=======================================================================================
京大上海センターニュースレター
100号 2006315
京都大学経済学研究科上海センター

=======================================================================================
目次

京都大学経済研究所国際セミナーのご案内

   中国・上海ニュース 3.6-3.12

○提言:中小企業の対中戦後賠償(1兆円)方策

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

京都大学経済研究所国際セミナーのご案内
「企業レベルから見た市場経済移行−中国とロシアにおける企業比較

このたび、以下の要領にて、京都大学21世紀COEプログラムの援助を受けまして、国際セミナーを開催することとなりましたので、ご案内申し上げます。
 本セミナーは、中国とロシアの工業企業システムにおける転換過程を比較することにより、市場移行のミクロレベルでの制度変化のあり方を探ることを意図したものです。とくに、両国の企業がどのように市場に適合しているのか、そこでの企業慣行と取引様式・経営戦略・コーポレートガバナンス・人的資本形成・ステークホルダー関係などの変化にはどのような共通性と独自性が観察されるのかは、市場移行に伴う制度変化をとらえるうえでとくに重要な課題になります。そこで、今回、経済研究所をベースに、ロシアの高等経済大学、中国の華東師範大学、アメリカのルイズビル大学に所属の研究者と共同で、国際セミナーを企画致しました。本セミナーでは、今後の共同研究の可能性もまた議論できればと考えております。ロシアおよび中国の研究機関と招待者は、企業調査、社会・経済調査において経験をお持ちの専門家です。
  海外からお招きしております研究者は以下の通りです。Prof. Binyi Sun, Dr. Yan Huang (East China Normal University, Department of Business Management of Business College, China), Professor Leonid Kosals, Professor Rosalina Ryvkina, First Vice-Rector Professor Vadim Radaev (The State University-High School of Economics, Moscow, Russia) Professor Alexei Izyumov, Professor Babu Nahata (Center for Emerging Market Economies, University of Louisville)

 参加(セミナーおよび懇親会)およびプログラムにつきましては、資料、会場の準備の関係で、事前に314(火曜日)までに、溝端(下記)まで、Faxあるいはemailにてご連絡いただきますようにお願い申し上げます。
日時:2006317日(金曜日)−318日(土曜日)
両日とも 午前10時から午後540分を予定しております。中国企業・ロシア企業・国際比較研究の視座を軸に、5つのセッションを開催する予定です。
場所:京都大学経済研究所 1階 会議室
連絡先・問合せ先:〒606-8501京都市左京区吉田本町京都大学経済研究所 溝端佐登史 

 Tel:075-753-7144  Fax:075-753-7148  E-mail:mizobata@kier.kyoto-u.ac.jp

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

中国・上海ニュース 3.63.12

ヘッドライン

           中国:北京−上海高速鉄道、年内着工か

           中国:2005年治安情勢がやや悪化、重大刑事案件11%増

     中国:2月分工業製品出荷価格、3%上昇

     中国:国家備蓄の原糖40万トンを放出、価格抑制狙い

     中国:国別外国人旅行者数、韓、日、ロシア、アメリカが100万人以上

     広東:家電メーカー、大阪に研究所

     陝西:大規模な炭田発見「石炭は良質、交通至便に」

     新疆:「トマト大国」、加工業で輸出ほぼ独占

     上海:王羲之の名筆、1300年ぶり帰国へ

     山東:自家用車保有56万台増

=============================================================================

提言:中小企業の対中戦後賠償(1兆円)方策

2006年3月06日

                        中小企業家同友会上海倶楽部 副代表

株式会社小島衣料  小島 正憲

≪方策≫

・中国進出日本企業は、経営期間を満了し清算を行った際に分配される残余財産を、対中戦後賠償の名目で、中国側企業に無償譲渡する。

・日本政府は、中国進出日本企業が中国側企業に、対中戦後賠償として無償譲渡した残余財産について、該当日本企業の日本国内での損金算入処理を、法令で認める。

・中国側企業は、日本企業から無償譲渡された残余財産を、日本の戦後賠償として受け入れ、その財務体質を公明正大に強化する。

・中国政府は、この無償譲渡残余財産を、日本の戦後賠償として受け入れ、現状の過度な外資依存体質を改善する。

※文中では論述をわかりやすくするために、中国進出企業の形態を合弁として考察する。1995年以前は合弁形態が主流であったし、合作・独資でも大同小異の結論となるので、問題はないと考える。

 

≪この方策は、「四方一両」である≫

・この方策をとれば、中国進出日本企業は、損失を出さずに、対中戦後賠償を実行することができる。

 中国進出日本企業の先発組は、すでに10年以上の歳月を中国現地経営に費やし、そろそろ清算の時期にさしかかっている。なかには企業経営に失敗して撤退した企業もあるが、それとは逆に、大儲けした企業も少なくない。それらの勝ち組の中には、清算時の残余財産について、日本に持ち帰らず、中国側企業に無償譲渡する意思を表明している企業も多い。これらの日本企業が気前がよいのは、中国での長期間にわたるビジネスの中で、投資分をすでに十分に回収してしまっているからである。また残余財産とは言っても、実際には、それは不動産などが多く、それを現金化しさらに外貨に交換し日本に送金することには、まだまだ困難で煩雑な面が多いからでもある。

 ところが困ったことには、残余財産を中国側企業に無償譲渡しようとすると、それは日本国内では中国側へ投資した額についてはいったん投資損失として計上されることになるが、これは税務上では寄付行為(海外寄付)とみなされ、損金不算入とされ、課税対象となり、企業は大損をすることになってしまう。したがって該当日本企業は、中国側企業にはっきりと残余財産の無償譲渡を宣言できないこととなる。

※この文中では、わかりやすくするために、残余財産と投資分をほぼ同額とみなして論をすすめる。

 反面、中国側企業は、残余財産の日本への持ち帰りには基本的には反対なので、それが無償譲渡されないとわかると、さまざまな合法的手段を駆使し、残余財産そのものを限りなくゼロに近くしてしまう。そのために二重帳簿などが作成される例が多く見られるが、残念ながら日本側企業はそれを追及するだけの能力を持ち合わせていない。その結果、日本側の持ち帰り分は皆無に近くなる。そして、日本側では残余財産がゼロとなってしまうため、中国へ投資した分は、帳簿上、結局のところ、投資損失として損金処理されることになる。

つまり、日本側が残余財産を無償譲渡すると宣言しなくても、残余財産は中国側企業の手に渡ってしまい、それは日本側では投資損失として損金処理されることになるのである。だから、どうせ残余財産が損金処理される結果となるのならば、日本側企業はそれを無償譲渡することを宣言し、中国側企業に公明正大にはっきりと計上させ、さらに日本政府はそれの損金算入を認めればよい。もちろん日本側企業とすれば、その名目はどんなものでもよいのだが、戦後賠償という大義名分を使えば、日本政府も法令化しやすく、同時にそれは日中間の懸案事項の解決にも大きな波及効果をあげることができるので、それを使うのがもっとも利口な方策だと考える。

日本側が中国側に無償譲渡する額は、おそらく1兆円を超えるだろう。なぜなら1995年時点での日本企業の対中直接投資は、累計約1兆円であり、これが日本側企業の帳簿上に記載されており、損金処理対象だからである。これらの企業の中国での経営期間はすでに相当期間を経過しており、この間でこれらの企業は十分に稼ぎつくし、その投資分を回収しているはずである。したがってこれらの勝ち組企業にとってみれば、この投資額相当分の残余財産は、無償譲渡しても腹の痛まない金額でもある。もちろんこの累計金額の中には、大企業の投資分や、すでに撤退した企業の分も含まれているであろうから、それは減算しなければならないだろう。その反面、統計に現れない、いわばもぐり投資分や、勝ち組企業がこの10年間に上げた利益の再投資分など初期投資を上回る残余財産もかなりあると思われるので、それを加算すれば、中小企業の分だけでも、やはり約1兆円はあると思われる。

大企業が残余財産の無償譲渡を決定することは、一般株主の利益を損なうこととなるので、かなり困難なことであろう。しかし非上場の中小企業であれば、ワンマン社長が決定すればそれは可能である。ちなみに、対中円借款の2004年末の累計額は、約1.5兆円であるから、日本の中国進出中小企業がいっせいにこの方策を実行したら、これが借款ではなく無償譲渡であるがゆえに、円借款をはるかに上回る莫大な効果を発揮することとなり、これは十分に戦後賠償としての役割を果たすことができる。

 

     日本政府は、損失を出さずに、中小企業の対中戦後賠償を支援することができる

日本政府は、「中国進出日本企業が清算時点で、残余財産を戦後賠償という名目で、中国側企業に無償譲渡した場合に生じる投資損失の損金算入処理を認める」という法令をつくればよい。

このような法令を成立させようとすると、反対者からは、「日本政府にとっては税収入が減り、損失が発生する」と指摘する声が起こってくるであろう。しかし、もし損金算入処理を認めなければ、日本側企業があえて損をしてまで中国側に残余財産を無償譲渡することは想定され難く、結果として中国側企業の手で清算時に残余財産がゼロに近くされ、日本側企業が日本へ持ち帰る分はゼロとなる。そのため該当日本側企業の帳簿上では、それは投資損失として処理され、いずれにせよ税収入は発生しなくなるのである。

どうせはじめから税収入などは期待できないのだから、損金算入処理を認めればよい。そうすれば、日本政府は損失を出さずに、民間ベースでの戦後賠償を積極的に勧奨し、現時点で総額1兆円の実行をさせることになるのである。ちなみに2004年末の日本企業の対中投資残高は約5兆円であるから、このままその法令を続行すれば、10年後には5兆円の戦後賠償の実行を勧奨することになる。

 

・中国側企業は、公明正大に、残余財産を取得できる。

 日本側企業が残余財産を無償譲渡する意思を鮮明にすれば、中国側企業は清廉潔白な財務処理を行い、公明正大に残余財産を取得できる。そうでなければ、いろいろな手段を駆使して、残余財産を減額させなければならない。このようなことは、中国側企業にとっても好ましいことではなく、以後の企業の発展のためにも、益とはならない。この方策は財務上の不透明さをなくし、アングラマネーを排除するという見地からも、たいへん大事なことである。

 中国側企業は、この無償譲渡された残余財産を、新たな企業を創設するための資金に当てればよい。

また事業を展開しない場合には、政府やしかるべき機関に寄付すればよい。そしてこのような中国側企業が、中国全土に広がれば、日本側企業の戦後賠償としての意思もあまねく宣伝されることになり、それは反日感情の緩和への一助となる。

 

・中国政府は、この方策を利用して、過度な外資依存体質を改善することができる。

  現在、中国は大幅な貿易黒字を出し、外貨をしっかり溜め込んでいる。しかしその6割強は外資企業が稼いだものであることも衆知の事実である。つまり中国経済は、外資に依存して成立しており、外資がいっせいに引き上げるような事態ともなれば、大混乱となることは必至である。

中国政府はこの不正常な事態を、できるだけ早く解決せねばならない。しかしそのために、国際慣例を無視するような強権発動は許されない。その意味で、日本企業が戦後賠償という名目で、残余財産を無償譲渡することを甘受すれば、それは平穏裡に外資を接収する好先例となる。そしてこの方策が日本の中小企業のみならず、大企業にも採用されるとなれば、結果として、過度の外資依存体質を

 改善することが可能となる。

 

≪この方策は、冷え切った日中関係の打開策となる≫

上記の方策は、姑息な手段だと評されるかもしれない。しかし、たとえ姑息であったとしても、それが実行され、現実に1兆円相当の残余財産が中国側に渡るのであれば、それは十二分に戦後賠償の役割を果たすことになる。しかもこの方策は、四者ともに実益があるわけだから、実施することには抵抗がなく、きわめて実現性の高いものでもある。また前述したように、これを実施することは日本の大企業では困難だったとしても、中小企業ならば可能である。したがって日本の中小企業家がこのような形で、戦後賠償をはっきりと打ち出せば、中国側の反日感情をやわらげるために、大きな効果を発揮すると思う。またこのような民間ベースの動きこそが、冷え切った日中政府関係の打開のきっかけとなると確信している。

われわれ戦後生まれの中小企業家は、われわれの先輩が中国に多大な迷惑をかけたことを知っていながら、個別企業としてはその償いをしていないところが多い。それどころか、強いて言うならば、その中国に進出し、安い人件費を利用して金儲けに突き進み、恥の上塗りをしてきているのである。その意味では残余財産を無償譲渡することは、せめてもの罪滅ぼしでもある。

しかし現実の問題として、多くの中小企業家は、無償譲渡した残余財産が日本国内で損金不算入とされ、課税されるとなれば、実際に損失が発生するので、これを実行するのに躊躇する。もし損金算入処理が可能となれば、それは理想(個別企業としての戦後賠償・罪滅ぼし)と利益(損失が出ない)を、ともに一挙に解決できるわけだから、中国に進出して勝ち組となっている中小企業家は、残余財産の無償譲渡を、喜び勇んで実行するであろう。

                                    以上