ケンブリッジ便り

12月分

一年の総括
今年は3月末から在外研究でケンブリッジに滞在しているので、非常にゆっくりと濃密な時間が流れている感じの一年でした。旧ゼミ生や研究仲間のケンブリッジ訪問、旧知の人々との再会や、現在の住居のご近所さんなどの新しく知り合った人々との交流など、人の面でも非常に充実していたと思います。
 また研究の楽しさも思い出すことができた一年でした。学生さんには少し悪いですが、帰国後も自覚的に、研究専念日を一週間に2日くらいは確保したいと考えていますが、そう上手くいくのか分かりません(笑)。
 (おそらく)快く送り出して頂いた同僚各位、本務校の事務職員の方々、そして留守中の連絡業務などをしてくれている院生氏や旧学部生諸氏など、いろいろな方々のご好意とご協力によって在外研究が行えていることを忘れずに、あと
3ヶ月余りの時間を、妻ともども、大切に健康に過ごしたいと思います。よいお年をお迎えください(1231日)。

12月の研究活動のまとめ
@執筆:和文草稿二編、シラバス草稿。
A読書:『オシアナ共和国』、アリストテレス『政治学』・『ニコマコス倫理学』、啓蒙思想関係、オランダ史、同君連合成立史、ルネサンス寓意論。
B翻訳:『オシアナ共和国』(1231日)。

今年最後の一週間
12月に入ってからの週末は、非常の多くの方々のご自宅に招待されたり、昼食をご一緒したりする機会が多かったのも、25日で全て終了しました。その間も、何とかペースを保っていた翻訳ですが、月末で一区切りつけるために、平常どおり大晦日まで作業を進めたいと思います。
 それと、ささやかなお正月料理(もどき)の準備のための食材を調達しなければなりません。もちろんロンドンへ行ってお金を払えば、日本で買えるような食材も手に入るのですが、それでは芸がないので、ケンブリッジの韓国食材店で調達できるものを、創意と工夫でおせち料理にしたいと思います。
 ケンブリッジの街は、がらっと雰囲気が変わりました。クリスマスのあとは、面白いくらい平常モードに戻ってしまいます。お正月が切り替えの日本との違いに改めて気づきます。大学図書館も既に冬休みなので、その間は、自宅でできることをしたいと思います(1227日)。

大雪
ケンブリッジの気候は、非常に面白いことに、だいたい日本の旧暦に対応していることに気がついたのは5年くらい前でした。ですから冬至の前後には、必ずこちらでも積もるくらいの雪が降ります。


今年は暖かいクリスマスだったのですが、27日から急速に寒くなり、今日は一面雪景色の朝を迎えました。今年は余り積もらないと思っていましたので、びっくりしました。どのくらい降ったかというと、一部の方のお送りしたクリスマス・カードに描かれた雪の中のキングス・カレッジのイラストと同じくらいです(実物)。わたしは相変わらず翻訳作業ですが、妻は、雪が解けないうちにデジカメを持って元気に撮影に出かけました(1228日)。



クリスマス・ディナー(その2)
今日もまたクリスマス・ディナーへのご招待を受けました。今度は、これまでのご招待とは違って、夫妻ともどもイングランド人のご家庭です。この国のアッパー・ミドル・クラスの生活ぶりを体験できるまたとない機会でした。
 このところイタリア料理づいていましたが、今夜は、ロースト・ターキー、グレービー・ソース、ブレッド・ソース、温野菜などのイングランド風のメニューです。ブレッド・ソースと言うのはこれまで食べたことがなかったので、興味深かったです。パンを牛乳で煮て、そこにナツメグなどを好みに応じて入れれば良いそうです。
 旦那さんは、いわゆる自然学者で、生物学、植物学の専門家です(服装もタッタソール・シャツにニット・タイ!)。もっと野鳥のことなどお話したかったのですが、まさにクリスマスの当日なので、早々に辞去しました。ローカル・ジェントリらしい生活ぶりが垣間見られるお宅でした。
 これまでご招待くださった方々が、日本とのいろいろな繋がりや興味がある人々だったのに対して、今夜の夫妻は、イングランドの伝統的な雰囲気(例えば、アジアに興味があっても中国)に満ちており、いつもよりは緊張感する状況でしたが、なんだかイングランドの奥の院にようやく入れたような不思議な感じがしました。
 非常に面白かったのは、クリスマス・プレゼント交換の時間でした。それぞれが一人一人に対してプレゼントを用意するのですが、ひとりで包装をあけてひとりで楽しむのではなく、何を貰ったのかをみんなにひとりずつ見せ合って、感想やお礼などを述べ合うというものです。つまり、大げさに言えば、プレゼントの受け取りという私的な経験を、その場にいる者全員で共有するという儀式なのです。わたしたちにまでクリスマス・プレゼント(砲丸のようなチーズの塊)を用意してくれていてひたすら恐縮の夜でした(1225日)。



M君の京大訪問
ケンブリッジ大学東洋学部の4年生のM君と知り合ってから少し経ちます。イングランドの学部は通常が3年制なのに対して、東洋系の学問を専攻する学部生は、二年次終了と共に、一年間、当該国へ留学して語学研修することが終了条件になっていますので、一年間余分に在学することになります。
 彼は、9月まで京都の私立大学でその研修を行っていたそうです。今は、日本のニート問題を中心に大学院への進学準備に忙しくしています。嬉しいことに京大経済も進学候補のひとつだそうです。
 日本でいう卒業論文の執筆のための調査に、現在3週間の予定で滞在中ですが、上記の課題を専門とする教員に面会できないかと突然メールが来ました。いろいろと照会した結果、同僚のH先生のご配慮により、急遽面談の時間を作っていただきました。非常に感謝です。そのあとは、わが旧ゼミ生たちが昼食を共にし、京大の中を案内してくれました。彼らの奮闘にも感謝です。こうした小さな国際交流から何かが生まれるのではないかと期待しています(1219日)。

クリスマス・ディナー(その1)
妻のイタリア語の先生ルイージャのお宅へ招待されました。パートナーは、ケンブリッジ大学の工学系教授で、日本にも何度か行ったことがあるとのことで、まずは、食文化(寿司の芸術性)についてのお話になりました。
 お宅はケンブリッジ市郊外の村にあり、おうちの前はそこの教会という一等地に立っている非常に古い、そして広々とした建物でした。こちらの冬のもてなしのひとつに、暖炉で火を焚くというのがありますが、彼もサービスしてくれて綺麗な火を絶やさないように盛んに木をくべています。しかし木を燃やしすぎたので、わたしたちは全員、燻製のように燻されており、帰宅後は衣類にしっかりと匂いがついているのを発見しました。
 わたしたち以外には、ルイージャの夫の研究室のポスドク夫妻と、同僚の夫妻(夫は某皇族が英国留学中の学友!)、そしてルイージャの次女の多彩な顔ぶれでした。
 ルイージャがイタリア人なので、ディナーは本格的な(北部)イタリアのクリスマス料理に舌鼓を打ちました。ちゃんとパネトーネまで楽しみました。食後のゲームなどをたっぷりと楽しんでしまい、ここでも6時間も滞在していました。もっと遊んでいくように言われましたが、明日は月曜日なので(翻訳作業しか待っていませんが)これで失礼しました。
 こういう風にお客さんをお招きできるような自宅をもてないものかどうか、京都では無理かなぁ、などと話し合いながら帰宅しました(1218日)。

会食
今日は、ノルウェー人とドイツ人のカップルのお宅に妻ともども招待されました。ニュー・ホールの近くの住宅街にあるフラットで、前住人は日本人だったとのこと。コンパクトな間取りのお宅で、ドイツ人によるおいしいイタリア料理を堪能しました。彼女は、ミュンヘン育ちなので、イタリア料理をよく作るそうです(院生時代に学会発表のためミュンヘンに行ったときに、イタリア料理がおいしかったことをはっきり覚えています)。
 ノルウェー人は国際法センターの訪問研究員なので専門は法律ですが、日本を含む世界の歴史について興味が非常にあるとのことでした。ですから比較文化論的に様々な話題(ノルウェーと日本のこと、法制度や陪審制度、捕鯨問題、教育問題、大学制度、君主政など)について楽しくお話しました。また、彼は日本のことも良く知っているので、ノルウェーで女王を認める法律が可決されたときのことを聞いたり、日本での女性天皇の可能性などについても議論になりました。気がつくと4時間も経っていました。楽しい会食でした(1217日)。



ロンドン行き
入国以来、テロなどもあって全く寄り付いていないロンドンへ、翻訳作業の息抜きのために行きました。英国式レース教室やイタリア語教室などで多忙だった妻も、今週からは冬休みなので、二人での外出です。
 今回のお目当ては、ジェームス一世が書かせたルーベンスの天井画のあるThe Banqueting HouseVictoria & Albert Museumです。前者の絵は、1603年に、それまで別々の王国だったスコットランドとイングランドの王位を兼務することになったジェームスの、Great Britainの最初の「皇帝」(=聖俗の両権の保持者)としての自負が、聖書などのモチーフを使って描かれているものです。その建物は、四十数年後に、その子チャールズ一世が処刑された特設舞台が設置された場所でもあります。
 しかし、いまでも晩餐に使われる建物なので、非常に残念なことに、あいにく今日は見学できませんでした。ホームページなどで事前に知らせてくれるとありがたいですが、仕方がありません。
 次はV&Aに向かいます。気分転換ですから、セント・ジェームス・パークなどを覗きながら、あくまでも歩きます。服飾関係や19世紀に興味がある人には興味深い展示物がたくさんあります。
 帰りは、ピカデリー沿いのお店のショーウィンドウを眺めながら、ピカデリー・サーカス経由(フォイルズ書店にも久しぶりに立ち寄りました)でキングス・クロスまで歩きました。本当によく歩いた一日でした(1214日)。

冬篭り
夏休みから断続的に続いていたお客さんの訪問や、各種のセミナー、そして学会誌の書評などの宿題もすべて終わりましたので、これまで細々と行っていた17世紀の原典の翻訳作業に一日の大半を使っています。卒業論文で初めて取り上げて以来、研究を進める上で、部分的な翻訳メモなどを作ってきましたが、今回の在外研究でまとまった時間が与えられたのを利用し、一気に全訳を作り上げてしまおうと思っています。幸い、全体の三分の一は、先学による部分訳が存在しますので、それらも参照しながら作業を行っています。
 新しい発見がいっぱいあり非常に充実しているのですが、一日中、余り流麗でない原文と格闘していると体調も崩れてきますので、気分転換には努めて散歩に行くようにしています。学期中は人で溢れていた
Grange Roadを一時間くらい歩くのですが、だんだん大学や街から人がいなくなっていくだけでなく、日没が急速に早くなるのが分かります。1月にはいるとまたセミナーなどが始まるので、何とか12月中に半分くらいまで進めたいと思います(123日)。

クリスマスのイルミネーション
12月にはいると、町中いたるところに、クリスマス用のイルミネーションが設置されます。これはケンブリッジに限らず、ロンドンのような大きな都市から小さな村まで、あらゆるところで見ることができます。冬の冷たくて乾いた空気の中で、日没前(最近は午後三時ごろです)の夕焼けを背景にすると、このイルミネーションはひときわ綺麗に見えます。厳しい冬のひと時の楽しみと言えるのではないでしょうか。
 この飾りつけは、マーケット・プレイスに面した市庁舎Guild Hallも例外ではありません。単純な飾りつけなのですが、毎日午後三時ごろから朝の7時ごろまでつけっ放しなので、公的支出には(日本ほど)寛容でないこの国で、この電気代がどこから出ているのか、綺麗な光景に見とれつつもカウンシル・タックスをたっぷり払っている身としても少々気になります。今度、市庁舎へ用事があるので、そのついでに聞いてみたいと思います。何を公的な支出と認め何を認めないのかは、それを取り巻く文化的背景や価値観に大きく依存していますので、比較社会論的には非常に面白い素材です。
 それはともかく、1月半ばごろまで、夕方の買い物のときに、しっかり楽しみたいと思います(12月1日)。