京大上海センターニュースレター
79号 20051018
京都大学経済学研究科上海センター

=======================================================================================
目次

   上海センター・自動車シンポジウムのご案内

   中国・上海情報 10.10 -10.16

○中ロ国境3地点を訪問調査して

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

京都大学上海センター・中国自動車シンポジウムの御案内

日時・会場 2005115()12時 京都大学法経総合研究棟大会議室

プログラム

挨拶 京都大学総長 尾池和夫                                                           

第1部            市場はどこまで拡大するか――需要面の定量分析―                                                   

報告(1)現代文化研究所中国研究室研究主事 廖静南

報告(2)野村総合研究所事業戦略コンサルティング部

グループマネージャー上級コンサルタント 北川史和

報告(3)三菱総合研究所産業・市場戦略研究本部産業戦略研究部

国際産業研究チーム主任研究員 赤羽淳                (社名五十音順)

2 パネル 品質・開発力をどう見るか――供給面の定性分析――

松下電器産業グローバル戦略研究所首席研究員 安積敏政

元東風本田発動機技術顧問 小澤晃

小島衣料代表取締役社長 小島正憲

ダイハツ工業製品企画部副部長 津曲正人

元いすゞ中国事務所所長・中国担当部長 中村研二

愛知大学経済学部教授 李春利                                           (氏名五十音順)

懇親会

なお,事前のお申し込みがなくても御参加頂けますが,会場準備の都合上,下記までEメイルで御連絡頂ければ幸いに存じます。シンポジウム,懇親会とも参加費はございません。

京都大学大学院経済学研究科 塩地洋

shioji@econ.kyoto-u.ac.jp tel:075-753-3428 fax:075-753-3492            ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

中国・上海ニュース 10.1010.16

ヘッドライン

           中国:共産党16期5中全会閉幕、持続可能な安定成長を強調

           中国:宇宙航空士無事帰還

     中国:9月末貨幣供給量伸び率17.9%

     中国:都市部新規就業者数738万人、目標の82%達成

     中国高齢者:2015年に2億人、2040年には4億人に

     中国衛生部:中国のHIV感染者、126千人に上る

     中国:青海−チベット鉄道全線敷設、来年7月試運転

     上海:出産が高齢化と若年化への二極分化傾向

     北京:首都空港内の飲食価格、最大40%値下げ

     安徽省:小学校で銃乱射、児童16人けが

=============================================================================

 

中ロ国境3地点を訪問調査して

京都大学経済学研究科教授 大西 広

 この822-93日の間、中ロ国境の調査に出かけた。訪問先は内蒙古からロシア領チタに抜ける鉄道税関満洲里、アムール川をはさんで対岸の町ブラゴベシチェンスクと船で繋がる黒河の町、それに黒龍江省から日本海をめざして鉄道でウスリースク、ウラジオストクに通ずる鉄道税関綏芬河である。それぞれいくつか発見したことがあるので、ここに記し、報告としたい。

 それでまず、満洲里であるが、露→中貿易の主体たる原油タンクの長蛇の列とともに、中→露輸出の貨車にCRVタイプの自家用車が大量に積まれていたのが印象的であった。後に知ったところでは、これは瀋陽金牌汽車の自動車であるということであるが(瀋陽金牌汽車は綏芬河経由でウラジオストク方面にも輸出を始めたとされている)、中国の自動車産業が輸出段階に入ったことを強く印象づける。この自動車は日本のような先進国社会の消費者が求めるクオリティーは持たなくとも、ロシアなど「途上国」の消費者需要にはピッタリするところがある。アフリカや南アジア、南米などの社会の今後の発展の利益を最も享受するのは、実はまだ形成途上の中国自動車産業であるのではないかと思った次第である。

 また、続く黒河で強く印象づけられたのは、中ロ両サイドの住民たちの一生懸命さの相違である。船に5分も乗れば来れるこの地で(気軽に?)「買い物」に来るロシア人たちを多数見たものの、一切中国語を話せない彼らにモノを売る中国人たちのロシア語の上手さには驚いた。大黒河島という税関のある場所に設置されたマーケットで商売をする中国人たちは元々は国有企業などでリストラされた人たちであるが、公費で語学教育が施され、ここで働いているのだという。東北地方は西部と並んで発展が遅れていると言われるが、農家の土地面積も広く、またこのように「国境」という地の利を活かした努力もなされている。言われているほどには貧しくないという印象を持ってしまった。

 さらに第三番目に訪れた綏芬河で思ったことは、ロシア側税関の手続きの複雑さや時間コストのためにアト200kmで日本海に出れ、よって日本との交易が出来るというこの地の利点が活かされていないということである。綏芬河からロシア側に入った鉄道駅グロデコボで我々が受けた税関検査時間はロシア側受け入れ機関がしっかりしていたために特別に一時間で済んだものの、そうでなければもっと長くかかったはずで、この場合も綏芬河から計算すれば4時間はかかっている。また、検査も非常に厳しく、私も実は事情でマルチビザをとっていたため、あと一回はどうするのだとのチェックを受けた。ついでに言うと、その後吉林省琿春からザルビノ方面に抜けられた協力会副会長の大森経徳さんは国境の通過に四時間かかわったということである(これは私が昨年8月に新疆自治区からカザフに抜けた時にかかった時間と同じである)。企業もこうした「コスト」の大きさは認識しており、綏芬河付近にあった建材卸企業は日本への輸出を大連経由で行っていた。極東ロシアは日本と中国というふたつの経済大国に挟まれた地域として両国を結びつけることでその両国経済の成果を享受する潜在力を秘めている。が、それが以上のような状況下で活かされていない。ロシア自身の積極性の欠如を感じる。

 が、ロシアに好意的に解釈すれば、全極東でハルピン一市に人口が及ばず、かつ経済危機後にはその人口さえ絶対減している状況下にたとえば中国の影響力が拡大し、またそこから大量の中国人が来ることは避けたいと思うのも理解できる。中国から極東ロシア地域への労務輸出は以前から行われているが、滞在期間や職種の制限、低い賃金などによって最近は抑制されている。たとえば、調査の後に入手した吉林省延辺自治州からの対ロシア労務輸出の経年変化を次のグラフで見られたい。

 この調査期間中、ハルピン市で社会科学院などのヒアリングをした際、農業税の廃止など生活水準の上がった中国農民たちは、そう簡単には見知らぬ町の低い労働条件に魅力を感じなくなっているとの話を聞いた。極東ロシアがその地の利を活かすためには、ただ中国人を恐れているだけでは駄目で、もっと開放的にする必要があるのではないかと感じた調査であった。

 なお、本調査後半は大阪産業大学大津定美教授が研究代表者をされる科学研究費プロジェクトとして行われたものである。この場を借りて、この機会を下さった皆様にお礼申し上げたい。