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京大上海センターニュースレター
88号 20051221
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

   上海センター・ブラウンバッグランチ・セミナーのご案内

   中国・上海ニュース 12.12 -12.17

○在中邦人の保護・救出は必要なのか?--われ倭僑とならん--

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上海センターブラウンバッグランチセミナー(11回)のご案内

引き続きBBLを開催いたします。ふるってご参加ください。


11回「中国における契約と紛争解決」
講師 森川伸吾 本学法科大学院 教授
日時 1221日(水) 1215分〜1345
場所 法経総合研究棟1103演習室

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中国・上海ニュース 12.1212.18

ヘッドライン

           中国GDPは世界第4位か

           中カ送油管:1215日開通・2010年に40万バレル/日供給

     中国:2005年の貿易黒字1000億ドルは確実

     中国第1回経済センサス:工業就業者数は1.22億人

     中国:2006年1月から製品油の輸出を制限

     自動車:1−11月国産乗用車の販売台数が350万台超

     中国:11月社会消費財小売5909億元、都市部13%増

     広東:1−11月中国貿易黒字の45%を創出

     吉林大病院で火災、患者など38人が死亡

     江蘇:太陽電池メーカーがNY上場、中国本土企業で初

          

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在中邦人の保護・救出は必要なのか?--われ倭僑とならん--

                                    小島正憲

 私は、15年来、中国でビジネス(金儲け)を行なってきた。

 中国は、日本政府の主権の及ばない国であり、反日騒動が起こる国でもある。

 私は、その中国で、日本政府とは関係なく、自分の自由意志で、自分のための金儲けに専念している。 

 したがって私は、中国で、たとえこの身に危険が迫ろうとも、日本政府の保護や救出を求めない。

 

1.今後も反日騒動は起こる。

中国での反日騒動も、一息ついたようだ。しかし徹底した反日教育の中で育った中国の青年たちが、今後、もっと大きな反日騒動を起す可能性は否定できない。

この数年、中国の経済発展はめざましい。多くの経済指標もそれを裏付けている。中国の青年たちの多くは、それらの情報をインターネットや携帯電話を通じて熟知しており、彼らの意識の中には経済大国意識が芽生えてきている。ところが現実には貧富の格差が大きく開き、能力の差もあいまって希望する職種に就けない青年たちも多く、彼らは情報と現実の狭間でいらだっている。

しかも現在の中国の青年は、大半が一人っ子で、わがまま放題に育っており、その結果、彼らの心中には「自分たちはなにをやっても許される」という駄々っ子のような感情が住みついている。彼らは小皇帝と揶揄されている。そんな彼らに浅薄で扇情的な反日情報が流れると、彼らは容易に実力行使に出る。しかも日本人の買春ツアーなどの情報が大々的に報道されると、中国人男性青年の心は嫉妬心に燃える。青年たちの反日意識の根底には、大国意識といらだち、そして嫉妬心などが混在している。

さらに中国では、これらの青年の反日騒動に乗じて、政治的ねらいを達成しようとする勢力が存在する。この勢力は、青年の実力行使を黙認し、助長する。したがって今後とも青年たちが暴発する可能性は大きい。最近、「抗日オンライン」と名付けれた日中戦争ゲームが、共産党系組織と民間IT会社との共同で製作されたという。もしこのゲームが大流行する事態ともなれば、これに興じた小皇帝たちが、ヴァーチャルと現実の区別ができなくなり、やがて遊び感覚で暴発し、常軌を逸した反日騒動を巻き起こす可能性がきわめて大きい。

中国で働く日本人は、そのときを想定して覚悟と準備をしておかねばならない。

 

2.旧満州(琿春市)での操業開始。

日本では、このところ戦後60年と名うって、いろいろなテレビ番組が放映されたり、各種の行事が行なわれている。それらの中には、旧満州の報道も多く見られた。その画面上では、老人たちが終戦時の阿鼻叫喚の地獄絵体験を、涙ながらに語っていた。また本来満州居留民を守るという役目の日本軍に、弊履の如く捨て去られ、その恨みを語る人も多かった。

私は、今年11月から、その旧満州の地、吉林省琿春市で縫製工場の操業を開始した。そのため私は、今年に入って、琿春市になんども足を運び、立地条件などを調査した。その結果、企業環境情報の他にも、現地の人たちからいろいろなことを教えてもらった。ことに琿春市近辺には、60年以上前、日本軍が作った橋がいまなお残存し、現在も使用されていることや、この地には私と同郷の岐阜県の朝日村・大和村の開拓団が入植していたことなどを知ることができた。

≪私は、現地の人に案内してもらって、その橋のたもとまで行ってみた。そこで、その頑丈な橋脚とおだやかな川の流れを見ながら、静かに目を閉じた。数秒後、脳裏にはその橋を通って逃げ惑う多くの同郷岐阜県人たちの姿が浮かびあがり、耳には彼らの叫び声が聞こえてきた。私はそれから逃れようと思い、目を閉じたまま深く合掌し、なんども深呼吸をした。しかしそれは逆効果で、私の脳裏では、逃げ惑う日本人の姿が私自身に入れ替わっていった。それはこの地で仕事を始めようとしている私に対しての、同郷岐阜県人からの警告のようでもあった。私はその残像を振り払うように大きく目を見開き、その場をあとにした≫

たしかに今後、反日騒動などの影響で、この地であの地獄絵のような事態が再現される可能性は否定できない。しかし私は、一実業家として、あえてこの琿春市へ企業進出し、縫製工場を展開する。

 

3.自由意志での企業進出。

中国でのビジネスにはリスクがともなう。ましてや反日感情が色濃く残っている旧満州の地では、なおさらである。しかし私は、それらを承知の上で、自分の自由意志で、琿春の地で工場を操業し、ビジネスに邁進する。もちろんこれは、他のだれにも強制されたわけでもなく、当然のことながら日本政府の関与もない。したがってその地で危機に遭遇しても、私は日本政府の保護や救出を求めはしない。また弊履の如く捨てられても、泣き言もいわない。自らの自由意志で、日本国家の主権の及ばない国で、自分の好き勝手にビジネスを行なっているのだから、それは当然の帰結である。

中国ビジネスといえば聞こえはよいが、その実態は金儲けであり、一面では日本人実業家による中国人民の搾取・収奪と表現することができる。中国でビジネスにたずさわるものは、それをはっきりと認識すべきである。言葉を替えて表現すれば、その行為は新植民地主義の先兵なのであり、実際に軍隊が出動すればそれは帝国主義と呼ばれることになる。

中国でものを生産し金儲けをするということは、中国人民の安い労働力を使って、安いものを作り、それを輸出し金を稼ぐということである。中国にものを販売するということは、高い値段で中国人民にものを売りつけ、地場の中国企業を駆逐し、金を稼ぐということである。その行為は、搾取・収奪として批判されても仕方がない一面を持っている。

中国で金儲けをするということは、一面では中国人民を搾取・収奪しているといえるのだから、反日騒動の際には、彼らの餌食になっても仕方がないと覚悟すべきである。最近、米国のニューオリンズ市は巨大ハリケーン:カテリーナに襲われ、大規模な水害に見舞われた。その結果、街は無法状態となり略奪や暴行が頻発した。中国でも今年4月の上海での反日騒動ときには、日本総領事館が投石され、近くの日本料理屋の看板が壊され、店内が荒らされた。公安当局が彼らの行為を制止しなかったため、結果としてそこに一種の無法状態が出現したからである。次に、中国で反日騒動が起きた場合には、同様の無法状態が地方にも拡大し、日ごろの搾取・収奪に対する恨みと反日感情が重なり、日本料理店だけでなく、日本企業を標的にしたもっと大規模な破壊や略奪が起こる可能性がある。中国へ企業進出している実業家は、そのことをリスクとして承知し、自力でその危機を乗り切る戦略・戦術を持たねばならない。

 

4.再び、居留民保護の美名による軍隊進出を許してはいけない。

私は、日本国家の主権のおよばない中国へ進出して、自分の自由意志で金儲けビジネスつまり中国人民の搾取・収奪を行なっているわけだから、危機に遭遇しても、私には日本政府の保護・救出は不要である。

私がこのことを、なんども強調するのには理由(わけ)がある。戦前の日本軍の海外出兵の大きな口実の一つが、居留民保護であったからである。そしてその軍隊出動が、今日の反日騒動の原因だからである。

戦後、平和憲法のもとでも、日本政府はそれに類似することを行なっている。たとえば1997年のカンボジア情勢が緊迫したとき、日本政府は在外邦人救出の目的で航空自衛隊のC130輸送機3機をタイに派遣し、待機させた。また98年5月、インドネシア情勢の悪化に当たり、在外邦人救出のため、ふたたび航空自衛隊C130輸送機6機をシンガポール・パヤレバ空軍基地に、巡視船2隻をシンガポール港に待機させた。

これらの前例にならえば、もし今後、中国で大きな反日騒動が勃発し、在中邦人が危機に瀕した場合は、おそらくかなり大規模な自衛隊を含めた救出作戦が展開されるにちがいない。なぜなら、現在、在中邦人の数はタイやインドネシアとは桁違いだからである。中国で働いている日本人、旅行者、留学生などに、日本に帰化したり永住権を取得した後、ふたたび中国へ戻りそこで働いている元中国人を含めると、その数は10万人をはるかに越えるのではないか。それらの在中邦人の保護・救出は容易なことではないだろう。しかし困難だからといって、簡単に日本政府に自衛隊の中国派遣の口実を与えてはいけない。むしろ自衛隊の出動を伴わない、在中邦人の保護・救出のための現実的プランを作っておくべきである。民間機や民間船舶を総動員して、瞬時に救出するシミュレーションを極秘裏に行なっておくべきなのである。

それにもまして、中国進出企業とそれに関わる邦人は、いかなる場合でも日本政府の保護・救出は不要であると公言しておくべきである。それは居留民保護を口実にした自衛隊の海外派遣を阻止するために、つまり戦前の愚行の再現を阻止するために、絶対に必要なことである。本来、そのように宣言し、覚悟した実業家のみが、中国で金儲けビジネスを行なうべきなのだ。

 

5.われ倭僑とならん。

海外で、自由意志で働く日本人は、自己の持つ国家概念そのものを、華僑のそれのように変えるべきである。華僑とは帰属すべき国家を捨てた中国人の実業家たちを指す。彼らは国家を捨てたのだから、当然のことながら彼らを保護・救出する国家はない。もちろん彼らを守る政府機関や軍隊もない。それでも彼らの多くが、脱出先の東南アジア各国で、その逆境を見事に乗り越え、彼らのビジネスを飛躍的に発展させた。彼らの中には世界的な財閥に成長した人たちも多い。それらの結果から見れば、海外ビジネスを成功させるには、むしろ国家とは無縁の方がよいのではないかとすら思われる。われわれ日本人も華僑を真似て、国家を当てにせず、倭僑として生き抜くことに徹すれば、海外で華僑に負けない業績をあげることができるのではないだろうか。私自身もこの15年間、日本政府の支援や保護をまったく受けないで、中国の地でビジネスを展開し、実業家としての地歩を築くことに成功した。このことは日本人にも、華僑の真似をすることが不可能ではないということの証左でもある。

現在、日本の国家財政が破産状態にあるということは、すでに全世界に周知の事実である。今や、日本の国債の格付けはボツワナ以下でもある。それは、華僑が戦前、内戦で破産状態の中国をあきらめ、国家を捨て国外へ脱出したときの経済状況と酷似している。この日本経済の窮状を前にして、われわれ日本人実業家は、日本国家と心中するのではなく、国家を見捨て、倭僑となって海外へ雄飛すべきなのではないか。

海外で活躍する日本人実業家を日僑と呼ぶこともある。だが私は、あえて倭僑という呼称を使いたい。なぜなら倭という漢字の語源は、「昔、中国で、日本および日本人をさしたことば。背が曲がってたけの低い小人の意」であり、日本人の体格はおおむねそのように貧弱で、倭という字がピッタリだからである。また日本国家は破産状態でまさに経済小国だから、その意味でも倭という字がふさわしい。さらにそのように醜い自分の姿と、経済小国日本の実力を真摯にみつめ、つねに謙虚な姿勢で、腰をかがめ揉み手をしてビジネスを続けることが、金儲けの秘訣であると考えるからである。

倭僑、つまり属する国もなく、頼る軍隊もなく、背も低く醜い日本人実業家が、それでもたくましく雑草のように自力で生き、世界で儲け抜いて行く、これこそが21世紀の真の日本人実業家の姿ではないだろうか。私は、琿春に工場を作るに当って、「われ 倭僑とならん」という心意気で立ち向かう。幸いにも、私は猫背で背が低く、倭僑という呼び名がピッタリ当てはまるので、琿春の地で、中国人(漢・満・朝鮮族など)を相手に、彼らよりも腰をかがめ揉み手をして、金儲けに邁進し、倭僑としての業績をしっかり残すつもりである。

 

6.華僑の「愛国心」に学ぶ。

現在、上海で私が事務所を構えているビル(上海世界貿易商城=通称:上海マート)のオーナーは、シンガポール華僑である。彼は戦前に上海を裸一貫で脱出し、シンガポールにたどりつき、そこで辛酸をなめて働き、一代で巨額の財をなした。華僑の典型のような彼は、今や、世界の長者番付にランクインし、世界の主要都市にホテルや商業用ビルを所有している。その彼が、7年前にポンと私費300億円を投じて、上海の中心に巨大な貿易センターとしての上海マートを建設した。あるとき私は、彼にその動機を尋ねてみた。彼は、ニコニコ笑いながら、「愛国心です」と答えた。私は、この意外な言葉にビックリした。彼の口から、華僑としての透徹したビジネス戦略を聞き、それを私の経営に参考にしようと考えていたからである。それは華僑一流のパフォーマンスであったかもしれないが、そのとき私は「愛国心」という言葉に圧倒され、ただ感激するのみだった。

「愛国心」を論議しはじめたら、万言を費やしても足らないだろうし、その上、私にはその論に加わるだけの知識もない。しかし私も、シンガポール華僑の彼に真似て、やがてくる破産後の日本国家再生のために、いくばくかの私財を投ずることはできる。これが倭僑たらんとする私の「愛国心」の発露である。またそれが、私をここまで育ててくれた日本国家への恩返しでもある。

きっと琿春の地は、私にそれを可能にしてくれるだろう。