報告要旨(Abstract )

第5回 武石彰氏 「企業間分業とイノベーション:知識をめぐる分業の視点から」
 本報告では、企業間分業のマネジメントについて、主として知識をめぐる分業という 視点から考える。
 通常、企業間の分業といえば、具体的な財やサービスの取引、あるいはそれを実現するための業務が分析の単位となり、対象となる。
本報告では、もうひとつの重要な要 素として、そうした取引や業務の背後にある知識に着目する。複数
の企業が分業に関 わるとき、必要な知識を誰がどの程度持っているのか、それが競争優位やイノベーシ ョンの実現のためのどういう役割、
意味を持つのか、重要な知識はどのように創造さ れ、管理されているのか ーーー自動車メーカーと部品メーカーの製品開発分業に関 する
実証データを題材に、こうした問題を考える。
 特に、より新規性の高い技術革新を実現するにはより広範囲な知識を備えていること が重要であり、そのためにはより困難な知識マネジメ
ントが必要となる。外部の企業 と分業しながら、より革新的な成果を追い求めるのであれば、社内組織のあり方から 全社的な戦略までを含
む、長期的、総合的なマネジメントが求められることが示される。

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第6回 大藪 毅 氏 「ビジネススクールの教育と人材観」
 長引く不況と経済構造改革の中、企業・雇用システムのあり方が問題になっている。それに関連して、日本でも高等ビジネス教育の拡充と
本格的なビジネススクール設置の必要性が議論されている。この流れは現在進行中の大学教育改革、特に2004年度からの国立大学の独立
行政法人化をふまえ、この数年でさらに加速する見込みである。
 だが、ビジネススクールとはいったい何か。そもそも既存の経営・商学系の学術大学院とどう違うのか。それが成功を収めるための用件は
何か。これらについては残念ながらほとんど分析されていない。本論では、欧米の代表的ビジネススクールをモデルに論を進める。特に80年
代後半から急激に進展したホワイトカラー労働の知識化と関連させながら、企業システムと労働市場におけるビジネススクールおよびMBA
(経営管理修士)教育の位置づけを、労働経済学の視点から分析する。

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第7回 高尾義明氏 「リスク社会の組織マネジメント」
 現代社会がリスク社会としての様相が強め,さまざまな出来事をリスクと捉えられる傾向が強くなっているなかで,いかにリスクに対処するか
ということが組織マネジメントにおける切実な課題になっている.そこで本発表では、社会学的リスク論の知見を踏まえながら、リスク社会に
おける組織マネジメントのあるべき方向性を基底的な水準で検討を行う。

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第8回 網倉久永氏 「経営理論の社会的構築 − 企業=資源観の発展過程」
 経営理論は研究者コミュニティにおける社会的構築物である。企業=資源観の発展過程の検討から、1) Penrose(1959)は再発見され、
「支配的解釈」が共有された「古典」である、2)動態的能力の議論は社会的構築過程にあり、企業=資源観との関係は未だ流動的であること
を議論する。

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第10回 清水 剛氏 「法的制裁が企業に与えるインパクト:独占禁止法違反に関する実証分析」
 近年、企業の様々な不祥事がしばしば注目を浴びてきたことから、企業の不正行為を法的制裁により抑止しようとする動きが盛んになってい
る。しかし、企業の不正行為の抑止を考える際に、重要な点であるはずの企業に対する影響については必ずしも十分な検討がなされていない
ように思われる。
 本発表では、実際に法的制裁は企業に対してどの程度のインパクトをあたえるのか、またその内容はどのようなものかについて検討する。こ
のために本発表では、ほぼ同時期に起こった二つの独占禁止法違反事件を取り上げ、これらの事件に関与した企業の成果指標の変化などを
比較することにより、法的制裁のインパクトを実証的に明らかにしようとする。 こうした検討から明らかになることは、法的制裁にはそれ自体
のインパクトだけでなく、スティグマ(烙印)付けとして機能することにより間接的に大きなインパクトがあるということである。このような結果を踏
まえて、企業経営及び制裁制度の設計に対するインプリケーションを述べる。

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第11回 松尾 隆氏 「企業グループにおける能力蓄積:自動車産業の事例」
 resource based viewに代表される企業内部を重視した戦略論から導き出される規範的命題の1つは「模倣の難しい独自の資源・能力を確保
し、それ以外は外部から調達せよ」というものである。しかし、関係特殊資産のような企業間の関係のあり方を競争優位の源泉と考えると、上
記のような単純な二分法では処理できない問題が生じる。なぜなら、そのような関係性は、模倣の難しい資源・能力を移転することによって意
味を持つ場合があるからである。
 日本の自動車メーカーは部品メーカーと密接な関係を持ち、その生産プロセスの特徴から部品メーカーに自動車メーカーと同様の能力を
要求する。そこで本研究では、戦後の日本自動車産業における主要なイノベーションの普及プロセスを観察することで、「密接な協力関係にある
企業群の間に、独自の資源・能力を蓄積していくプロセス」を考察する。

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第16回 木村誠志氏 「国際調達における非対称的パワー関係」
 近年、生産システムのグローバル化およびネットワーク化にともない、直接投資 を軸 とする「国際生産」のみならず、国境を越えたアウトソー
シング―「国際調達」 が急増している。一般に、国際生産と国際調達の違いは、前者が共通の所有 (ownership) と支配 (control)の内部で行
われる取引であるのに対し、後者は、(所有関係が な い)独立した企業間でのヒエラルキーな取引と説明される。では、国際調達にお い て、
いかにしてプライム企業は、(所有関係なしに)サプライヤーをコントロー ルす ることができるのか。また、そのコントロールの方法は、取引関係
の発展過程を 通じ てどのように変化するのか。本発表では、これらの課題に対する分析枠組の提示 を試 みる。さらに、この分析枠組の妥当
性を、民間航空機産業におけるボーイング社 と日 本メーカーの関係を事例として検討する。