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京大上海センターニュースレター

第68号 2005年8月2日
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

上海センター中国自動車産業シンポジウムのご案内

   中国・上海情報 7.25 -7.3 1

○中国における中古車流通の問題点

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上海センター中国自動車産業シンポジウムのご案内

「日本を追い抜くか―急成長する中国自動車産業―」

日時 115()12:00- 会場 京都大学法経総合研究棟大会議室

第1部 統計分析の視点から                                     12:10-14:20

報告(1)現代文化研究所

報告(2)野村総合研究所

報告(3)三菱総合研究所                                 (五十音順)

2部 パネル 中国のコスト・品質・開発力をどう見るか       14:30-16:50

松下電器産業グローバル戦略研究所首席研究員 安積敏政

小島衣料代表取締役社長 小島正憲

ダイハツ工業製品企画部副部長 津曲正人

元いすゞ中国事務所所長・中国担当部長 中村研二

愛知大学経済学部教授 李春利

元広州本田汽車                                    (五十音順)

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中国・上海ニュース .25−7.31

ヘッドライン

           中国:鉄鋼、アルミ、セメント産業の過剰生産顕著に

           四川:ブタ連鎖球菌感染症で34人死亡174人発症

     中国:1−6月穀物生産価格3.1%増、伸び率最低

     中国:電動自転車の保有台数1500万台突破

     中国:1−6月自動車業界の利益が48.8%減

     中国:中央企業1−6月利益総額3000億元、29%増

     中国:-6月企業赤字額6割増

     上海:上海1−6月:「衣」「食」消費、1人当たり4000元

     上海:1−6月コンテナ取扱量26%増

     奇瑞汽車:1−6月輸出台数3400台、全輸出量の6割

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中国における中古車流通の問題点

――情報の非対称性縮小プロセスを視座として――

京都大学教授 塩地 洋

はじめに

 各国において,自動車の新車販売台数に対する中古車の販売台数を「新中比率」と呼んでいるが,日本1.2,米国2.0等に比較すると,中国は0.38と低い数値になっている。具体的数値を上げると,2004年の新車販売台数520万台に対して,中古車販売は200万台である。この新中比率の低さは中国における中古車流通制度が未発達であることを示している。

ではなぜ中国で新中比率が低いのか,(1)中古車の供給サイドの問題,(2)流通システムの問題,(3)需要サイドの問題,という三つの側面から具体的に見ていこう。

 

需要サイドの問題

中国において,中古車に対する需要は大きい。中国では新車を購入する所得に達している比率が小さいので,新車に比べて安価な中古車を購入しようとする潜在的顧客はきわめて多い。顧客が多いため,これまでは通常,中古車業者は「玉を仕入れればすぐに売れる状況」であった。ただし,現在は少し悪くなっているがそれでも,日本や米国で中古車仕入れから小売まで2カ月と言われる回転期間は,中国ではわずか2週間程度である。供給量に比して,買手が多数いるため,中古車価格水準は,日本や米国よりも相当高い水準を維持している。日本では,1年で価格が25〜30%低下し,平均7〜8年で価格がゼロになるのが,中国では年に7〜10%しか落ちず,15年間は価値を持っている。このような事実を見ると,中国で新中比率が低いのは,需要サイドの要因ではないことがすぐに理解できる。

 

供給サイドの問題

新中比率が低いのは,中古車の供給が絶対的に不足しているからである。その最大の理由は,いったん購入された車両が中古車として市場に再投入される(remarketing)比率が低いからである。これが新中比率が低い最大の原因である。

では何故,市場に再投入される比率が低いのか。これも説明は簡単である。1990年代の半ばまで,中国では,国有企業は保有車を中古車として販売することができなかった。なぜなら,国有企業に所有されている車は国有財産であり,それを処分することが法律により制限・禁止されていたからである。1990年代半ばに,国有企業は所有車を中古車として市場に販売することが一部認められるようになったものの,なおも購入した車両を廃車になるまで使用する場合が大半であり,中古車市場に再び現れる車両はなかなか増大しなかった。とくに中国では現時点では,個人所有車の比率がなおも低く,法人所有車の比率が高く,そうした法人車両は,廃車まで使用される場合が多い。ただ最近,すこし変わりつつある。

しかしながら,2010年までには,個人所有車の比率が急拡大し,そうした個人は,買替時に現所有車を中古車として市場に売りに出すことは確実であると推察される。すでに現時点でも,北京政府がユーロ2という新環境基準を導入したために,その環境基準を満たさない車は,中古車として北京市外へ売りに出されている。今後,中古車の供給が増大することが予想される。

 

流通システムの問題

供給側の問題に加えて,中国では中古車の流通システムや政策にも大きな問題点がある。その結果として,中古車の取引において,売手(現保有者)と買手(中古車業者)の間,あるいは売手(中古車業者)と買手(新保有者)の間において,大きな「情報の非対称性」が存在することとなっている。政府が認可している中古車取引業者である「旧機動車経紀交司」でさえ,消費者は信頼することができない状態にある。これらの根本には,中国政府の中古車流通政策における「スクリ-ニング重視-モニタリング軽視」という誤った基本スタンスがある。以下,中国における中古車流通政策の問題点を日本との比較でまとめてみよう。

図 中古車流通システムにおける日中比較

中国と日本の相違をまとめると,第一に,中古車販売会社の認可制度を見ると,中国では,(1)中古車販売会社設立に対する認可の審査を厳格化し,(2)販売会社数を制限し,(3)販売会社の設置場所を特定地域に制限している。いわば「長崎の出島」のような所にのみ「経紀交司」の設置と営業活動を制限している。他方,日本では,中古車販売会社設立に対する認可はほとんどなく,県警に対して「古物商」の登録をおこなえば,それで中古車会社として認められる。審査や数や設置場所の制限はない。ところが第二に,こうして設置された中古車販売会社に対する行政機関等による監視(モニタリング)が中国では甘く,日本では自動車公正取引協議会や自販連等による監視が厳しく行われている。言い換えると,中国ではスクリ-ニングは厳しいが,以降のモニタリングはきわめて甘い。日本ではスクリ-ニングは甘いが,実務上のモニタリングが厳しい。その結果,中国ではいったん経紀交司として中古車取引が認められると,それが特権となり,そうした特権業者が,詐欺や不正をおこなっている。そうした行為を行政機関が見逃しているのでモラルハザ-ドが生じている。第三に,中国ではそうした詐欺行為を監視すべき行政機関が営利活動(高額な名義変更手数料の徴集)に専念している。すなわち中国では,「行政機関」(実態は民間企業)が,名義変更手数料(車両本体の査定価格の2.5%に決めている)を多めに徴集するために,その基礎となる「査定価格」を自ら決めている。言い換えると,「行政機関」が査定価格の2.5%の名義変更手数料を高く徴集するために,みずから,その「査定価格」を吊り上げているのである。現在,中国では中古車の平均単価は北京では約60万円であるので,その2.5%は,1万5,000円に相当する。現在,日本では名義変更手数料は500円であるため,中国が日本の30倍もの高い手数料を徴集しているのである。しかし,そもそも,名義変更手続という行政手続は書類の上での事務作業である。車両価格が高い高級車も安い大衆車も,台当たりの事務処理作業工数は同じである。従って,そもそも名義手数量は定額(日本のように500円)とすべきであるし,またそうすることが可能である。しかし中国では,そうした高い名義変更手数料を徴集するために,「行政機関」が「現車検査」や「査定」をおこなっているように見せ掛けている。第四に,中古車市場で各車両に貼られているプライスシ-ト上の販売価格は,中国では,「行政機関」による査定価格がベ-スとなって記載されている。しかし,この価格は既に説明したように,実際の相場価格よりも吊り上げられた価格である。したがって,経紀交司は,この表示価格をマジックで消したり,別の紙を上に貼って隠している。そのため,顧客は実際の販売価格をプライスシ-トを見るだけでは知ることができない。いちいち,経紀交司の販売員に聞かなければならない。日本ではプライスシ-トに記載されている価格は,販売店が決めている。そこからいくらか値引されることがあっても,記載価格はほぼ相場価格に近く設定されている。第五に,プライスシ-トに書かれている事項についても中国では情報のディスクロ-ジャ-がほとんどできていない。日本の自動車公正取引協議会が定めているプライスボ-ドの重要チェック項目の(1)走行距離数,(2)修復歴の有無,(3)保証の有無,等は中国ではほとんど記載されていない。第六に,経紀交司も違法行為を行っている。中国では現法体系では,経紀交司は旧保有者から車を買い取ることは許されていない。彼らが許されているのは,旧保有者と新保有者の間の中古車の直接売買を仲介する行為のみである。しかし,実際には,経紀交司は旧保有者から車を買い取り,それにマ-ジンを乗せて,新保有者に売っている。しかし書類手続き上は,旧保有者から車を買い取った時も,名義は旧保有者のままにしておいて,その後,新保有者に売れた段階で,名義を旧保有者から新保有者に書き換えている。そうすることによって,買い取りではなく仲介をしているように見せているが実態は,買い取りによるマ-ジン商売であり,これは違法行為である(実際には買い取りを認めていない法体系が問題なのであるが)。さらに,ひどいケ-スでは,経紀交司が新保有者に車を売ったとしても,名義は旧保有者のままにしておくことによって,名義変更手数料を逃れるという手口もおこなわれている。そうすると,車に課税される各種の税金は旧保有者の所に請求がなおも行くことになるが,請求がいったとしても,実際には新保有者が旧保有者に「代わって」,税金を支払うという約束を旧保有者,新保有者,経紀交司の三者の間で交わしておくことが行われている。問題点は山積みである。

昨年10月に中国政府の国家発展改革委員会は,こうした現状を改革するために,あらたに「中古車管理弁法」を提出したが,警察や税務部門の反対によって,なおも法案化されていない。

中古車の供給が増大するとともに,こうした流通システムと政策の改革が焦眉の課題となっている。

(64号以来、524日に在瀋陽日本国総領事館で当総領事館と京大上海センターが開催した「日中経済交流セミナー」での報告を掲載しています。前号ではその趣旨書き落としていました。お詫びし訂正いたします。)