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京大上海センターニュースレター

293号 20091123
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

○ 国際研究セミナ:中国経済の構造転換―日本の経験との比較―

○ 「中国経済研究会」のお知らせ

○ 中国・上海ニュース 2009.11.16-2009.11.22

○ 読後雑感:09年8~10月発行本-その2

○ 【中国経済最新統計】(試行版)

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京都大学経済学研究科上海センター主催・上海センター協力会後援

国際研究セミナプログラム

 

中国経済の構造転換

―日本の経験との比較―

          時 間: 20091128()

           場 所: 京都大学芝蘭会館別館会議室

              言 語:  日本語・中国語(通訳あり)

 

9:00 開始

開会の御挨拶:八木紀一郎((京都大学経済学研究教授、研究科長)

 

午前の部:

司会:劉徳強(京都大学経済学研究科教授、上海センター長))

9:1510:15 渡辺純子(京都大学経済学研究科准教授)

「産業調整に対する政策・企業の対応日本の繊維産業の事例―」

10:1511:15 楊瑞竜(中国・中国人民大学経済学院教授、院長)

「金融危機後の中国経済成長の源泉と可能な道」

11:1512:15  植田和弘(京都大学経済学研究科教授)

「日本における環境問題と持続的発展()

 

午後の部:

司会:渡辺純子(京都大学経済学研究科准教授)

13:1514:15 胡春力(中国国家発展改革委員会産業発展研究所研究員、前所長)

「中国産業構造調整の課題」

14:1515:15 久本憲夫(京都大学経済学研究科教授)

「高度成長期から安定成長期における日本労使関係の変化」

15:1516:15 袁志剛(中国・復旦大学経済学院教授、院長)、孫立堅(同教授、副院長)

「就業構造の変化と中国経済の均衡成長」

 

16:15 

閉会の御挨拶:岩本武和副研究科長

16:30 終了

 

5:00 レセプション

 

*学外の方もご自由に参加できます。参加のお問い合わせは劉liu@econ.kyoto-u.ac.jpまでお願いします。)

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「中国経済研究会」のお知らせ

 

2009 年度第7回目の研究会は、この度、日本に滞在中のキューバ経済研究所副所長で、東アジア経済に深い関心をお持ちのオマール・エベルレ二氏に上記テーマでご報告いただくこととなりました。めったにない機会として是非ご参加ください。

 

 

  時  間: 121516301800 

  場  所: 京都大学吉田キャンパス・法経済学部東館3階第311教室

 報 告 者: オマール・エベルレ二(キューバ経済研究所副所長)

テ ー マ: 「中国、ベトナムとの比較におけるキューバの経済改革」

使用言語: スペイン語。但し、通訳有。(森口舞:神戸大学博士院生)

 

【講師紹介】

オマール氏は1984年からずっと国立ハバナ大学キューバ経済構造及び経済担当教授、国立ハバナ大学付属キューバ経済研究所副所長もされ、また1999年~2002年にはハバナ市経済担当副市長顧問をされています。

 また、社会主義をめざすキューバにあって、氏は、一貫して「経済開放」を追求されてきた著名な国際派経済学者です。氏は内外の多くの経済専門誌からの執筆依頼を受けるほか、キューバ国外で開催される経済関連国際会議にキューバ代表として頻繁に参加しており、名実ともにキューバを代表する経済学者の一人です。

 

【主要著書】

Miguel Alejandro Figueras y Omar Everleny Pérez Villanueva, La Realidad de lo imposible: La Salud Pública en Cuba, Editorial de Ciencias Sociales, La Habana, 1998.キューバの医療制度を全面的に解明したもの。

Omar Everleny Pérez Villanueva ed., Cuba: Relexiones sobre su economía, Universidad de La Habana, La Habana, 2002. キューバ人経済学者による現状分析。

Omar Everleny Pérez Villanueva ed., Reflexiones sobre economía cubana, Editorial de Ciencias Sociales, La Habana, 2004. キューバ経済の現状分析論文集

Jorge I. Domínguez, Omar Everleny Pérez Villanueva and Lorena Barberia ed., The Cuban Economy at the Start of the Twenty-First Centuy, Harvard University Press, Cambridge, 2004. アメリカとキューバ人学者による論文集

Omar Everleny Pérez Villanueva ed., Relexiones sobre su economía cubana, Editorial de Ciencias Sociales, La Habana, 2006. 2002年版の改定新版。

 

注:本研究会は原則として授業期間中の毎月第3火曜日に行います。2009年度における開催(予定)日は以下の通りです。

 前期: 421日(火)、 519日(火)、 616日(火)、721日(火)

  後期: 1020日(火)、1114日(土)1215日(火)119日(火)

 

(この件に関するお問い合わせは劉徳強(liu@econ.kyoto-u.ac.jp)までお願いします。なお、研究会終了後、有志による懇親会が予定されています。)

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中国・上海ニュース 11.16-11.22

ヘッドライン

■ 中国商務省:「今後2ヶ月は消費の加速続く」

■ 新型インフル:死亡率は世界平均の20分の1!中国医学による治療も

貢献

      天候:建物倒壊や農作物への被害広がる、損失額900億円に

■ 旅行:09年の観光収入が15兆円超に

■ 経済:中国「住宅白書」、今後の販売数は減少・来年第2四半期から回復の予測

■ 経済:中国中央TVが広告枠競売、落札総額は過去最高1560億円

■ 自動車:新エネ車産業の発展計画、3月にも公布か

      宗教:チベット仏教の僧侶は12万人、3大分派で最多

■ 北京市:3割が外来人口=流動人口抑制策は都市発展にマイナスと専門家

      河南省:文字博物館オープン-甲骨文字出土の安陽市

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読後雑感:09年8~10月発行本-その2

 19.NOV09

美朋有限公司董事長

   中小企業家同友会上海倶楽部代表

上海センター外部研究員  小島正憲 

その2 : 1.「私はなぜ中国を捨てたのか」  2.「日中対決がなぜ必要か」 3.「株式会社中華人民共和国」

1.「私はなぜ『中国』をすてたのか」  石平著  WAC刊  2009年8月14日発行

本著の最後のページには、「本書は2006年10月に飛鳥新書より出版された『私は“毛主席の小戦士”だった』を改題・改訂した新版です」と書かれている。今回それがワック株式会社から、なぜわざわざ再出版されたのであろうか。私にはその理由がよくわからないが、うがった見方をすれば、最近、石平氏のマスコミへの登場が多くなったので、過去の本を引っ張り出し一儲けしようと企んだとも考えられる。なぜならこの本の中身からは、どうしても今のこの時期に再出版されなければならない必要性が読み取れないからである。

さらに石平氏は新版まえがきで、「日本に帰化し、めでたく晴れて日本国民の一員となった」と書き、続いて「毛沢東を崇拝して“革命の小戦士”になろうと決心していたかつての中国人少年が、今や日本国民の一人として、日本の保守論壇で独自の論陣を張るようになっているのである」と述べている。この石平氏の述懐に対抗するつもりはないが、石平氏がこのような売り出し方をするのならば、あえて小島正憲もここに、「私も数年前に中国の永住権を取得した」、さらに「私も“毛主席の小戦士”だった」と明言し、以下に本文中の石平氏の述懐を検討しながら、私の生き様と対比してみたい。

①石平氏の生き様は、一貫して「体制派」である

文中から石平氏の半生を読み解くと、彼が常に「体制派」として生き続けてきたことが浮き彫りになってくる。おそらく石平氏には自らが「体制派知識人」であるとの自覚はないだろうが。

彼は1962年に生まれ、少年時代を、「毛主席の小戦士」として過ごした。つまり一般の少年と同じく、体制に迎合していたわけである。そして鄧小平の改革・開放時代に入った時点から、「この国のために人生を捧げよう」と決意し、民主化運動へ邁進した。ここでも同時代の青年と同じく、時代の流れに身を任せていただけで、大学の先生からの忠告や共産党組織からの「厳重注意」を受けたようだが、特段に命を賭けて反体制を貫いたわけではない。そして1988年に日本へ留学し、彼は日本であの天安門事件を迎えたのである。彼の仲間の数名が反体制を貫いて、天安門前で死んだというが、石平氏はその仲間の死を横目で見ながら、日本に居続ける道を選んだ。そして彼は、日本でも保守論壇という「体制派」に身を置き、時の権力の鼻息をうかがいながら、「反中」の急先鋒として活躍することになった。このように見てくると、石平氏が常に「体制派」に身を委ねてきたかがよくわかるであろう。

石平氏は中国共産党に2度騙されたと言いながら、なぜ騙されたのかを真剣に考え抜いてはいない。2度も騙されたのは、石平氏が「反体制派」として生き抜いて来なかったからである。彼は文中で、「私たちは今までの苦しい体験をバネにして“懐疑の精神”というものを身につけていた。教科書に対しても、人民日報に対しても、党と政府の公式発表や指導者たちの談話に対しても、この中国で流布されているすべての言説に対して、まず一度懐疑の目で見て、自分たちの理性に基づき、それを徹底的に検証していくという精神である。懐疑と理性による検証を経ていないものは決して信用しない、という断固たる決意である」と、自らの哲学を長々と披露しているが、体制内に身を置いていたのでは、その体制を懐疑的に見ることは不可能である。反体制派つまり少数派に属し、その身を危険に曝すような逆境に立ってこそ、はじめてそこで懐疑と批判精神が身に付くのである。石平氏は、せめて日本では反体制の革新論壇に身を置くべきだったのではないか。

日本では、金銭のことを考えると、「反中」を売り物にし、為政者=時の権力に迎合して、保守論壇で論陣を張った方が有利であろう。革新論壇に立ってみたところで、本もたいして売れないし、講演の依頼もあまりないだろう。最近、石平氏の顔をテレビなどで見かけることが多くなったが、「体制派知識人」として「反中」で売り出したという点では彼の身の処し方は正解だったと思う。ただし今秋から民主党政権に変わったので、「体制派」の石平氏も、いやおうなしに「反体制派」に変わらざるをえなくなった。したがってこれからの石平氏は、中国と戦略的互恵関係を結ぶようになった民主党政権の中国政策を批判し、民主党を支持する多数派の日本人を敵に回して論陣を張らなければならないことになった。これからは彼の厳しい日本の為政者批判の声が、各所で聞けるにちがいない。それでも言論の自由が横溢している日本社会では、時の権力批判を展開しても生命の危険はないから、石平氏は安心して論陣を張ればよい。ただしそれで十分食っていけるかどうかはわからないが。

②私は一貫して「反体制派」として生きてきた

私も「毛主席の小戦士」だった。しかしながら日本では、一貫して共産主義思想は反体制思想であり、世間から白眼視される立場にあった。したがって私は当然のことながら、日陰者であり、反体制派であった。また常に少数派であり、多数派である体制側から異端視され続けたので、私には資本主義という体制に対する懐疑や批判の精神が自然に身についた。その上、文革開始とともに、その少数派内部でも毛沢東に関する論争が巻き起こり、やがて組織の分裂・抗争にまで発展した。私の信頼していた同士や先輩たちが、現場に足を運ばず理論のみに拘泥し、敵味方に分かれて罵倒し合う場面に出くわし、私はたいへん困惑した。そのとき多くの人たちのを意見を聞いてみたが、結局、それだけでは真相はまったくわからなかった。その中で、毛沢東思想をはじめとして、すべての思想を鵜呑みにすることなく批判的に吸収しなければならないことを悟った。さらにその混乱の中から、真相究明の手がかりは机上の空論の中ではなく、「実事求是」の精神にあると体得した。これが私を現在に至るまで、徹底した現場主義に立たせている背景である。

私は学生運動をやっていたときも、学内では主流派ではなく反主流少数派に属していた。そのため、いつも主流の多数派の連中から殴られた。企業家になってからも、あえて体制側の官製団体には属さず、中小零細企業の立場に立つ非主流少数派組織に身を置いてきた。したがってビジネスにおいて政治の恩恵を直接受けたということはほとんどなかった。それどころか一時期、日本の公安組織からマークされていたこともあった。

私はこの20年間、中国の大地の上でたくさん金儲けをさせていただいた。しかも数年前に、中国の永住権を取得した。だから中国に感謝しているし、悪口を言うつもりはない。さらに私は過去において、私たちの先輩日本人が中国で犯してきた悪しき行為についても、深い贖罪意識を抱いている。

その上で、中国が素晴らしい国に軟着陸することを願って、私はあえて中国の体制に迎合しないで、中国の暗部や恥部にも光を当てるような「実事求是」を行っているのである。寛大な中国政府が私如きの愚挙に、目くじらを立てるとは思わないが、今後も身を危険に曝し、老躯に鞭打って「反体制派」としての初志を貫いて走り続けたいと思っている。

③「論語」などを懐疑の目で見ることが必要である。

石平氏は、日本の花鳥風月や日本人の礼儀正しさに感銘したと書き、さらに彼は日本に来てはじめて「論語」の素晴らしさを知り、北条時宗や西郷隆盛や楠木正成の生き様に感嘆し、よりいっそうの愛日主義者になったと書いている。しかし「論語」で教育され、西郷隆盛や楠木正成で愛国主義を鼓舞された若者たちが、中国侵略へと駆り立てられ、あの残忍な行為を行ったのである。だからこの点にこそ、懐疑と批判の目が向けられなければならないのである。ここでも常に「体制派」として生きてきた石平氏には、その視点が決定的に欠落している。

私は浅学なので、ここで「論語」論争をするつもりはない。しかし石平氏が文中で例としてあげている「修身斉家治国平天下」の解釈(自分の身を修め、家庭をととのえ、国を治めて天下を平和に導く)にも、多くの異論があることを指摘しておきたい。私はある華僑から「修身…」の意味を、「家庭の中に複数の夫人が同居していて、それをうまく取りさばける実力を備えた男のみが、天下を丸く治めることができる」と教えてもらった。儒教が中国の春秋戦国時代の激動の歴史の中から生まれたものであることを考えた場合、私は華僑の言葉を信じる。石平氏は日本の戦前の論語解釈だけでなく、もっと深く広く儒教を学ぶべきである。

なお昨今、中国政府は世界各地に「孔子学院」を数多く開設し、儒教を通じて中国の影響力を世界に波及させようとしている。このように儒教は常に為政者の側に立つ思想であり、体制擁護に役立ってきたのである。「体制派知識人」の石平氏がそんなに「論語」にご執心であるのならば、この「孔子学院」の講師を買って出ればよい。すでに日本には5校以上が開設されているから、それで十分飯が食えるだろう。逆に石平氏がこの「孔子学院」の向こうを張って、「真正孔子学院」を作れば、賛同者も多く集まり、結構儲かるかもしれないとも思うが。

西郷隆盛についても、私はこの1年間その足跡を辿ることによって、西郷が一般に膾炙されているほど立派な人物ではないことを立証してきた。また楠木正成についても、正成・正行父子の忠臣ぶりよりも、彼らが格好良く死んでいったあと、残った一族郎党を一身に背負って苦労した楠木正儀の生き様こそが、高く評価されるべきであると考えている。

石平氏は、せっかくその立場が「反体制知識人」になったのだから、ここでしっかり懐疑と批判の目を養い、新たな中国観を打ち立てるべきである。さもないと猛スピードで変化している中国の方が、新体制に早く軟着陸してしまい、「反中」を1枚看板にしていては食い扶持がなくなる可能性が大きいからである。

                                                                  

2.「日中対決がなぜ必要か」  中嶋嶺雄・石平共著  PHP刊  2009年10月2日発行

 

この本は今、店頭にうず高く積まれており結構売れているようだが、あえて買ってまで読むだけの価値はないと思う。

なぜならこの本は、革命後の中国の歴史についての概説書のようであり、現在の中国情勢に鋭く迫ったものではないからである。また若い石平氏が年配の中嶋氏に教えを乞うという叙述スタイルがとられ、中嶋氏と石平氏の、内容にまったく深みのない雑談を読むのは時間の無駄だと思うからである。しかしながら中嶋氏の過去の著作と私は、少なからぬ因縁がある。まずそれを述べ、次に簡単にこの本について論じる。

①私は中嶋氏の思想遍歴に40年以上付き合ってきた

現在、私の書庫には中嶋嶺雄コーナーがあり、氏の著書が20冊以上並んでいる。一番古いものは、1966年、中嶋氏が30歳のときに書いた「中国文化大革命」である。当時、私はこの本に大きな刺激を受けた。他の多くの学者やエコノミストたちが文化大革命の真相がわからず右往左往していたときに、若き中嶋氏は丹念に文献を集め精査し、その上で文化大革命が権力闘争であると結論付けていた。その論考はずば抜けたものだった。次に書棚に鎮座しているのは、1980年11月に発行された「失われた中国革命」(彭述之著・中嶋嶺雄編訳)である。私はこの本から、それまで持っていた中国革命への疑問を解くカギを与えられた。まさに目からうろこが落ちた思いであった。私はすっかり中嶋氏のファンになっていた。

しかし1993年3月、中嶋氏は長谷川慶太郎氏と共著で「解体する中国」という本を出し、その中で中国経済が破綻へ向かっていると分析し、「革命50周年、つまり建国後半世紀は今世紀末の1999年であるが、中華人民共和国の命脈は、ひょっとするとそれまでに尽きてしまうかもしれない」と、中国の未来を予測した。私は1990年の8月に中国へ企業進出し、93年ごろは絶好調で、すでに4工場で合計3000人ぐらいの従業員を擁するようになっていたので、この中嶋氏の主張には違和感を覚えた。

1995年3月、中嶋氏は「中国経済が危ない」という本を出し、「本書が中国市場に大きな夢を抱く日本企業の対中国進出への警告になっている」と書き、日本の企業の対中国進出へ強いブレーキをかけた。私の企業はこのときすでにグループ全体で5工場、1万人規模になっており、日本の同業他社が中嶋氏らの中国崩壊論を信じて中国へ進出してこなかったので、ライバルなしの中国の地で、わが世の春を謳歌していたのである。

1995年11月、中嶋氏は「アジアの世紀は本当か」を深田祐介氏と共著で出し、来るべき香港返還に際し、「香港ドルは紙くずになる可能性がある」と予言し、1997年4月、「沈みゆく香港」で「結局、香港は次第に沈んでゆくことになるのではないか」と述べ、当時の多くのエコノミストの中国経済悲観論や中国内乱説に加担している。私の中国工場グループは引き続き好調ではあったが、そのころのマスコミの論調には、香港返還と同時に中国が内戦状態になるというものが多かった。私の頭の中にはまだ中嶋氏や長谷川慶太郎氏への幻想が残っており、中国内乱説を笑い飛ばすような心情にはなれなかった。私はリスク分散のため、真剣にチャイナプラスワンを考え、1997年にミャンマーで工場を稼動させた。

その後、ミャンマー工場は600名規模になったが、1998年の東南アジア通貨危機に遭遇して、3年後にあえなく閉鎖に追い込まれた。中嶋氏などの論調に惑わされミャンマーに進出して、結局大損をすることになったのである。あのとき彼らの主張に同調せず中国で逆張り経営をやっていたら、さらに大儲けできたはずである。私はこの時点で、中嶋氏への幻想をすっかり捨て、逆に深い恨みを抱くようになった。

1998年6月、中嶋氏は再び深田祐介氏と共著で「アジアは復活するのか」を出した。今回私は、この本を読み直し、この中で「中国は過去10年間以上、平均9%の成長を遂げてきましたが、98年3月の全人代で予測されたような8%成長が今後も続くかどうかは疑問です。アジアの通貨の切り下げで人民元がたいへん割高になっていて、今後10%の輸出増も期待できないとなると、人口増もあり、新たな雇用創出の必要もあるので、8%成長が無理となると、中国経済は一転して大混乱になる可能性さえあるのです」というくだりを読んで、驚いた。この文言は、2009年現在の中嶋氏の主張とぴったり同じであったからである。中嶋氏がこの文章を書いてから、その後の10年間で彼の予言に反して中国は大混乱にはならず、むしろ世界経済を牽引するまでになった。彼は今でも相変わらず中国経済大混乱説を唱えており、10年間も同じような予言を繰り返して、それがことごとく当たらなかったのである。このような厚顔無恥な行為は健忘症でもなければできないのではないかと思うほどである。なおこの本の結論はこれまた「まず日米同盟を固めよ」である。

2002年4月、中嶋氏は「覇権か崩壊か 2008年中国の真実」を古森義久氏と共著で出し、「私はちょうど北京オリンピックが開催される2008年ぐらいまでのあいだに、中国共産党の存亡も含めて、中国の政治システムがどう変わるかが判明すると思っています。ですから、WTOに中国が加盟したからといって、日本企業が期待するように、中国が生産拠点としても市場としても非常に安定的な役割を果たせるわけではなく、国際社会の期待や要望を受け入れる中国社会そのものが抱えている問題の方が圧倒的に大きいという現実を冷静に見る必要があります」と書き、この期に及んでも、中国への企業進出にブレーキをかけている。企業の中国への進出の決断は自己責任であるとは言うものの、これらの中嶋氏の言動が、多くの企業家を日本に足止めし、「座して死を待つ」という結果に至らせたわけであり、そのことを中嶋氏は猛省すべきではないのか。

2007年9月、NHKから私に、新BSディベート「日中国交正常化35年 新たな関係をどう築くか」という番組への出演?依頼が来た。詳しく聞くと4人の主要ゲストが討論をするので、その後ろの壇上に10人前後が並び、その中の1人として2分から3分で簡単な意見を述べてもらうという企画だという。私はどうせ「刺身のつま」になるだけだと思って断ろうとしたが、ゲストの一人が中嶋嶺雄氏だと聞いて出ることにした。中嶋氏に会って直接文句が言いたかったからである。当日、私は勢い込んで臨んだが、紙上では鋭い主張を繰り出す中嶋氏があまりにも好々爺だった(私も同様だが)ので、拍子抜けして文句を言う気も失せてしまった。

②日中国交回復への新たな視点

1972年9月、田中角栄首相の手によって日中国交回復がなされた。このことに対する評価は多様であるが、私の企業にとっては、きわめて大きな意味を持っている。なぜならこの国交回復によって、中国へ企業進出ができるようになったわけであり、日本企業一般もかろうじて中国だけは韓国企業の機先を制することができたからである。私が中国へ企業進出したのは1990年であるが、このとき韓国はまだ中国を敵国視していた。したがって韓国の同業他社は中国へ企業進出することができなかった。一般に韓国企業は日本企業よりも海外進出に積極的であり、当時でも中国以外の国では日本企業は韓国企業の後塵を拝し苦労することが多かった。しかし中国だけは韓国企業との競争にならず、無人の荒野を切り開いて行くことができたからである。このことは日本の大企業にも言えることであり、日中国交回復の成果面として見直されるべきではないだろうか。

「中国政府の民族浄化」などあり得ない。

中嶋氏は文中で「新疆ウィグルでは、『民族浄化』とも思われるような抑圧をやっているわけです」と書き、これに石平氏が「漢民族と結婚させて子どもを生ませる。それはまた漢民族の嫁不足を解決させる」と続けている。これは私が前回のレポートでも明らかにしておいたように、過去はともかく現状ではあり得ないことである。ただし将来、ウィグル族の歴史について新資料が出てきて、「民族浄化」という事実が再提起されるかもしれない。

④「日中対決がなぜ必要か」がよくわからない

この本のタイトルは「日中対決がなぜ必要か」であるが、本文をよく読んでもそれはよくわからない。石平氏は文中で「結局、日本人は『対決』というと、争いごとであり悪いことであると誤解しているのですね。しかし、国家と国家は、もともと『対決』すべきものでしょう。それぞれに国益があって、国益がぶつかってその中で妥協するところは妥協する。…(略) 中国はこの20年間、毎年二桁の軍事拡大を続けてきたわけで、(台湾に対する)武力行使の可能性はきわめて高いと思います。そうなれば、日本にとっても大きな脅威になる」と述べ、中嶋氏はそれに同意している。両氏は「日本は道義を主張せよ」と叫び、日本外交を「品位がない」とけなしている。その反面、中嶋氏は「日本はこの60年間、一度も戦争をしていないのです」と胸を張っている。この両氏の主張にはうなずけない。なぜなら日本がこの60年間一度も戦争してこなかったのは、戦争放棄を規定した憲法のおかげであり、国民の総意に基づく日本外交の成果であるからである。日中関係にいたずらに対決姿勢を持ち込むべきではない。

                                                                

3.「株式会社中華人民共和国」  徐静波著  PHP刊  2009年8月6日発行

 

この本の題名は面白いが、中身は意外に単純である。それでも中国を株式会社と見立てて、会長が胡錦濤国家主席、社長が温家宝首相などとして展開するストーリーは、今までにまったく中国情報に触れたことのない読者には楽しく読める本である。しかし多少たりとも中国の知識がある読者にとっては、内容に深みがないので物足りないだろう。またこの本は全面的に中国政府の側に立って書かれており、表紙に中国政府公認と大きな赤いハンコを押したいような本であり、ほとんどが周知の事実の羅列である。その意味で、この本もあえて買ってまで読む必要はないと思う。以下、簡単に論じておく。

①模範解答

徐氏は「はじめに」で、「中国共産党の革命の目的は、金持ちを打倒することでもなく財産を貧乏人に分け与えることでもない。全国民を動員して国家を建設し、共に富裕の道を歩むことだ」と明記している。現在の中国では、一般大衆の間で革命がこのように理解され、これが模範解答かと思うと、ついあの世で毛沢東が歯軋りをしている姿を想像してしまう。さらに徐氏は「中国は『株式会社』で、胡錦濤は会長、温家宝は社長であるが、彼らは決して創業者一族ではなく、サラリーマンであり、国民全体が株主だ」と続け、「中国共産党が経営している国がすでに『株式会社』として日々大きな利益を上げ、さらに株主に利益を還元していることを30年来の実績が証明している」と結んでいる。

②青年に門戸開放

徐氏は、最近、若手の市長が登用され始めたことを例に上げ、「なんら政治的バックを持たない普通の『サラリーマン』が、こつこつと努力し一歩一歩株式会社のエリート社員に成長した。中華人民共和国は勤勉な社員に門戸を開いている。それがこの会社の持続的発展の根本といえよう」と述べ、「中国で最も優秀な人材のほとんどが共産党に吸収されている」と、あたかも共産党が絶好の就職口であるかのように書いている。しかしながら共産党の幹部に出世するためにはそれなりの功績と手段が必要であるし、中国知識青年の共産党離れも同時に進行しているというのが現実である。

③取締役の経歴披露

文中では株式会社中華人民共和国の取締役メンバーの経歴が披露されている。しかしながら現在の取締役メンバーは共に文化大革命の嵐の中を生き抜いてきた経歴を持っており、その点についての記述が少ないのは残念である。なお胡錦濤主席は宋平氏(元中国共産党政治局常務委員、周恩来首相の政治秘書)に見出されたという。余計なことだが、私も宋平氏から、1997年に北京の迎賓館で外国人専門家友誼賞を直接手渡されている。そのときの温和な顔とやわらかい手の感触は、今でもよく覚えている。

④ドルで世界に対抗する金余り会社

徐氏は、「ブッシュは胡錦濤に対し、アメリカが金融危機を乗り切るために中国政府に可能な協力を希望し、さらに必要なときには外貨の援助も依頼した」と書き、「アメリカの命運の半分は中国に握られていた」と豪語している。その背景は「中国は世界最大の外貨保有国となり、中国政府は世界でもっとも金持ちの政府となった」ことであるが、同時に「その外貨準備高は分析してみれば使える額はそう多くはなく」、もっと稼がなければならないと言っている。そして「中国人はすでに核兵器を使わずドルを使って世界の経済大国に対抗する方法を知りはじめたようだ」と述べ、「アメリカに巨額の資金で攻撃をしかけたなら、アメリカは中国に話し合いを懇願するしか他に方法はない」と言い切っている。徐氏のこの見解はああまりにも楽観的であり、現実的ではないと思う。おそらく中国資本は米国の金融資本に手玉に取られ、大損をするのではないだろうか。それでも徐氏の主張のように、中国が軍事大国とならずに金融大国となり、その力で世界に乗り出してくれるのならば、私は大歓迎である。しかしながら徐氏は周到に「中国軍事筋によると、空母を保有すれば中国脅威論が高まるのは必至だが、中国は米国を牽制できる海軍力の確保を目指している」とも付け加えている。

⑤インターネットは民主化を進行

徐氏は、1989年の天安門事件を「中国の指導者が、民主選挙を早く実行しすぎれば、中国の政治、社会に大きな混乱をもたらすと考えたからである」と正当化し、「近年、インターネットによって、中国人民はさらに多くのそして幅広い言論の権利と場所を得た」ので、「こういった進歩は疑いもなく、中国の政治体制改革と民主制度構築を推し進めていくだろう」と予言している。たしかにインターネットや携帯電話の普及は、中国社会を大きく変貌させてきている。しかし先進各国と比べると、まだ多くの規制が残っていることも事実であり、徐氏のように手放しで喜べるような状況ではない。

⑥暴動鎮圧

最後に徐氏は、あたかも中国政府の代弁者であるかのように、「明らかに、中国政府はラサ暴動問題の処置では多くの痛みを抱え、これ以上過激化へ向かうことを避けていた。しかし、中国政府の方針は、どんなにチベットで大規模な暴動が起ころうと鎮圧することは明らかだ。大多数の中国人にとって国家の統一は何よりも重要だからだ」と結んでいる。

 

                                                                  以上     *******************************************************************************************

中国経済最新統計】(試行版)

 

上海センターは、協力会会員を始めとする読者の皆様方へのサービスを充実する一環として、激動する中国経済に関する最新の統計情報を毎週お届けすることにしましたが、今後必要に応じて項目や表示方法などを見直す可能性がありますので、当面、試行版として提供し、引用を差し控えるようよろしくお願いいたします。    編集者り

 

実質GDP増加率

(%)

工業付加価値増加率(%)

消費財

小売総

額増加率(%)

消費者

物価指

数上昇率(%)

都市固定資産投資増加率(%)

貿易収支

(億㌦)

輸 出

増加率(%)

輸 入

増加率(%)

外国直

接投資

件数の増加率

(%)

外国直接投資金額増加率

(%)

貨幣供給量増加率M2(%)

人民元貸出残高増加率(%)

2005

10.4

 

12.9

1.8

27.2

1020

28.4

17.6

0.8

0.5

17.6

9.3

2006

11.6

 

13.7

1.5

24.3

1775

27.2

19.9

5.7

4.5

15.7

15.7

2007

13.0

18.5

16.8

4.8

25.8

2618

25.7

20.8

8.7

18.7

16.7

16.1

2008

9.0

12.9

21.6

5.9

26.1

2955

17.2

18.5

27.4

23.6

17.8

15.9

  1

 

 

21.2

7.1

 

194

26.5

27.6

13.4

109.8

18.9

16.7

 2

 

(15.4)

19.1

8.7

(24.3)

82

6.3

35.6

38.0

38.3

17.4

15.7

 3

10.6

17.8

21.5

8.3

27.3

131

30.3

24.9

28.1

39.6

16.2

14.8

 4

 

15.7

22.0

8.5

25.4

164

21.8

26.8

16.7

52.7

16.9

14.7

 5

 

16.0

21.6

7.7

25.4

198

28.2

40.7

11.0

38.0

18.0

14.9

 6

10.4

16.0

23.0

7.1

29.5

207

17.2

31.4

27.2

14.6

17.3

14.1

 7

 

14.7

23.3

6.3

29.2

252

26.7

33.7

22.2

38.5

16.3

14.6

 8

 

12.8

23.2

4.9

28.1

289

21.0

23.0

39.5

39.7

15.9

14.3

 9

9.9

11.4

23.2

4.6

29.0

294

21.4

21.2

40.3

26.0

15.2

14.5

10

 

8.2

22.0

4.0

24.4

353

19.0

15.4

26.1

0.8

15.0

14.6

11

 

5.4

20.8

2.4

23.8

402

2.2

18.0

38.3

36.5

14.7

13.2

12

9.0

5.7

19.0

1.2

22.3

390

2.8

21.3

25.8

5.7

17.8

15.9

2009

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1

 

 

 

1.0

 

391

17.5

43.1

48.7

32.7

18.7

18.6

2

 

3.8

(15.2)

1.6

(26.5)

48

25.7

24.1

13.0

15.8

20.5

24.2

3

6.1

8.3

14.7

1.2

30.3

186

17.1

25.1

▲30.4

▲9.5

25.5

29.8

4

 

7.3

14.8

1.5

30.5

131

▲22.6

▲23.0

▲33.6

▲20.0

25.9

27.1

5

 

8.9

15.2

1.4

(32.9)

134

▲22.4

▲25.2

▲32.0

▲17.8

25.7

28.0

6

7.9

10.7

15.0

1.7

35.3

83

▲21.4

▲13.2

▲3.8

▲6.8

28.5

31.9

7

 

10.8

15.2

1.8

(32.9)

106

▲23.0

▲14.9

▲21.4

▲35.7

28.4

38.6

8

 

12.3

15.4

1.2

(33.0)

157

▲23.4

▲17.0

▲2.05

7.0

28.5

31.6

9

8.9

13.9

15.5

0.8

(33.4)

129

▲15.2

▲3.5

10.6

18.9

29.3

31.7

10

 

16.1

16.2

▲0.5

(33.1)

240

▲13.8

▲6.4

▲6.2

5.7

29.4

31.7

 

注:1.①「実質GDP増加率」は前年同期(四半期)比、その他の増加率はいずれも前年同月比である。

2.中国では、旧正月休みは年によって月が変わるため、1月と2月の前年同月比は比較できない場合があるので注意

されたい。また、(  )内の数字は1月から当該月までの合計の前年同期に対する増加率を示している。

  3. ③「消費財小売総額」は中国における「社会消費財小売総額」、④「消費者物価指数」は「住民消費価格指数」に対応している。⑤「都市固定資産投資」は全国総投資額の86%2007年)を占めている。⑥―⑧はいずれもモノの貿易である。⑨と⑩は実施ベースである。

出所:①―⑤は国家統計局統計、⑥⑦⑧は海関統計、⑨⑩は商務部統計、⑪⑫は中国人民銀行統計による。