上海センターブラウンバッグランチ(BBL)セミナー 第8回

東アジアのインフラ・ファイナンス

 日時  2005年 11月2日(火)12:15-13:45

 会場  法経総合研究棟2階大会議室

 報告者 生島 靖久(国際協力銀行開発業部調査役)


 講演概要

 インフラ再認識とは、決して従来型のインフラ支援を行えば良いということを意味しない。貧困層へのサービスデリバリーを実現するという社会的公正と、持続可能なサービス提供とするための経済効率性のトレードオフに挑んでいく必要がある。また、インフラ整備・維持に要する資金的ニーズは膨大であり、どのようにインフラ・ファイナンスを強化していくという視点も欠かせない。このような状況で、ODAによるファイナンス、特に円借款はどのような役割を果たすべきであろうか。

 第1に、インフラをネットワークとして捉えた場合、ボトルネック施設への支援を継続する必要がある。これは、民活・民営化を行う上での前提条件ともなるものである。電力における送電部分、通信における市内伝送路部分、上水における給水管網、下水における下水管網、鉄道における軌道部分などが特にボトルネック施設と位置づけられる。無論、市場規模・密度などの前提条件から統合型インフラ・ネットワークを整備する場合には、ボトルネック施設以外の部分への支援も必要とされる可能性があることは当然のことである。

 第2に、借款と贈与を対立軸と捉えることなく連携を進める必要がある。特に、インフラ・サービスの貧困層へのデリバリーを強化する上で、接続費用などへの補助金は欠かせない。こうした補助金へのファイナンスは、借款ではなく贈与であることが望ましい。円借款によるプロジェクトと無償資金協力によるプロジェクトとの連携を強めることは当然として、一つのプロジェクトなりプログラムの中で、同時に借款と贈与を供与できるメカニズムが必要となっている。

 第3に、サブソブリン・ファイナンスへの取り組みも強める必要がある。中央政府経由の支援はこれまでのスキームでも十分に対応可能であるが、地方分権化が進み、行政・財政などの権限委譲が進む中で、中央政府の関与が少ない状態での支援も検討する必要が出てくる可能性がある。

 第4に、ODA のファイナンス機能自体を拡充する必要もある。円借款とは、その名が示すように「円建て」の支援を行うものであるが、外国の通貨による支援が行えれば開発効果を高めることができるようになる。特に、インフラ事業のプロジェクト収入は現地通貨建てであることが通常である。アジア通貨・金融危機の原因の一つは、為替ミスマッチと期間ミスマッチにあるが、仮に現地通貨建ての融資が行えれば、相手国にすれば為替リスクを回避することができる。無論、その為替リスクは資金の出し手であるドナー側に転嫁されてしまうので、ヘッジ可能な通貨(例えば、タイ・バーツ、中国・人民元、マレーシア・リンギットなど)を慎重に選択する必要がある。また、現地通貨建ての供給は相手国のマネーサプライとの関係が直接的となるので、金融政策との兼ね合いにも配慮する必要があるかも知れない。

 現地通貨建て融資以外にも、ODA による保証という可能性もある。主要な利点は、国内貯蓄の動員、或いは外国からの民間資金動員の促進が期待できることにある。しかし、保証による支援には直接のドナー側の資金動員が伴わないので、現在のDAC(開発援助委員会)が想定するODA の要件に合致するか否か検討が必要である。フランスは、ODA の要件に照らして、@資金自体は公的主体から提供されないが、保証による資本コスト低減部分は、実質的には公的主体が生み出したもの(公的主体の要件) 、Aそもそも資金供与をする際と同じようなプロジェクトを支援(例:マイクロクレジットなど)するもの(開発目的の要件)、B市場金利と保証付き金利との差額分が譲許性にあたる(譲許性の要件)として、保証による支援をODAに計上すべきであると主張している。



(本稿は11月2日に開催された上海センターブラウンバッグランチ(BBL)セミナーでの講演を生島靖久氏にまとめていただいたものである。