在瀋陽日本国総領事館 主催
上海センター 共催

「日中経済交流セミナー」

 日時  2005年5月24日(火) 10:00〜16:15

 会場  在瀋陽日本国総領事館

 挨拶  小河内 敏朗(在瀋陽日本国総領事)

 報告者
    大西 広(京都大学大学院経済学研究科教授)
    「中国の“漸進改革の知恵”の普遍的意義とその普及」

    塩地 洋(京都大学大学院経済学研究科教授)
    「中国の中古車流通制度の問題点と改革方向」

    大森 經徳(上海センター協力会副会長)
    「経済人の目から見た東北振興・中国経済安定発展への提言」

    稲田 堅太郎(弁護士)
    「大連の弁護士から見た東北振興への提言」


挨拶とスピーチ
在瀋陽日本国総領事 小河内 敏朗氏
 先ず始めに、ご多忙のなか、本日ここにご出席いただいております遼寧省発展計画委員会・東北大学・遼寧大学及び遼寧省社会科学院等の教授・研究者の皆様、並びに日本からご参加いただきました 京都大学“上海センター”の皆様に衷心より感謝と御礼を申し上げたいと思います。とりわけ、“上海センター”の皆様には中国東北地区の重要性を御理解いただき、“日本からの提言”というこの経済交流セミナーの趣旨に積極的にご賛同いただいただけでなく、財政面でも自腹を切ってご出席いただいております。京都大学 “上海センター”の皆様のこのような日中学術交流の拡大に向けた意欲と行動力に敬意を表したいと思います。

 ここで私が強調したい今回のセミナーの重要な意義の一つは、すでに申し上げましたが、日本政府から航空賃等手当は一切支給されていないということであります。つまり、真に自発的な個人主導のセミナーだということにあります。もう一つの当館にとっての重要な意義は、このセミナーが、当館の新館完成後、事実上最初に行われるイベントであり、言わば“こけら落しセミナー”であるということであります。そういう意味で、本日ここに御出席の皆様は、当館が日夜心血を注いで努力している経済文化交流を通じた日中友好と相互理解の増進にも貢献していただいている大切なお客様であり、また当館と縁のある方々であると考えております。後程、諸先生方による発表と自由な討論のなかで、東北振興にも役立つ有意義な御提案・提言を沢山していただくよう期待しております。
 そこで、経済のお話は諸先生方にお任せすることとして、今年が戦後60年という節目の年であることにも鑑み、私は、もう少し広い観点から、日中関係のさらなる発展に向けての課題といったことについて概観してみたいと思います。
 もとより、日中国交正常化から30年余にわたる日中関係の好ましい変化は、日中双方に大きな利益をもたらしており、二国間関係の発展の成功例といって良いと思います。日中の協力分野は、これまで政府開発援助(ODA)から始まって、留学・教育、資源・環境、国連―この今問題になっている国連分野での協力について一言申し上げますと、例えば、中国が派遣したPKO隊員の報酬はひと月で約1000ドルですが、そのうち200ドルは日本人納税者が払っているという側面もあります―、そして経済・貿易、地域協力、犯罪取り締まり、さらに防衛・ジャーナリズム・文化面での交流、そして歴史の共同研究と広範かつ多岐にわたっております。こうした交流が引き続きさらなる日中関係発展の土台となっていくことはまちがいありません。

 そして2004年、中国中央政府による国策としての東北振興政策の第1年目がスタートしたこともあって、内外の関心が徐々にかつ着実に中国東北に集まってきております。関心の持ち方は各人各様、各社様々であります。しかし私がここで想起したいことは、かつて1930年代に日本が国策を大きく誤って軍国主義の時代に突き進み、日本の暗黒の昭和史の始点ともなったこの中国東北の地に、現在、日本と瀋陽・遼寧・中国東北との間で貿易・投資・その他の経済提携が活発化し、日中共同発展と経済文化交流そして地域協力の拡大という観点から、日中双方の国民の建設的かつ生産的な関心が注がれていることの歴史的な意義であります。ここに私は、歴史の大きな変化の潮流がどこに向っているかを予期するとともに、かつて日中の間に不幸な一時期があったこの地に、日中が協力して、双方の利益を最大化する形で日中共同発展という大輪の花を咲かせることこそ、過去の歴史を克服することではないかと考える次第であります。中国東北地区の発展は日本の国益に合致する。私はこのことを確信しております。
 しかし、日中関係の将来には必ずしも楽観できない要素があることも否定できません。それは、現在、日中両国の国民が直面している、双方の不満が累積した状況によく反映されております。その背景には、日本が普通の国になる方向に一貫して進んできていることや、国連安保理常任理事国入りへの地歩を固めつつあり、日本が政治大国として復活しようとする兆しがあること、さらにはこれに他の政治問題が加わることにより、中国の日本に対する猜疑心が刺激されているという状況があります。
 一方、日本でも、中国原子力潜水艦の日本領海侵犯、香港住民の日本領土への強制上陸や東シナ海エネルギー開発にみられる中国側の動き、重慶・北京でのサッカー試合の際にみられた反日的行為や暴力行為、さらに、今回の対日抗議デモにおける北京や上海等での大使館や総領事館、日本料理店等に対する破壊活動が日本国民の感情を刺激しております。なお、在瀋陽日本国総領事館ではほとんど被害はなく、ガラス窓は1枚も割れておりません。また周辺の日本料理店にも被害はなく、在留邦人?日系企業にも人的物的被害はありませんでした。何れにせよ深刻なのは、双方共に“我々がどれだけ我慢しているのはこっちだ”との感情を内に秘めていることであります。

 このような日中間に存在する危険な感情を管理していく上で、重要なことは、将来を見通す見識と炯眼であります。それは、近い将来、東アジアには日本と中国という二つの政治経済大国が現出する公算が高いとの見通しをもつことであります。そこには当然、新たなダイナミズムが生まれます。こうした情勢下で日中両国が直面することとなる最大の課題は何でしょうか。それはつまり、日中間に生じる新たなダイナミズムを双方にとっての損失を最小化し、共通の利益を最大化するような建設的な方向に向けていく努力を互いにしていかなければならないということであります。
 同時に、日本が政治大国としての役割を果たしていくためには歴史問題を避けて通ることはできません。しかし、“神は歴史を変えることはできないが、歴史家は歴史を変えることができる”と言われるようなどの国も自分に有利に歴史を書いてしまうという限界があります。しっかりした共通の土台なしには日中間の対話を成立させることは容易ではありません。よって、日中の対話を促進する土台を作るための模索として、次の4点を提言したいと思います。
 
 第1は、日中の対話に必要なルール及び原則を作ることです。このルールには、例えば、日中友好の精神を対話の中心に置くことや、自分も同じことをしていないかとの自省を義務づけること等があります。
 第2は、問題を相対化させ柔軟対応を可能にする視点をもつことです。例えば、歴史に関連した問題は、日中・日韓だけでなく、中韓・中朝・中越にも、また中蒙・中露・中米にもあるといった観点をもつことです。
 第3は、対話の基礎となる日中が共有すべき基本認識をもつことです。例えば、ほとんど知られていない日本とドイツの違いに対する認識や、日本の歴史教科書についての認識をもつことです。ここに簡単な資料を用意しましたが、日本の歴史教科書をすべて読んでいただければ参考になるかと思います。
 第4は、日中双方の国家利益と戦略を明らかにした上で対話を続けていくことです。例えば、双方の国家利益を客観的に整理してみるだけでも問題が大幅に少なくなる可能性があります。

 次に、今回こうして京都大学のグループが来られたことにも鑑み、日中のより深い対話が実現することを期待するという観点から、京都大学を退官した哲学者西田幾太郎が、歴史的世界をどう考えるかについて、かつて同志社大学で行なった講演で指摘したことを紹介したいと思います。西田は時間の流れは過去・現在・未来へ移る因果的な流れだけではないと考えました。そして「現在は過去や未来に対する現在ではない。過去、現在、未来を含む現在であるがゆえに、時間を超えた現在である。つまり現在は永遠の現在である」と述べております。この言葉を私は、現在をどれだけ深く理解するかの重要性を指摘したものと受け止め、“歴史の鑑”と“現実の鑑”という二つの鑑をもって、日中の歴史と現在を照し出し真実を追究していくことをお奨めしたいと思います。中国の指導者が再三繰り返し述べているように、我々は“歴史の鑑”によって過去を反省し未来に向けての教訓を学ばなければなりません。同時に、“現実の鑑”によって21世紀の最初の万博“愛・地球博”にみられるような今日の日本の姿を知っていただきたいと思います。これが私の第2の提言であります。

 折角の機会ですので、今後東アジアの経済発展戦略を妨害し後退させる最大の要因は何かということについても問題を指摘しておきたいと思います。経済発展戦略の後退は、経済問題そのものによってではなくむしろ非経済分野の諸問題によって引き起される可能性が大きいということであります。例えば、一つは2年前に中国と世界が体験したSARSのような脅威や今年経験したインド洋の津波のような地球環境面からの災害の脅威であり、もう一つは現在世界各地で発生している国際テロリズムの脅威であります。第3は朝鮮半島でみられる核拡散の脅威であり、第4は、日中間の“違い”から生じる危機であります。これらの問題が引き起す事態は個々の企業に損失をもたらすとの意味での危険“RISK”というよりは地域経済や世界経済にとっての危機“CRISIS”ともいうべき大きな危機管理上の諸問題であります。SARSに不意打ちされて中国全土と世界が混乱したついこの間の我々の体験からもわかるように、日頃の危機管理意識と相互の緊密かつ迅速な連絡が重要となるということであります。
 厄介なのは東アジアにみられるナショナリズムの高揚です。日中、日韓間のナショナリズムあるいは台湾海峡の両岸ではつとにナショナリズムの問題はつとに指摘されております。さらに中東の石油の安定供給という観点からも中東情勢にも目が離せません。このように日中を取りまく諸情勢は一歩誤まると東アジアの経済発展戦略を大きく後退させることになりかねない危険をはらんでおります。そこで、私は、本日の第3の提言として、今後は政治問題についても一歩踏み込んで日中の対話を本格化し、さらにその際相互に何を譲歩すべきかを具体的に考えることをお奨めしたいと思います。外交的解決の要諦は畢竟“妥協”であり、妥協は双方が何を譲歩するかの問題に尽きます。
 そして、本日の経済交流セミナーもまた日中対話本格化の一環であります。日中双方から忌憚のない意見が出され、その結果、日中間の相互理解と友情がさらに一歩深まることを期待しております。
 御清聴ありがとうございました。

(以上は、在瀋陽日本国総領事館と京都大学上海センターが共催し、上海センター協力会が協力して開催した「日中経済交流セミナー」で総領事からいただいた挨拶兼スピーチの内容です。)

「中国の“漸進改革の知恵”の普遍的意義とその普及」
京都大学大学院経済研究科 大西 広教授
 はじめに
  体制移行の比較研究のために昨年末にCubaの調査をしたが、移行を逡巡し、部分的には 逆行さえしている。これはケ小平改革の初期に「保守派のまきかえし」の可能性が何度も指摘 されたこととも関わるが、それほど漸進改革の継続が困難であることを示している。他方、ベト ナム、北朝鮮は移行に成功しつつあるように見られるが、それは中国の成功に学んだもので ある。現在の日本も大規模な経済構造転換を必要としているが、それをどのようなスピードで、 またどのような手順で行うかは模索の途上にある。こうした政策形成において中国は極めて 多くの教訓を提供してくれる。こうした意味で、日本は中国から多くを学ぶ努力をしなければな らないし、また他方で中国はそうした自己の経験を経済理論によって普遍化し、その成果をも って他国に平和的な国際貢献をすることができるのではないか。
T ケ小平改革の例外性
  前述のベトナムと北朝鮮および中国を除くと、資本主義発展の初期に必然的な国家主導型 の「強蓄積期」からその後の市場主導型の「通常蓄積期」に進み行く際にあまねく「革命」が存 在し、国家を主導する政党も転換した。そのことを以下の表で確認することができる。ここでは 日本やドイツにおける「敗戦」もまた大規模な権力の転換を伴ったという意味で「革命」とみな している。表中最後のインドは国民会議派のラオが漸進的な改革を当初開始しようとしたこと を表しているが、結局ラオ政権はすぐそれに失敗し、野党に転落している。つまり、「未完の漸 進改革」に終わった。これは、フルシチョフがソ連において開始しようとした経済改革がブレジ ネフらの保守派によって阻止されたのと対応している。この意味で、現実に実行された漸進改 革は中国が歴史上最初のものではないかと思われる。
  なお、ここで「国家主導型の強蓄積が資本主義初期に必然的」とする意見に対し、イギリス やアメリカではそうでなかったとする反論がありうるが、それは誤っている。イギリスにおいて も初期工場法は労働時間の延長を国家の力で強制するものであり、また第2次エンクロージ ャーも国家による土地の囲い込みに対する法的強制を必要とした。そして、国家介入的要素 の少なかったとされるアメリカにおいても、国家介入に代わる奴隷制という特殊な社会制度が 存在したし、この社会制度を維持したのが国家であったことを忘れてはならない。この意味で、 その程度に差があったとしても資本主義初期に国家が決定的な役割を果たしたことを否定で きない。
    各国における強蓄積期とその転換
            強蓄積期             通常蓄積期
        国家主導型工業化(国家資本主義) 転換年 市場主導型工業化(私的資本主義)
日本       大政翼賛会      1945     自民党
ドイツ      ナチス        1945     CDU
インドネシア   国民党(スカルノ)  1967     ゴルカル(スハルト)
エジプト     ナセル        1970     サダト
中国       中国共産党(毛)   1978     中国共産党(ケ)
ロシア      ソビエト共産党    1991     エリツィン
インド      国民会議派(ネルー) 1991     国民会議派(ラオ)

U 漸進改革が例外的である理由
  しかし、もしそうであればあるほど、こうした漸進改革を中国とそのフォロワーとしてのベトナ ムや北朝鮮以外がどうしてなしえなかったのかについて、理論的にも考えてみる必要がある。 報告者なりのその問いへの回答は以下のようなものである。
  すなわち、「体制」はそれぞれの時代に利益を得る社会階層とそうでない階層を持つから、 「体制転換」はそうした階層の転換を意味する。そのため、体制転換には旧支配階級・階層 の抵抗が必ず生じ、その旧階級を支持基盤とした政治勢力は移行に反対せざるをえなくな る。もしその政治勢力が時代の変化を察知して移行を目論んでも、そうした政策転換は彼ら をして支持基盤の喪失をもたらすだけで何の利益ももたらさない。新しい社会階層は一般に すでにそれ自身の政治勢力を保有しており、よってそれは新しく「政策転換」をして来た古い 支配政党よりも信頼を置くことができる。そのため、それぞれの政治勢力はそれが利益代表 する社会階層を一般に転換することはできず、よって政権交代という形をとらずに「移行」を することができない。一般に移行が革命か戦争なしになしえないのはそのためである。
  なお、以上の論理から明らかなように、対抗する政治勢力の存在を禁止する一党制は政 権交代を伴わない移行にとって有利な条件となっている。が、中国にあっても一党制の放棄 は将来において避けることはできない。そして、それを放棄するのであれば、政治の安定す る高成長期に行なうのが望ましく、その意味で「将来」にこの課題を先送りするのは得策では ない。ただし、この政治改革も急進的なそれでなく漸進的でなければならない。
V そうした例外的達成ができた理由
  ところで、もし以上のように歴史的に特異な移行の実現であるのであれば、なぜそのような 達成を中国だけが成し得たのかということが問題となる。そして、それへの報告者の回答は、 中国に存在した安定した政権政党が未来を見通す法則的な歴史観を持ったイデオロギー政 党であったことにある、というものである。政権党が利益政党でなければ上述のような古い支 配階級の利益にとらわれる必要はないし、かつそのイデオロギーが歴史の不可避の発展経 路を認めるのであれば、そうした発展に見合った政策の漸次的な転換の必要を理解するこ とができる。言うまでもなく、ここで中国の政権党が保持して来たイデオロギーとはマルクス主 義(史的唯物論)である。ケ小平が80年代半ばに問題としていた経済建設の目標年次は2150 年というものであった。知覚、想起、企画される政策運営の時間感覚の長さが特筆されるが、 「現在」を相対化し、遠い未来を見とおし得る歴史法則志向の思想、マルクス主義は長久の 歴史を持つ中国でこそ最も理解しやすい思想であった可能性がある。
  もちろん、以上のように述べるからといって、当時の中国共産党の指導者たちがどれだけ深 くマルクス主義の真髄を理解していたかどうかは分からない。イデオロギー色の薄くなった現在 についてはなおさらである。が、少なくともケ小平は@経済建設が先決問題であること、および Aその発展段階に応じてなすべき事が異なることを明確に認識していたのであって、この2つ の条件を満たすイデオロギーとしてマルクス主義が傑出していることを否定できない。経済学 の領域では「新古典派経済学」も「ケインズ経済学」もともに歴史的な視点を持たない。
  もうひとつ、誤解を避けるために述べておかなければならないのは、以上のように述べるから といって、マルクス主義政権でなければ(あるいはマルクス主義者がいなければ)社会は新しい 生産様式、新しい生産関係に進み得ない訳ではないということである。そうした社会勢力が存 在するとしないとに関わらず歴史は前に進むし、実際に進んできた。それがマルクス史的唯物 論の命題である。ただ、そうした歴史の進行=「転換」が制御されることなく、「革命」か「戦争」 という形で混乱(ないし経済破壊)を伴って進むだけである。そして、そのために、この種の「転 換」もそれが歴史進歩的なものである限りは拒否されるべきではなく歓迎されなければならな い。念のために繰り返すが、これはこの転換が「革命」や「戦争」という形をとってもである。マル クス主義はこの意味で歴史発展に不可欠な存在ではない。逆説的ではあるが、ただ(急進改革 という意味での)「革命」を防止するためにだけ社会に必要とされる存在なのである。
W 例外的達成を理論化し普及して行く義務
  しかし、この「革命」なしに歴史を前に進めることができるということは人々の幸福にとって大 変重要なことである。革命は一般に多くの人々の生命を奪うと同時に、1991年以降のロシアに 見られたように経済の破綻による不幸をももたらす。この意味で、革命のない社会転換の追求 は人類の崇高な目標のひとつである。現在の日本において、「革命」というようなものは考えら れないが、それでも「構造」化された戦後の日本的社会システムを別の「構造」にしていく際に、 そうした全面的転換をどうコントロールして行なうかという問題が存在する。また、1978年以降 に中国が行なった国家主導型経済から市場主導型経済への転換を今後に行なわなければな らない諸国も世界には存在する。この意味で、中国におけるこうした経済改革の方法をより一 般的に理論化し、よって世界に普及して行くことは非常に重要である。このために日中の社会 科学者の共同が求められる。
  なお、こうした作業は実は中国自身の利益にもなる。なぜなら、今後20-30年は続くと思われ る高度成長も、その後には停止すると考えられるから、その時点で1978年当時に匹敵するよう な大規模な社会の構造転換が必要とされるが、その時に再びケ小平のような絶妙の改革のコ ントロールができるか否かは決定的であるからである。中国の場合、現在はその高度成長によ って表面化はしていないものの、しかしその停止によって表明化する可能性の高い問題は所得 格差の問題や少数民族問題、政治改革の問題など数多い。その時に、現在の既得権益に捕 われた支配的な階級が求められる社会構造転換に抵抗し、よって新たな漸進改革を阻害する 可能性は高い。その危険性を正確に認識し、その時のために「漸進改革の知恵」を一般的な 形で整理しておくことが求められている。
  参考資料 大西広『社会主義発展論』陝西人民出版社、2002年
(前号に続き、これは5月24日に在瀋陽日本国総領事館で当総領事館と京大上海センターが 開催した「日中経済交流セミナー」での報告です。)

 「中国の中古車流通制度の問題点と改革方向」
京都大学大学院経済研究科 塩地 洋教授
  はじめに 

  各国において,自動車の新車販売台数に対する中古車の販売台数を「新中比率」と呼んでい るが,日本1.2,米国2.0等に比較すると,中国は0.38と低い数値になっている。具体的数値を上げる と,2004年の新車販売台数520万台に対して,中古車販売は200万台である。この新中比率の低さは中国に おける中古車流通制度が未発達であることを示している。
ではなぜ中国で新中比率が低いのか,(1)中古車の供給サイドの問題,(2)流通システムの問題,(3)需要 サイドの問題,という三つの側面から具体的に見ていこう。

需要サイドの問題

  中国において,中古車に対する需要は大きい。中国では新車を購入する所得に達している比率が小さい ので,新車に比べて安価な中古車を購入しようとする潜在的顧客はきわめて多い。顧客が多いため,これ までは通常,中古車業者は「玉を仕入れればすぐに売れる状況」であった。ただし,現在は少し悪くなっ ているがそれでも,日本や米国で中古車仕入れから小売まで2カ月と言われる回転期間は,中国ではわず か2週間程度である。供給量に比して,買手が多数いるため,中古車価格水準は,日本や米国よりも相当 高い水準を維持している。日本では,1年で価格が25〜30%低下し,平均7〜8年で価格がゼロになるのが, 中国では年に7〜10%しか落ちず,15年間は価値を持っている。このような事実を見ると,中国で新中比 率が低いのは,需要サイドの要因ではないことがすぐに理解できる。

供給サイドの問題

  新中比率が低いのは,中古車の供給が絶対的に不足しているからである。その最大の理由は,いったん購 入された車両が中古車として市場に再投入される(remarketing)比率が低いからである。これが新中 比率が低い最大の原因である。 では何故,市場に再投入される比率が低いのか。これも説明は簡単である。1990年代の半ばまで,中国で は,国有企業は保有車を中古車として販売することができなかった。なぜなら,国有企業に所有されてい る車は国有財産であり,それを処分することが法律により制限・禁止されていたからである。1990年代 半ばに,国有企業は所有車を中古車として市場に販売することが一部認められるようになったものの,な おも購入した車両を廃車になるまで使用する場合が大半であり,中古車市場に再び現れる車両はなかな か増大しなかった。とくに中国では現時点では,個人所有車の比率がなおも低く,法人所有車の比率が高 く,そうした法人車両は,廃車まで使用される場合が多い。ただ最近,すこし変わりつつある。しかしな がら,2010年までには,個人所有車の比率が急拡大し,そうした個人は,買替時に現所有車を中古車として 市場に売りに出すことは確実であると推察される。すでに現時点でも,北京政府がユーロ2という新環 境基準を導入したために,その環境基準を満たさない車は,中古車として北京市外へ売りに出されてい る。今後,中古車の供給が増大することが予想される。

流通システムの問題

  供給側の問題に加えて,中国では中古車の流通システムや政策にも大きな問題点がある。その結果とし て,中古車の取引において,売手(現保有者)と買手(中古車業者)の間,あるいは売手(中古車業者)と買手 (新保有者)の間において,大きな「情報の非対称性」が存在することとなっている。政府が認可してい る中古車取引業者である「旧機動車経紀交司」でさえ,消費者は信頼することができない状態にある。 これらの根本には,中国政府の中古車流通政策における「スクリ-ニング重視-モニタリング軽視」とい う誤った基本スタンスがある。以下,中国における中古車流通政策の問題点を日本との比較でまとめて みよう。
図 中古車流通システムにおける日中比較

  中国と日本の相違をまとめると,第一に,中古車販売会社の認可制度を見ると,中国では,(1)中古車販売 会社設立に対する認可の審査を厳格化し,(2)販売会社数を制限し,(3)販売会社の設置場所を特定地域に 制限している。いわば「長崎の出島」のような所にのみ「経紀交司」の設置と営業活動を制限している 。他方,日本では,中古車販売会社設立に対する認可はほとんどなく,県警に対して「古物商」の登録を おこなえば,それで中古車会社として認められる。審査や数や設置場所の制限はない。ところが第二に, こうして設置された中古車販売会社に対する行政機関等による監視(モニタリング)が中国では甘く,日 本では自動車公正取引協議会や自販連等による監視が厳しく行われている。言い換えると,中国ではス クリ-ニングは厳しいが,以降のモニタリングはきわめて甘い。日本ではスクリ-ニングは甘いが,実務上 のモニタリングが厳しい。その結果,中国ではいったん経紀交司として中古車取引が認められると,それ が特権となり,そうした特権業者が,詐欺や不正をおこなっている。そうした行為を行政機関が見逃して いるのでモラルハザ-ドが生じている。第三に,中国ではそうした詐欺行為を監視すべき行政機関が営利 活動(高額な名義変更手数料の徴集)に専念している。すなわち中国では,「行政機関」(実態は民間企業 )が,名義変更手数料(車両本体の査定価格の2.5%に決めている)を多めに徴集するために,その基礎とな る「査定価格」を自ら決めている。言い換えると,「行政機関」が査定価格の2.5%の名義変更手数料を 高く徴集するために,みずから,その「査定価格」を吊り上げているのである。現在,中国では中古車の 平均単価は北京では約60万円であるので,その2.5%は,1万5,000円に相当する。現在,日本では名義変更 手数料は500円であるため,中国が日本の30倍もの高い手数料を徴集しているのである。しかし,そもそ も,名義変更手続という行政手続は書類の上での事務作業である。車両価格が高い高級車も安い大衆車 も,台当たりの事務処理作業工数は同じである。従って,そもそも名義手数量は定額(日本のように500円 )とすべきであるし,またそうすることが可能である。しかし中国では,そうした高い名義変更手数料 を徴集するために,「行政機関」が「現車検査」や「査定」をおこなっているように見せ掛けている。 第四に,中古車市場で各車両に貼られているプライスシ-ト上の販売価格は,中国では,「行政機関」によ る査定価格がベ-スとなって記載されている。しかし,この価格は既に説明したように,実際の相場価格 よりも吊り上げられた価格である。したがって,経紀交司は,この表示価格をマジックで消したり,別の 紙を上に貼って隠している。そのため,顧客は実際の販売価格をプライスシ-トを見るだけでは知ること ができない。いちいち,経紀交司の販売員に聞かなければならない。日本ではプライスシ-トに記載され ている価格は,販売店が決めている。そこからいくらか値引されることがあっても,記載価格はほぼ相場 価格に近く設定されている。第五に,プライスシ-トに書かれている事項についても中国では情報のディ スクロ-ジャ-がほとんどできていない。日本の自動車公正取引協議会が定めているプライスボ-ドの重 要チェック項目の(1)走行距離数,(2)修復歴の有無,(3)保証の有無,等は中国ではほとんど記載されてい ない。第六に,経紀交司も違法行為を行っている。中国では現法体系では,経紀交司は旧保有者から車を 買い取ることは許されていない。彼らが許されているのは,旧保有者と新保有者の間の中古車の直接売 買を仲介する行為のみである。しかし,実際には,経紀交司は旧保有者から車を買い取り,それにマ-ジン を乗せて,新保有者に売っている。しかし書類手続き上は,旧保有者から車を買い取った時も,名義は旧 保有者のままにしておいて,その後,新保有者に売れた段階で,名義を旧保有者から新保有者に書き換え ている。そうすることによって,買い取りではなく仲介をしているように見せているが実態は,買い取り によるマ-ジン商売であり,これは違法行為である(実際には買い取りを認めていない法体系が問題なの であるが)。さらに,ひどいケ-スでは,経紀交司が新保有者に車を売ったとしても,名義は旧保有者のま まにしておくことによって,名義変更手数料を逃れるという手口もおこなわれている。そうすると,車に 課税される各種の税金は旧保有者の所に請求がなおも行くことになるが,請求がいったとしても,実際 には新保有者が旧保有者に「代わって」,税金を支払うという約束を旧保有者,新保有者,経紀交司の三 者の間で交わしておくことが行われている。問題点は山積みである。
  昨年10月に中国政府の国家発展改 革委員会は,こうした現状を改革するために,あらたに「中古車管理弁法」を提出したが,警察や税務部 門の反対によって,なおも法案化されていない。中古車の供給が増大するとともに,こうした流通システ ムと政策の改革が焦眉の課題となっている。

(第64号以来、5月24日に在瀋陽日本国総領事館で当総領事館と京大上海センターが開催した「日中経済 交流セミナー」での報告を掲載しています。前号ではその趣旨書き落としていました。お詫びし訂正い たします。)

 「経済人の目から見た東北振興・中国経済安定発展への提言」
上海センター協力会副会長 大森 經徳氏

  I. 中国経済安定発展への提言

 提言1.一人っ子政策は、将来にいくら超高齢化問題が予想され、苦しくても堅持すべきで ある。このまま堅持しても将来15〜16億人でピークを迎えると予想されており、少し緩和し て17〜18億人にもなったら、それこそ失業問題、食糧不足、水不足、石油不足、資源・原 材料不足等々バランスのよい長期安定成長など望むべくもない故。

 提言2.成長至上主義から、やや低成長ながらバランスのとれた安定成長主義への転換 が必要である。 (1) 電力不足、石炭、石油不足、輸送手段不足、各種資源・原材料不足、一部沿岸部では   若年労働者不足、工場用地不足等随所にボトルネックが発生。経済がオーバー・ヒート   している証拠。現在のマクロコントロール政策は適切で、評価も高いがこれを更に強め   る要あり。但し日本のバブルはじけの時程締めすぎも不可。GDP成長率7%→6%→5   %と徐々に下げて行くことが望ましい。長期安定成長の為に。 (2) 日本の様に、数年のバブル期の繁栄の後、15年に及ぶバブル崩壊後の大混乱期で、   例えば主要大銀行は100年の蓄積を10年で完全に失い、実質倒産に至った銀行もあ   る。この様な混乱は多かれ少なかれ、資本主義にはつきもので、その混乱を少しでも抑   え、小さくする方策を早目、早目に打っておくことが望ましい。1930年代の世界大恐慌   も然りである。

 提言3.個人住宅ローンは1世帯主に1軒分の貸出しに限ること。本来、本人の居住用住宅 のみがローンの対象であり、この原則を銀行が守っている限り、そう簡単に住宅ローンが焦 付くことはない。大森が調査した限りヨーロッパでは、ほぼこの原則が守られており、焦付は 殆どないとのことであった。これ以上の貸出しは、投機的取得への貸出しで、バブルの元凶 ともなりバブル崩壊と共に返済不能となり易いものである故不可とすべき。

  提言4.中位成長率迄落とした場合、失業問題の解決が苦しくなるが、これはヨーロッパの ワークシェアリング方式の導入で乗り切るべし。

  提言5.貧富の格差解消乃至緩和の為、累進課税の強化を。又、その基礎として所得把握 を徹底し、徴税力を100%に迄高め、脱税防止、税の不公平感の排除に努めること。併せ、 相続税、贈与税制度を新設し、貧富の格差縮小に役立てること。 (1) 個人所得税の最高税率を70%(現行45%)位迄大幅に引上げ累進度を大きくすること、   併せ税込給与月額800元以下は非課税であるが、最低賃金が700元近くにまで上がって   きたので、1000元以下は非課税等、課税最低額は可能な限り引き上げることが望ましい。   一方、超大金持=大富豪を作ってはならぬ。超大富豪を作ることは百害あって一理なし。   アメリカ型資本主義が史上最良の資本主義ではない。金さえあればどんな企業でも買収   出来る。力の強い者は何をしてもよい、というのは大いに問題であり、欠点でもある。ただ   創意工夫、努力をした者がある程度の創業者利潤を得ることは、社会発展の活力でもあ   り、これは残しておく必要あり。適度、適切な競争は必要である。悪平等も不可。 (2) 所謂ケ小平の「先富論」には、重要な歯止めがかかっていたことを忘れてはならない。19   85年3月の全国科学技術工作全体会議でのケ小平先生の発言「我々は一部の地区や人   が先に豊かになることを提唱しているが、それは先に豊かになった地区や人にまだ豊かで   ない地区や人を援助させて、ともに豊かにならせるためである。その為には税収やその他   の方法で収入面での格差を調整する。もしも新しいブルジョアジーとかが生まれるなら、我   々は文字通り横道へそれたことになる。もし我々の政策が両極分解を招くなら、我々は失   敗したことになる。」(これは、ケ小平と親しかった馬洪氏《元社会科学院院長、現国務院発   展研究センター名誉主任》の論文、「ケ小平と社会主義市場経済の理論」《翻訳陶波氏》に   記載されている。)

  提言6.都市戸籍と農村戸籍の壁を取払い、労働移動を自由に。これにより少しでも農民人口 そのものの削減を図るべき。農民人口が減れば残った農民への土地配分は少しでも増え、そ の分残った農民も豊かになれる。これはすでに一部で始まっているが…。

 提言7.農民、民工を問わず全国民の義務教育の徹底(100%)と義務教育の完全無償化を。 (1) 農民の貧困をはじめ、全ての貧困解決の王道はこれである。最低限この義務教育がきっち   り出来ていると沿岸部へ出稼ぎに行き易くなり、その結果、月に100元でも200元でも親許   へ仕送り出来れば、それでもうその家は最低貧困から脱出出来る。 (2) 2005年3月の全人代で打ち出された農業税の3年以内での全廃方針をはじめ、貧困家庭   の児童、生徒の教科書無償交付、各種校費の免除、生活費補助等、画期的な貧困対策が   出され今後の成果を大いに期待したい。 (3) 我々は、4年前の西安交通大学留学中から、ささやかながら農村の貧困児童支援活動を続   け、今も大阪府日中友好協会その他全国的に各種団体が同様の支援活動を続けている。  私は、4年前の西安交大留学中から、この活動は本来中国共産党政府が、その結党精神から しても新中国建国当初から実施されているべき政策であり、貧乏留学生の少額の善意だけで解 決する様な小さな問題ではない。中国政府が基本政策に採り上げてくれる為のPR活動と考えて 実施しようと呼びかけ、その為に新聞記者の同行を要請して来た。今年、遅まきながら初めて政 府の基本方針として発表されたことに感激し、大いにその成果を期待している。

 提言8.農民にも医療保険制度を。土地を与えているのだから失業保険、年金は農民にはそぐ わない。但し、老齢化のため農業継続不能となった場合は年金又は最低生活保障は必要。

  提言9.都市の民工にも社会保険制度を。上海などでは一部、総合保険制度としてスタートして いるが給付額低すぎ。全国的にはまだまだ放置されたままである。

 提言10.貧困高校生、大学生に奨学金の拡充を。教育の徹底は貧困脱出の為の最大、最良 の施策である。出来れば高校進学率目標を70%以上として頂ければ尚ベター。

  提言11.全国的に主要大学の日本語学科学生枠を増やし、日本語教育の拡充を。特に東北 振興の為にはこの施策が一つのキーポイントとなろう。現地の日系企業は、沿岸部を中心に 今でも日本語の出来る人材の採用難と言っている。

  提言12.大学に法学部を多く作り法治国家の基礎づくりを。現在行われているが各種の法整 備を。約束を守る、契約を守る、法を守る風潮を全国民に徹底の要あり。共産社会はモノづ くり優先、理工系中心で来たのでやや片寄りすぎと思う。経営関係は大分育って来ている。

  提言13.独占禁止法は早く制定された方がよい。

  提言14.外資規制法も必要。運輸、通信、電力、ガス、マスコミ、金融等、公共性の高い産業 は外国人(含外国企業)には49.1%以上は持たせない規定が必要と思う。アメリカ型資本 主義で強い者、資金を持っている者は何をしてもよいという考え方は問題あり危険。 この予 防策として上記の規定が必要。

 提言15.知的財産権の保護、各種国際ルールの厳守を徹底のこと。

 提言16.国をあげて省エネ対策を。エネルギー使用総量の圧縮を。中国のエネルギー効率 は日本の1/5位とか。主要エネルギーのほぼ全量を輸入に頼っている日本は,石油ショック 後、何度もこの努力をし、可成りの成果を挙げて来た。世界の資源は有限であり、中国も今 や石油の大半を輸入に頼らざるを得なくなりつつあるので。

 提言17.日本の省エネ技術の活用を。

 提言18.石炭液化技術の開発・導入を急ぐこと。石炭輸送能力不足による南の電力不足の 解消の為に、更には石炭火力発電所による空気汚染の予防策の為に。日本の三菱重工業 がこの技術を持っている。

 提言19.公害防止、環境対策に日本の技術の活用を。水質汚染対策:大阪ガス、栗田工業、 荏原製作所等空気汚染対策:鉄鋼各社、大阪ガス等

  提言20.研究開発投資にも力を入れ、独自技術の開発を目指すこと。今迄は外資導入、外 国技術、外国の経営管理手法の導入のウエイトが高かったが、今後は順次独自技術で開発 が出来る力をつける努力が必要。海外留学帰国組も増えているので可能である。

  提言21.半砂漠に植林を。植林可能なところは、全国どこでも徹底的な植林事業を永続的に 続けること。併せ全国的にあらゆる角度からの節水指導を永続的に行うこと。 (1) “退耕還林”政策を実行中ながら耕地を林に戻すだけでは不足。可能性のあるところには   全て植林を徹底的に行なう決意と実行力が大事。 (2) すでに日本から30団体以上が永く中国の半砂漠地帯各地でボランティアとして植林活動   を続けている。緑の地球ネットワーク(GEN.大阪.高見事務局長)は、山西省大同市を   中心に11年以上に亘り植林活動を実施。成功実績多く、各種ノウハウを蓄積しており、   中国政府、駐北京日本国大使館等より高く評価されている。大森もこの会員として参加。   (この報告書:「ぼくらの村にあんずが実った」参照)日本各地の日中友好協会、元鳥取大   学の遠山教授、元衆議院議員の武村正義氏等々多数。大森の所属している大阪府日中   友好協会でも雲南省と敦煌で実施中。

  提言22.国債は濫発不可。安易に増発していると返済不能となり、財政破たんを来たし、将 来に大きな禍根を残す。日本は、GDP(500兆円)の約140%(700兆円)も発行済。せい ぜいGDPの60〜70%が限度か。この延長線上にある国有銀行の不良債権問題も、その 発生源は元来中央政府又は地方政府の仕事であった学校、病院、退職者の住宅や年金、 果ては消防隊等に至る迄国有企業に押し付け、その金繰りの為に国有銀行に融資させた 等の為発生したものが大半である。(勿論、通常の経営で発生した赤字分の穴埋め融資分 も含む)。従って、この際これらを竣別し国債を発行して国=政府が引き取ってやる必要あり。 その結果、GDP比国債発行比率がどの位になるのかをよくチェックしておく必要あり。この様 に厳しく査定すれば、場合により中国の国債発行残高は、すでに国際的許容範囲(GDPの 60%)を越えているかも知れない。これらを明確化した上で、健全な民営化の推進、健全な 財政運営、健全な国家運営を行うことが肝要である。

 提言23.国有資産を大切に、有効に使うこと。 (1) 特に沿岸部では、有用な土地が少なくなりつつある。長期安定成長の為には、土地は小出   しにして大切に、有効に使うべく、徐々に開発された方がベター。 (2) すでに沿岸部では、土地使用権の売却に際し、“投資密度”の高い相手にしか売却しない   方針を打ち出している。 (3) 中国政府も各地開発区に対し、同様の方針を打ち出し、出来るだけ高く、大切に売却する   様指導している。 (4) 以上の論点からすると国有財産の払い下げや、国有企業民営化時の株式や土地の払い   下げに際しては公明正大な入札方式等により、特定の個人に大きな私有財産が出来る様   な払い下げの絶無を期すこと。

  提言24.地方政府幹部の人事評価システムを、経済成長中心主義から脱却しバランスのとれ た、ひずみ・問題点の少ない成長・発展への貢献度にウェイトを置いた方式への変更が必要。  過当開発競争防止、貧困層救済度、環境対策実施度、バランスのよい安定成長体制を作っ たか否か、等に評価のウェイトを移すこと。又それを市政府関係全職員に公表、周知徹底する ことが望ましい。

 提言25.世界の平和・安定の継続こそ最大の経済政策である。 この平和の配当を永遠に享受出来る様、日中相互に相協力、相補完し合って、良いWin− Win関係を続けよう。

II. 中国東北振興への提言

1.現状では東北振興はかなり困難な仕事で簡単ではない。その理由は、 (1)近くに良港がない。大連港迄遠すぎる。 (2)広すぎ。物流インフラを相当急速によくする必要がある。 (3)近年温暖化したとは言え、やはり寒冷の地で派遣される日本人スタッフの生活上の問題   もありそうである。 (4)もっと近くて且つ良港にも近い開発区が中国にはまだまだ多い。 2.従ってこれらのハンディをはねのけて東北を振興させる為には、

 提言1.大連より少しでも近くに良港を、との観点から、遼東湾の錦州か営口あたりに大きな 良港を作ること。もう1つ、北の図們江の出口に良港が作れればよいが、ここは地形上無理 なので、むしろロシアのザルビノ港や北朝鮮の羅津港等を利用することを考えるべきであろ う。又そこへの高速道路を整備すること。既に計画はあると思うが、特に北のハルピン市─ 牡丹江市─延吉市間の高速道路の整備が必要である。

 提言2.南の沿岸部工業開発区と競争条件を揃える意味で、当分の間中央政府及び省政府 は三重県の北川元知事がシャープを誘致した時の様な思い切った補助金を出すと共に税制 面でも進出企業をバックアップし、競争条件を対等以上にする様な税優遇策を打ち出すこと。

  提言3.優秀な日本語の出来る人材を更に多く教育し世に送り出すこと。

  提言4.遠距離輸送のハンディの少ない業種…例えばIT関係、コンピュータソフト関係、コー ルセンター等を選んで特別優遇政策を打出し誘致すること。

  提言5.外資のみに頼らず、中国の有力企業で東北進出のメリットのありそうな企業、業種に、 同じく税制面や補助金政策等で進出を後押しすること。

  提言6.余った電力を華東地区へ売電すること。石炭産地や水力発電のし易い場所に発電 所を多く作り、その発電収入を振興策に当てること。

 提言7.農村他の若年余剰労働力に日本語教育をしっかりして、多くの優秀な研修生を日本 へ送り出すこと。これは国策としての農民の総数そのものを減らすことにも役立つ。

 提言8.以上提言1〜7を考えたが、これら全てが実現したとしても、その為に使用するであ ろう土地は極めて少なく、結局あの広大な農地は大半そのまま残っている。そこでやはり、 その広大な土地の活用方法も考えねばならない。  それは結局、国際競争力のある農業への転換、即ち大規模農業への転換とその結果出 て来る余剰農民の就業問題が解決可能か否かにかかっている。がこの問題も避けて通れ ないので一応問題提起しておく。

 提言9.同じく広大な土地の利用法として「東北の米は、中国中で一番美味しく且つ値段も高 い」そうなので、この作付面積を大幅に増やすことも一策だと思う。  更にりんごやあんず等、北方でも栽培可能で小麦やトウモロコシよりも収入増が見込める 果樹を見つけ農業の転換を図ることも必要である。

  提言10.主要大学の農学部を強化し、日本をはじめ全世界の寒冷地農業の専門技術研究 成果の応用や、農産物加工技術の研究・開発にも注力の必要あり。

 提言11.現在、中ロ関係は良好で、すでに東部シベリア地区、特にハバロフスクやウラジオ ストクをはじめ中ロ国境沿いのロシア領内には多くの中国人が進出しているので、これら華 僑・華人の皆さんとの連携も含め,ロシアの東部シベリア開発に協力・支援することで新た なビジネスチャンスが生まれる乃至発見出来る可能性は高い。  これら東部シベリアで必要なもので黒龍江省内で作った方がはるかに安い商品がある筈 でこの方面との取引にも注力する必要がある。すでに日用雑貨、繊維製品等の買入れのト ラックや商人がロシアより多数来ている。  又、双方の観光客も多いので観光産業にももっと注力すべきである。  更に図們江の出口あたりに貿易港があれば便利だが、ここは地形上無理で、むしろ、ロシ アのザルビノ港、ポシェット港やウラジオストク港、北朝鮮の羅津港等を利用すると新たなイ ンフラ投資もあまりいらず得策である。  又、シベリア鉄道経由ロシアや北欧諸国やヨーロッパへ輸出する方がベターな商品の発 掘も一考に値しよう。

 提言12.これらの諸施策を息長く続けると同時にそのPRも長く続けること。 まとめ 沿岸部では予想よりも可成り早く、すでに若年労働力不足が発生し、賃金も上昇しだ した上、電力不足、土地不足、中間管理者不足等々のボトルネックが発生し、生産コストも 上昇しだした。  そこで今やっとチャンス到来なので、提言11のPRを更に積極的に続け,広くて安い土地あ り、電力不足もなく人件費も安く,工場現場にも勤勉で優秀な人材が多いこと、日本語の上 手な人材も多いこと、日本に親近感を持っている人々も多いこと、政府の進出企業への補 助金制度(目下提言中)や税優遇策もあり総コストは相当安いこと、日本にも近いこと、物流 インフラの整備にも力を入れていること等々をしっかりPRして行けば意外と早く東北進出ブ ームが来る可能性もあると感じ出している。  幸いハルピン─大連間に高速鉄道を新設する案や、牡丹江市から北朝鮮の国境沿いに 大連市迄の新鉄道建設予定もある等、各種インフラ整備も着々と進められる見込みであり 将来が楽しみである。

 

 

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