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京大上海センターニュースレター
第63号 2005年6月27日
京都大学経済学研究科上海センター

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目次
○ 上海センターシンポジウム「日中間の”政冷経熱”をどう打開するか」のご案内
○ 上海センター・ブラウンバッグランチセミナーのご案内
○ 中国・上海情報 6.20 - 6.26
○最近の中国の競争力について思うこと
○京都市立西京高校エンタープライジング科上海フィールドワークについて
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京都大学上海センター・シンポジウムのご案内
「日中間の”政冷経熱”をどう打開するか」
 「中国特需」といった言葉が登場する一方で、日中間の政治・外交上の摩擦は高まる一方
となっており、先には中国国内で大規模な「反日デモ」が繰り広げられました。この影響は現
在経済問題にも波及しおり、事態は深刻です。
 京都大学経済学研究科上海センターでは、昨年以来言われている「政冷経熱」を討論しよ
うと年初からこの企画を進めてまいりましたが、事態の進行が早く、現在のような摩擦の激化
に至ってしまいました。本シンポジウムの報告者には、2003年に中国側から対日融和を唱え
る「対日新思考」を提起した中国人民大学時殷弘教授を中心に、元中国特派員としてこの分
野での発言を継続してなされている高井潔司北海道大学教授、それに人文学的なサイドから
日中関係を長くみつめて来られた竹内實本学名誉教授をお呼びしました。
 シンポジウム終了後には会場を経済学部大会議室に改め、懇親会も企画しておりますの
で、ぜひともご参加のほど、よろしくお願いします。
報告者 時 殷弘 (中国人民大学国際関係学院教授、アメリカ研究センター主任教授)
    高井潔司(北海道大学国際広報メディア研究科教授、元読売新聞北京支局長)
    竹内 實 (京都大学名誉教授)
司会  本山美彦(京都大学経済学研究科教授)
日時 7月1日(金)午後2:00-6:00
会場 京都大学時計台記念館百周年記念ホール
※ 当日、上海センター協力会では、13:00-13:45に法経総合研究棟2階大会議室にて2005年
度総会を開催します。会員の方はよろしくご参集ください。
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上海センター・ブラウンバッグランチ(BBL)セミナーのご案内
第6回 世界の援助潮流とアジアの開発課題
講師 国際協力銀行開発業務部 業務課長 和田義郎氏
日時 6月30日(木) 12:15-13:45
場所 法経総合研究棟3階311教室

第7回 中国河南省農村経済の持続可能な発展実現に関する一考察
講師 中国河南省信陽師範大学経済管理学院 張莉教授
日時  7月12日(火) 12:15-13:45
場所 法経総合研究棟3階107号教室
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中国・上海ニュース 6.20−6.26
ヘッドライン
■ 中国:1−5月の不動産指数、続落101
■ 中国副総理:新疆を国内最大の石油・天然ガス基地に
■ 国際:鉄鋼めぐる中日韓の会合、原材料輸入での連携で合意
■ 中国:5月原油輸入量が8%増、ガソリンは47%増
■ 北京:1−5月の輸出67%増で全国トップに
■ 中国:クレジットカード漏洩被害、中国2.8万枚
■ 北京:7月1日に排ガス基準「ユーロV」全面導入
■ 上海:中国で「最も競争力ある都市」
■ 浙江省:1−5月の台湾産農産物輸入が急増
■ 北京:外国人就業者の年収は10−50万元
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              最近の中国の競争力について思うこと
             松下電器産業株式会社グローバル戦略研究所首席研究員 安積 敏政
 
 どの企業においても、創業以来の長い事業歴史の中で、深刻な意思決定の誤りは数多く
ある。そうした中で、世界の企業は過去の経営者から今の経営者へ、そして今の経営者か
ら次代の経営者へとバトンタッチをしながら、経営を守り抜きかつ発展させていく。“企業の
寿命30年”といわれる栄枯盛衰の激しい企業競争にあって、日本の江戸時代に創業した米
国のGEとドイツのシーメンスは一世紀以上にわたって繁栄し続けている。筆者の勤務する
松下電器も大正時代に創業されているので、すでに80年を越す歴史を刻んでいる。

 経営の意思決定の誤りには、当然ながら様々な要因がある。その重要な要因のひとつに、
ダイナミックに変化するグローバルな経営環境を当時どのように予測したのかというのがあ
る。自社の限られた人・物・金・情報という経営資源を投入し、熾烈な国際競争場裡で勝ち
抜く前提として、グローバルな経営環境を何らかの形で予測しなければならないからである。
これは独占企業や寡占企業そして政府の手厚い保護下にある国有企業や私企業にとって
は、自社を取巻く経営環境に対してとぎすまされた感度は必ずしも要求されない。それは競
争がないか、又は競争が極めて限定的であるからである。ここに日本企業が見誤った身近
な事例を二つあげてみたい。ひとつは1980年代に見誤った韓国の国際競争力であり、もう
ひとつは、90年代に見誤った中国の国際競争力である。今、日本の企業は80年代と90年
代の激しい変化の時代を経て21世紀初頭の10年間の中にいる。

 日本は韓国や中国のこれほどの経済発展や国家としての躍進をなぜ見誤ったのか。エレ
クトロニクス産業に代表されるように、日本の産業界は今や脅威にすら感じる韓国や中国
の産業競争力をなぜ見誤ったのか。そして、日本の個々の企業は半導体や携帯電話で世
界有数の企業に成長した韓国のサムスンや、白物家電で年平均80%という驚異的な売上
高成長を誇る中国のハイアールといった企業の競争力や経営力をなぜ見誤ったのであろ
うか。見誤っても後で気がついてリカバリーができる体力のある企業はまだ救われるが、そ
れによって致命的なダメージを受けた企業も多いはずである。これらの予測の見誤りは、
成長性や収益性を確保するといった単にビジネスチャンスを喪失するのにとどまらず、結
果としては自社の企業生命が奪われることにすらなる。

 1980年代初めに本格的に半導体事業に参入をし始めた韓国企業を見る日本の企業の
目はかなり冷ややかであった。当時の日本の半導体メーカーは、米国や欧州の老舗の半
導体メーカーを駆逐する勢いで成長し、日米半導体摩擦を引き起こすほど力をつけていた。
筆者が当時出席していた日本電子機械工業会(EIAJ)の電子デバイス部の委員会では「
韓国では集積回路の先端技術はないのに半導体が作れるはずがない」という議論からス
タートした。韓国企業がDRAMの大量生産に成功しはじめると「汎用品ぐらいは、日本から
装置さえ買えば誰でも作れる、但し歩留まりはまともにあげられないだろう」という議論が
支配的であった。そして彼等がDRAMで高歩留まりを実現すると「メモリーは出来てもいく
らなんでもマイコンは出来ないだろう」という議論に発展していった。そうした議論が10年、
20年と続く中で、韓国の半導体メーカーの中には脱落していった企業もあったが、今日サ
ムスンのように最先端の半導体分野も含めて日本の全半導体メーカーを追い抜き、世界
有数の半導体メーカーになるところが出てきた。そしてサムスンの半導体事業は、今や携
帯電話とともに韓国の輸出を牽引する役割も担っている。
 
 日本は、同じ見誤りを中国についても繰返している。1990年代の中国の国際競争力を見
誤った前兆はむしろ80年代にある。80年代中盤に、日本では中国がこれほど発展すること
をなぜ読めなかったのであろうか。僅かに20年前の話である。その原因は3点あると推定
される。第1点は中国への技術移転がこれほど早くかつ深く進展するとは想像できなかっ
たことである。当時は、「中国でエレクトロニクス製品などがまともに生産できるわけがない
」、「外貨バランスのためとはいえ、中国から製品を輸出するなんて不可能だ」という議論
が支配的であった。このことは筆者にも当時中国の国営企業の生産現場を見れば見る程
確信を強めた。中露蜜月時代にロシアから技術移転された社会主義国家の“時代遅れ”に
うつる工場を中国各地で見れば見る程確信が持てた。裸電球一個の下に多数の万力が
並べられた薄暗いロシア式工場から、どうやってエレクトロニクス製品が生み出せるのか
と思ったものである。第2点は、中国政府が産業政策と外資政策をこれほど巧妙にコント
ロールできるとは想像できなかったことである。「共産党一党独裁の国が、市場主義的経
済を採用しても政治と経済に構造的な矛盾が出てくるだろう」という議論があった。第3点
は、当時私企業発生の兆しは若干あったものの、起業マインドの強いビジネスマンが続
々と現われ民間企業、個人企業ともに今日ほど発展するとは想像しにくかったことである。
「個人の事業が許されるといっても、所詮資金と技術で困難にぶつかるだろう」という議論
が主流であった。

 2000年代に入って、中国地場企業のキャッチアップは熾烈である。電機業界にあっては、
ハイアール、ハイセンス、TCL、長虹といった企業が中国市場では躍進し、日系、欧米系
ブランドを駆逐する勢いで伸びている。例えば中国最大の家電メーカー、ハイアール(海
爾)は、2002年度の売上高が約1兆円、過去18年間の年間平均成長率は80%弱という驚
異的な急成長を遂げた。冷蔵庫、洗濯機、エアコンなどの白物家電に加えて、TV、DVDな
どのAV機器、携帯電話、パソコン、ロボットなど様々な商品レンジを持っている。製品は世
界160ヶ国、地域に輸出され、13ヶ国の海外生産拠点及び65ヶ国に販売拠点を持っている
と言われる。

 中国本国市場における中国地場企業の国際競争力は着実に上昇し、外資系企業と互
角、又はそれを凌駕する勢いで伸びている。これは中国への直接投資を本格的に検討し
はじめた20年前や、投資が集中しはじめた10年前ですら想像していなかった事態である。
外資にとっては当時、中国地場企業の国際競争力は殆ど眼中になかった。従って、今日
その国際競争力の行方が経営上、リスク要因として登場することは想定外であった。

 この韓国と中国の二つの事例は象徴的である。なぜ今日の韓国と中国の躍進や、韓国
企業や中国企業のこれほどまでの競争力を予測できなかったのかを考える上である。端
的に言えば、日本企業の韓国や中国に対する認識の甘さ、予見、予断、思いあがり、傲
慢さが底流にあったからだといえるであろう。隣国韓国、中国に対して日本人が無意識の
中で深層心理に持つ勝手な“優越感”が、あなどりとして出たのではないかと危惧してい
る。韓国、中国企業に対する日本企業の持つ“根拠のない自信”などというつもりは毛頭
ない。但し、この身近な二つの隣国の企業の将来に対して過去、ややもすると情緒的な
判断をしてきた結果が彼等の追い上げに苦しむ今日の日本企業の姿を引き起こしてい
ることは否めないのではなかろうか。日本企業は一度このことを率直に振り返り、新たな
冷静な眼で韓国企業と中国企業の国際競争力の行方と国際事業展開能力を見極めて
おく必要がある。

 筆者は昨秋、日本貿易振興機構の要請で中国の大学で講義をする機会を得た。北京
の清華大学、上海の復旦大学、杭州の浙江大学の経営大学院にて「日本企業のアジア
戦略」と題したお話であった。大学院の学生、学部学生、教授など多数の方が聴講した。
講義後半の活発な質疑応答の中に「日本企業と中国企業は今後どのような競争を繰り
広げることになるのか」、「中国企業との戦略的提携はどのような形なら有利に働くのか
」、「中国企業は、今後国際市場で勝つためには何をしたら良いのか」などがあった。筆
者は中でも彼等の関心が一番高いと思われた最後の質問に対して、以下のように回答
した。

 「中国の企業にとって、母国の市場での競争力は必ずしもそのまま外国市場での競争
力にはつながらない。本国での競争力を海外でも発揮するためには、幾つかのクリアー
しなければならない条件がある。第1ラウンドの競争要因が主に本国でのアドバンテージ
による資材調達コスト、生産コストやセールスチャンネルの構築にあったとすれば、競争
の場を国外市場とする第2ラウンド以降の競争要因は大きく異なる。それらは、第1ラウン
ドの競争要因に加えて次の5点である。

 第1は、先端分野の研究開発能力であり、グローバルな特許のクロスライセンスをする
ための豊富な知的財産権である。第2は、アンチダンピング対応、WTOルール対応、知
的財産権対応といった国際法務対応能力である。第3は、異文化下における従業員の
採用、配置、訓練、給与、昇進、対労働組合対策といった国際人事経営能力である。第
4は進出先での環境・公害対応能力である。そして第5は、創業の精神、会社存続の意
義、企業の社会的な使命といった確固たる経営理念の有無である。一過性の金儲けの
為の事業欲だけの理念なき経営では、10年、20年の高成長は出来ても熾烈な国際競争
に於いては、自然淘汰の流れの中で消滅してしまう。このことは歴史がそれを証明して
いる。真のグローバルな国際競争力のある企業は、少なくともこの5つの能力を兼ね備
えている。私は中国企業がこれらの要因をどの位の期間にどの程度までキャッチアップ
できるかに関心を持っている。

 この三つの名門大学で講義を行った中から受けた印象は、中国という国の将来を背
負って学ぶ大学院レベルの学生とその教授の皆様の熱心な受講態度である。向学心
燃えた上昇志向の極めて強い学生の方々との質疑応答は真剣勝負であった。国際情
勢についての理解度もかなり高い。そして何よりも中国という国の発展や将来の国の
競争力を高めていくのは自分達であるとの意欲のもとにこうした問題に非常に高い関
心を抱いている。日本人として、日本企業に勤める一社員として改めて危機感を肌で
感じた一週間であった。+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
      京都市立西京高校エンタープライジング科上海フィールドワークについて
                                     京都市立西京高校 村上 英明

 今年3月下旬、本校2度目の「上海フィールドワーク」を実施し、西京高校1年生200名が
5泊6日の旅程で上海を訪問いたしました。その間、現地高校生と交流し、大学生の案内で
各自のテーマに基づいて上海市内で調査活動を行いました。また、日中の高校生が、英語
または中国語でお互いの研究の成果を発表しあう「プレゼン大会」を上海大学の講義室で
行うなど、かなりハードなスケジュールが用意されています。

 平成15年に発足した本校エンタープライジング科は、「創造的コミュニケーション能力(「
英語」や「情報」をフルに活用して調べ、考え、発信することができる力)」と「経済センス(世
界の社会・経済の動きを的確にとらえる力)」を磨き、21世紀におけるグローバルリーダー
シップを育成することを目標としています。さらに高校で学習した内容を大学・大学院への
学習に接続し、将来、日本や世界中で社会に主体的に貢献できる人材作りを目指していま
す。また、この学科のコンセプトのひとつとして、「アジアの視点」があります。21紀の社会は
アジアを中心とした国際経済が大きく展開し、その中心の一つとして、上海が大きな役割を
果たすことは明らかであり、本校での学習の一環として上海を訪れ、生徒自身が主体的に
「上海」を実感することが必要であると考えました。
 また、このフィールドワークは専門科目「エンタープライズTA」の授業内容とリンクしてお
り、その中で生徒は、企業経営や経営戦略について企業や大学からお招きした講師から
直接学んだ後、市場調査(フィールドワーク)の技法を学びます。さらに日本・中国両国間
の経済・文化比較や現代の課題について事前調査を行い、フィールドワークを通じて調査
する個人別のテーマを設定するなどの準備活動を行います。

 上海での活動の主な内容は次の通りです。
 @プレゼンテーション大会(会場:上海大学)
   本校と上海大学附属市北中学校のプレゼンテーション(日中の文化若者文化比較・環
   境問題など)
 A市北中学訪問・交流
   クラス交流とスポーツ交流
 B上海市内フィールドワーク
   各テーマに基づく現地調査(高校生3名に大学生1名のグループ行動)
 C企業見学
   日系企業訪問・講義・見学
 D観光
   上海市内・上海雑技団見学・蘇州見学

 なかでも企業見学については京都大学上海センターにお世話いただき、上海京セラ電子
有限公司、上海欧姆龍自動化系統有限公司、上海通用富士冷機有限公司の三つの企業
にお願いしました。日本人総経理の方から、日中の経済関係の現状や中国市場の動向、
日系企業としての経営戦略、今後の中国経済と日本企業のあり方などについて直接お話
しいただいたあと、工場の見学をさせていただきました。最近の日本ではあまり見られなく
なった工場のラインで、大勢の中国人が日本人の技術者と共に働いておられる姿を見せ
ていただき、日中の経済協力の一面を実感することができました。また、中国の労働市場、
賃金格差の問題や、エネルギー事情についても学ぶことができました。

 さて、昨年のSARSや鳥インフルエンザの流行、サッカーのアジアカップのブーイング問題
など、困難な情勢の中で何とかこの行事を大きな成果を得て行うことができました。本校に
とっては、学科の目標とも大きくかかわる行事であり、今後も継続してきたいものと考えて
おります。情勢がどう変化するかはわかりませんが、生徒の安全確保をはかりつつ、当初
の目標が達せられるよう、今後も関係各位の皆様のご協力で成功裏に進められますよう
心より願っております。
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