京都大学経済学部同窓会理事長
大学院経済学研究科長
経済学部長

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八 木 紀 一 郎

今年4月1日に経済学研究科長・経済学部長に就任しました。規定により同窓会の理事長にもなりましたのでよろしくお願いします。

経済学部は今年度から、これまで経済学科・経営学科の二学科であったものが経済経営学科の一学科体制になり、共通の基礎のうえで柔軟な専門化をはかるコース制を導入しました。入試制度においても、論文入試の科目変更と理系入試の導入という改革がおこなわれましたので、今年度は学生の選抜と選抜された学生の教育という両面において刷新を実現した年度ということになります。

もちろん、コース制度が適用されるのは今年度の入学者からですから、実際にそれが運用されていくのは、来年度以降になります。コースとしては、「理論・歴史コース」「政策コース」「マネジメントコース」「ファイナンス・会計コース」がありますが、学生を所属させて必修的な履修をさせるリジッドな制度ではなく、系統的な履修をガイドするものです。しかし、コースで指定されている専門科目のうち3分の2以上の科目(36単位)を履修し、そのうち半分以上の科目で「優」の成績を得た学生を当該コースの修了者と認定するというしかけを組み込んでいます。分野も成績も頓着せずに、ただ単位をかき集めようとする学生は、一般的な学部の卒業要件を満たすことはできても、コースの修了者にはなれません。つまり、コースの修了者と認定された学生は優等生ともいうべき学生です。他方、コース指定の専門科目にも共通のものもありますから、意欲のある学生は複数のコースの修了認定を受けることもできるでしょう。学修における系統性と柔軟性、そして学生の自主性を両立させることは困難な課題ですが、一学科体制のもとでのコース制によってそれがある程度可能になると思います。私は、来年度で退職ですので、4年後の状況を見ることはできませんが、学生諸君はこの新制度をどのように活用して自分の学修を組み立てていってくれるだろうかと愉しみにしています。

入試改革についても説明しなければなりません。改革といっても、標準文系の学力試験による「一般入試」が主であることは変わりませんが、この主方式に入学定員240名中190名を割り当てた残り50名分を半々に分けて、それぞれ理系と文系の才能発掘にあてたものです。理系入試では文系数学ではなく数Vを含む理系数学を受験させます。2月の入試の際、私はこのグループの受験室の試験監督をしましたが、賢そうに見えるだけでなく、それぞれに個性がありそうな100人以上の学生たちが一斉に理系数学の解答に向かう様子をみました。私は、このなかから京大経済学部で育って経済学の革新に挑む国際的な経済学者、第二の柴田敬、第二の森嶋通夫が生まれないかと夢を抱きました。

論文入試では、これまで論文二題と数学を課していたものを、論文二題と国語、外国語に変更しました。これまでの論文試験では、長文の英文テクストを読ませて論述させるものが例年一題出題されていましたが、外国語能力をはかるのは学力試験によることにしたため、論文出題のバラエティが広がりました。数学と論文の選抜試験における組み合わせは異なる学力の評価を組み合わせるという側面があるので適切な組み合わせのように思えますが、両種の学力の分布が離れている場合には、選抜結果は虻蜂とらずになるか、あるいは一方に引きずられるものになりかねません。したがって、論文入試の特性を生かすのであれば、定員数をしぼりこんだ上で、外国語や国語のような言語的能力(読解力・論理性・表現力)に自信のある学生たちを受験させることが適切であると考えたわけです。さて、こちらの方で期待すべきなのは、第二の河上肇でしょうか。

このように文系一般入試だけでなく、高校理系の出身者や超文系の学生が入学してくることもあって、入学して直ぐにはじまる前期セメスターに「入門演習」という科目を設け、入学者を全員指導できる数の担当教員を配置しました。これは学生の学習意欲の高いうちに、大学で自主的に学修するための基礎的な能力を与え、後続学年での経済学学修をガイドするためのものです。この「入門演習」では、担当教員相互で教育内容や教育成果をめぐる討論(FD活動)も開始されています。まだ開始されたばかりですが、担当教員のなかには、学生たちの新鮮な目の輝きを見て感動したという人もいます。今後は、一方では学生が自主的にあるいは集団的に学習・研究をおこなう際のサポート、自分に欠けていることがわかった能力・知識を補ったり、逆に能力を伸ばそうとしたりするときのガイドなどの学習支援活動を充実すること、他方では教員集団の教育活動の能力および内容の改善としてのFD活動を支援する体制を整えることが課題になるでしょう。

最後に1つ本題と離れたことを書かせていただきます。やはり今年3月に東京で開催された経済思想に関する国際会議で、Kyoto University Economic Reviewについての日本人と米国人の共同報告がありました。それによると、このジャーナル(いまは外部投稿を審査して受け入れるKyoto Economic Reviewになっていて、私はその編集をこの数年担当していました)は、非西洋人の手になる経済学術誌として世界最初のもののようです。というのは、この雑誌の発刊年は1926年ですが、その前にインドで発刊された学術誌があるが、それはインドで教えているイギリス人の手になるものであったとのことです。私は、この雑誌が日本で最初の英文経済学術誌ということは知っていましたが、世界全体のなかでの位置づけについては考えおよびませんでした。あらためて、今年でちょうど創設以来90年になる京大経済学部の輝かしい伝統を再認識した次第です。

同窓のみなさまは経済学部の生きた伝統のなかに存在しますが、同窓会に出席するたびに、その若々しさに打たれ、ここにはOld Boys(Persons)ならぬOld Freshmen(Fresh persons)が集っていると実感します。伝統を背負うものほど、「日に新たに、日々に新たに、また日に新たならん」(『大学』)と心がけるべきなのでしょう。これまでの経済学部および経済学研究科へのご理解とご支援に感謝申し上げるとともに、今年も旧にかわらぬ御厚情をいただけますようお願いいたします。

ごあいさつ
―経済学部の教育の新体制―