=================================================================================
京大上海センターニュースレター
第58号 2005年5月23日
京都大学経済学研究科上海センター

=================================================================================
目次
○ 上海センター・ブラウンバッグランチセミナーのご案内
○ 上海センターシンポジウム「日中間の"政冷経熱"をどう打開するか」のご案内
○ 中国・上海情報 5.16-5.22
○最近の反日騒動に関するわが社の現状と方針
*********************************************************************************
上海センター・ブラウンバッグランチ(BBL)セミナーのご案内
第5回 中国における都市・農村間の教育格差
講師 京都大学大学院農学研究科 沈金虎 講師
日時 2005年6月7日(火)午後12時15分〜13時45分(食事持ち込み可)
場所 法経総合研究棟1階演習室107
=================================================================================
上海センター・シンポジウム「日中間の”政冷経熱”をどう打開するか」のご案内
報告者 時 殷弘 (中国人民大学国際関係学院教授、アメリカ研究センター主任教授)
高井潔司(北海道大学国際広報メディア研究科教授、元読売新聞北京支局長)
竹内 實 (京都大学名誉教授)
司会 本山美彦(京都大学経済学研究科教授)
日時 7月1日(金)午後2:00-6:00 会場 京都大学時計台記念館百周年記念ホール
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
中国・上海ニュース 5.16−5.22
ヘッドライン
■ 中国:4月CPI上昇率1.8%
■ 中国:1−4月固定資産投資1兆4025億元、25%増
■ 中国:4月工業製品出荷価格:原油37%、原炭26%上昇
■ 中国:4月社会消費財小売:12.2%増
■ 国際:モンゴル、送水パイプ建設で南部の水不足に対応
■ 中国:1−4月、外食産業小売額17%増の2682億元
■ 上海:インターネット利用者数441万人、全国2位
■ 浙江:夏の電力事情、過去20年で最悪
■ 福建:「両岸経済交易会」で台湾果物が大人気
■ 広東:4月の対外貿易総額、全国の3割を占め、16%増
=================================================================================
             最近の反日騒動に関するわが社の現状と方針
                       株式会社小島衣料代表取締役 小島 正憲(4月24日記)

1.小島衣料関連の中国工場の現状
 小島衣料関連の中国公司は、すべて平穏で正常に稼動しており、反日騒動の影響は皆無
である。今後、仮にこの騒動が拡大した場合でも、小島衣料の基幹工場である美島公司と美
旭公司は、ともに中国側との対等出資の合弁公司であるから、騒動には合弁相手の中国側
当事者が事態に対処することとなり、安定操業を確保することが可能である。ことに美島公司
は湖北省黄石市にあり、社歴15年、外貨獲得では湖北省の数少ない優秀な企業であり、地
元政府にとっては不可欠の企業である。しかも設立当初から中国側当事者や、黄石市行政と
きわめて良好な関係を維持している。小島正憲自身についても、湖北省や中国中央政府から
中国の発展に寄与したとして栄誉賞を贈られており、しかもこの騒動の最中の4月12日に、
黄石市公安局から、直々に「外国人永久居留証」をもらっており、地元政府や市民とはまさに
朋友の間柄となっている。したがってよほどの騒動でない限り、工場が影響を受けることはな
い。
 美旭公司は上海市青浦区趙屯鎮にあり、社歴は13年、中国側当事者は鎮政府の外郭組
織である。美旭公司は趙屯鎮の最初の外資企業であり、設立以来、毎年中国側に相当額の
配当を支払い続けており、きわめて良好な関係を続行している。総務や労働組合などの工場
幹部にも、地元出身者が永年勤続しているため、工場が外部からの影響を受け、騒動などに
巻き込まれることは考えられない。
 その他、小島衣料が独資で展開している桜島公司・友島公司・偉馳公司なども、正常に稼
動している。これらの公司は規模が小さいため、日本人幹部が全従業員の動向をしっかり把
握しており、事業の伸縮も自在であり、今後も反日騒動の影響を受けることはまったくない。

2.上海における反日騒動の状況と見通し
 わが社の偉馳公司の入居している世貿商城は、日本総領事館と対面している。また私とわ
が社の社員の居住しているマンション(新世紀広場)も総領事館のすぐ側にあり、1階の日本
料理店などが破壊されるのを実況中継できるほどだった。この点で、私たちは、今回の上海
における反日騒動については、日本や中国での報道を検証できる絶好の位置にいたわけで
ある。渦中の当事者として、今回の騒動の状況をまとめてみると、下記のようになる。
@ 10日ごろから、インターネット上で反日デモのよびかけが行なわれた。それは過激なもの
  ではなくて、投石や破壊を戒め、整然としたデモを行なおうとよびかけられていた。
A 4日、上海在住のすべての携帯電話保持者に、公安当局から「デモ参加を自粛」のメール
  が入った。
B 16日午前10時ごろ、上海の各地に集結した若者が、日本総領事館に付近に結集した。
  約1万3千人。
C 公安や武装警察とのこぜりあいが続いた後、総領事館への投石がはじまり、近所の日本
  料理店の破壊が行なわれた。公安はそれを制止しなかった。
D 午後4時ごろまで続き、デモ参加者はその後、徐々に解散した。
E 最後まで4〜500人ほどが座り込んでいたが、公安になだめられ、準備されていたバスに
  乗り込んで解散した。
F 翌朝、上海市政府関連の人が、日本料理店などに被害の状況調査にきて、損害賠償の用
  意があると話した。
G その後の1週間は平穏であった。
H 23日の朝8時、公安および武装警察(約3000人)が、総領事館の周りを完全に防御した。
  デモなどはまったくなかった。

 これらの状況から、今回の騒動に関する日本でのマスコミ報道はおおむね正確であったと
評することができる。今回の反日騒動の本質については、現在、多くの角度から分析中であ
り、他の情報も含めて検討中であり、見通しを断言することはできない。しかしその後の中央
や上海政府の対応を見ているかぎりでは、今後、大きな拡大はないと推測できる。広州では
交易会に影響が及ぶことを配慮し、厳重に警戒したことなどを考えると、たくさんの大きな国
際展示会がある上海でたびたびこのようなことが起きれば、上海市の経済的打撃はきわめ
て大きくなるのは必至なので、今後はデモなどを押さえ込むであろう。ことに上海総領事館の
目の前には、世貿商城と国際貿易センタービルがあり、ともに大きな国際展示会場を持ち、
頻繁に展示会を行なっているから、大きな騒動が起きれば大損失となる。これはSARSのと
きに国際級展示会がたくさん中止されたことで、その損失については痛感済みでもある。広
州では、日系企業で反日名目のストライキが行なわれたようであるが、実態は不明である。
おそらく他の原因との相乗の結果ではないだろか。これも現在調査中である。

3.当面の小島衣料の方針
A.今期の中国戦略を積極的に展開する。
  政治とビジネスは別であるから、友好な関係を保持しつつ、事業を粛々進める。むしろ他
 社が躊躇しているときこそ、合弁公司を中心とするわが社の有利さを活かして、事業を遅
 滞なく展開する。ことに今期の中国戦略の主眼である武漢と上海での新規2工場を進展さ
 せる。

B.小島衣料の中国派遣社員は、下記を行動指針として、勤務に精励すること。
 @政治の問題について、個人的な見解を聞かれた場合は、余計なトラブルに巻き込まれな
 いために、下記のように答えること。
 「私はビジネスのために中国に来ているので、平等互恵の立場で、事業が成功するように
 全力をあげて努力をします。ただし日中間の政治的な問題に関する個人的な見解は、発
 言を控えさせていただきたい。政府間交渉で、結論が出れば日本人として、それに従いま
 す」
 A日本人として、この問題について、卑屈になる必要はない。
 上海市内で日本人として、肩身の狭い思いをするのではなく、堂々と胸を張れ。料理店やタ
 クシーなどで日本人かと聞かれた場合、堂々と日本人と答えること。もちろん危険な場所に
 近寄ることを控えるべきであるが、日本人であることを隠すような卑屈な態度は取るべきで
 はない。もしそのことによって、暴力を振るわれた場合は、毅然として無抵抗・非暴力で応対
 すること。暴力の応酬からは何も産まれないからである。この毅然とした無抵抗・非暴力を貫
 くことによって、日本人の精神の気高さを示すこと。ここで大ゲンカをしてみても、それは蛮勇
 の類である。
 B一般の中国人に対しては、従前通り、心の底から敬意をはらうこと。
 原則として、いかなる場合でも、すべての人間に敬意をはらうべきであり、人種、国籍、性別、
 職業などで、人間を差別視してはならない。ことに中国人に対しては、かつて日本が中国を
 侵略し大きな迷惑をかけたことは事実であるから日本人として贖罪意識を持つことが必要で
 ある。さらに小島衣料は中国の地で、中国人と共存することによって、事業を成立させている
 わけだから、この人たちに儲けさせていただいているという感謝の念を、心の中で抱いていな
 ければならない。掃除や賄いのおばさん、門衛のおじさんにもしっかり敬意をはらうこと。
 C工場内では、日本人として率先垂範、労働模範となるように勤め、中国人から尊敬されること。
 中国人労働者は、日本人をしっかり監視している。彼らの目の前で、日本人の高度な技術をし
 っかり伝授し、日本人の仕事に取り組む真摯な態度を学ばせること。
 Dその上で、日本人は技術指導者であり、品質管理者でもあるから、仕事上では妥協なくその
 任務を果たすこと。規律違反などについては妥協なく注意し、品質基準に満たないものは厳格
 に処分しなければならない。たとえ中国人社員が反日的な態度で挑んでも、この点では妥協し
 てはいけない。しっかり理由を示して、納得させること。
 Eしかし、いたずらに居丈高にならないこと。威張らないこと。中国人の自尊心を傷つけるよう
 な言動は絶対に慎むこと。
 F小島衣料の中国派遣社員はお金を儲けるために、中国で仕事をしているわけであるから、
 その意味では、日本人のプライドや面子を捨てても、お金を儲けた方が勝ちである。だからた
 とえ卑屈な人間と見られようとも、必要な妥協は行なうことが大事である。たとえば、賄いのお
 ばさんやマンションの門衛さんなどにはチップをはずみ、友好な関係を保っておいた方がよい。
 タクシーで乗車拒否に会いそうになったら、泣きついて乗せてもらえばよい。それぐらいしたた
 かな日本人になることがのぞましい。
 G上記の注意事項はすべて忘れてもよいが、これだけは絶対に行なうこと。
 小島衣料採用の中国人社員の立場を理解し、彼らが窮地に陥った場合は体を張って助ける
 こと。反日騒動でもっとも苦しんでいるのは、小島衣料関連公司に勤務している小島衣料採
 用の中国人社員である。彼らは日本人と中国人との間で、板ばさみになって困っている。反
 日騒動の場合、一般の中国人の非難や打撃の対象は、まず最初に日系企業に勤める中国
 人に向かう。つまり日ごろ日本人のために仕事をしてくれている中国人が、「日本人のイヌ」と
 さげすまれて、暴力の対象になるのである。この場合、日本人は毅然として彼らを守るため
 に、盾となり犠牲になるべきである。彼ら中国人を、体を張って助けなければならない。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++