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京大上海センターニュースレター
第66号 2005年7月19日
京都大学経済学研究科上海センター

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目次
○ 中国・上海情報 7.11 - 7. 17
○経済人の目から見た東北振興・中国経済安定発展への提言
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中国・上海ニュース 7.11−7.17
ヘッドライン
■ 中国商務部:外資系企業への優遇税制、違反行為にあらず 
■ 中国主要金融機関:不良貸付比率3.95%減
■ 国家広電総局:外資のテレビ・ラジオ運営参画を禁止
■ 中国:国産ビールのホルムアルデヒド問題、品質調査でシロ
■ 南京:携帯電話製造業が急成長、相次ぐR&D設立
■ 広州ホンダ:アコード売上記録続伸、中高級車で売上トップ
■ 上海産乗用車:地元の中高級車市場でシェアが大幅縮小
■ 奇瑞汽車:品質・生産管理の副総経理に元豊田技術主管、07年対米輸出
■ 旅行業:デモの影響で7−9月期日本の中国向けツアー予約減
■ 米フェデックス:広州に最大規模の物流中継拠点
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       経済人の目から見た東北振興・中国経済安定発展への提言
          副題:持続可能なバランスのよい長期安定成長のために
           ─戦後の日本経済の成功、失敗の経験を参考として─
                        京都大学上海センター協力会副会長 大森 經コ

 提言1.一人っ子政策は、将来にいくら超高齢化問題が予想され、苦しくても堅持すべきで
ある。このまま堅持しても将来15〜16億人でピークを迎えると予想されており、少し緩和し
て17〜18億人にもなったら、それこそ失業問題、食糧不足、水不足、石油不足、資源・原
材料不足等々バランスのよい長期安定成長など望むべくもない故。

 提言2.成長至上主義から、やや低成長ながらバランスのとれた安定成長主義への転換
が必要である。
(1) 電力不足、石炭、石油不足、輸送手段不足、各種資源・原材料不足、一部沿岸部では
  若年労働者不足、工場用地不足等随所にボトルネックが発生。経済がオーバー・ヒート
  している証拠。現在のマクロコントロール政策は適切で、評価も高いがこれを更に強め
  る要あり。但し日本のバブルはじけの時程締めすぎも不可。GDP成長率7%→6%→5
  %と徐々に下げて行くことが望ましい。長期安定成長の為に。
(2) 日本の様に、数年のバブル期の繁栄の後、15年に及ぶバブル崩壊後の大混乱期で、
  例えば主要大銀行は100年の蓄積を10年で完全に失い、実質倒産に至った銀行もあ
  る。この様な混乱は多かれ少なかれ、資本主義にはつきもので、その混乱を少しでも抑
  え、小さくする方策を早目、早目に打っておくことが望ましい。1930年代の世界大恐慌
  も然りである。

提言3.個人住宅ローンは1世帯主に1軒分の貸出しに限ること。本来、本人の居住用住宅
のみがローンの対象であり、この原則を銀行が守っている限り、そう簡単に住宅ローンが焦
付くことはない。大森が調査した限りヨーロッパでは、ほぼこの原則が守られており、焦付は
殆どないとのことであった。これ以上の貸出しは、投機的取得への貸出しで、バブルの元凶
ともなりバブル崩壊と共に返済不能となり易いものである故不可とすべき。

提言4.中位成長率迄落とした場合、失業問題の解決が苦しくなるが、これはヨーロッパの
ワークシェアリング方式の導入で乗り切るべし。

提言5.貧富の格差解消乃至緩和の為、累進課税の強化を。又、その基礎として所得把握
を徹底し、徴税力を100%に迄高め、脱税防止、税の不公平感の排除に努めること。併せ、
相続税、贈与税制度を新設し、貧富の格差縮小に役立てること。
(1) 個人所得税の最高税率を70%(現行45%)位迄大幅に引上げ累進度を大きくすること、
  併せ税込給与月額800元以下は非課税であるが、最低賃金が700元近くにまで上がって
  きたので、1000元以下は非課税等、課税最低額は可能な限り引き上げることが望ましい。
  一方、超大金持=大富豪を作ってはならぬ。超大富豪を作ることは百害あって一理なし。
  アメリカ型資本主義が史上最良の資本主義ではない。金さえあればどんな企業でも買収
  出来る。力の強い者は何をしてもよい、というのは大いに問題であり、欠点でもある。ただ
  創意工夫、努力をした者がある程度の創業者利潤を得ることは、社会発展の活力でもあ
  り、これは残しておく必要あり。適度、適切な競争は必要である。悪平等も不可。
(2) 所謂ケ小平の「先富論」には、重要な歯止めがかかっていたことを忘れてはならない。19
  85年3月の全国科学技術工作全体会議でのケ小平先生の発言「我々は一部の地区や人
  が先に豊かになることを提唱しているが、それは先に豊かになった地区や人にまだ豊かで
  ない地区や人を援助させて、ともに豊かにならせるためである。その為には税収やその他
  の方法で収入面での格差を調整する。もしも新しいブルジョアジーとかが生まれるなら、我
  々は文字通り横道へそれたことになる。もし我々の政策が両極分解を招くなら、我々は失
  敗したことになる。」(これは、ケ小平と親しかった馬洪氏《元社会科学院院長、現国務院発
  展研究センター名誉主任》の論文、「ケ小平と社会主義市場経済の理論」《翻訳陶波氏》に
  記載されている。)

提言6.都市戸籍と農村戸籍の壁を取払い、労働移動を自由に。これにより少しでも農民人口
そのものの削減を図るべき。農民人口が減れば残った農民への土地配分は少しでも増え、そ
の分残った農民も豊かになれる。これはすでに一部で始まっているが…。

提言7.農民、民工を問わず全国民の義務教育の徹底(100%)と義務教育の完全無償化を。
(1) 農民の貧困をはじめ、全ての貧困解決の王道はこれである。最低限この義務教育がきっち
  り出来ていると沿岸部へ出稼ぎに行き易くなり、その結果、月に100元でも200元でも親許
  へ仕送り出来れば、それでもうその家は最低貧困から脱出出来る。
(2) 2005年3月の全人代で打ち出された農業税の3年以内での全廃方針をはじめ、貧困家庭
  の児童、生徒の教科書無償交付、各種校費の免除、生活費補助等、画期的な貧困対策が
  出され今後の成果を大いに期待したい。
(3) 我々は、4年前の西安交通大学留学中から、ささやかながら農村の貧困児童支援活動を続
  け、今も大阪府日中友好協会その他全国的に各種団体が同様の支援活動を続けている。
 私は、4年前の西安交大留学中から、この活動は本来中国共産党政府が、その結党精神から
しても新中国建国当初から実施されているべき政策であり、貧乏留学生の少額の善意だけで解
決する様な小さな問題ではない。中国政府が基本政策に採り上げてくれる為のPR活動と考えて
実施しようと呼びかけ、その為に新聞記者の同行を要請して来た。今年、遅まきながら初めて政
府の基本方針として発表されたことに感激し、大いにその成果を期待している。

提言8.農民にも医療保険制度を。土地を与えているのだから失業保険、年金は農民にはそぐ
わない。但し、老齢化のため農業継続不能となった場合は年金又は最低生活保障は必要。

提言9.都市の民工にも社会保険制度を。上海などでは一部、総合保険制度としてスタートして
いるが給付額低すぎ。全国的にはまだまだ放置されたままである。

提言10.貧困高校生、大学生に奨学金の拡充を。教育の徹底は貧困脱出の為の最大、最良
の施策である。出来れば高校進学率目標を70%以上として頂ければ尚ベター。

提言11.全国的に主要大学の日本語学科学生枠を増やし、日本語教育の拡充を。特に東北
振興の為にはこの施策が一つのキーポイントとなろう。現地の日系企業は、沿岸部を中心に
今でも日本語の出来る人材の採用難と言っている。

提言12.大学に法学部を多く作り法治国家の基礎づくりを。現在行われているが各種の法整
備を。約束を守る、契約を守る、法を守る風潮を全国民に徹底の要あり。共産社会はモノづ
くり優先、理工系中心で来たのでやや片寄りすぎと思う。経営関係は大分育って来ている。

提言13.独占禁止法は早く制定された方がよい。

提言14.外資規制法も必要。運輸、通信、電力、ガス、マスコミ、金融等、公共性の高い産業
は外国人(含外国企業)には49.1%以上は持たせない規定が必要と思う。アメリカ型資本
主義で強い者、資金を持っている者は何をしてもよいという考え方は問題あり危険。 この予
防策として上記の規定が必要。

提言15.知的財産権の保護、各種国際ルールの厳守を徹底のこと。

提言16.国をあげて省エネ対策を。エネルギー使用総量の圧縮を。中国のエネルギー効率
は日本の1/5位とか。主要エネルギーのほぼ全量を輸入に頼っている日本は,石油ショック
後、何度もこの努力をし、可成りの成果を挙げて来た。世界の資源は有限であり、中国も今
や石油の大半を輸入に頼らざるを得なくなりつつあるので。

提言17.日本の省エネ技術の活用を。

提言18.石炭液化技術の開発・導入を急ぐこと。石炭輸送能力不足による南の電力不足の
解消の為に、更には石炭火力発電所による空気汚染の予防策の為に。日本の三菱重工業
がこの技術を持っている。

提言19.公害防止、環境対策に日本の技術の活用を。水質汚染対策:大阪ガス、栗田工業、
荏原製作所等空気汚染対策:鉄鋼各社、大阪ガス等

提言20.研究開発投資にも力を入れ、独自技術の開発を目指すこと。今迄は外資導入、外
国技術、外国の経営管理手法の導入のウエイトが高かったが、今後は順次独自技術で開発
が出来る力をつける努力が必要。海外留学帰国組も増えているので可能である。

提言21.半砂漠に植林を。植林可能なところは、全国どこでも徹底的な植林事業を永続的に
続けること。併せ全国的にあらゆる角度からの節水指導を永続的に行うこと。
(1) “退耕還林”政策を実行中ながら耕地を林に戻すだけでは不足。可能性のあるところには
  全て植林を徹底的に行なう決意と実行力が大事。
(2) すでに日本から30団体以上が永く中国の半砂漠地帯各地でボランティアとして植林活動
  を続けている。緑の地球ネットワーク(GEN.大阪.高見事務局長)は、山西省大同市を
  中心に11年以上に亘り植林活動を実施。成功実績多く、各種ノウハウを蓄積しており、
  中国政府、駐北京日本国大使館等より高く評価されている。大森もこの会員として参加。
  (この報告書:「ぼくらの村にあんずが実った」参照)日本各地の日中友好協会、元鳥取大
  学の遠山教授、元衆議院議員の武村正義氏等々多数。大森の所属している大阪府日中
  友好協会でも雲南省と敦煌で実施中。

提言22.国債は濫発不可。安易に増発していると返済不能となり、財政破たんを来たし、将
来に大きな禍根を残す。日本は、GDP(500兆円)の約140%(700兆円)も発行済。せい
ぜいGDPの60〜70%が限度か。この延長線上にある国有銀行の不良債権問題も、その
発生源は元来中央政府又は地方政府の仕事であった学校、病院、退職者の住宅や年金、
果ては消防隊等に至る迄国有企業に押し付け、その金繰りの為に国有銀行に融資させた
等の為発生したものが大半である。(勿論、通常の経営で発生した赤字分の穴埋め融資分
も含む)。従って、この際これらを竣別し国債を発行して国=政府が引き取ってやる必要あり。
その結果、GDP比国債発行比率がどの位になるのかをよくチェックしておく必要あり。この様
に厳しく査定すれば、場合により中国の国債発行残高は、すでに国際的許容範囲(GDPの
60%)を越えているかも知れない。これらを明確化した上で、健全な民営化の推進、健全な
財政運営、健全な国家運営を行うことが肝要である。

提言23.国有資産を大切に、有効に使うこと。
(1) 特に沿岸部では、有用な土地が少なくなりつつある。長期安定成長の為には、土地は小出
  しにして大切に、有効に使うべく、徐々に開発された方がベター。
(2) すでに沿岸部では、土地使用権の売却に際し、“投資密度”の高い相手にしか売却しない
  方針を打ち出している。
(3) 中国政府も各地開発区に対し、同様の方針を打ち出し、出来るだけ高く、大切に売却する
  様指導している。
(4) 以上の論点からすると国有財産の払い下げや、国有企業民営化時の株式や土地の払い
  下げに際しては公明正大な入札方式等により、特定の個人に大きな私有財産が出来る様
  な払い下げの絶無を期すこと。

提言24.地方政府幹部の人事評価システムを、経済成長中心主義から脱却しバランスのとれ
た、ひずみ・問題点の少ない成長・発展への貢献度にウェイトを置いた方式への変更が必要。
 過当開発競争防止、貧困層救済度、環境対策実施度、バランスのよい安定成長体制を作っ
たか否か、等に評価のウェイトを移すこと。又それを市政府関係全職員に公表、周知徹底する
ことが望ましい。

提言25.世界の平和・安定の継続こそ最大の経済政策である。
この平和の配当を永遠に享受出来る様、日中相互に相協力、相補完し合って、良いWin−
Win関係を続けよう。
(前号に続き、これは5月24日に在瀋陽日本国総領事館で当総領事館と京大上海センターが
開催した「日中経済交流セミナー」での報告です。)
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