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京大上海センターニュースレター
69号 200588
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

上海センター中国自動車産業シンポジウムのご案内

   中国・上海情報 8.1 -8.7

○大連の日系弁護士からみた東北振興政策への提言

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中国・上海ニュース 8.18.7

ヘッドライン

           周小川人民銀総裁:新為替制度、連動通貨の概況など開示へ

           中国:医療広告、年内にも掲載禁止へ 

     鉄鋼業:1-6月投資は18.6%増、前年同期比33ポイント減

     中国天然ガス需要:今後5年は年間1000億立方メートル

     中国:1-6月発電量13%増も、減益続く

     中国:外貨持ち出し大幅緩和、半年以上外国滞在に8000ドル

     中国:韓国からの観光客数、日本を抜きトップへ

     上海:タクシー1台毎350元を補助、原油価格の高騰に対処

     北京:「ユーロシール」義務、違反車スクラップも

     自動車:トヨタ、「プリウス」の中国現地生産を年内に開始

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大連の日系弁護士からみた東北振興政策への提言

日本法円坂法律事務所大連代表処

首席代表弁護士 稲田堅太郎

1.はじめに

(1)東北振興政策と北東アジア地域経済圏の確立

     21世紀はアジアの時代だ!といわれている。にもかかわらず、従来からのアジア諸国は経済的にも軍事的にも覇者である米国と縦につながり、ヨーロッパ圏やアメリカ圏に比べて、横のつながり・連携が弱かったのではないか。

     アジアの時代を確立するためには、日・中・韓を中核とする北東アジア地域経済圏の確立は何よりも必要であり、東北振興政策はそのための中心的課題となるものである。

 

(2)東北地域における外国法弁護士事務所のはたす役割

     中国内における外国法弁護士事務所は欧米系の事務所も含めて北京・上海に集中している。

     地域のことを理解し、対応するためにはその地域に存在する企業なり法律事務所が最もその実情を把握し、適切に対応することが出来る。したがって、少なくとも外資企業が進出している地域なり各省には最低でも一つの外国法弁護士事務所の設置が必要であろうと思われる。

     私共の日本法円坂法律事務所大連代表処は日本の名古屋・東京・大阪の三事務所が協力して大連に進出したものであり、2000年6月8日に北京政府司法部によって、この東北地域内で最初で唯一の外国法律事務所として認可され、活動を続けてきた。その活動スタイルは日本国内においても中国内においてもネットワークの活用による対応と協力体制の確立を心がけてきた。すなわち、日本国内においては1996年に日中法務交流協力日本機構を結成し、名古屋・東京・大阪を中核として全国各地の法律事務所と連携しながらの活動、中国内においても大連を中心にして瀋陽・長春・北京・天津・南京・上海・武漢・重慶・広州・深圳・香港・海口など各地の律師事務所とのネットワークの確立などを通して、日中両国での法律実務セミナーの開催や、日本の法律専門の出版社である新日本法規出版社のホームページ(e-hoki)のグローバル頁への法律コラム連載などの取組みをすすめてきた。

以上のような活動をすすめる日本の法律事務所大連代表処の首席代表弁護士の目からみた東北振興政策について、以下のとおりの提言をする。

なお、先きに「経済人の目からみた東北振興・中国経済安定発展への提言」をされた大森經徳氏の提言と重複する部分はできるだけ避けて、東北振興に関するソフト面に重点をおいた提言をする。

 

2.司法(裁判)に対する信頼性の回復と信頼の確立

 中国の裁判制度は日本のような三権分立としての司法が行政とか立法機関に対する独立性がない。特に当地瀋陽においては、数年前に裁判所ぐるみの汚職事件が発生し、絢爛豪華な建物が建てられたにもかかわらず、司法に対する信頼が著しく低下した。

 この様な司法に対する信頼を回復するためには

(1)   ローカル主義(御当地の当事者の肩を持つような審理をする地方における裁判所の手続のすすめ方)の克服

(2)   裁判官の研修制度の充実などをふくめた質の向上

(3)   とくに知的財産権の保護を中心とした法整備と判決に基づく執行制度の確立

  等々の課題が数多く残されている。

 

3.北東アジア地域経済圏の中核をめざすための街づくり

(1)北東アジア地域経済圏の中核をめざす街づくりのためには中核となるべき都市間の交流を点としての交流から面の交流に拡大し深めることが重要である。

   とりわけ、中核都市である瀋陽・大連の両都市のはたす役割には大きいものがあり、従来以上に協力体制を強化する必要がある。

(2)国際都市をめざす中核としての交通ルールの確立

  中国内で最も交通ルールが遵守されているという大連市においてさえ、人・車の信号無視が甚しく、身の危険にさらされながら街なかを歩かなければならない現状にあり、到底外国人が安心して生活できるという都市環境とは言いがたいのが実情である。

   中国では2004年の全国民間自動車保有台数が2000万台をこえ、交通事故による死亡者数が2001年から3年連続で年間10万人をこえるなど交通事情の改善と運転者および歩行者の交通マナーの改善が急務であるといわれたところから、2004年5月1日に「道路交通安全法」および「道路交通安全法実施条例」が施行された。新法では人命尊重を原則とし、歩行者優先を明記して、従来では任意とされていた自動車保険による第三者賠償責任保険を強制保険とするとともに、酔っぱらい・スピード違反などに対する罰金を10倍アップ、運転免許取消などの罰則も厳しくして、その徹底を図ろうとしている。

   しかしながら、新法実施後もルール違反の実態は変わらず、ルール確立のための積極的なキャンペーン活動の必要性を痛感する。

(3)損害保険強制加入をふくめた被害者救済制度と体制の確立

   外国人が事故に遭遇した場合に自分の国における救済制度や救済体制との落差に驚かざるを得ない。

   国際都市の中核をめざすためにも、国際的標準にしたがった救済制度と救済体制を早期に確立する必要がある。

(4)   電力・水・燃料等の省エネルギー政策を含めた環境問題の先取り施策の実施

   日本国内の1970年代は高度経済成長の矛盾があらわれて公害列島といわれた。

公害・環境問題への取組みは、日本での貴重な経験を教訓とするならば、経済成長の後追いでは全く駄目であり、何よりも発生源対策が重要である。

中国では国家環境保護総局の「環境影響評価法」の実施から一年有余であるが、この評価法に基づく①初めての違法着工プロジェクトの大規模な公表、②大規模プロジェクトに対する30件総額1,179億元に達する火力発電所等の建設停止命令の発令、③46の火力発電所の脱硫装置監視強化などの施策は、鉄工・セメント・電解アルミ等の業界への影響が大であるといわれている。逆にこれらの施策は汚染を発生源から断ち、持続可能な発展を実現するための中国政府の決意を示すものとして高く評価されるべきであり、東北振興政策の推進にあたっても後手にまわることなく、発生源からその原因を断つ方向への転換として重視されなければならない。

 

4.投資環境の改善についての提言

(1)大連市は中国内における有数の日系企業集積地になっている。

  その理由とするところは、大連市の投資環境について以下のことが指摘されている。  

     沿海開放都市、国家級開発区(経済技術、ハイテク産業)、保税区・輸出加工区・港湾等のインフラ整備がすすんでいる。

     歴史的に親日的で生活環境が良好=