北京:1人平均貯蓄額、100万円に迫る
■ 香港:加速する高齢化社会、60歳以上が人口の16%に
■
深セン:新エネルギー発展計画、自動車・太陽光・原発など開発に重点
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9/04:ウルムチ暴動緊急短信
02.SEP.09
美朋有限公司董事長
中小企業家同友会上海倶楽部代表
上海センター外部研究員 小島正憲
・各種の報道機関が、ウルムチの市中心部で9/03午前中、漢族住民ら数万人が治安維持を求めて政府に抗議デモを行ったと報道。 (日経新聞、朝日新聞などは、1000人以上と報じている。ネット上では数万人と報道。)
・日経新聞は、「ウルムチ市内では最近、注射針を使った傷害事件が相次ぎ発生。これまでに地元公安局が容疑者15人の身柄を拘束したが、事件をきっかけに市民が不安を強め、政府への反発に発展したという。デモ参加者の多くは漢族と見られる」と報じている。9/04のNHKテレビの正午のニュースでも、9/03のウルムチ市の漢族による抗議デモの状況を放映し、注射針による傷害事件が起きていることを報道。
・私は8月末に、ウルムチ在住の漢族商人と上海で会い、その後のウルムチ市内の情勢について、情報を聞いていた。
そのとき彼は、「ウルムチ市内では、先週からエイズ患者が自らを刺しその注射針で人を刺す事件が頻発しており、市民は恐怖を感じている。きっとウィグル族の報復だ」と話していた。それを聞いていたときはそれがこのような事件に発展するとは思わなかったが、1年ほど前の大西広京大教授の「新疆ウィグル自治区のデモ…」に関する論考の中に、「なぜか南疆地方にエイズ患者が多い」という記述があったことを思い出した。
※「新疆ウィグル自治区のデモ/テロ現場を調査して」 大西広著 京大上海センターニュースレター第236号
・今の段階で、ウルムチで頻発している注射針事件が、ウィグル族の報復であるとは断定できない。しかしながら漢族の間でそのようなうわさが飛び交い、政府に対する治安維持を求めた大規模なデモが発生したようである。現在までのところ、公式にはウィグル族への漢族の大規模な報復活動は起きていないようである。
・もしこの注射針事件がウィグル族の報復活動であったとするならば、これは新手のテロ活動である。おそらく爆弾テロよりも始末が悪いと考える。漢族の不逞の輩の行為であったとしても同様である。
・今、国際社会はこの注射針行為を、断固としてやめさせるべきである。行為の主体が漢族かウィグル族かを詮索する前に、国際社会が大きな声を出すべきである。新疆ウィグル自治区をテロ行為の応酬という泥沼に陥らせないために、さらにこの行為を世界に蔓延させないために、国際世論がそれを封じ込めなければならない。
・私は「世界ウィグル会議」のラビア・カーディル議長が、「ウルムチのウィグル族がまったく注射針事件に関係ない場合でも、ウィグル族にこのような暴挙を絶対に行わせないように、そしてウィグル族が漢族の挑発に乗らないように声明を発する」ことを強くのぞむ。
・中国当局は、注射針事件の容疑者を拘束したようだが、すみやかに事実をマスコミに公開して、無責任なうわさによる
事態の拡大を防ぎ、ウルムチ市内の漢族の心情を落ち着かせるべきである。
以上
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日本の政権交代の日中金融通貨協力への影響について
伊藤忠商事理事 石田護
8月30日の日本の総選挙で、歴史的な政権交代が起こった。62年も政権の座にあった自由民主党に代わって、民主党が政権を取ったのである。
鳩山由紀夫民主党代表は、東アジア共同体とアジア共通通貨を唱える始めての日本の首相となる。日米安全保障体制を日本外交の礎石と認めた上で、日本の基本的生活空間である東アジアに安定した経済協力と安全保障の枠組みを創るというのである。
近年の東アジアは最適生産と貿易のネットワークを構築しながら繁栄した。部品は最適国で大量生産され、域内のある一国、例えば中国に輸送して最終製品に組み立てられ、地域の内外に輸出される。直接投資がこの過程で重要な役割を果たした。今や東アジアの域内貿易比率は56パーセントである。東アジア共同体は、すでに達成した経済一体化を制度化して、地域の更なる経済発展を確保する仕組みである。アジア共通通貨は一体化された東アジア経済が要請する為替の安定を提供するものである。
実際には、金融危機発生以降、東アジアの為替は不安定である。かつて中国とアセアン諸国は、各国が自国通貨の対ドル安定に努めたので、結果として相対的に安定した為替レート関係を享受していた。ところが、金融危機でいくつかのアセアン諸国が自国通貨を下落させたので、この為替安定関係が失われてしまった。中国が始めた貿易の人民元決済の差し迫っての目的は、中国企業の為替リスクを除去することであるが、以前の東アジアに為替安定を回復する試みの第一歩でもある。これが成功すると、中国とアセアン諸国は人民元を中心通貨とする為替安定圏となる。
東アジア諸通貨に対し円が変動する構図の固定化は、今後の東アジアの成長モデルに最適な為替体制ではない。中国と日本が生産と貿易のネットワークの二つの中核である東アジアの利益にならない。東アジアは、従来の輸出主導モデルから域内需要主導モデルへの転換を迫られている。幸い、東アジアには膨大な潜在需要があって活用されることを待っている。アジア全体が安定的に繁栄することは、年1500万以上の新規雇用創出を迫られている中国を、また、低経済成長からの脱却を求める日本を利するであろう。人民元を含む東アジア諸国通貨と円の間の安定した関係はその必要条件である。
ところが、東アジアでは為替安定実現のための通貨協力は一向に進まない。世界経済与政治研究所国際金融中心の張明は、主たる障碍は政治的、歴史的なものであると考え、「日本が歴史を直視できないでいることが、東アジア通貨協力を身動きがとれないものにしているので、アジア通貨協力には、重大な危機が発生して各国が政治・歴史問題をしばし棚上げして協力が一歩進むという「危機推動的特性」があると書いている。
ここで言及しておくことがある。鳩山由紀夫は、新たに無宗教の戦没者追悼記念施設の創設を唱えている。小泉純一郎元首相は、2004年の国連総会で東アジア共同体を提唱したが、繰り返し靖国神社に参拝して中国やアジア諸国の反発を招き、結果として彼自身の提案を台無しにした。靖国神社には、他の戦没兵士たちとともに、先の戦争の責任者とされるA級戦犯が祀られているためである。鳩山構想が実現すれば、日本と日本の隣国の対立の重要な原因が除かれることになる。
今般の金融危機発生後、日中韓の政治指導者は金融協力強化の決意を表明した。実際に、アセアン+3は、1990年代のアジア通貨危機以後に構築した緊急時の信用供与の仕組みであるCMIの拡大に合意した。しかし、われわれの政治指導者たちは敢えて為替政策協調を議論しようとしない。察するに、今回程度の危機は彼らを通貨協力に動かすには深刻さが足りないのだろう。
アジアの通貨協力にアメリカの理解を得ることも重要である。実際にはアメリカからは否定的な論評が聞こえる。ヨーロッパならよいが、アジアはダメというのでは、筋が通らない。アジアは、経済一体化が進んだ地域は為替安定の仕組みを必要とするものであるという正当な主張を説明せねばなるまい。それが世界の成長センターであるアジアの活発な成長を支えるとすれば、疑いなくアメリカを含む世界の利益になる。アメリカがそれをドルへの脅威と受け取るのであれば、アメリカは世界に公約した通りに、自国の経済運営の健全化に励むべきである。胡錦涛国家主席が4月のG20で準備通貨発行国の監視強化を求めたのは、このことであったはずである。ドルの安定は巨額の外貨準備としてドル資産を保有する中国と日本の利益である。
現状では、アジア共通通貨は夢である。鳩山は、汎ヨーロッパ運動の父と呼ばれるクーデンホーフ・カレルギーの「すべての偉大な出来事は、ユートピアとして始まり、人々がそれを信じて行動した時に現実となった」を引用する。東アジアがこの夢を将来の目標として共有することは、東アジアの政治状況を改善し、通貨協力を可能とするかも知れない。鳩山構想への中国政府の反応が重要である。両国政府が鳩山が呼び起こしたであろうこの稀な機会を無駄にしないことを希望する。日中通貨協力の利益は、日中両国を超えて、東アジアにとどまらず、アメリカを含む全世界に及ぶ。
以上
*本稿は9月5日付東方早報に掲載された記事の日本語訳である。
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中国人経営者はビセキを知っているか?
02.SEP.09
美朋有限公司董事長
中小企業家同友会上海倶楽部代表
上海センター外部研究員 小島正憲
PHP新書から「微分・積分を知らずに経営を語るな」(内山力著)という本が、発行された。
私は高校時代の数学の時間に、どうしても「微分・積分」が理解できず教室で先生によく叱られた。赤っ恥をかいて、とうとう落ちこぼれ生徒になってしまったほろ苦い経験を持っている。したがって店頭でこの本に出会ったとき、一瞬、顔が真っ赤になり、胸がどきどきした。「ビセキもわからないようなお前は、おちこぼれ経営者だ」と経営者失格を宣告されたような気がしたからである。
その本のブックカバーには、「在庫管理、価格決定、マーケティングなど、私たちはあらゆるビジネスシーンで“昨日の結果から明日を読む”ことが求められる。カンや経験で予想を行ってきた多くの企業を尻目に、セブン・イレブン・ジャパン、トヨタ、花王は微分・積分を活用することで大成功をおさめた。“ビセキ”こそは、世界中の天才たちの努力によって生み出された、最も確実に明日を読む方法なのだ。しかもその概念は極めて単純、誰にでも理解できる。数字に強い“できる人”、堅実な経営者となるためには、本書の内容を理解しておきたい」と書いてあった。
私はこの中の、「極めて単純、誰にでも理解できる」という宣伝文句につられて、その本を購入した。確かに本文はわかりやすく、40年ぶりにビセキコンプレックスから解放されたような気になり、「高校時代の数学の先生がこのようにビセキを教えてくれれば、私の人生がもっと変わったものになっていただろうに」と、複雑な思いがこみ上げた。
現下の不況は、日本の誇る大企業の経営を直撃している。トヨタを例にとれば2兆円の黒字から、8千億円の赤字予測に転落した。大企業は慌てふためいて派遣切りに走り、世間の顰蹙を買っている。大企業の経営者はほとんど有名大学の出身であり、私のようなマンモス私立大学出ではない。彼らの高校時代はきわめて優秀であり、ビセキなど軽くマスターしていたにちがいない。それでも彼らの中で、この不況を事前に予測し、数字を落とさず企業経営を守った優秀な経営者はほとんどいなかった。つまりこの間の経済の激変は、ビセキが無力であることを証明したようなものである。
私はビセキを理解していなかったが、経済の暗転局面をいちはやく予測することができた。米国でサブプライムショックが起きたときに、ただならぬ気配を感じたのである。したがってまずはじめに社長である私が会社のすべての役職を辞し、次に後継社長が会社の構造を大改革した。その結果、金融危機が襲ってきたときには、すでに私の会社はリストラが完成し、磐石で揺らぐことはなかった。なぜ、ビセキが理解できなかった中小企業のオヤジにできたことが、ビセキに精通した大企業の優秀な経営者にできなかったのであろうか。ビジネスの成否は、突然の運・不運で決まることが多い。それを科学的に解析することは不可能に近い。つまり過去の延長線上で未来を予測しようとするビセキの科学的手法は、激変する経営環境の前では無力なのである。
予測不可能で突然の激変を前にした場合には、思考方法などは役に立たない。なによりも「やる気」が大事である。「たとえどのような事態になろうとも、臨機応変、切り抜けてやる」という精神力こそが必要不可欠なのである。このように書くと、いつもそれは科学的でないと批判を受ける。しかしながら自らの経営者人生を振り返ったとき、ここまで生き延びてくることができたのは運がよかったとしか言いようがないし、危機に際したとき開き直って努力をしたからだとしか説明のしようがないからである。理論よりも、「やる気」が、事態を打開してきたからである。
現在、中国が世界経済を引っ張っている。その中国の第1線経営者たちには大卒が少ない。改革解放後のドサクサにまぎれて台頭してきた経営者が多いからである。彼らの若者時代は文革終了直後で、教育は荒廃していた。それでもチャンスに恵まれ金儲けに成功した彼らは、さらにビジネスを拡大しようとした。残念ながら無学の彼らはそこで壁にぶち当たり、あらためて勉強しはじめた。今では少し下火になったが、数年前までそのような壮年経営者を対象としたMBAコースが花盛りであった。そのコースでもビセキはほとんど教えない。だからとても中国人経営者がビセキなどをマスターしているとは思えない。
現在、中国の教育では、微分・積分は高等学校の2年生で簡単に教えている。大学受験で、微分・積分を応用して回答すると、たとえそれが正解であっても採点の対象にはならず0点だという。大学の文科系では微分・積分は選択科目となっており、文科系学生はほとんど勉強しないらしい。理科系では必修科目となっており、すべての理科系学生は中レベルまで受講するようになっており、数学専攻者は高レベルを習得しなければならない。ちなみに私の友人の息子が復旦大学のコンピューター専攻で、そこでは微分・積分については中レベルの授業が行われているという。もちろん大学院をめざす学生には、ビセキは必修科目である。
つまり現在の中国では、理科系大学を卒業したものでなければ、ビセキなんぞ学んではいない。ましてや壮年の現役中国人経営者はビセキなど知る由もない。それでも中国経済は沸きかえり、金融危機後の経済復興競争の先頭を走っている。ビセキは知らないが「やる気満々」の中国人経営者が、沸騰する中国経済の中で、金儲けに奔走しているからである。実際にビセキを知らない彼らの中から成功者が現れ、大金持ちになる人が続出している。中国ではすでに10数年前から、起業ブームが続いてきている。それが中国経済の活況を支えてきたといっても過言ではないだろう。出稼ぎ労働者が田舎に帰れば、だれもが近所の人の成功物語を聞かされる羽目になる。だからそれにあこがれて猫も杓子も起業する。しかもそれらは親戚一党から金を借り集めて始める者が多く、当初はもぐり営業を続けるので、政府の統計数値にはまったく表れてこない。この10数年で私の工場だけでも、独立起業して社長になったものは100人を超す。今、中国ではそれらのビセキを知らない成り金経営者が肩で風を切って歩いている。
一方、日本では中小零細企業がどんどん減っている。この数年、企業の開業率を廃業率が3%ほど上回る状態が続いている。したがって単純に計算すれば、30年経てば日本から企業がすべて姿を消すことになる。この事態は、少子化などよりはるかに深刻である。最近、日本の完全失業率は過去最悪の5.7%になったと報じられた。その原因の一つに、大企業の派遣切りが槍玉にあげられ、次期国会では労働者派遣法の改正まで取沙汰されている。しかしそうしてみても失業率は改善されないだろう。守りに入っている大企業に雇用を拡大せよと迫ってみても、景気が良くならない限り労働者を増やすことはないだろう。ましてや労働者派遣法を改正して、解雇が難しい正規労働者ばかりにしてしまったら、少々景気が良くなっても労働者を増やさないだろう。失業率を減らす最も良い方法は、企業数を増やすことである。中小企業が雨後の筍のように増えれば、労働者はそこに吸収され、失業率は大幅に改善される。そんなことは自明の理である。しかし残念ながら、日本の中小企業は減る一方である。
一般的には、中小企業を活性化し起業家を増やす政策として、すぐに資金面での支援が取沙汰される。しかし金を貸してみても、起業家は増えない。だれも金を借りてまで、起業しようとしないからである。今、日本の若者は社長をやりたがらない。若者の心の中には小さいときから、「社長とはテレビの前で頭を下げている禿か白髪の格好の悪い人間」という印象が刷り込まれているからである。この点で、起業家つまり社長を軽蔑の対象にして、若者から社長になる夢を奪い、それで視聴率を稼いでいるマスコミの責任は大きい。とにかく日本の若者には、金を借りリスクを背負ってまで、起業しようとする者がほとんどいない。これに加えて現存する中小企業は後継者難である。借金のあるような展望のない中小企業は誰も継がない。借金がなく業績がよい中小企業は、株価が高くなりすぎて後継者が相続できない。いずれにしても現存する中小企業は、後継者がいなくていずれ消えてなくなる運命である。
確かに中国はバブル経済に突入しようとしている。しかしそれに人民が踊っており、金持ち全盛の社会となっている。すべての人が起業し社長になろうとしており、やる気満々の社会である。上海の繁華街で、「社長」と大声で叫ぶと、ほとんどが振り向くような雰囲気である。彼らの羽振りはよく、みんなが社長と呼ばれたがっている。どんどん企業数が増えるので、5年ほど前から、さしもの13億の中国にも人手不足現象が現れてきた。政府の発表する統計では失業者がかなり多いようだが、実際には労働者がもぐり営業の中小企業に吸収され尽くして、中国のかなり田舎まで行っても人手は不足している。その結果、労働者の給与は最低賃金制などには関係なく、どんどん上がって行く。
中国を例に出すまでもなく、起業家を増やすには、誰もが社長になりたがるような雰囲気を醸成することである。ことに起業家に敬意を表するような社会の雰囲気を作ることである。私財を銀行に担保に入れて、金を借り起業し、リスクを背負って労働者を食わせていく経営者が、社会から蔑視されるような風潮をなくすべきである。
資本主義は資本家と労働者がいて成立するものである。その資本主義社会から、資本家がいなくなれば社会主義 となる。マルクスも資本家が自滅するとは予測していなかったが、結果は同じ社会主義社会の到来となる。したがって資本主義社会を存続させたいと願うならば、資本家を生き延びさせるべきである。資本主義社会は労働者・消費者が主人公ではない。資本主義社会は資本家が主人公なのである。もちろん社会主義社会は労働者が主人公である。現代日本は資本主義社会であるから、自らリスクを背負って社長をやる人間が主人公であり、その人たちが敬意を表されるべきである。現在の日本のように、だれも社長をやりたくない、あるいはだれも責任を取りたくない、だれもリスクを背負って企業経営をやろうとしないという風潮の社会が長く続けば、その結末は当然のことながら労働者ばかりの社会主義社会となる。
※上記は、話をわかりやすくするために、資本家=経営者=社長=金持ちと単純化して書いた。
以上
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中国経済最新統計】(試行版)
上海センターは、協力会会員を始めとする読者の皆様方へのサービスを充実する一環として、激動する中国経済に関する最新の統計情報を毎週お届けすることにしましたが、今後必要に応じて項目や表示方法などを見直す可能性がありますので、当面、試行版として提供し、引用を差し控えるようよろしくお願いいたします。 編集者より
|
@ 実質GDP増加率 (%) |
A 工業付加価値増加率(%) |
B 消費財 小売総 額増加率(%) |
C 消費者 物価指 数上昇率(%) |
D 都市固定資産投資増加率(%) |
E 貿易収支 (億j) |
F 輸 出 増加率(%) |
G 輸 入 増加率(%) |
H 外国直 接投資 件数の増加率 (%) |
I 外国直接投資金額増加率 (%) |
J 貨幣供給量増加率M2(%) |
K 人民元貸出残高増加率(%) |
2005年 |
10.4 |
|
12.9 |
1.8 |
27.2 |
1020 |
28.4 |
17.6 |
0.8 |
▲0.5 |
17.6 |
9.3 |
2006年 |
11.6 |
|
13.7 |
1.5 |
24.3 |
1775 |
27.2 |
19.9 |
▲5.7 |
4.5 |
15.7 |
15.7 |
2007年 |
13.0 |
18.5 |
16.8 |
4.8 |
25.8 |
2618 |
25.7 |
20.8 |
▲8.7 |
18.7 |
16.7 |
16.1 |
2008年 |
9.0 |
12.9 |
21.6 |
5.9 |
26.1 |
2955 |
17.2 |
18.5 |
▲27.4 |
23.6 |
17.8 |
15.9 |
1月 |
|
|
21.2 |
7.1 |
|
194 |
26.5 |
27.6 |
▲13.4 |
109.8 |
18.9 |
16.7 |
2月 |
|
(15.4) |
19.1 |
8.7 |
(24.3) |
82 |
6.3 |
35.6 |
▲38.0 |
38.3 |
17.4 |
15.7 |
3月 |
10.6 |
17.8 |
21.5 |
8.3 |
27.3 |
131 |
30.3 |
24.9 |
▲28.1 |
39.6 |
16.2 |
14.8 |
4月 |
|
15.7 |
22.0 |
8.5 |
25.4 |
164 |
21.8 |
26.8 |
▲16.7 |
52.7 |
16.9 |
14.7 |
5月 |
|
16.0 |
21.6 |
7.7 |
25.4 |
198 |
28.2 |
40.7 |
▲11.0 |
38.0 |
18.0 |
14.9 |
6月 |
10.4 |
16.0 |
23.0 |
7.1 |
29.5 |
207 |
17.2 |
31.4 |
▲27.2 |
14.6 |
17.3 |
14.1 |
7月 |
|
14.7 |
23.3 |
6.3 |
29.2 |
252 |
26.7 |
33.7 |
▲22.2 |
38.5 |
16.3 |
14.6 |
8月 |
|
12.8 |
23.2 |
4.9 |
28.1 |
289 |
21.0 |
23.0 |
▲39.5 |
39.7 |
15.9 |
14.3 |
9月 |
9.9 |
11.4 |
23.2 |
4.6 |
29.0 |
294 |
21.4 |
21.2 |
▲40.3 |
26.0 |
15.2 |
14.5 |
10月 |
|
8.2 |
22.0 |
4.0 |
24.4 |
353 |
19.0 |
15.4 |
▲26.1 |
▲0.8 |
15.0 |
14.6 |
11月 |
|
5.4 |
20.8 |
2.4 |
23.8 |
402 |
▲2.2 |
▲18.0 |
▲38.3 |
▲36.5 |
14.7 |
13.2 |
12月 |
9.0 |
5.7 |
19.0 |
1.2 |
22.3 |
390 |
▲2.8 |
▲21.3 |
▲25.8 |
▲5.7 |
17.8 |
15.9 |
2009年 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
1月 |
|
|
|
1.0 |
|
391 |
▲17.5 |
▲43.1 |
▲48.7 |
▲32.7 |
18.7 |
18.6 |
2月 |
|
(3.8) |
(15.2) |
▲1.6 |
(26.5) |
48 |
▲25.7 |
▲24.1 |
▲13.0 |
▲15.8 |
20.5 |
24.2 |
3月 |
6.1 |
8.3 |
14.7 |
▲1.2 |
30.3 |
186 |
▲17.1 |
▲25.1 |
▲30.4 |
▲9.5 |
25.5 |
29.8 |
4月 |
|
7.3 |
14.8 |
▲1.5 |
30.5 |
131 |
▲22.6 |
▲23.0 |
▲33.6 |
▲20.0 |
25.9 |
27.1 |
5月 |
|
8.9 |
15.2 |
▲1.4 |
(32.9) |
134 |
▲22.4 |
▲25.2 |
▲32.0 |
▲17.8 |
25.7 |
28.0 |
6月 |
7.9 |
10.7 |
15.0 |
▲1.7 |
35.3 |
83 |
▲21.4 |
▲13.2 |
▲3.8 |
▲6.8 |
28.5 |
31.9 |
7月 |
|
10.8 |
15.2 |
▲1.8 |
(32.9) |
106.3 |
▲23.0 |
▲14.9 |
|
|
28.4 |
38.6 |
注:1.@「実質GDP増加率」は前年同期(四半期)比、その他の増加率はいずれも前年同月比である。
2.中国では、旧正月休みは年によって月が変わるため、1月と2月の前年同月比は比較できない場合があるので注意
されたい。また、( )内の数字は1月から当該月までの合計の前年同期に対する増加率を示している。
3. B「消費財小売総額」は中国における「社会消費財小売総額」、C「消費者物価指数」は「住民消費価格指数」に対応している。D「都市固定資産投資」は全国総投資額の86%(2007年)を占めている。E―Gはいずれもモノの貿易である。HとIは実施ベースである。
出所:@―Dは国家統計局統計、EFGは海関統計、HIは商務部統計、JKは中国人民銀行統計による。