寄附講座設立の目的と概要

本寄附講座は、日本経済の国際競争力を確固たるものにするめに、金融工学の立場から、産業新生をめざした経済の構造改革に取り組むための具体的な方法を研究することを目的として設置する。

過去10年間程度、本邦においては銀行等が担う金融の機能は麻痺していたが、最近の日本経済の回復を更に確固たるものにするには、金融機関による実態経済への資金の供給、すなわちリスクの適正な配分とそのコントロールが不可欠である。 今後、経済の回復と相俟って予想される株価および金利の上昇は、資産配分によって異なる運用結果を金融機関および年金基金にもたらす。 また、金融業界においては淘汰が進み少数の有力な機関のみがその業務を行っている。その意味で、金融機関のリスク管理の巧拙は単なる個々の金融機関の経営問題ではなく、年金基金の解散やミクロなレベルの企業活動への資金供給減少という形で国民生活にも深く影響することは日本国民が学習してきたことである。したがって、本寄附講座では投資銀行業務を行っている資産規模の大きな金融機関(証券会社および都市銀行)の業態を想定して、債務者が特定業種等に偏在することによって生じる集中リスクの管理に関連する研究を進める。また、銀行に関しては、2007年に施行予定の「新バーゼル合意を受けた新しい自己資本比率規制」に関する提言や諸問題の解決を目指す。

金融工学は、ブラック・ショールズのオプション価格式に代表されるように、研究対象とする資産市場が完備市場であるとの仮定の下に、デリバティブ等の価格付けに成功を収め、飛躍的な発展を遂げてきた。さらに、その成果は、不良債権処理問題でも不可欠である信用リスクの評価ならびにそのリスク管理手法への応用でも多大な貢献をもたらしている。完備市場とは、資産市場における任意の資産の価値を当該市場のその他の資産の組合せから成るポートフォリオの価値で複製できる市場のことである。しかしながら、現実の市場を見ると、評価をすべき資産とまったく等価となるような複製ポートフォリオが存在することは稀である。金融工学においても非完備市場における資産価格評価に関しては、実務レベルで使用され得る評価式の導出には至っていないというのが現状である。

本寄附講座は、価値評価を行うべき具体的な対象として年金、保険、モーゲージ証券、投資信託、不動産、特許などの無形資産を想定しているが、これらの資産の取引市場は、明らかに非完備である。本寄附講座は、金融・証券システム講座の名のもとに、非完備市場における資産の価格評価メカニズムを明らかにするとともに、それに基づく資産運用とリスク管理の開発を目指す。