ケンブリッジ便り

8月分

8月の研究活動のまとめ
@執筆:和文草稿、新しい草稿2編、書評1編。
A読書:共和主義、ホッブズ、ベーコン、ロックの関連文献831日)。

グランチェスター
ケンブリッジ滞在中のYさんと、妻とわたしの三人で、グランチェスターへ行きました。ワーズワースなど、ケンブリッジ大学に関係した文学者、詩人などがこよなく愛した場所です。野いちごなどを食べながら、小道(パブリック・フットパス)をゆっくり歩いて1時間くらいの距離です。
 パブリック・フットパスとは、私有地の中を一般人が通行することを地主が同意した道のことで、イングランドとウェールズ(スコットランドはちょっと事情が異なります)を中心に、網の目のように張り巡らされています。これは、一方では、市民の通行権の確保をその目的としています。当然、利用に伴う義務もあります。それは、利用者に対しては、道沿いの農作地に立ち入らないことや、敷地に入る柵がある場合は必ず閉めること(羊などが放し飼いになっている私有地もあるので、それらが逃げないように)など、私有地の財産権を犯さないことです。他方では、地主に対して、いったんパブリック・フットパスに認定された道を勝手に閉鎖しないことや道路の保全などを義務付けています(詳細は、http://www.countrysideaccess.gov.uk/countryside_code/)。
 グランチェスターに着いたら、有名なティー・ルームで昼食とアフターヌーン・ティを楽しみました。特に何かをするわけでもなく、ただ自然を楽しむだけです。特に、今の季節は、きれいに色付きつつあるりんごを眺めながら、爽やかな風に吹かれて会話を楽しめます。もう少し経つと、秋色の風景に様変わりするのでしょう。そのころにはもう一度訪問したいと思いました(831日)。

Yさん来訪
同世代で、研究領域が近いYさんも、フランスでの調査・研究の後に、ケンブリッジに滞在中です。拙宅へお泊りいただきます。Yさんとの出会いは、ちょうど5年前のケンブリッジでした。順調に就職したかれは、当時、在外研究中の大学教員。いろいろ道草しているわたしはこちらの博士課程の院生でした。Yさんはご家族を日本に残しての単身赴任、わたしは独身だったこともあり、週に3回くらいは、カレッジのホール、大学内の喫茶室、そして学外のレストランなどで昼食を共にしながら、研究の話をしていました。よく話すねたが尽きなかったと思います。
 ふたりとも日本に帰ってからは、共同研究や学会などで、しばしばお話しすることがありましたが、新米教員としてわたしが、あっぷあっぷしているのを、「先輩」として、いろいろ助言してくれました。ありがたいことです。
 さあ、今回は4日間の滞在なので、どんなお話が出来るのか楽しみです。今回の主たる課題は、共同研究の成果となる論文集の原稿に関する意見交換なので、かれの原稿とじぶんのものを再読です(830日)。



就職活動奮戦記(下)
旧ゼミ生O君が、試行錯誤の結果、ようやく就職先(地方公務員)が決まりました。物事をしっかりと考えるO君、その故に、さまざまな物事の締め切りやスピードに遅れ気味のときもあります。就職に関しても、将来の夢などを形にするのに、ちょっと時間がかかりましたが、いつもの粘り強さとひたむきさで、見事に希望の職場から内定を得ました。引きこもりの若者や福祉事業に携わりたいとのこと、他人の話をじっくりと聞くことが出来るので、よい仕事が出来るのではないかと思います。
 他の旧ゼミ生たちは、一名は元気にやっているそうですが、今年度に卒業するつもりかどうかわかりません(苦笑)。他の2名は、大学院志望です。全員の進路が決まるまではもう少し時間が必要です。
 10月に新年度が始まるブリテンでは、6月の卒業試験が終わると、早くも就業する人もいます。ケンブリッジのお店にも、そんな新人さんたちが初々しく接客する姿が、そろそろ多くなってきました。わたしも、いつまでも初心を忘れないで学生さんに接したいと思います(829日)。



さんと会食(1)
さっそくKKさんを夕食にご招待。共和主義、ベーコン、17世紀像、封建社会論、英語圏での論争配置を意識した議論の必要性などなど、研究のことだけでなく、最近の国立大学の「改革」熱についてなど、時間を忘れて楽しい歓談ができました。今回は第一回目ということで、夜の12時で終了しました。まだまだ続きます(828日)。



さん来訪
同世代で、研究領域が近いKKさんが、忙しい前期の活動を終えて、しばらくケンブリッジに滞在です。昨年の夏にも、ケンブリッジで開催された国際会議で偶然再会し、アフターヌーン・ティをご一緒して以来、日本ではお互い忙しくて、一年ぶりに異国の地で再会です。いつも非常に手堅い議論をされるKさんからは、本当に多くのことを学ばせてもらっています。今回は、わたしが長期滞在なので、拙宅へもお招きして、いろいろなお話が出来ることを楽しみにしています。その前に、議論の素材として読まなければならないいくつかの書籍が残っていますので、集中的に読書です(826日)。



友人の結婚式
妻の大学院(エセックス大学)時代の友人の結婚式に参加しました。彼女は、普通に言えば、台湾人(台湾生まれ)ですが、幼少期からタイの親戚の元で育ち、そこではアメリカン・スクールへ行っていました。学部は台湾へ戻り、修士課程を英国で終えました。ですから、アイデンティティはちょっと複雑です。
 そして、そんな彼女の成長過程に対応するかのように、新郎は、シンガポールで、インド・パキスタン系の両親から生まれ、ロンドンで学部・修士課程を終え、コルチェスターでは見習い牧師として宣教活動に従事し、母国シンガポールへ9月に戻る予定です。その前に、友人・知人の多いブリテンで、結婚式を行うことにしたそうです。
 ふたりは、プロテスタント系の教会で活動を行っていたこともあり、いわゆる披露宴も教会の集会場で行われました。驚いたことは、なんと出席者が200名くらいで、かつ、振舞われる料理は、すべてその教会のメンバー(小さい子も出来る範囲でお手伝いです)によって調理・配膳されていたことです。もちろんセルフ・サービスですが、その規模に圧倒されました。
 そして、次々と、心温まるエピソードを添えたお祝いの言葉が続きます。形式的な、あるいは、余りにイベント化され過ぎている結婚式に比べると、素朴で簡素ながらも印象深いパーティでした。また他の出席者たちも、既知の人間だけと会話するのではなく、外国人である私たちにも会話の輪に迎え入れてくれるなど、二人の門出に対する祝福を共有しようとするかのようでした。
 個人を尊重しながらも、自発的な社会的つながり(社交)も重視するブリテンの一面を再確認した週末でした(82021日)。



就職活動奮戦記(上)
わたしの在外研究のために、他のゼミへ移ってもらったO君から、就職活動についての報告のメールをもらいました。自分のやりたいことをじっくりと自分に問いかけていた彼は、他の人よりはちょっと長い就職活動になっていますが、既に二次試験を突破して面接も無事に終了し、あとは最終結果を待つばかりです。
 思想史の大学教員としては珍しいようですが、私自身も就職活動をしたことがあります。ただ、私の場合は、猫も杓子も就職できた「バブル期の就職」だったので、現在のシビアな状況は、耳学問でしかわかりません。そのため抽象的なアドバイスしか出来ないことを残念に思っています。

 しかし、就職活動で知り合った何人かの人(同じような学生だけでなく、採用する側の人たち)とは、現在でも時々メールをやり取りします。また、内定が出ても出なくても、しっかりと面接してもらった光景は、いまでもはっきりと思い出します。良い出会いもあるような就職活動になればと思います(こんなことを書いているようでは深刻さがやはりわかっていないといわれるかもしれませんが)。
 ブリテンは涼しい夏ですが、かれには、もう少しだけ暑い夏が続きます(819日)。