=======================================================================================
京大上海センターニュースレター
82号 2005118
京都大学経済学研究科上海センター

=======================================================================================
目次

   上海センター・ブラウンバッグランチ・セミナーのご案内

   中国・上海情報 10.31 -11.6

○中国の地ビールについての雑感

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

上海センターブラウンバッグランチセミナー(9,10,11回)のご案内

引き続きBBLを開催いたします。ふるってご参加ください。

9 「戦前・戦後の東アジア」
講師 堀和生 本学大学院経済学研究科 教授
日時 119日(水) 1215分〜1345
場所 法経総合研究棟1102演習室

10 「日中関係とナショナリズム−われわれはなぜこれほどまでに嫌われるのか?−」
講師 江田憲治 本学大学院人間・環境学研究科 教授
日時 1117日(木) 1215分〜1345
場所 法経総合研究棟1102演習室

 

11回「中国における契約と紛争解決」
講師 森川伸吾 本学法科大学院 教授
日時 1221日(水) 1215分〜1345
場所 法経総合研究棟1103演習室

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

中国・上海ニュース 10.3111.6

ヘッドライン

           中国:2005年自動車製品の輸出額100億ドル突破か

           北京:鳥インフルエンザ対策、鶏の売買を一時禁止

     中国:1−9月機械重点50社の売上高23%増、3割増益

     中国:携帯加入件数、前年比18%増の3.77億件

     中国:交通事故死亡者数、世界の15%占めトップ

     広州:11月15日からタクシー料金に燃料費1元を上乗せ

     江蘇:長江デルタ区域計画、来年の3月に完成

     上海:9月の消費総額250億元、外食等の牽引で11.9%増

     遼寧:鳥インフルエンザ、鶏9000羽大量死

     上海:携帯メールの詐欺案件が3カ月半で1.2万件

=============================================================================

中国の地ビールについての雑感

                           矢野剛(徳島大学総合科学部)

近四五年、毎年2回のペースで一回23週間程度の中国現地調査を継続している。当然、宴会のお呼ばれも少なくはなく、多くはビールを飲むことになる。半ば仕事としての宴会ではビールは自分の欲求で飲むものではなく、乾杯を受けるために飲むものなので、自分のペースでは極力、あるいは全く飲まないようにする。しかし、宿に帰って自分のリラックスのためにビールを飲むことも多い。そんなことで、中国の各地でその土地のビールをかなり飲んできたように思う。中国では各地区により支配的なビール銘柄が異なっている。これは典型的な市場分断現象であり、人為的な要素も原因になっているだろう。しかし、各地区で大きなシェアをとるブランドには共通点もあるように思う。以下では各地区で成功しているビールブランドの共通点を一消費者からの視点で考えてみたい。

これは多くの方がご存じだと思うが、現在上海の地ビールと言えば、まずサントリーになるだろう。高級外資系ビールとしてではなく、中級レストランで一本5元程度の地元の普通のビールとしてのサントリーが大きなシェアを占めている。全国ブランドの青島ビールや現下シェアNo.2の上海地元ブランド力波ビール(これも外資系)を抑え込んでいる。しかし、上海を一歩外へ出ると別の地ビールが大きな地歩を各地で占めている。筆者は調査の関係で上海と隣接する江蘇省南部を訪れることが多いのだが、当地の最大シェア地ビールと言えば太湖ビールである。上海の隣接地であるためサントリーも有るには有るが、太湖ビールの牙城は崩れていないように思う。太湖ビールも中級レストランで一本46元、店売りで23元クラスの大衆ビールである。味は清涼飲料水風の薄味・低アルコール度で、これは中国各地の多くの地ビールが踏襲している傾向である。同じ江蘇省でも長江を北に渡った中部・北部へ行けば、また違った地元ブランドが市場を支配している。2002年のことなので状況は変わってしまっているかもしれないが、長江北岸の揚州市では、雑味の多い土着的な地場ビールが上記の爽快味清涼飲料水風都会ビールを殆ど市場から閉め出していたと思う。中国北部に目を向けると、北京の嚥京ビールはよく知られていると思うが、大連では黒獅子ビールが地場ブランドとして当地シェアNo.1を誇っている。これらの各地の支配的地ビールが支配的である理由を考えてみると、よく言われるブランド力・イメージ戦略は当然の前提であって、意外に価格の安さが直接の決め手になっているような気がする。まずシェアトップをとるには中級レストランで一本46元という最も需要が多いクラスの大衆ビールとしての位置づけは当然なのだが、各地のトップシェアビールはそのクラスの中でも各地で一番安い価格の位置取りをしているように思う。味は似通っているのだから、イメージでさほど劣るものでなければ値段が安いものの方が良いというのが中国大衆消費者の嗜好なのだろうかと筆者は考える。キャンペーン企画として特別低価格で売り出されているビールもしばしばある。先日、江西省南昌市を訪れる機会を持ったのだが、同市ではとある地元ビールがキャンペーン企画として一本1元で売り出されており、その時のトップシェアビールになっていた。需要の価格弾力性の大きさを示すものと考えられる。その1元ビールの味は、全く麦の香りがしない清涼飲料水風を極端に追求したもので、筆者の味覚にはあわないものだったが、別段粗悪な低級品とみなされているわけではないようだった(低級品としての位置づけをされているビールも各地に存在しており、江蘇省南部の雑貨店で太湖ビール以外のブランドを求めると、店の主人は「これは安いけど不味いよ」といいながら華東ビールというブランドを出してくれるのであった)。

味の問題にも触れておきたい。上記のように清涼飲料水風の薄味・低アルコール度が消費者主流派の好みであることは間違いない。しかし、また違う流れの嗜好も確かに存在するように思う。例えば、上述大連市の黒獅子ビール(の大衆向けブランド)はアルコール度4.5%で味も濃い、どちらかというと日本風のビールである。広東省のような南部地域では、トップではないもののフィリピンブランドのサンミゲル(生力)ビールが大衆ビールとして一定の地位を占めている。このサンミゲルもどちらかという濃い味のビールで、薄味の中国主流ビールとは明らかに一線を画している。このようなビールが一定のシェアを持つケースもあるということは、濃い味のビールを好む消費者も確実に一定数存在するということではないだろうか。中国の消費者の嗜好が、全て薄味・低アルコールに向かっているという見方には少し疑問を覚える所以である。そして清涼飲料水風薄味、濃厚味の各嗜好中で大衆ビールとしては安値感があることが現在中国で大きなシェアを持つビールの条件であるような気がする。