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コラム連載 送電線に「空容量」は本当にないのか?

送電線に「空容量」は本当にないのか?

2017年10月2日 安田 陽 京都大学大学院経済学研究科特任教授、山家公雄 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 各電力会社は独自の試算によって送電線の「空容量」を発表しています。例えば、2017年8月31日現在で東北電力が公表した資料によると、青森・秋田・岩手の北東北3県にほぼまたがる地域で空容量がゼロであり、山形県も同様です。この東北電力が公表する「空容量」は、各変電所の下流に接続する発電所の定格容量の単純和、あるいはそれを若干調整した量であることが推測されます。一方、欧州や北米では、電力系統の運用や計画には、定格容量の単純和ではなく実潮流ベースでの解析が推奨されているため(1)、当講座では「実潮流データに基づく空容量」の分析を試みることにしました。
(1)
内藤克彦: 「EU指令と欧州再生可能エネルギー政策」, 京都大学再生可能エネルギー経済学講座2016年度第2回シンポジウム講演資料 (2017)


 送電線運用容量データおよび実潮流データは、電力広域的運営推進機関(OCCTO)のホームページ「系統情報サービス」からダウンロード情報として入手可能で、本分析では、現在ダウンロード可能な2016年9月1日~2017年8月31日(一年間、365日)の「地内基幹送電線運用容量・予想潮流(実績)」および「地内基幹潮流実績」データを用いることとしました。分析は、図1で示した東北地方4県(青森・秋田・岩手・山形)の500 kVおよび275 kVの主要幹線を対象に行いました。

図1 分析対象線路の電気的・地理的配置(東北電力HPを元に筆者作成)
図1 分析対象線路の電気的・地理的配置
(東北電力HPを元に筆者作成)

 一般に電気機器(発電機・電動機など)は「設備利用率」が定義されていますが、送電配電線の場合、熱容量だけでなく系統運用の観点からさまざまな制約があり、「運用容量」が時々刻々と変化するため、基準となる「定格容量」が定義できず、他の電気機器と同じように単純に求めることができません。そこで、本分析では、文献(2),(3)に従って、運用容量実績の年間最大値を基準に利用率を定義する方法を採用することとしました。本分析では「年間最大運用容量基準の利用率」と呼ぶこととします。
(2)
Y. Yasuda et al.: “An Objective Measure of Interconnection Usage for High Levels of Wind Integration”, Proc. of 14th Wind Integration Workshop, WIW14-1227 (2014)

(3)
安田陽:「再生可能エネルギー大量導入のための連系線利用率の国際比較」, 電気学会 新エネルギー・環境/メタボリズム社会・環境システム 合同研究会, FTE-16-002, MES-16-002 (2016)


 図2に例として十和田幹線の実潮流および運用容量実績値の1年間の時系列グラフを示します。図に見る通り、年間に亘り実潮流は運用容量実績値を大きく下回っていることがわかり、「実潮流ベースの空容量」は各時間帯とも大きいことが直感的に理解できます。

図2 十和田幹線の時系列データ
図2 十和田幹線の時系列データ
(2016年9月1日~2017年8月31日)

 このことを定量的に示すために、図1で示した主要幹線に対して「年間最大運用容量基準の利用率」を算出し、さらに「実潮流に基づく空容量の年間平均値」を対象線路ごとにまとめると、表1のようになります。なお「送電混雑」は、本分析では「実潮流が運用容量実績を超過すること」と定義しています。

表1 主要幹線の空容量および利用率比較
(2016年9月1日~2017年8月31日)
表1 主要幹線の空容量および利用率比較

 表1から、今回対象の線路では、いずれも利用率が20%未満であり、10%未満のものも見られることがわかります。さらに、実潮流に基づく空容量の年間平均値はいずれも千 MWオーダーの空容量があり、送電混雑も年間を通じて全く発生していないことが明らかになりました。一方、電力会社が公表する空容量はいずれも0 MWとなっており、これらの数字の乖離は著しいものがあります。このことは、現行の空容量の算出基準の技術的根拠や現在の運用ルールが透明性・公平性・被差別性・効率性の観点から著しく不合理であることが強く示唆されます。幸い、経済産業省でも「コネクト&マネージ」というルールが検討されており、この問題が早急に是正されることが望まれます。

■追記
本コラムの公表直前に、全く偶然にも「週刊東洋経済」(2017年9/30号、9/25発売)に同様の分析結果が掲載されました。計算手法は若干異なりますが、同様の傾向が示されています。このように複数の機関がさまざまな手法で分析を競い合い、多くの研究者や国民がこの問題に関心を持つようになるのは歓迎すべきことだと考えられます。

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