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京大上海センターニュースレター
第51号 2005年4月5日
京都大学経済学研究科上海センター

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目次
○上海センター・ホームページ更新のお知らせ
○中国人民大学楊瑞龍教授講演会のご案内
○ブラゴベスト・センドフ駐日ブルガリア大使講演会のご案内
○中国・上海情報 3.28-4.3
○中国における土地開発利益の帰属問題について
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上海センター・ホームページ更新のお知らせ
このたび、上海センターのホームページがリニューアルされました。URLはhttp://www.econ.kyoto-u.ac.jp/~shanghai/です。上海センターの概要紹介とともに、今後の活
動のご案内や、ニューズレターのバックナンバー、これまでのシンポジウム、講演会、セミナー
の開催案内や概要報告などが掲載されています。ふるってご活用ください。
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中国人民大学楊瑞龍教授講演会のご案内
講演テーマ「グロバール経済の中の中国国有企業改革について」
講演者 楊 瑞龍 中国人民大学経済学院長
通訳  胡 霞  中国人民大学経済学院副教授
日時 4月18日(月)午後14:00-
会場 時計台記念館国際交流ホールT
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ブラゴベスト・センドフ駐日ブルガリア大使講演会のご案内
講演テーマ「EUの東方拡大と東アジアの可能性-ブルガリアの視点から-」
講演者 ブラゴベスト・センドフ駐日ブルガリア大使、世界大学協会名誉総裁
通訳  田中雄三龍谷大学名誉教授
日時  4月28日(木)14:00-
会場  時計台記念館国際交流ホールT
共催  京都大学経済学会
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中国・上海ニュース 3.28−4.3
ヘッドライン
■ 中国大陸・台湾:国民党代表団56年ぶりの大陸訪問
■ 中国人民銀行総裁:元レート形成メカニズムの改善が急務
■ アセアン:対中貿易が急成長、中国第4の貿易相手に
■ 中国国務院:鉄鋼と固定資産投資でマクロ調整を強化
■ 中国:金融機関6行が利上げ時期を今年4−6月と予測 
■ 中国:人民銀行のGDPとCPI予測、過小評価か
■ 中国:外資系旅行会社の設立が自由化、競争激化か
■ 上海:平均給与年2.5万元、社会保険料引き上げ
■ 上海:松下が「中国生活研究センター」を開設
■ 蘇州:1人当たりGDP、上海超えて長江デルタ1位
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             中国における土地開発利益の帰属問題について
                                              京都大学 大西広
 3月24‐29日の間、大森經徳氏を団長とする淅江省の投資環境調査に参加し、杭州、紹興、
寧波の開発区の状況と対中進出企業の状況等の視察を行った。これらの詳しい内容はいず
れ第3次対中進出企業報告書の発行の際に報告するが、ここでは紹興袍江工業開発委員会
へのヒアリングで教えられた不動産価格の問題あるいは土地の転売問題について若干書き
残しておきたい。
 もちろん、ここでヒアリングを行った対象は特定の開発区だということで安易な一般化はでき
ないが、本来土地は「国有」であるということで先住の農民を「安価」な補償金で放り出し、それ
を時価で販売することで大きな利益が得られる。それがどの程度であるかをヒアリングで知る
ことは出来ないが、我々に知ることができる数少ない“情報”は開発区管理委員会の建物の
立派さ加減かも知れない。投資後5年間は所得税が免除ないし減額されていながらあれだけ
の建物を建築できるには用地売却収入がかなりなければならないのでは、というのが私の印
象である。
 が、このことと同時に断っておくべき一つのポイントは、そうはいっても元居た農民への補償
金もよく言われる程には「安価」とは思えない事である。彼らは開発区の中心に新築された団
地の美しい部屋を提供され、この開発区では更に戸籍を都市住民に変更、再就職の為の訓
練も受けられるという。2003年には北京で立ち退きに抗議した焼身自殺が2件あったが(1件
は安徽省から来た農民のもの)、これを大量現象と見る事は出来ず、より良い条件を求めて
地元政府と行っていた交渉の失敗と見た方が良いというのが私の見解である。この事件の一
方は立ち退きの直前に借金で家の修繕をしていたため他より良い補償金を住民は求めてい
た。その主張は正当なもので制度の改善は必要と思うが、それは「立ち退き」そのものの問題
ではないというのが私の見解である。日本では土地が「国有」でない為、都市/開発地を所有
する住民は地価上昇の利益を全面的に私的に享受することが出来るが、中国では「国有」で
ある為にそれが出来ない。その意味で中国で立ち退きをさせられた住民達は日本と比べて「
不利益」を被っているが、彼らが全面的な利益を得る事が公平なのかどうかは判らない。誰も
「開発」しようと思わない奥地の農民は何の利益も得られず、都市部の「土地所有者」だけが
利益を得るのが必ずしも「公平」とは言えないからである。
 従って、私の考えではこの開発利益が公的なものとして取得されるのは道理がある。この意
味で中国型のシステムは良く出来ている。が、問題はこの利益が中西部の農村部にも回され
るシステムがあるかどうかであり、更に言えばこの利益が政府とつながる一部の人々に回って
しまうということがあるかないかである。実を言うと、最近の中国の大富豪の多くはこうした不
動産取り引きによって成り上がって来ており、例えば、2003年に逮捕された「上海一の金持ち」
周正毅も上海静安区の中心地区の再開発で巨富を蓄えている。都市部を中心とする中国の
高成長の利益は安価で入手した土地を(開発コスト以上の上乗せをして)転売するか地代とし
て取得することで簡単に得ることが出来る。つまり、政府とつながることで、うまくこうした土地
を入手出来ればそれによって巨富を得られるという訳であり、これが多くの「腐敗」の温床とな
っているのである。
 その為、中央政府の規定により開発区の工業用地は工場建設用のものとしてしか許可され
ず、また商業用地は入札が義務づけられている。がしかし、我々が訪問した袍江開発区で工
業用地の10倍の「地価」を持つ商業用地の転売は許されており、かつまた一旦進出した工場
も撤退時にはその土地を転売することができる。この開発区では商業用地も含めて転売は
余りないと答えられたが、巨額の開発利益が特定の個人ないし私企業に取得されるというシ
ステムがここにある事は間違いがない。中国の場合、開発地の転売は大きなロットでなされ
るから金持ちだけがこの利益に預かることができる。

 ついでに言うと、進出した外国企業も一定期間の後に撤退して工業用地を売る事が出来る
以上、ある条件の下では撤退が最も高収益を挙げるということになる。例えば、人民元の切
り上げはそうした条件の一つとなり、その時それらの工場は中国現地資本の手に移るであろ
う。そして、これは(為替レートの変更という意味で)中国の国際競争力の上昇ないし(中国現
地資本の購入力の上昇という意味で)中国の国内生産力の発展をその条件とするから、要す
るに他国に比べた中国の生産力の発展の帰結と理解することが出来る。このような形で中国
が中国として発展をする未来が少しずつ見えて来つつある。
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