=================================================================================
京大上海センターニュースレター
第64号 2005年7月5日
京都大学経済学研究科上海センター

=================================================================================
目次
○ 上海センター・ブラウンバッグランチセミナーのご案内
○ 中国・上海情報 6.27 - 7.3
○日中経済交流セミナーでの小河内敏朗総領事の挨拶兼スピーチ
=================================================================================
上海センター・ブラウンバッグランチ(BBL)セミナーのご案内
第7回 中国河南省農村経済の持続可能な発展実現に関する一考察
講師 中国河南省信陽師範大学経済管理学院 張莉教授
日時  7月12日(火) 12:15-13:45
場所 法経総合研究棟1階107号教室
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
中国・上海ニュース 6.27−7.3
ヘッドライン
■ 中国−アセアン:関税率引き下げ、一大地域市場に
■ 中国:会計監査、中央政府資金6%を不正使用
■ 中国国務院国家信息中心:7−12月利上げの可能性低い
■ 中国:1−5月携帯新規加入が2300万件増で総数3.6億件
■ 中国財政部:2005年も農業税撤廃を推進、8億人が恩恵
■ 中国:薬物乱用者79万人、若年層が7割、死者3万人超
■ 中国:夏休み、空の便利用者15%増の2800万人に
■ 上海と北京:7月から最低賃金アップ、上海690元に、北京580元に
■ 広東省:水害で死者65人、443万人が被災
■ 上海:最高気温39度、10日連続の「酷暑日」に 
=================================================================================
        日中経済交流セミナーでの小河内敏朗総領事の挨拶兼スピーチ

 先ず始めに、ご多忙のなか、本日ここにご出席いただいております遼寧省発展計画委員会
・東北大学・遼寧大学及び遼寧省社会科学院等の教授・研究者の皆様、並びに日本からご
参加いただきました 京都大学“上海センター”の皆様に衷心より感謝と御礼を申し上げたい
と思います。とりわけ、“上海センター”の皆様には中国東北地区の重要性を御理解いただき、
“日本からの提言”というこの経済交流セミナーの趣旨に積極的にご賛同いただいただけで
なく、財政面でも自腹を切ってご出席いただいております。京都大学 “上海センター”の皆様
のこのような日中学術交流の拡大に向けた意欲と行動力に敬意を表したいと思います。

 ここで私が強調したい今回のセミナーの重要な意義の一つは、すでに申し上げましたが、日
本政府から航空賃等手当は一切支給されていないということであります。つまり、真に自発的
な個人主導のセミナーだということにあります。もう一つの当館にとっての重要な意義は、この
セミナーが、当館の新館完成後、事実上最初に行われるイベントであり、言わば“こけら落し
セミナー”であるということであります。そういう意味で、本日ここに御出席の皆様は、当館が日
夜心血を注いで努力している経済文化交流を通じた日中友好と相互理解の増進にも貢献して
いただいている大切なお客様であり、また当館と縁のある方々であると考えております。後程、
諸先生方による発表と自由な討論のなかで、東北振興にも役立つ有意義な御提案・提言を沢
山していただくよう期待しております。
 そこで、経済のお話は諸先生方にお任せすることとして、今年が戦後60年という節目の年で
あることにも鑑み、私は、もう少し広い観点から、日中関係のさらなる発展に向けての課題とい
ったことについて概観してみたいと思います。
 もとより、日中国交正常化から30年余にわたる日中関係の好ましい変化は、日中双方に大
きな利益をもたらしており、二国間関係の発展の成功例といって良いと思います。日中の協力
分野は、これまで政府開発援助(ODA)から始まって、留学・教育、資源・環境、国連―この今
問題になっている国連分野での協力について一言申し上げますと、例えば、中国が派遣した
PKO隊員の報酬はひと月で約1000ドルですが、そのうち200ドルは日本人納税者が払ってい
るという側面もあります―、そして経済・貿易、地域協力、犯罪取り締まり、さらに防衛・ジャー
ナリズム・文化面での交流、そして歴史の共同研究と広範かつ多岐にわたっております。こう
した交流が引き続きさらなる日中関係発展の土台となっていくことはまちがいありません。

 そして2004年、中国中央政府による国策としての東北振興政策の第1年目がスタートしたこ
ともあって、内外の関心が徐々にかつ着実に中国東北に集まってきております。関心の持ち
方は各人各様、各社様々であります。しかし私がここで想起したいことは、かつて1930年代に
日本が国策を大きく誤って軍国主義の時代に突き進み、日本の暗黒の昭和史の始点ともな
ったこの中国東北の地に、現在、日本と瀋陽・遼寧・中国東北との間で貿易・投資・その他の
経済提携が活発化し、日中共同発展と経済文化交流そして地域協力の拡大という観点から、
日中双方の国民の建設的かつ生産的な関心が注がれていることの歴史的な意義であります。
ここに私は、歴史の大きな変化の潮流がどこに向っているかを予期するとともに、かつて日中
の間に不幸な一時期があったこの地に、日中が協力して、双方の利益を最大化する形で日
中共同発展という大輪の花を咲かせることこそ、過去の歴史を克服することではないかと考
える次第であります。中国東北地区の発展は日本の国益に合致する。私はこのことを確信し
ております。
 しかし、日中関係の将来には必ずしも楽観できない要素があることも否定できません。それ
は、現在、日中両国の国民が直面している、双方の不満が累積した状況によく反映されてお
ります。その背景には、日本が普通の国になる方向に一貫して進んできていることや、国連安
保理常任理事国入りへの地歩を固めつつあり、日本が政治大国として復活しようとする兆しが
あること、さらにはこれに他の政治問題が加わることにより、中国の日本に対する猜疑心が刺
激されているという状況があります。

 一方、日本でも、中国原子力潜水艦の日本領海侵犯、香港住民の日本領土への強制上陸
や東シナ海エネルギー開発にみられる中国側の動き、重慶・北京でのサッカー試合の際にみ
られた反日的行為や暴力行為、さらに、今回の対日抗議デモにおける北京や上海等での大
使館や総領事館、日本料理店等に対する破壊活動が日本国民の感情を刺激しております。
なお、在瀋陽日本国総領事館ではほとんど被害はなく、ガラス窓は1枚も割れておりません。
また周辺の日本料理店にも被害はなく、在留邦人?日系企業にも人的物的被害はありません
でした。何れにせよ深刻なのは、双方共に“我々がどれだけ我慢しているのはこっちだ”との
感情を内に秘めていることであります。
 このような日中間に存在する危険な感情を管理していく上で、重要なことは、将来を見通す
見識と炯眼であります。それは、近い将来、東アジアには日本と中国という二つの政治経済
大国が現出する公算が高いとの見通しをもつことであります。そこには当然、新たなダイナミ
ズムが生まれます。こうした情勢下で日中両国が直面することとなる最大の課題は何でしょう
か。それはつまり、日中間に生じる新たなダイナミズムを双方にとっての損失を最小化し、共
通の利益を最大化するような建設的な方向に向けていく努力を互いにしていかなければなら
ないということであります。
 同時に、日本が政治大国としての役割を果たしていくためには歴史問題を避けて通ること
はできません。しかし、“神は歴史を変えることはできないが、歴史家は歴史を変えることが
できる”と言われるようなどの国も自分に有利に歴史を書いてしまうという限界があります。し
っかりした共通の土台なしには日中間の対話を成立させることは容易ではありません。よっ
て、日中の対話を促進する土台を作るための模索として、次の4点を提言したいと思います。

 第1は、日中の対話に必要なルール及び原則を作ることです。このルールには、例えば、日
中友好の精神を対話の中心に置くことや、自分も同じことをしていないかとの自省を義務づ
けること等があります。
 第2は、問題を相対化させ柔軟対応を可能にする視点をもつことです。例えば、歴史に関連
した問題は、日中・日韓だけでなく、中韓・中朝・中越にも、また中蒙・中露・中米にもあるとい
った観点をもつことです。
 第3は、対話の基礎となる日中が共有すべき基本認識をもつことです。例えば、ほとんど知
られていない日本とドイツの違いに対する認識や、日本の歴史教科書についての認識をも
つことです。ここに簡単な資料を用意しましたが、日本の歴史教科書をすべて読んでいただ
ければ参考になるかと思います。
 第4は、日中双方の国家利益と戦略を明らかにした上で対話を続けていくことです。例えば、
双方の国家利益を客観的に整理してみるだけでも問題が大幅に少なくなる可能性がありま
す。

 次に、今回こうして京都大学のグループが来られたことにも鑑み、日中のより深い対話が
実現することを期待するという観点から、京都大学を退官した哲学者西田幾太郎が、歴史
的世界をどう考えるかについて、かつて同志社大学で行なった講演で指摘したことを紹介し
たいと思います。西田は時間の流れは過去・現在・未来へ移る因果的な流れだけではない
と考えました。そして「現在は過去や未来に対する現在ではない。過去、現在、未来を含む
現在であるがゆえに、時間を超えた現在である。つまり現在は永遠の現在である」と述べて
おります。この言葉を私は、現在をどれだけ深く理解するかの重要性を指摘したものと受け
止め、“歴史の鑑”と“現実の鑑”という二つの鑑をもって、日中の歴史と現在を照し出し真実
を追究していくことをお奨めしたいと思います。中国の指導者が再三繰り返し述べているよう
に、我々は“歴史の鑑”によって過去を反省し未来に向けての教訓を学ばなければなりませ
ん。同時に、“現実の鑑”によって21世紀の最初の万博“愛・地球博”にみられるような今日
の日本の姿を知っていただきたいと思います。これが私の第2の提言であります。

 折角の機会ですので、今後東アジアの経済発展戦略を妨害し後退させる最大の要因は何
かということについても問題を指摘しておきたいと思います。経済発展戦略の後退は、経済
問題そのものによってではなくむしろ非経済分野の諸問題によって引き起される可能性が
大きいということであります。例えば、一つは2年前に中国と世界が体験したSARSのような
脅威や今年経験したインド洋の津波のような地球環境面からの災害の脅威であり、もう一
つは現在世界各地で発生している国際テロリズムの脅威であります。第3は朝鮮半島でみ
られる核拡散の脅威であり、第4は、日中間の“違い”から生じる危機であります。これらの
問題が引き起す事態は個々の企業に損失をもたらすとの意味での危険“RISK”というより
は地域経済や世界経済にとっての危機“CRISIS”ともいうべき大きな危機管理上の諸問題
であります。SARSに不意打ちされて中国全土と世界が混乱したついこの間の我々の体験
からもわかるように、日頃の危機管理意識と相互の緊密かつ迅速な連絡が重要となるとい
うことであります。
 厄介なのは東アジアにみられるナショナリズムの高揚です。日中、日韓間のナショナリズ
ムあるいは台湾海峡の両岸ではつとにナショナリズムの問題はつとに指摘されております。
さらに中東の石油の安定供給という観点からも中東情勢にも目が離せません。このように
日中を取りまく諸情勢は一歩誤まると東アジアの経済発展戦略を大きく後退させることにな
りかねない危険をはらんでおります。そこで、私は、本日の第3の提言として、今後は政治問
題についても一歩踏み込んで日中の対話を本格化し、さらにその際相互に何を譲歩すべき
かを具体的に考えることをお奨めしたいと思います。外交的解決の要諦は畢竟“妥協”であ
り、妥協は双方が何を譲歩するかの問題に尽きます。
 そして、本日の経済交流セミナーもまた日中対話本格化の一環であります。日中双方から
忌憚のない意見が出され、その結果、日中間の相互理解と友情がさらに一歩深まることを
期待しております。    
 御清聴ありがとうございました。
(以上は、在瀋陽日本国総領事館と京都大学上海センターが共催し、上海センター協力会
が協力して開催した「日中経済交流セミナー」で総領事からいただいた挨拶兼スピーチの内
容です。本セミナーの報告として今後、他の報告内容を掲載する予定です。・・・事務担当)
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++