=================================================================================
京大上海センターニュースレター
第61号 2005年6月13日
京都大学経済学研究科上海センター
=================================================================================
目次
○ 上海センターシンポジウム「日中間の”政冷経熱”をどう打開するか」のご案内
○ 上海センター・ブラウンバッグランチセミナーのご案内
○ 中国・上海情報 6.6 - 6.12
○ 人民元切上げが中国経済に及ぼす影響
○ 第9回グローバルビジネス・経済開発国際会議に参加して
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
京都大学上海センター・シンポジウムのご案内
「日中間の”政冷経熱”をどう打開するか」
 「中国特需」といった言葉が登場する一方で、日中間の政治・外交上の摩擦は高まる一方
となっており、先には中国国内で大規模な「反日デモ」が繰り広げられました。この影響は現
在経済問題にも波及しおり、事態は深刻です。
 京都大学経済学研究科上海センターでは、昨年以来言われている「政冷経熱」を討論しよ
うと年初からこの企画を進めてまいりましたが、事態の進行が早く、現在のような摩擦の激化
に至ってしまいました。本シンポジウムの報告者には、2003年に中国側から対日融和を唱え
る「対日新思考」を提起した中国人民大学時殷弘教授を中心に、元中国特派員としてこの分
野での発言を継続してなされている高井潔司北海道大学教授、それに人文学的なサイドか
ら日中関係を長くみつめて来られた竹内實本学名誉教授をお呼びしました。
 シンポジウム終了後には会場を経済学部大会議室に改め、懇親会も企画しておりますの
で、ぜひともご参加のほど、よろしくお願いします。
報告者 時 殷弘 (中国人民大学国際関係学院教授、アメリカ研究センター主任教授)
      高井潔司(北海道大学国際広報メディア研究科教授、元読売新聞北京支局長)
      竹内 實 (京都大学名誉教授)
司会  本山美彦(京都大学経済学研究科教授)
日時   7月1日(金)午後2:00-6:00
会場  京都大学時計台記念館百周年記念ホール
※ 当日、上海センター協力会では、13:00-13:45に法経総合研究棟2階大会議室にて2005年
度総会を開催します。会員の方はよろしくご参集ください。
=================================================================================
上海センター・ブラウンバッグランチ(BBL)セミナーのご案内
第6回 世界の援助潮流とアジアの開発課題
講師 国際協力銀行開発業務部 業務課長 和田義郎氏
日時 6月30日(木) 12:15-13:45
場所 法経総合研究棟3階311教室
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
中国・上海ニュース 6.6−6.12
ヘッドライン
■ 中国とEU:繊維製品10品目輸出自主規制、3年後全面開放
■ 中国:5月対外貿易額が23%増、黒字90億ドル
■ 中国:5月工業製品出荷価格5.9%上昇、原油が43%上昇
■ 中国とドイツ:鉄道分野の協力で合意、高速鉄道受注につながるか
■ 中国:若年層中心に広がる「メガネ族」、3億人が近視
■ 北京:都市計画に微調整か、通州区に副都心建設
■ 中国:大気汚染ワースト10都市に山西省臨汾、重慶など
■ 上海:不動産融資が年間伸び率40%で急速拡大
■ 上海:農村部「小康」実現度87.8%
■ 中国自動車市場:3カ月連続で伸長、上海GMトップ維持
=================================================================================
                 人民元切上げが中国経済に及ぼす影響
                            村瀬 哲司 京都大学国際交流センター教授

 人民元の切上げが中国経済に及ぼす影響について、マクロ経済、銀行部門および金融政
策に分けて検討した。結論としては、人民元の改革が小幅切上げ(変動幅の拡大)かつ漸進
的な切上げをともなう為替制度への移行であれば、たとえ金融部門に問題があっても国家が
銀行株式の過半を保有する限り金融システム不安定化の懸念は少なく、金融政策上はむし
ろ自律性の回復につながり、マクロ経済への悪影響は限定的である。改革の時期としては、
為替の変動リスク・ヘッジ手段が整備されつつあることから、景気過熱やインフレの問題が比
較的落ち着いている、現在から近い将来のタイミングを逃すべきではない。

(発表の構成)
1.中国経済への影響は、人民元の切上げ幅と為替制度のよって異なる。
 人民元改革の選択肢は限られており、(1)固定相場制のもとでの大幅切上げ、(2)5〜10%
程度の変動幅拡大、(3)通貨バスケット・ペッグ制への移行が考えられる(注)。中国政府は、
経済・社会の安定重視の見地から、またWTO加盟の国際収支、各種産業への影響がなお不
透明な状況下、切上げ幅(変動幅)をできるだけ小幅に抑え、かつ金融当局が管理可能な為
替制度を選ぶだろう。
(注)本年5月18日から上海外貨取引センターは新しい売買システムに移行することからバス
ケット・ペッグ制移行への必要条件が整うことになる。

2.マクロ経済への影響
マクロ経済への影響は、(1)輸出入、(2)対内直接投資、(3)交易条件の変化の経路を経て
顕現する。(1)実質為替相場よりも輸出相手国および中国の内需のほうが貿易への説明力
が高い。(2)相場切上げの影響は限定的で、むしろ外資優遇政策の動向に注意を要する。
(3)交易条件の改善によりインフレ抑制と消費の刺激効果が期待される。切上げが小幅か
つ緩やかに進む限り、成長鈍化などマクロ経済への悪影響は少ないだろう。

3.銀行部門への影響
人民元改革は、相場の切上げ、相場変動(volatility)の高まり、および付随する漸進的資本
取引の自由化を通じて銀行部門の安定性に影響を与える。中国の場合、不良債権問題など
金融システムの健全化は「百年河清を俟つ」に近く、国家が株式の過半を所有する限り、人
民元改革が金融システムの不安定化を招く可能性は比較的低いだろう。

4.金融政策への影響
中国は、いわゆる「不可能な三角形」の理論(金融政策の自律性、為替レートの安定、資本
移動の自由の三つの政策目標を同時に達成することはできず、一つの目標は諦めなけれ
ばならない)のジレンマに陥っており、人民元相場の弾力化により、金融政策の自律性を取
り戻すことができる。
(以上は5月9日に開催された上海センター・ブラウンバッグランチでのご報告を報告者にまと
めていただいたものです。事務局記)
=================================================================================
             第9回グローバルビジネス・経済開発国際会議に参加して
                       京都大学経済学研究科講師マスワナ ジャン・クロード

会議について
 2005年5月24-28日の間、計267名の参加者が韓国ソウルの漢陽大学に集まり、大会のテ
ーマである「グローバル時代における経営課題」について議論した。4日間に渡るこの国際大
会は、モントクレール州立大学(USA)と漢陽大学(韓国)によって共同で組織され、研究者(
70%)、会社管理職(9%)、開発専門職(11%)、政府関係者(5%)、そして学生といった様々
な参加者が一同に会した。

大会への参加理由
以下の二つの理由から、本大会への参加を申請した。
1) グローバル金融の開発的側面を研究している研究者や専門家との交流。
2) 中国とアジアにおけるマイクロ・ファイナンスについての知識を深めると同時に、マイクロ・
ファイナンスのより適切な政策提言。

大会における活動と成果
 私は、5月26日に行われた「国際金融と銀行」のセッションで司会進行役とコメンテーターを
務めると同時に、タイトル名“グローバリゼーション下におけるマイクロ・ファイナンスと金融開
発パラダイム:中国青海地域開発プロジェクトの事例から(Microfinance and Financial
Development Paradigms in the Globalization Era:Lessons from the Qinghai Community
Development Project in China)”の発表を行った。発表の結論として、中国青海省のような
地域のマイクロ・ファイナンスでは、マイクロ・ファイナンス・トライアングル(critical triangle
ofmicrofinance)に対応する際、情報技術を統合することが鍵であることが導かれた。
 トライアングルとは以下の三つのポイントである:1)アウトリーチ (より多くの貧困層に届く)、
2)金融の安定 (長期に渡り、運営費と財政費の支払いが可能である)、そして3)インパクト(
生活の質に十分な影響がある)、これら三つを同時に対処する必要がある。
 本発表により、多くの質問や意見が出され、発表日以降まで続く活発な議論に発展した。そ
の中で今後重要な意味を持つ議論は、
a.. 参加型貧困削減、マイクロ・ファイナンス、情報技術が、グローバリズムという大きな流れ
に対し、どのように適切なリンクをすることができるか。
b.. マイクロ・ファイナンスと情報技術の統合プロセスはどのようなものであるか、そして、考え
られる重要な政策というのは何か。
 本大会は、開発経済とグローバル・ビジネスの知識を海外研究者と共有し、有益なフィード
バックを得るための大変貴重な機会であった。大会の議論や講演に参加することによって学
んだものは大きく、今後の研究・教育活動に生かして行きたい。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++