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京大上海センターニュースレター
第62号 2005年6月20日
京都大学経済学研究科上海センター
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目次
○ 上海センターシンポジウム「日中間の”政冷経熱”をどう打開するか」のご案内
○ 上海センター・ブラウンバッグランチセミナーのご案内
○ 中国・上海情報 6.13 - 6.19
○中国都市部の不動産ブーム
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京都大学上海センター・シンポジウムのご案内
「日中間の”政冷経熱”をどう打開するか」
 「中国特需」といった言葉が登場する一方で、日中間の政治・外交上の摩擦は高まる一方
となっており、先には中国国内で大規模な「反日デモ」が繰り広げられました。この影響は現
在経済問題にも波及しおり、事態は深刻です。
 京都大学経済学研究科上海センターでは、昨年以来言われている「政冷経熱」を討論しよ
うと年初からこの企画を進めてまいりましたが、事態の進行が早く、現在のような摩擦の激化
に至ってしまいました。本シンポジウムの報告者には、2003年に中国側から対日融和を唱え
る「対日新思考」を提起した中国人民大学時殷弘教授を中心に、元中国特派員としてこの分
野での発言を継続してなされている高井潔司北海道大学教授、それに人文学的なサイドから
日中関係を長くみつめて来られた竹内實本学名誉教授をお呼びしました。
 シンポジウム終了後には会場を経済学部大会議室に改め、懇親会も企画しておりますの
で、ぜひともご参加のほど、よろしくお願いします。
報告者 時 殷弘 (中国人民大学国際関係学院教授、アメリカ研究センター主任教授)
    高井潔司(北海道大学国際広報メディア研究科教授、元読売新聞北京支局長)
    竹内 實 (京都大学名誉教授)
司会  本山美彦(京都大学経済学研究科教授)
日時 7月1日(金)午後2:00-6:00
会場 京都大学時計台記念館百周年記念ホール
※ 当日、上海センター協力会では、13:00-13:45に法経総合研究棟2階大会議室にて2005年
度総会を開催します。会員の方はよろしくご参集ください。
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上海センター・ブラウンバッグランチ(BBL)セミナーのご案内
第6回 世界の援助潮流とアジアの開発課題
講師 国際協力銀行開発業務部 業務課長 和田義郎氏
日時 6月30日(木) 12:15-13:45
場所 法経総合研究棟3階311教室
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中国・上海ニュース 6.13−6.19
ヘッドライン
■ 中国:1−5月都市部固定資産投資26.4%増、鉄道は6割増
■ 中国:造船量、2010年に世界シェア25%以上目指す
■ 中国:5月工業生産額16.6%増、鉄鋼輸出大幅増
■ 中国:5月社会消費財小売額12.8%増
■ 中国:1−5月の港湾貨物量19%増、上海・寧波上位
■ 北京:弁護士が1万人突破、全国都市ではトップ
■ JPモルガン:中国経済は過熱ではなく「中性」
■ 上海:量から質へ 外資導入の方向転換図る
■ 重慶:円借款活用した中国初の本格的モノレールが開業
■ 新日鉄:中国の鉄鋼2社から設備を受注
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       中国都市部の不動産ブーム−規制に踏みきれない政府のジレンマ−
                  中岡 深雪(大阪市立大学院生、京都外国語大学非常勤講師)

 大都市、特に北京、上海で起こっている不動産ブームが日本でも注目を集めている。ハイリ
ターンがのぞめる投資商品として、日本出発の「中国不動産投資ツアー」も催されている。有
望な商品と目される理由は主に次の3点が挙げられる。1点目、中国は経済発展目覚しく、今
後も成長が期待できる。2点目、物価の違いから投資資金が比較的容易に集まる。3点目、不
動産投資は中国国内でもすでにハイリターンとして結果が出ている。こうして日本から海を渡
って不動産を購入しに行く人の姿がテレビで取り上げられていたりする。
 一方で、中国ビジネス経験の長い人や、長年中国に住んでいる人は「中国でマンションを買
う気にならない」と言う人も多い。もちろん投資用、賃貸用に購入しているケースは多々ある
が、「終の棲家としては・・・」と二の足を踏む声もよく聞く。日本のデベロッパーが施工した物
件ならまだしも、中国のデベロッパーが建築設計した物件は、新築当初は外装もまっさらな
のだが、数年経過しても外壁を塗り替えることをほとんどしないので、資産価値としてあまり
ありがたくないらしい。

庶民はどんなところに住んでいるのか?
 中国都市部の住宅は集合住宅が主流である。いわゆる庭付き一戸建てもあるが、それら
は「別荘」と呼ばれ、庶民の手の届くものではない。都市住民は古くからある住宅やマンショ
ンに居を構える。日本で言う、市営住宅、県営住宅は公有住宅という位置づけにあるが、低
所得者向け住宅で、割合としては少ない。1998年に国務院の出した「都市部住宅制度改革
を一層深化させ住宅建設を加速させることに関する通知」という政策により、持家化が促進
され、その土地に戸籍を持つもの、つまり市民はほとんどが持ち家に住んでいる。賃貸に入
居しているのは、他地域から移り住んできた人々である。こういった人々は大都市に集まる
傾向にあり、賃貸市場の有力な借り手となる。
 大都市でおこっているいわゆる不動産のバブル現象であるが、投機状態にあることが知
られている。タクシーで運転手と雑談をしたり、友人の住宅‘観’を聞いたりすると、「一生懸
命働いているのに家は高くなるばかりだ」「この善良な市民が狭い家に住んで、金持ちは高
級マンションを買っている」「高級マンションを買って、住まないどころか、転売してもうけてい
る!」と怒りに直面することもある。
 
転売して利益を得ることは悪いことなのだろうか?
 中国政府はこれまで悪いと感じていなかったようである。いや、悪いと思ってはいるのだ
が、規制することにより不動産市場の発展を阻害することを懸念しているのである。つまり、
いたずらに規制して不動産取引が生み出す経済効果を無駄にしたくないのである。 1992
年に当時の最高指導者ケ小平が南巡講話を行い、天安門事件で落ち込んだ経済成長が
回復の兆しを見せた時、不動産投資も1992年は対前年度比で117.5%の伸び、翌93年は
165%の伸びと、2倍、2.5倍にも膨れ上がり、不動産取引が爆発的に拡大した。当時は不
動産市場の萌芽期であったため、また土地使用権が価格をつけ、何もなかったところに突
如として土地が価値を持つようになり、利権にからんだ取引が横行、不動産市場は収集が
つかなくなった。そこで、中国政府は「不動産市場のマクロコントロールを進め不動産業の
健康的な発展を持続させることに関する意見」を出し、不動産バブルを沈静化したという経
緯がある。その際、銀行に対して不動産開発企業に融資することを規制するなど直接的な
介入が行われた。
 
転売の実情―上海であったケース―
 不動産というのはその土地に密着した市場であり、該当地によって不動産市場の様相が
異なる。そのため、各地方独自の政策が取られることが多い。例えば上海では、昨年2004
年には竣工前の物件を転売することを規制した。竣工前の物件の転売を禁止するというこ
とは、転売が横行している証左である。
 実際2003年に上海で見た例を挙げると、「内環状内最後の大規模分譲」とうたわれた某
物件はすでに数期目の分譲で、前評判が高いものであった。購買を考えていると装って販
売会社に話を聞いたところ、一通りの説明をしてもらった後で、転売を希望するのであれば、
その販売会社に手数料を払うことにより「すぐにでも書類を作成してあげる」と持ちかけられ
た。
 一時期、住宅を購入して値上がりを待つ間賃貸しして、ローンの返済に充てるというのが
流行した。ところが現在値上がりを待たなくても価格の上昇は急速であるし、市場予測の
情報が曖昧なまま飛び交っている中、早く売り抜けたいと考える人も多い。また建設ラッシ
ュで施工に時間がかかる。完成しても内装を独自に行わなければならないので、更に半年
ほど余分に時間がかかる。こうしているうちに銀行ローンの返済は始まっており、投機する
側も悠長なことは言っていられなくなった。そこで竣工前に転売する行為が後を絶たなくな
ったのだ。

今後住宅価格はどうなるのか?
 上海のここ数年の住宅価格の上昇は他地域に例を見ない。対前年度比増加率で見てみる
と、2000年は7.2%、2001年10%、2002年9.5%、2003年には24.5%という価格高騰ぶりである。
 私が住宅政策を研究している、ということを伝えると、日本にいる中国人留学生に「これか
らも上海の住宅って値上がるの?」と聞かれることがある。内心、「今の中国、先のことなん
かわかるわけないがな・・・」と思いつつ、「2008年のオリンピック、2010年の万博開催までは
長期的には成長する、途中下降することもあるけれど」と無難に答えることにしている。つま
り、のこぎりの歯状にジグザグジグザグと、短期的には上下するだろうが、長期的トレンドと
しては上昇するのではないか。それは現地の専門家の意見でもある。
 インターネット上の情報、雑誌記事、現地在住日本人向けに発信された情報では「2004年
は住宅価格が下がった、今後も低下するだろう」とか、「売れ行きは好調」など、何を信用し
ていいのかわからない。もっとも、デベロッパーの書いている文章は宣伝の要素が大きいの
であろうが。住宅の種類によって価格の上下が異なるし、もちろん立地による違いも大きい。
北京や上海などは東京と同様、都市圏が広大で、一部の立地のトレンドだけ追ってもマクロ
的な情報としては使えないのだ。

政府の取ってきた対策
 現実に立ち返って、政府としてこの高騰する住宅市場に対して手は打ってきたのだろうか?
これまで部分的にしか規制をかけてこなかったのであるから、手を打つ余地はある。
 投機を行っているのは温州人だ、とか台湾人だ、とかいう噂も聞く。温州人は飛行機に乗
って上海まで不動産購買ツアーにやってくる。それらは高級物件を対象とした大型の投機な
ので目立つのだが、現在の投機の趨勢は上海の一般市民まで巻き込んでいる。もっとも一
般市民が投機対象としているのは一般物件である。
 一般市民でも投機に走る。資金はどこから出てきているのか?一般市民でも投機できる位
の価格なのか?そうではない。先にも述べた通り住宅価格は上昇の一途をたどっている。
ではどういう理由からなのか?
 一般市民が投機を行うことができるのは、容易に銀行ローンが組めるからである。銀行も
顧客獲得にやっきになっている。銀行はその住宅を担保に取るし、現在住宅価格が上昇し
続けているので、リスクは低いと考えている。銀行が積極的に融資するというバブル期の日
本と似たような現象が起こっている。住宅ブームを更に加熱させたのはこの商業銀行の住
宅ローンだと私は考えている。
 このような状態に対して昨年から上海では個人向け融資に規制をかけていたが、全国的
には今年に入ってやっと、中国人民銀行が今年3月17日より各商業銀行が行っている住宅
ローンに関して政策調整に乗り出した。その内容は主に次の2点に要約される。1点目は他
の貸し出し金利と比べて優遇されている住宅ローンの金利を上げ、一般の貸し出し金利と
差を縮める。2点目は不動産価格が急騰している都市や地域では、個人向け住宅ローンの
頭金の下限を、現行の20%から30%に引き上げる、というものである。

政府のジレンマ
 実際ここで行われているのは個人消費者に対するローンの調整であり、かつてのように
銀行に融資を規制するまでには至っていない。10年以上前と経済状況は全く異り、市場経
済化が浸透しているせいか、政府も直接的な介入を行うことはない。政府にとっては不動
産取引を規制することで盛り上がっている不動産市場に水を浴びせかけたくないのである。
 だが、竣工前の物件の転売を繰り返したり、使用せず転売待ちの投機物件が各所にあっ
たりと、本来の住宅の意味をなしていないものも多い。それでも「全体的には住宅不足で需
要は堅調」などの論調が出てくる。その意味するところは、まだまだ住宅を買いたいと思っ
ている庶民が多数存在するので、住宅需要は続く、ということなのだが、実際、絶対的多
数である庶民にとっての手ごろな価格の住宅が不足しているのである。何らかの規制措
置を取らなければならないのだが、不動産市場の発展を阻害したくないという政府のジレ
ンマが見てとれる。
 これでは本当の意味での需要と供給が一致しておらず、住宅市場での価格付けは投機
行為によって高止まりしたままである。政府のジレンマは理解できるが、銀行の個人向け
住宅ローンの金利を規制するという消極的な介入の仕方ではもはや事態は収集不可能な
のではないか。
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