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京大上海センターニュースレター
第59号 2005年5月31日
京都大学経済学研究科上海センター
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目次
○ 上海センター・ブラウンバッグランチセミナーのご案内
○ 上海センターシンポジウム「日中間の”政冷経熱”をどう打開するか」のご案内
○ 中国・上海情報 5.23-5.29
○上海と京都舞鶴港を結ぶ中国航路開設
○第5回 慶北大 - 京都大 国際学術大会について
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上海センター・ブラウンバッグランチ(BBL)セミナーのご案内
第5回 中国における都市・農村間の教育格差
講師 京都大学大学院農学研究科 沈金虎 講師
日時 2005年6月7日(火)午後12時15分〜13時45分(食事持ち込み可)
場所 法経総合研究棟1階演習室107
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上海センター・シンポジウム「日中間の”政冷経熱”をどう打開するか」のご案内
報告者 時 殷弘 (中国人民大学国際関係学院教授、アメリカ研究センター主任教授)
    高井潔司(北海道大学国際広報メディア研究科教授、元読売新聞北京支局長)
    竹内 實 (京都大学名誉教授)
司会 本山美彦(京都大学経済学研究科教授)
日時 7月1日(金)午後2:00-6:00 会場 京都大学時計台記念館百周年記念ホール
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中国・上海ニュース 5.23−5.29
ヘッドライン
■ 中国:認定された特許の6割が海外からの出願
■ 中国:若者の失業率9%、平均を上回る
■ 中国人民銀行:上海不動産市場に海外資金220億元
■ 商務部:小売20社に発展資金500億元を融資
■ 中国:ガソリン価格1トン当たり150元値下げ
■ 上海:英語が大学の最高人気専攻科目
■ 中国:2004年自動車製造・関連企業の販売収入、「第一汽車」トップ
■ 奇瑞汽車:自主開発視野に、海外技術者を確保
■ 吉利汽車:マレーシアで自動車組み立て、海外販売
■ 広東:2010年に中高級乗用車の重要製造拠点に
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     「一衣没水」の関係を目指して〜上海と京都舞鶴港を結ぶ中国航路開設〜
                                    京都府商工部経済交流・貿易室

 日本と中国とは昔から「一衣帯水」の関係といわれています。
 現在、中国は輸入は第一の貿易国で、輸出は米国に次ぐ相手国になっており、切るに切れ
ない間柄になっています。東アジア経済共同体の議論が盛んになってきましたが、日中韓の
三国とASEANがこれを形成すれば、北米、EUに匹敵する経済圏になるでしょう。さて、経済
交流の大動脈である航路が今年4月から上海と京都舞鶴港を直接結びました。この航路の
開設の意義は経済交流の活性化はもちろんのこと、今や中国の経済・文化の中心である上
海と大陸の文化を移入し独自の日本文化に昇華させた「京都」の玄関口・京都舞鶴港を結ん
だことです。

 京都大学上海センターと今回開設された上海航路が連携しながら、経済・文化交流が進み、
日中関係がさらに一歩進み、まさに「一衣没(メイ)水」になることを期待しています。
 *詳しくは「舞鶴港振興会http://www5.nkansai.ne.jp/off/m-port/」をご覧下さい。
第5回 慶北大 - 京都大 国際学術大会について
 表記の国際学術大会は、2004年12月10日(金)、9時30分〜18時10分に、慶北大学校・経済
通商学部国際会議室において開催され、京大からは、北野尚宏、今久保幸生、村瀬哲司(留
学生センター)、菊谷達弥(以上、報告順)が参加した。
 今回の大会の共通論題は、「東北アジア経済協力の展望と課題」(Prospect and Subjects
of Economic Cooperation in Northeast Asia)であった。
はじめに、慶北大学校側代表としてHeung-Seub Chang経商大学学長、および京都大学側代
表として今久保がそれぞれ開会の挨拶を行い、その後早速、下記のプログラムに即して報告
と討論が順になされた。
発表1 Naohiro Kitano(京都大)
"Japanese Contribution in Supporting China's Reforms - AStudy Based on ODA Loans"
討論 韓東根(嶺南大)
発表2 崔龍浩(慶北大)
"East Asian Economic Development and Small-Medium Enterprises (SMEs) of Korea"
討論 徐正解(慶北大)
発表3 Sachio Imakubo(京都大)
,,Meaning and Problems of Japan-Korea FTA for the East Asian Economic Integration"
(「東アジア経済統合における日韓FTAの意義と課題」)
討論 沈承鎭(慶北大)
発表4 孫柄海(慶北大).
"Development of Intra-industry Trade among Korea, Japan and China and Its Implication
for North-east Asian Economic Integration"
討論 金都亨(啓明大)
発表5 Tetsuji Murase(京都大)
"Regional Financial Cooperation in East Asia and Its Perspective - Increasing Importance
of ASEAN+3 - "(「東アジアにおける地域金融協力の現状と展望―存在感を高めるASEAN+
日中韓―」)
討論 金煕鏑(慶北大)
発表6 Tatsuya Kikutani, Hides hiItoh, Osamu Hayashida(京都大)
"Business Portfolio Restructuring of Japanese Firms in the 1990s: Entry and Exit Analysis
of Business Groups"
討論 朴秋魯(慶北大)
 報告と討論に際しては、予め印刷されていた報告集を利用することができた。ちなみに、北
野、村瀬、菊谷は英語、崔、孫は韓国語、今久保は日本語でそれぞれ報告を行い、崔、孫、
今久保の3報告ならびにその討論については、大西ゼミ大学院博士課程学生、表正賢君が
通訳を引き受けてくれた。表君にはこの場を借りて謝意を表したい。

 以下、各報告と質疑応答の概要を示しておく。
 北野は、日本の対中円借款をとおした中国の改革開放支援の評価について報告を行った。
 対中円借款の概況について紹介した後に、主に、1980年代初頭から90年代にかけて供与し
た中国の石炭輸送システム改善のための一連の円借款事業に焦点を当て、@石炭輸送のボ
トルネック解消、A地域開発への貢献、B貧困削減への寄与、C先進的技術の移転、Dプロ
ジェクトマネジメントに係る制度導入、の5点にわたって、円借款の果たした役割を論じた。
 討論者の韓は、費用便益分析、円借款事業の効率性、事後評価の中立性、コストオーバー
ランの可能性等の観点から講評を行った。
 崔は、@90年代前半から2003年に至る韓国中小企業の現状と動態を、経営数、付加価値額、
輸出、国内GDPに占める比率等の点から統計的に確認し、韓国の輸出先としてアジア向けが
急増するなかで、東アジアへの輸出額では中小企業が大企業を凌駕していること、とくに対中
輸出が増大し、品目別では、繊維が減少、電気電子や化学が増加していること、A直接投資
では、2003年に韓国企業中に占める中小企業の割合は件数で86%、金額で28%を占めたこ
と、地域別では、アジア、とくに対中直接投資が増加していることを確認し、Bさらに、中小企
業の中では小企業が増加し中企業げ減少していること、大企業と中小企業の収益格差が拡
大していること、FDIのASEAN、中国への伸びやこれらの諸国でのIT技術等の水準の上昇で、
東アジアの雁行型発展が崩れ、韓国中小企業の採算悪化等を引き起こしていること、CFTA
締結に際しては、こうした状況の変化への、ベンチャー企業育成、垂直分業から推移平分業
への転換、中間財産業育成、ベトナム等新規投資先の開拓等の対応策を講じる必要がある
こと、を述べた。

 討論者の徐からは、韓日台中小企業の比較を行いつつ、雁行型キャッチアップ論をピオリ
らの「柔軟な専門化」の観点と結びつけて、韓国中小企業の高度化の方向を強調する論評が
なされた。フロアからは、中小企業の経営数の増大と総輸出に占める中小企業の割合の減
少との関係に関する質問等が出された。
 今久保は、2005年から立ち上げられる東アジアサミットの主目標、「東アジア共同体」の形成
とその柱としての東アジア経済統合にとっての、日韓FTAの意義と、日韓FTAが抱える課題を
検討した。
 その概要はこうである。@日韓FTAは「日韓パートナーシップ」を深化させ、両国経済活性化
に結びつき、高い水準のEPAの形成により東アジアFTAを主導するとともにその模範となる可
能性がある。Aだが、日韓FTAの締結の前には、貿易収支不均衡に関わる経済協力・直接
投資・貿易障壁の諸問題があり、双方の調整がなかなか進んでいない。またFTA対応のため
の両国の国内構造改革も過去の方策の焼き直しの面があり、成否が不透明である。さらに
両国FTA戦略にも不透明性がある。加うるに、FTA交渉過程に歴史問題等が影を落としてい
る。Bまた、農水省が提示した、アジア諸国の同意なしの「アジア食糧安保」構想には戦略的
問題があり、むしろ域内食料安保の地域的枠組み創出こそが必要である。また、米韓・日米
安全保障の枠組みに入っている両国こそが、東アジアの「アメリカ一辺倒」を相対化する東ア
ジア連携への道筋を、東アジア諸国地域と米国に明示することが必要である。

 討論者の沈は、今久保報告の独自な提案を評価する一方、日韓FTAが他のFTAほど進捗
していない現状を指摘し、その理由を、統合の利益配分の非対称性(日本の統合利益の方が
大きい)が見込まれる中で、統合利益の移転や補償問題に関する韓日間の調整がなされて
いないことに求める。またその際、経済的に進んだ日本が、経済協力と市場開放の点で「兄
貴」らしい度量を「弟」に示すことが要請されているとする。
 孫は、@東北アジアの域内貿易・投資の特徴を、韓日中のそれぞれの、また相互間の貿易
と投資の諸相を、部門別にまで分け入って分析した。とりわけ、三国間の貿易が産業内貿易
として展開され、それも水平的というよりむしろ、中間財貿易を軸とした垂直的産業内貿易と
して展開されていることを、水平的産業内貿易比率のより高いEUの場合と比べた特徴として
指摘し、生産誘発係数、顕示比較優位指数等の分析を通じて、とくに日韓関係における部品
中間財貿易において、日本の東南アジア・中国への依存度の増大により、日韓依存度が低
下している事実を指摘した。Aその上で、日中間統合の可能性は、中間財・部品の競争力の
有無に照らして判断するべきであり、韓日FTA推進にあたっては、両国間で中間財・部品産
業に関する協力の枠組みを作り、韓日FTAを結ぶ場合も、それの発展の展望を東アジア規
模に限定するのではなく、世界次元で発展するような戦略を練るべきである、との政策提言
を行った。

 討論者の金(都)は、中間財貿易の重要性を確認しつつ、FDIと産業内分業との関連に関わ
る研究が手薄であるとし、その上で二国間・部門間の区別を含めたそれらの分析の必要性
を強調し、また、FDIの増加が日韓FTAの必要条件であるとすれば、その十分条件は労働市
場の規制緩和・撤廃であるとし、さらに、日韓FTA第6次政府間交渉が決裂した主要な根拠
として、両国間の非関税障壁問題での日韓の隔たりの大きさを指摘した。その上で、日本企
業に源を発する問題は日本政府が解決しうるはずであるが、それがなされていないのが決
裂の要因である、とした。他方、関税については、段階的廃止を主張し、そのさい廃止期間
を短めに設定することを是とする旨の提案を行った。
 村瀬は、@アジア危機の原因と背後にある構造要因に照らし、東アジアにおける地域金融
協力の現状とその意義を吟味したうえで、A東アジアの域内機構と他の地域にまたがる機
構の中で、金融協力の面でもASEAN+3が重要性を高めていること、B将来地域通貨圏を
実現するために必要な要件、またその際の日中韓の役割は何かについて発表した。

 討論者の金(煕)ならびに会場からは、アジア危機の原因について、それが主に金融経済
の問題なのか、あるいは実体経済のほうに根本的な問題があるのかについて論点が提示
され、これをめぐって議論が展開された。
 菊谷は、平成不況と呼ばれる1990年代において、日本企業がどのような事業再構築を行
ったかを分析した。その結果、以下のような諸点が明らかとなった。
 @多角化度の若干の減少という事業の集約化傾向が見られるが、これはネットの効果で
あり、その背後では、既存事業からの撤退だけでなく、新規事業への活発な参入が行われ
たこと。A親会社だけでなく、子会社も含めた企業グループとしての事業再編を分析する必
要があること。B単に多角化について推定するだけでなく、参入と撤退とについても合わせ
て推計することによって、興味深い結果が得られること。C参入と撤退を同時に行った企業
のパフォーマンスが高いという意味で両者の間に補完性があること。

 討論者のKyung Rho Park からは、なぜ参入と撤退を同時に行うことが有利なのか、といっ
たコメントがなされた。
 本国際学術会議の諸報告とそれに基づく質疑応答を総括すれば、概して日本側は、日韓
FTA締結が中長期には両国に裨益する点を強調し、日韓両国が、予望される東アジア経済
統合を主導するためにも、いわば小異を捨てた大同の観点から可能な限り早期に日韓FTA
を締結することの重要性を指摘したのに対して、韓国側は、日韓FTA締結の前提として、あく
までも日韓貿易・投資・経済関係にある非対称性の解消ないし緩和ないし調整を重視する立
場からの論調が支配的であった。
 こうした、双方間に距離のある認識を相互に接近させるためには、日韓FTAをめぐる両国
間経済関係の変動に関する双方の共同研究がいっそう深められる必要があろう。
 Choong Yong AHN, Inkyo CHEONG, Yukiko FUKAGAWA, and Takatoshi ITO eds., Korea-
Japan FTA: Toward a Model Case for East Asian Economic Integration, KIEP 2005は、日韓
の研究者による、そうした要請に応えるための共同研究の最新成果と見なされる。実際、こ
の共同研究がFTAに関わる両国経済の諸相を分析したことにより、このテーマに関する認識
が一段と深められたことは疑いない。もっとも、この共同研究では、FTAへの備えとして重要
である、両国の国内経済構造改革に関する分析がほとんど欠落しており、この点、惜しまれ
るところである。
 第5回慶北大−京都大国際学術大会は、慶北大学校経商大学の鄭基虎経済通商学部長
による閉会の挨拶をもって盛会のうちに閉じられた。なお、鄭学部長は、京大側報告者の大
邱市(慶北大学校)滞在中、京大側を何くれとなく世話してくださった。このご厚意に対し、こ
の場を借りて心からの謝意を表したい。
(文責:今久保 幸生。ただし北野、村瀬、菊谷のお三方の報告と討論の部分は、お三方に
よる要旨原稿を、一部技術的訂正を加えた以外、基本的にはそのまま掲載した。)
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