=======================================================================================================================京大上海センターニュースレター
298号 20091228
京都大学経済学研究科上海センター

=======================================================================================================================目次

○ お正月休みのお知らせ

○ 「中国経済研究会」のお知らせ

○ 「自動車の技術革新と都市交通政策」シンポジウムのお知らせ

○ 中国・上海ニュース 2009.12.21-2009.12.27

○ 韶関市3態=現代中国の縮図

○ 読後雑感 : 09年11月発行本 - その1

○ 日中韓若手研究者共同セミナーをふりかえて

○ 【中国経済最新統計】(試行版)

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お正月休みのお知らせ

 そろそろお正月となりますが、皆様方のお陰様で「上海センターニュースレター」もこの一年間予定通り発行し続けられましたので、深く御礼を申し上げます。

 また、大変勝手なことでございますが、お正月休みにつき、当ニュースレターを一週間休ませていただきたいので、ご理解とご協力のほどよろしくお願いいたします。

編集者より

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「中国経済研究会」のお知らせ

 

第8回中国経済研究会は下記の要領で開催することになっています。今回は国際金融危機の東欧諸国への影響について、本研究科のヤルナゾフ先生にお話をしていただきますので、ご関心のある方はぜひご参加ください。

 

 

  時  間: 2010119() 16301800 

  場  所: 京都大学吉田キャンパス・法経済学部東館3階第311教室

 報 告 者: ヤルナゾフ(京都大学経済学研究科講師)

テ ー マ: 「東欧諸国におけるグローバルな金融危機の影響」

 

注:本研究会は原則として授業期間中の毎月第3火曜日に行います。2009年度における開催(予定)日は以下の通りです。

 前期: 421日(火)、 519日(火)、 616日(火)、721日(火)

  後期: 1020日(火)、1114日(土)1215日(火)119日(火)

 

(この件に関するお問い合わせは劉徳強(liu@econ.kyoto-u.ac.jp)までお願いします。なお、研究会終了後、有志による懇親会が予定されています。)

 

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同志社大学技術・企業・国際競争力研究センター

京都大学上海センター、上海社会科学院部門経済研究所

共催シンポジウム

 

自動車の技術革新と都市交通政策

 

自動車は、その利便性の反面、交通事故、環境汚染、交通混雑等の問題が20世紀後半から顕在化し、未だ抜本的な解決には至っていない。こうした問題に対して、近年、革新的な技術として注目を集めているのが、EV/PHV等の動力系技術と、走行技術としてのITS(Intelligent Transport Systems)である。本シンポジウムでは、この2つの技術革新の成果を如何に今後の都市交通に活かしていくのか、日本そして中国について議論する。

 

【日時】2010122日(金)   14:3017:45 (終了後レセプション予定)             

【場所】同志社大学 寒梅館 2階 KMB211教室

【主催】同志社大学技術・企業・国際競争力研究センター

京都大学上海センター

上海社会科学院部門経済研究所

 

【プログラム(敬称略)】

 

開会挨拶:三好 博昭(同志社大学 技術・企業・国際競争力研究センター ディレクター)

 

前半:1430分-1600

1)温暖化問題と自動車メーカの取り組み-環境関連技術の最前線-

大野栄嗣(トヨタ自動車CSR・環境部担当部長)

2)中国における新エネルギー自動車の現状と政策

孫 林(上海社会科学院部門経済研究所副研究員)

3)上海知能交通システムの発展と世界博覧会における応用

朱 昊(上海市総合交通規画研究所智能中心センター長)

 

後半:1615分-1745

1)効率的な道路交通のための料金政策

文 世一(京都大学大学院経済学研究科教授)

2)安全ITS技術とその普及のための政策

紀伊 雅敦(香川大学工学部安全システム建設工学科准教授)

三好 博昭(同志社大学ITEC研究センター ディレクター)

3)今後の自動車交通の用途別すみ分けの最適化について

千田 二郎(同志社大学理工学部エネルギー機械工学科教授)

 

閉会挨拶:塩地 洋(京都大学大学院経済学研究科教授)

 

【お問合せ】 同志社大学 技術・企業・国際競争力研究センター(ITEC

担当:鈴木、田中 TEL: 075-251-3779 FAX: 075-251-3139  Email: info@doshisha-u.jp

 

(詳細は12月21日に送付したメールの添付ファイルをご覧ください。)

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中国・上海ニュース 12.21-12.27

ヘッドライン

■ 中国:中国のGDP、2010年に日本を抜く公算=世界第2の経済大

国へ

■ 中国:中小企業が「成長率8%維持」達成に貢献

      社会:“幸福感都市”ランクに住民が「最も幸福を感じる都市」は杭州市と発表

■ 格差:「貧富の差が拡大している」、国家統計局長が発言

■ 外交:2010年は国交樹立60周年、パティル大統領の訪中も予定

■ 軍事:中国の軍事力は世界2位=ただし質では米国、数ではロシアに見劣り

            国際:国連分担金、中国の比率が3.2%へ上昇=日本は4ポイント減の12.5%

■ 上海:住宅価格高騰で上海、広州が抑制策発表へ

      北京:3分の1に短縮!北京と香港8時間で結ぶ高速鉄道が2012年に開通

■ 河南:思わぬ大発見!三国志の英雄・曹操の遺体と墓を発見

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韶関市3態=現代中国の縮図

 21DEC 09

美朋有限公司董事長

   中小企業家同友会上海倶楽部代表

上海センター外部研究員  小島正憲

                                           

  韶関市は広東省の北端に位置し周囲を、丹霞山を始めとして風光明媚な山河に囲まれた一大観光地である。さらに市内には全国最大といわれる客家団楼があり、また市内の北部には少数民族の瑶族が住んでいる。このように豊かな自然環境にあふれた街に、今年6月、突如として大問題が持ち上がった。周知のように、市内沐渓工業開発区にある玩具工場で、ウィグル族従業員と漢族従業員の間で喧嘩騒ぎが起きたのである。その後、この事件が発端となりウルムチでの暴動が起き、韶関市の名前は全世界に知れ渡った。しかし事件後、約半年が過ぎ、韶関市の名前は早くもマスコミの世界からは忘れ去られようとしている。そこで今回は、①その後の玩具工場、②BYDの進出、③翁源県での騒動の3つの事態に焦点を当て、現地調査を踏まえた上で論じてみる。私はここに現代中国の縮図を見る思いがするからである。

1.民族問題をものともせず拡大する韶関旭日国際有限玩具工場。

 

私は6月の事件直後にこの地に来たが、韶関旭日国際有限公司の玩具工場の周辺にはあのときの物々しさはすでになかった。さすがに正門を撮ろうとしたら門衛に制せられたが、格別変わった光景でもなかったのであえて強行せず引き下がった。正門脇の広告版には、従業員大量募集の文字が躍っていた。そこには最大規模で、8万人の工場にする計画であると書いてあり、職種ごとの詳しい待遇が示してあった。大勢の若者たちがそれを覗き込んでいた。現在1万5千人ほどになり、半年前に民族問題を起こしたのがうそのようであり、工場はそれをものともせず拡大の一途を遂げているようであった。工場の第2期工事も着々と進み、第3期の計画地も整備ずみだった。

私が一番知りたかったのは、玩具工場でのその後のウィグル族の処遇と動静であった。6月の騒動直後、企業側はただちにウィグル族従業員800人ほどを別工場に隔離し、安全を確保した上で操業を続けたという報道であった。今回、私は本工場から30kmほど離れたその分工場に行ってみた。その分工場は白土工業開発区にあるということだったが、その地域にはウィグル族従業員が大勢働いているような気配がまったくなかった。その開発区には大型工場が10社ほど稼動していたので、結構、屋台や小さな露店などが繁盛していた。そのうちの幾人かに聞いて回ったところ、10月に全員が新疆ウィグル自治区に送り返されたという。

そこでとにかくその分工場の場所を教えてもらって、一番奥の工場に行き着いた。

すでに夜になっていたので、工場は真っ暗で事務所のみに電灯が点いており、工場内には従業員がいないことがよくわかった。そこには門もなく、もちろん工場名を明らかにする看板はなかった。本工場の一件があったので、恐る恐る門衛さんに近づき、「ここはウィグル族が働いていた工場ですか」と聞いてみたところ、彼は素直に、「そうだ。彼らは10月に全員帰された」と話してくれた。次いで「彼らにとってはその方がよかっただろう。ここにいても怖くて外には出かけられなかったから。私の仕事は彼らの外出をチェックすることだったが、ほとんどその必要はなかった」と言って、漢字とウィグル語で書いた外出時の手続き一覧表を見せてくれた。彼の話によれば、ウィグル族の大半はおとなしい人たちで、あの騒動を巻き起こしたのはほんの10数人の不良分子であり、後の人たちはいわば巻き添えを食った形で気の毒だったという。ウィグル族従業員は大慌てで帰ったような気配で、分工場周辺には大量の生活ゴミが散乱していた。

玩具工場の経営者は、あの騒動で腰を抜かして経営を縮小するような男ではなかった。ウィグル族従業員を分工場に隔離し、いったん世間の目から隠し、ほとぼりが冷めてから全員を新疆ウィグル自治区に送還したというのである。それが解雇であるのかどうかは、門衛さんに聞いてもわからなかったが、とにかく送還時にはなにもトラブルがなかったという。したがってこのことの真相は、ウィグル族従業員の出身地である南疆地域に行って聞き込みをしなければわからないと思った。これでまた私の調査事項が増えたわけである。いずれにせよ、玩具工場の経営者は、この騒動の後、民族問題を抜本的に解決しようとしないで、とにかく厄介払いにする方針を取ったのである。残念ながら、これが拝金主義の結果であり、このような状態が続く限り、民族問題の解決は難しいと、私は感じた。                          

その後、また本工場周辺に戻って、ウィグル族従業員の痕跡や玩具工場の発展状況を調べてみることにした。6月に来たときには、工場前の建物の1階に数件のスーパーまがいの店と屋台があるだけだったが、今ではそこは立派                                                         な街に生まれ変わっていた。大通りから一歩中に入った道には、10軒ほどのビジネスホテル兼ラブホテルも立ち並んでいた。どんな人が泊まるのだろうかと思って、フロントのおばさんに聞いてみると、「昨日も3人、玩具工場の幹部が愛人を連れてきたよ」と笑いながら話してくれた。その周辺には医者、薬屋をはじめとして生活に必要なものは、ほとんど揃うようになっていた。                                           

この開発区には玩具工場を含めて大型工場が並んでおり、それぞれが従業員の争奪戦を行っているようだった。なぜなら、他の地域では見ることができないような求人用の大きな横断幕が、ほとんどの工場の外壁に掲げられているからである。それはこの地域が「中国は人手不足」の象徴地域ではないかと思わせるようであった。

                                      

2.BYD、韶関市へ本格的進出。実業か虚業か?

今をときめく電池自動車メーカーの比亜迪(BYD)公司が、韶関市の東莞(韶関)湞江産業転移鉱業園への本格的進出を決め、6000ムー(約4平方km)の土地を購入した。この工業園は汪洋広東省書記の省内工業再配置計画に沿ったもので、広東省政府は韶関市に5億元の支援金を出すという。11月10日、BYDと韶関市政府は覚書に調印した。

BYDの初期投資額は15億元(約200億円)の見込み。BYDはここに国内最大級の自動車走行実験場と部品工場を同時に建設するという。BYDの韶関市への進出は、地価や人件費が沿岸部よりも低いことを狙って、コストの削減を目的としている。韶関市はBYDの走行実験場は観光の目玉としても活用できると

踏んでいる。

  ただし韶関市は東莞市だけでなく、他の沿岸部都市とも協定しており、この日も「中山三角(湞江)産業転移工業」の標識を付けた車で政府や企業の人間が乗りつけ、BYD周辺の土地を物色していた。1.の玩具工場のところでも書いたように、この地はただでさえ人手不足なのに、次々と沿岸部から大型工場が移転してきたら、人手の争奪戦となり、人件費はみるみるうちに上がっていき、結果としてコスト削減効果はなくなる。そんなことはだれでもわかるのに、なぜBYDほどの会社が移転を決めたのか、理解に苦しむ。

また本気でBYDがここに進出する予定ならば、15億元の投下資金では0が一つ不足している。10月に発表された中国の富豪ランキングのトップはBYDの王伝福会長で、その資産は350億元(約4900億円)と言われている。それにしては韶関市の事業の規模は小さい。それも疑問の一つである。私はおそらくBYDは、不動産業にも手を染めるのではないかと考えている。BYDは土地を、山地は1ムー=2万元、田畑を1ムー=4万元の格安価格で購入しており、もしこれをバブルの絶頂期で手放せば巨額の資金が転がり込む。BYDがまじめに実業の王道を走るか、それとも虚業の裏道に進むか、それはあと数年で判明する。それでもこのあたりの農民は1世帯につき、100万元ほどの土地売却収入を得るという。

農民はもろ手をあげて、BYDを歓迎している。

なお、韶関市には大型の刑務所が5か所あり、いずれも刑務所内の囚人労働力が企業の貴重な人手となっている。

                                                     

3.農民、したたかに参戦。   ※この項は既報(09年11月暴動情報検証3.)を書き直したものである。

このように沿岸部から大型企業が移転してくるのに伴い、土地は急激に値上がりしてくる。ところが政府はすでにそれを数年前に見越して、農民の土地を接収済みである。農民はそれがどうにも口惜しくてたまらない。しかし農民は指をくわえて見ているわけではない。たとえば韶関市翁源県陂下村では、10月30日、強制土地収用に農民が抗議し警官と衝突する事件が起きた。マスコミはこの事件を、「翁源県政府がダム建設を理由に農民の土地約81ヘクタールを格安の値段で強制収用し、村民の家屋を強引に取り壊そうとした。中には新築の家屋もあったので、村民は必至で抵抗した。そこに警官と300人ほどの身元不明者がハンマーを持って取り壊しを開始。投石などで抵抗する村民との間で乱闘が起きた」と報じたが、実情はかなり違っていた。

翁源県陂下村の土地は、2004年に山地は1ムー=1万5千元、田畑は1ムー=2万5千元で、村民から政府が接収済みであった。価格は当時としては相場並みで格安とはいえない。しかしその価格に納得せず、協議書にサインしていない村民もいるという。09年度に入って、村の中央に県道が通ることになったり、また近くに県政府の建物や高層マンションが立ち並ぶようになり、一気に土地価格が上昇してきた。それに不満を持った村民の一部が、売却済みの土地に許可なく臨時の安物家屋を建て、土地代や新築家屋?の立ち退き代を政府に要求した。政府はそれらの家屋が違法建築であるということを理由に、取り壊しを強制的に実施しようとしたところ、村民との乱闘に至った。つまり農民もしたたかにこの銭ゲバに参戦しているのである。

なお、数ヶ月前には、新設の道路が隣村と境界地点を通るため、隣村が陂下村の土地を強奪し、隣村対決で村民通しの乱闘騒ぎがあり、制止に入った警官が負傷する事件もあったという。たしかに地元政府のやり方は強引であるが、農民の側も一方的な弱者ではなく、この機会をとらえて一攫千金を狙っている者もいるのである。               

 

陂下村の農家で老婆に話を聞いていると、彼女は「田畑を取られたので、私は生きていけない」と泣き出した。しかし隣に座っていた若い娘は、「私はここから自転車で20分ほど走った街で、店員をして月給1000元ほどもらっている。毎日が楽しい」と、ニコニコ顔で話をしてくれた。たしかに翁源県の街中の店は結構繁盛しており、至る所に求人広告が貼ってあった。これは世代間格差と呼ぶのがふさわしい現象だろうか。

                                                                 以上

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読後雑感 : 09年11月発行本 - その1

 21DEC 09

美朋有限公司董事長

   中小企業家同友会上海倶楽部代表

上海センター外部研究員  小島正憲

 

1.「ロスチャイルドと共産中国が2012年、世界マネー覇権を共有する」   2.「『中国なし』で生活できるか」

3.「米中同盟で使い捨てにされる日本」  4.「中国人に売る時代!」 

 

1.「ロスチャイルドと共産中国が2012年、世界マネー覇権を共有する」  鬼塚英昭著  成甲書房刊 

2009年11月15日発行

  この異様に長い題名の本は、独断と偏見が多く、私は悪書の類ではないかと思う。たとえば鬼塚氏は、経済学の両巨頭を、「マルクスはロスチャイルドから、豪壮なマンションと大金を与えられて『資本論』を書いた」(P.44)、「ケインズが世に出ることになったのは、ビクター・ロスチャイルドの厚遇ゆえであった。ケインズは『ロスチャイルドの犬』であった」(P.52)とけなし、「バラク・オバマを大統領にしたのはユダヤ人であることに疑いの余地はない。オバマを大統領にするために資金を出した金融界のほとんどがユダヤ人である。政権内部もユダヤ人だらけだ」(P.159)と書き連ねている。全編にわたってこの調子の記述が続いており、いささか辟易する。

中国についての論評も、「カオス状態に陥っていく中国経済、その光と影」との見出しで、まったくでたらめな分析を行い、「結論を書けばこういうことになる。中国では大量生産方式が崩壊したので、失業者が急増した。彼らは生活の場を失ったので、本土難民と化した。数億人に達する可能性がある難民たちが、中国共産党の指揮下にある人民解放軍と戦争状態に入る可能性があるということである」(P.234~238)と、内戦必至論を展開している。まさに荒唐無稽としか言いようがない。

それでもこの物語にも参考になる点はある。「中国は近い将来、人民元を世界通貨にしようと企んでいる。そのために中国自体の産金量を増やし、さらに金を買い漁り、金本位制への準備を着々と進めている」という指摘である。この点は、宮崎正弘氏なども力説している。私もこの主張については、あながち空想物語ではないと思う。現在の中国政府首脳ならば、そこまで視野に入れている可能性はあると考える。すでに貿易の人民元決済を試行しており、世界通貨への地ならしを始めているからである。またアフリカの金鉱への触手も伸ばし、中国国内の産金も強力に推し進めているのも事実であるからである。今後とも、この点については目が離せないと思う。

鬼塚氏はこの本を書くに当たって、米国帰りの若手経済学者で、中国政府の経済ブレーンとなっている栄鴻平氏の「ロスチャイルド、通貨強奪の歴史とそのシナリオ」(河本佳世訳 ランダムハウス講談社刊 09年発行)から、そのアイディアを得ているようである。幸い邦訳されているので、私も近日中にこの本を読み、中国政府首脳の経済政策の真相に少しでも迫りたいと思っている。

 

2.「『中国なし』で生活できるか」  丸川知雄著  PHP研究所刊  2009年11月30日発行

    (副題 : 「貿易から読み解く日中関係の真実」)

丸川氏は、中国の生産現場や流通事情を具体的にわかりやすくしかも正しく解説しており、これから中国を知ろうとする人にとって、この本は最高の入門書である。また丸山氏は本文中で、日本の食糧自給率や技能・研修実習制度の問題点を鋭く追及しており、この本は警世の書としての役割も果たしている。また毒入りギョーザ、マグロ、フードマイレージ、汚染米問題などの問題についても、わかりやすく解説している。

丸川氏は、はじめにで「いやはや一体、我々はどれだけ中国製品に依存しているのだろうか。果たして日本において『中国なし』の生活は送れるのだろうか。本書では、いろいろな商品ごとに、中国からの輸入の実態を見て生きたいと思う」と問いを発し、終章で「このように、さまざまな製品を中国からの輸入に依存することは、日本にとって不可避であり、必然的なことだと思える。『中国なし』の生活は、もはやあり得ないのではないだろうか」と答えている。そして最後に「経済的利益を損なうという不利益を考える理性があれば、どの国も国家間の関係をこじらせるような愚行を思いとどまるはずだ。日本が中国に多くの製品を依存していることは、恐れるべきことではない。むしろ、それは日本経済の活性化につながり、今後も日本と中国が外交面でも良好な関係を保持する礎でもあるのだ」と結んでいる。私も同感である。

丸川氏は序章で、中国の強みは安価で豊富な労働力であると説き、しかしその強みも2004年から出稼ぎ労働者不足が叫けばれるようになり、さらに2008年からの労働契約法の施行により労働者の権利意識が高くなってきており、強みの優位性が薄れつつあると指摘している。多くの中国ウォッチャーがいまだに失業者問題云々を言い続けていることを考えると、丸川氏はやはり中国の現場を正しく見ていると言える。

第2章で、丸川氏は繊維業界について言及している。この業界は私の専門分野であるから、あら探しをしようと思い、じっくり文章を読み進めていったが、実によく調査してあり、結局ミスを発見することはできなかった。

第4章で丸川氏は、「もしあなたが中国製の雑貨を買い付けようと思ったら、行くべき場所は一つだ。それは浙江省の義烏市である」と書き、そこには全世界から雑貨の買い付け商人が集まっているとその実情を紹介している。もし「そこにアラブ商人街ができているほどである」と紹介してあれば、私は丸川氏に満点を差し上げようと思ったが、さすがにその記述はなかった。

第5章では自動車業界を俯瞰して、「急速に力をつけている中国の新興自動車メーカーが、日本に自動車を輸出するようになるには、まだ10年を要するであろう」と述べている。しかしBYDなどの電気自動車の進撃は予想外に早く、この点だけは、丸川氏の予測は外れるかもしれない。

 

3.「米中同盟で使い捨てにされる日本」  青木直人著  徳間書店刊  2009年11月30日発行

この本からは、「日本がどのように、米中に使い捨てにされるか」を読み取ることはできない。かろうじて、切り捨てられるのが「拉致」と「台湾」であり、尖閣列島問題だということがわかるだけである。

青木氏はまず、「はじめに」で自民党の歴史的敗北について、「親米保守をここまで追いつめた『米中同盟』とは何か。それは日本になにをもたらすのかを語りたい」と書き出しているが、最後では、「日本核武装阻止。当時から米中はこの一点において共通の利益を共有しあっている」と、結んでいる。

青木氏は第1章で、オバマ政権の最大の関心事は経済再建とドル一極支配の維持にある。それは中国抜きには実現しない。ドルを支える国債の最大の保有国はすでに日本ではなく、中国なのである。…(略)中国は中国で、米国市場の存在は成功に不可欠である。両国は経済貿易分野に限れば、今や互いに離れることのできないシャム双生児と言っても過言ではない」と書いているが、この論はすでに世界の常識となっている事実であり、ことさらに解説が必要なものでない。

第2章では、19世紀以降の米中の歴史を振り返りながら、1972年のニクソン訪中以後、劇的に関係が変化し、現在、米国のビッグビジネスの多くは、労働争議もありえない中国市場に殺到し、経済権益の確保に目の色を変えている。同時に共産党もまた外国企業が牽引する市場経済の成功に政権の生き残りをかける。両社の利害はほぼ一致している。…(略)市場経済に驀進する資本主義中国は、米国にとって21世紀のニューフロンティアになった」と書いている。これもまた青木氏にいまさら説明してもらわなくてもだれでも知っている理屈である。

さらに「米国内には中国市場から利益を得る様座万利益集団もあり、こういう団体のロビー活動も活発である。政府はすでにこれを無視できなくなっている」と続け、「天安門事件以後、キッシンジャーが危機感を持ち、ブッシュを和解に急がせたもの。それは日本の中国ビジネスにあった。80年代以降、中国ビジネスの分野で、日本は一貫して米国を突き放していたからだ。米国企業は日本企業に対して、明らかに後塵を拝していた」と、当時の米国の焦りを説明し、それに対し「鄧小平は米国を引き込まなければ、中国はいつまでも世界の町工場のレベルに留まるしかない」と、中国のこれまた当時の切迫した状況を振り返っている。

現在の米中関係については、「米国経済の失速と不振の長期化で、自国製品愛好の流れが出始めた。『バイアメリカ』がそれである。一方でこれに反発するかのように、中国は中国で『中国企業を防衛せよ』、『中国製品を守れ』の声が高まりつつある。警戒すべきは中国国内で高まる経済矛盾と愛国主義がひとつに重なり合ったときである」と、警告を発している。また「中国がもっとも警戒感を隠さないもの。それは日本人のナショナリズムの高まりである。この裏にあるものは核保有国北朝鮮の出現に対して日本は丸腰でいいのか、という自然な民族の防衛本能である」と書き、最後の「米中同盟の共有点は、日本核武装阻止である」という文言に結び付けている。

 

4.「中国人に売る時代!」  徐向東著  日本経済新聞出版社刊  2009年11月19日発行

この本は、これから中国にモノを売ろうとする人のためのノウハウ本である。題名と内容がぴったりと一致している。

まず徐氏はまえがきで、「中国経済はまだ政府の補助に依存している部分があるので、『投資依存型』というのはいまだに脱し切れていない。だが、『外需依存型』ではなくなった。中国はれっきとした巨大内需市場となったのだ」と、言い切っている。この言に無条件で賛成することはできないが、たしかに現在、中国の田舎の隅々まで消費ブームが沸き起こり、中国人老若男女がそれに便乗して踊っている。日本人もこの市場にモノを売り、ひと儲けしなければいけない。

ところが徐氏は、そのように過熱する一方の中国内需市場に、なかなか日本企業が参戦してこなかったのを嘆きながら、「多くの日本企業が中国への本格参入という決断をできなかったのは、創業者世代がいなくなり、組織防衛を第1とし、冒険を避けようとしているからではないかと推測する。商談しても、即断できず、『本社に持ち帰って相談してから返答します』などという。だが、このような姿勢では、中国人の心を掴むことは難しい。なぜなら今の中国の経営者たちは、組織人ではなく、創業者として会社を経営しているからだ」と書いている。この言は、まさに正鵠を得ており、日本人にとっては耳の痛い話である。

徐氏は、「日本企業はこれからの時代において低価格商品が大量に消費される新興国市場でも、勝負できる体質にならなければならない。やるかやらないかではなく、日本企業は巨大中国市場で成功を勝ち取らないと次の時代に生き残れない覚悟で、中国市場に臨むべきなのはいうまでもない」と、へっぴり腰の日本企業に檄を飛ばしている。

徐氏は本文中で、コカ・コーラ、シーメンス、農夫山泉、ZARAHM、ユニクロ、カルフール、サムスンなど大企業の中国市場攻略法を具体的に紹介している。その上で、中小零細企業の中国市場進出の成功例として韓国企業を取り上げ、「韓国食品の快走を見ていると、『中国市場を攻めるのは難しい』という日本人ビジネスマンの嘆きを不思議に思う。『どんな格好でも構わないから、とにかくドラマも食品もファッションも何でも持ってきて中国人と一緒に楽しんでいこう』というのが韓国人のスタイルだ」と、韓国商売人の気質を学べと説いている。私は韓国でも工場経営をしたことがあるし、他の国でも韓国人といっしょに仕事をすることが結構多かったが、徐氏の指摘には納得できる。

さらに徐氏は、「今や日本企業は『ガラパゴス化』している」と揶揄し、「優れた技術や高い生産効率を持ちながら、日本製品の国際シェアは低下し続けている。その一因として、日本市場という独特の環境で技術やサービスなどが独自の進化を遂げた結果、世界の消費市場からかけ離れてしまった」からだと言っている。そしてそのような日本企業には「このあたりで『生産やマーケティングだけでなく、企業経営の考え方そのものも大変革』が求められている」と強く指摘している。

以上

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日中韓若手研究者共同セミナーをふりかえて

              京都大学経済学研究科ポスドク 厳成男

 

20091223日、京都大学大学院経済学研究科・上海センター主催の日中韓若手研究者による共同セミナーが開催された。京都大学、中国人民大学、韓国慶北大学の若手研究者が集まり、現在の世界経済危機との関連で、活発な議論が行われた。

日中韓三カ国は共に輸出依存度が高く、今回の世界経済危機により同じく深刻な打撃を受けたが、危機の後の景気対策の内容や効果、そして回復ぶりはさまざまである。このような現状に関して、三カ国の研究者たちがさまざまな視点からアプローチし、議論することの重要性は言うまでもない。報告の内容は、景気循環や経済成長に関する理論的研究から財政、金融、労働など多義にわたり、このセミナーの中心的議題であった経済危機からの脱出に向けて様々な実行可能な提案もなされた。

このセミナーのコーディネーターを務めた大西広教授の調整の結果であろうが、各報告は多様でありながら相互補完的に構成されていた。私は、今回のセミナーで中国における消費中心の内需主導型成長体制への転換条件として、フレキシキュリティ戦略に基づく労働市場制度改革に関する内容を報告したが、私の前の報告者が、金融危機以降の中国における景気対策の実態と効果に関する報告であり、両報告がセットとなって金融危機以降の中国の経済成長に関する実証分析、および政策提案となる構成となっていた。また、各報告に対して、フロアーから質問やコメントが積極的に出され、私もそうであるが、報告者の皆さんにとって実りの多い報告になったのではないだろうか。

今回の世界的金融危機の影響の下、またそれへの対応の過程で、日中韓三カ国経済の相互依存性はさらに高まり、三カ国経済の相互補完性もますます拡大されることが予測される。また、鳩山民主党政権の発足以来、アジア共同体に関する議論が、日本のみならず韓国、中国においてもさらに活発になっていることも事実であり、現在北東アジア三カ国は歴史的大転換の起点に立っているのかもしれない。このような時期に、この歴史的転換を担う日中韓三カ国の若手研究者が一堂に集い、議論を交わすことの意義は大きいのではないだろうか。

これまでは自分の研究と直接かかわる研究会や学会だけに参加し、日本語による報告だけ行ってきた私にとって、今回の英語による国際セミナーは非常に新鮮で、チャレンジングな経験となった。勉強にもなったし、自信にもなったような気がする。

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中国経済最新統計】(試行版)

 

上海センターは、協力会会員を始めとする読者の皆様方へのサービスを充実する一環として、激動する中国経済に関する最新の統計情報を毎週お届けすることにしましたが、今後必要に応じて項目や表示方法などを見直す可能性がありますので、当面、試行版として提供し、引用を差し控えるようよろしくお願いいたします。    編集者より

 

実質GDP増加率

(%)

工業付加価値増加率(%)

消費財

小売総

額増加率(%)

消費者

物価指

数上昇率(%)

都市固定資産投資増加率(%)

貿易収支

(億㌦)

輸 出

増加率(%)

輸 入

増加率(%)

外国直

接投資

件数の増加率

(%)

外国直接投資金額増加率

(%)

貨幣供給量増加率M2(%)

人民元貸出残高増加率(%)

2005

10.4

 

12.9

1.8

27.2

1020

28.4

17.6

0.8

0.5

17.6

9.3

2006

11.6

 

13.7

1.5

24.3

1775

27.2

19.9

5.7

4.5

15.7

15.7

2007

13.0

18.5

16.8

4.8

25.8

2618

25.7

20.8

8.7

18.7

16.7

16.1

2008

9.0

12.9

21.6

5.9

26.1

2955

17.2

18.5

27.4

23.6

17.8

15.9

  1

 

 

21.2

7.1

 

194

26.5

27.6

13.4

109.8

18.9

16.7

 2

 

(15.4)

19.1

8.7

(24.3)

82

6.3

35.6

38.0

38.3

17.4

15.7

 3

10.6

17.8

21.5

8.3

27.3

131

30.3

24.9

28.1

39.6

16.2

14.8

 4

 

15.7

22.0

8.5

25.4

164

21.8

26.8

16.7

52.7

16.9

14.7

 5

 

16.0

21.6

7.7

25.4

198

28.2

40.7

11.0

38.0

18.0

14.9

 6

10.4

16.0

23.0

7.1

29.5

207

17.2

31.4

27.2

14.6

17.3

14.1

 7

 

14.7

23.3

6.3

29.2

252

26.7

33.7

22.2

38.5

16.3

14.6

 8

 

12.8

23.2

4.9

28.1

289

21.0

23.0

39.5

39.7

15.9

14.3

 9

9.9

11.4

23.2

4.6

29.0

294

21.4

21.2

40.3

26.0

15.2

14.5

10

 

8.2

22.0

4.0

24.4

353

19.0

15.4

26.1

0.8

15.0

14.6

11

 

5.4

20.8

2.4

23.8

402

2.2

18.0

38.3

36.5

14.7

13.2

12

9.0

5.7

19.0

1.2

22.3

390

2.8

21.3

25.8

5.7

17.8

15.9

2009

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1

 

 

 

1.0

 

391

17.5

43.1

48.7

32.7

18.7

18.6

2

 

3.8

(15.2)

1.6

(26.5)

48

25.7

24.1

13.0

15.8

20.5

24.2

3

6.1

8.3

14.7

1.2

30.3

186

17.1

25.1

▲30.4

▲9.5

25.5

29.8

4

 

7.3

14.8

1.5

30.5

131

▲22.6

▲23.0

▲33.6

▲20.0

25.9

27.1

5

 

8.9

15.2

1.4

(32.9)

134

▲22.4

▲25.2

▲32.0

▲17.8

25.7

28.0

6

7.9

10.7

15.0

1.7

35.3

83

▲21.4

▲13.2

▲3.8

▲6.8

28.5

31.9

7

 

10.8

15.2

1.8

(32.9)

106

▲23.0

▲14.9

▲21.4

▲35.7

28.4

38.6

8

 

12.3

15.4

1.2

(33.0)

157

▲23.4

▲17.0

▲2.05

7.0

28.5

31.6

9

8.9

13.9

15.5

0.8

(33.4)

129

▲15.2

▲3.5

10.6

18.9

29.3

31.7

10

 

16.1

16.2

▲0.5

(33.1)

240

▲13.8

▲6.4

▲6.2

5.7

29.5

31.7

11

 

19.2

15.8

0.6

(32.1)

191

▲1.2

26.7

10.0

32.0

29.6

34.8

 

注:1.①「実質GDP増加率」は前年同期(四半期)比、その他の増加率はいずれも前年同月比である。

2.中国では、旧正月休みは年によって月が変わるため、1月と2月の前年同月比は比較できない場合があるので注意

されたい。また、(  )内の数字は1月から当該月までの合計の前年同期に対する増加率を示している。

  3. ③「消費財小売総額」は中国における「社会消費財小売総額」、④「消費者物価指数」は「住民消費価格指数」に対応している。⑤「都市固定資産投資」は全国総投資額の86%2007年)を占めている。⑥―⑧はいずれもモノの貿易である。⑨と⑩は実施ベースである。

出所:①―⑤は国家統計局統計、⑥⑦⑧は海関統計、⑨⑩は商務部統計、⑪⑫は中国人民銀行統計による。