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京大上海センターニュースレター
第60号 2005年6月6日
京都大学経済学研究科上海センター
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目次
○ 上海センター・ブラウンバッグランチセミナーのご案内
○ 上海センターシンポジウム「日中間の"政冷経熱"をどう打開するか」のご案内
○ 中国・上海情報 5.30 - 6.5
○ グローバル経済の中の中国国有企業改革について
○ EUの東方拡大と東アジアの可能性-ブルガリアの視点から-
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上海センター・ブラウンバッグランチ(BBL)セミナーのご案内
第5回 中国における都市・農村間の教育格差
講師 京都大学大学院農学研究科 沈金虎 講師
日時 2005年6月7日(火)午後12時15分〜13時45分(食事持ち込み可)
場所 法経総合研究棟1階演習室107
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京都大学上海センター・シンポジウムのご案内
「日中間の"政冷経熱"をどう打開するか」
 「中国特需」といった言葉が登場する一方で、日中間の政治・外交上の摩擦は高まる一方と
なっており、先には中国国内で大規模な「反日デモ」が繰り広げられました。この影響は現在
経済問題にも波及しおり、事態は深刻です。
 京都大学経済学研究科上海センターでは、昨年以来言われている「政冷経熱」を討論しよう
と年初からこの企画を進めてまいりましたが、事態の進行が早く、現在のような摩擦の激化に
至ってしまいました。本シンポジウムの報告者には、2003年に中国側から対日融和を唱える
「対日新思考」を提起した中国人民大学時殷弘教授を中心に、元中国特派員としてこの分野
での発言を継続してなされている高井潔司北海道大学教授、それに人文学的なサイドから日
中関係を長くみつめて来られた竹内實本学名誉教授をお呼びしました。
 シンポジウム終了後には会場を経済学部大会議室に改め、懇親会も企画しておりますので、
ぜひともご参加のほど、よろしくお願いします。
報告者 時 殷弘 (中国人民大学国際関係学院教授、アメリカ研究センター 主任教授)
      高井潔司(北海道大学国際広報メディア研究科教授、元読売新聞北京支局長)
      竹内 實 (京都大学名誉教授)
司会  本山美彦(京都大学経済学研究科教授)
日時 7月1日(金)午後2:00-6:00
会場 京都大学時計台記念館百周年記念ホール
※ 当日、上海センター協力会では、13:00-13:45に法経総合研究棟2階大会議室にて2005年
度総会を開催します。会員の方はよろしくご参集ください。
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中国・上海ニュース 5.30−6.5
ヘッドライン
■ 商務部部長:米国・EUの繊維品輸入制限要求受け入れられない
■ 人民銀行副総裁:外貨改革は国際収支均衡目標に
■ アジア開発銀:元切り上げは「副作用大、薬効疑問」
■ 外為管理局:貿易名目ホットマネーへの規制強化
■ 中国:1−4月電子重点企業利益6割減
■ 中国:軍需産業の開放枠を拡大、一部は民間企業にも
■ 中国:まもなく大学統一入試、受験者総数は867万人
■ 北京:中関村の企業倒産率30%も「市場経済の法則」
■ 上海:中国最大の造船基地、長興島で着工
■ 上海:国際紡績工業展が開幕、1400社が出展
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             グローバル経済の中の中国国有企業改革について

 去る4月18日、京都大学経済学研究科上海センターと同21世紀COEプログラムが共催で上
記テーマの講演会を開催し、中国人民大学経済学院院長楊瑞龍教授の講演を拝聴した。楊
院長の講演内容は概略次のようなものであった。

 中国国有企業改革は、以下の三つの段階を経て進められている。@「放権譲利」、つまり、
企業の持っている権利を手放させ、利益を企業に譲った段階(1979-84年)、A株式制度を導
入し、近代企業制度を構築した段階(1985-98年)、B現在の国有経済戦略の調整段階(1998
年以降-現在)である。この結果、2003年のGDP 11.7万億元、2004年のGDP 13.65万億元=
16500億ドルとなり、そのうち私営企業は25%、国有は25%、混合経済は30%、三資企業(外
資企業)は20%を占めている。約9%の年平均GDP成長率の中、非国有経済の貢献率は6-7
%となっている。
 こうした中で特に近年は、WTOへの加盟などがあり、グローバル経済の中の国有企業は以
下の挑戦に直面するようになっている。すなわち、@制度規則からの挑戦、A規制緩和から
の挑戦、B海外企業との競争の挑戦、C知識経済時代の挑戦である。
 その中で、特に緊急の課題となっているのは、以下のようなものがある。すなわち、@企業
の行政からの切り離し、A国有資産の流失問題、B国有企業に過剰な社会負担を軽減する
問題、C独占的な企業の規制緩和問題、D国有商業銀行の改革問題、E2000万人に及ぶ
失業者と現役職員の生活保護の問題、F国有株の保有率を減らし、資本市場を整備する問
題である。
 また、グローバル経済の中で中国国有企業改革についてなお深めなければならない構想と
して、以下のようなものがある。すなわち、@国有企業を分類して改革すること、A企業構造
の再編成、B完全な企業の技術メカニズムを打ち出し、知識経済的時代の挑戦を迎えるこ
と、C改革は管理を促進すること、D企業改革のために必要とする外部環境の整備。具体
的には、まず、社会保障制度の構築と整備を行ない、資本市場を徐々に整備し、また企業行
動に関する法律制度を「公司法」や「国有資産法」「不公正競争制限法」などという形で整備す
ることである。

 講演会では、以上の報告を受けた後、30分余りの時間を割いて、以下のような討論を行な
った。
質問)1998年段階の「国有企業」と「混合企業」の比率はいくらか。
回答)40%と20%である。ここで、「混合企業」とは、株式会社のことで、国有部門ないしその子
    会社の株式保有が少しでもあるものを言う。以前「集体企業」と呼んだものは、今は「
    地方国有企業」と呼んでいる。
質問)以前は「公有制主体」が「社会主義」のメルクマールとされた。今後、非国有部門が増
    えても「社会主義」と言えるのか。
回答)全部門を「国有」ないし「公有」とする必要はなく、公共施設、自然独占の資源・エネル
    ギー部門、軍需産業さえ「公有」であれば「社会主義」と言える。それは今後20%まで縮
    小するだろう。
質問)コーポレート・ガバナンスの方法はどの国を今後モデルとするか。
回答)中国は現在アメリカ型を目標としている。が、もっとも理想的なのは、日本型とドイツ型
    をミックスしたものと考えている。
                                               (文責:大西 広)
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        EUの東方拡大と東アジアの可能性-ブルガリアの視点から-
                              ブラゴベスト・センドフ 駐日ブルガリア大使

 欧州連合
 EUは民主主義的なヨーロッパ諸国の「family」で、共に平和と繁栄を目的とするものである。
この歴史的なルーツは第二次世界大戦にあり、現在は以下の5つの制度を持つに至ってい
る。すなわち、@ヨーロッパ議会、AEU理事会、BEU委員会、C裁判所、D監査委員会であ
る。そして、EUにおける全ての決定は全加盟国が合意した条約を基礎としてなされている。こ
の当初の加盟国は、ベルギー、ドイツ、フランス、イタリア、ルクセンブルグ、オランダであった
が、その後、デンマーク、アイルランド、英国が1973年に加盟し、ギリシャが1981年に加盟、
1986年にはスペインとポルトガルが、1995年にはオーストリア、フィンランドとスウェーデンが
加盟した。さらに2004年には10の国が加盟し、三日前(4月25日)にはブルガリアとルーマニア
が2007年の加盟を認められることになった。この両国の加盟で、EUの総面積は日本の10.5倍
の400万平方キロに、総人口は日本の3.6倍の4.6億人になる。
 EUはすでに半世紀の間に平和と繁栄をもたらしたという実績がある。この諸国家の連合は
「多様性の中の統一」と言え、全ての文書が全ての国家の言語に翻訳されるシステムを持っ
ている。そのためにEUの全予算のうちの12%が翻訳のために使われてるほどである。

 ブルガリア
 ブルガリアの歴史はアジアから北バルカン地方に移動したブルガーから始まる。これにより
ブルガリアは1300年以上の歴史を持つことになったが、さらに300年古い歴史を持っていると
の議論もある。その後、1018年にはビザンチン帝国によって併合されたが、1185年には再び
独立。が、14世紀末には今度はオスマン・トルコによって占領されることとなる。その後、1878
年にロシアとトルコの戦争の結果独立を勝ち取るが、全面的に独立した王国の建設は1908
年にまで待たれることになった。
 ブルガリアは第二次大戦では日独伊の側についたが、大戦末に社会主義革命が起き、短い
王政の期間を経て1946年には完全に人民共和国となった。ただし、その後、共産主義の放棄
と共に1991年には王が帰国、選挙によって首相となった。ブルガリアには大統領がいるが、こ
れは完全に道徳的な存在で首相がもっとも重要な地位を持っている。昨年この首相は日本に
公式訪問したが、首相として小泉総理大臣に会見しただけでなく、元国王として天皇にも会見
した。現在、ブルガリアは日米と同様、イラクに軍隊を派遣している。
 ブルガリアの面積は11万平方キロで、首都はソフィア。ギリシャ、マケドニア、ルーマニア、セ
ルビア・モンテネグロとトルコに接している。人口は780万人で、当初830万人あったものが減少
している。これは教育水準の高い国民が外国で良い職を得ようと50万人も海外に出たことによ
る。たとえば、自分の親戚を含めた10人の子供のうち、ブルガリアに残っているのは二人しか
なく、かつその内の一人もイタリアに留学中である。この高い教育水準を反映して都市人口は
68%を占めている。
 経済的な特徴としてはまず一人当たりGDPが2260ユーロ=32万円で、EU平均の1/4であるこ
とが挙げられる。付加価値レベルで産業比率を見ると、1998年に20%を占めていた農業が2003
年に10%まで減少し、代って観光業の発展によりサービス部門が50%から60%に上昇したことが
挙げられる。2002年、2003年の実質GDP成長率はそれぞれ4.9%,4.3%であった。
 ブルガリアのEUへの加盟が遅れた原因には、ブルガリアにおける汚職の蔓延という問題が
ある。これは全体主義から民主主義への転換によって生じたもので、経済にも工業部門の比
率が65%から25%まで縮小するという影響を及ぼした。これは私有化・民営化によって旧来の工
場を引き継いだ人々がまともに生産する気がなく、その資産を売って私利を肥やすことを選択
した結果である。たとえば、バルカン航空は私有化によってイスラエルの航空会社に売却され
たが、この会社はすぐに世界40ヶ所のブランチと航空路線の権利を売却し、その後会社が破
産したということでこの会社を放棄した。よって現在、ブルガリアには航空会社が存在しない。
経済主体間にあった以前のつながりを復活させ、経済を正常化させることが重要である。
 現在、ブルガリアの経済に求められているもうひとつのことは、環境技術の発展である。日
本は欧米より高い環境技術を持っているから、これをブルガリアは取り入れたいと思っている。

 アジアと欧州連合
 EUは経済面でも安全保障面でもアジアを大変重視している。アジアには世界人口の1/3が住
み、世界の中心がここに移動中である。近い将来、中日インドの三国が重要な役割を果たすこ
とになると考えている。
 EUにとって何より利益となるのは平和で反映したアジアである。が、逆にアジアの人々がEUを
どう考えているかを知りたい。
 アジアでもEUに似たものを作ろうとする動きがあることを私は知っている。が、EUは非常に特
殊であり、それをコピーすることはできない。EUもアメリカをコピーしたわけではない。 EUには
非常に大きな多様性があったが、アジアの多様性はそれを上回るからである。
(以上は去る4月28日に開催した上海センター講演会でのブラゴベスト・センドフ駐日ブルガリア
大使の講演の内容を本人の了解を得て「ニューズレター」編集部が要約したものです。)
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