ケンブリッジ便り

7月分

7月の研究活動のまとめ
@執筆:和文草稿、英文草稿。
A読書:共和主義関係文献、王の二つの身体論に関する論文、絶対王政論関係書籍、アカデミック・ライティング教育関係書籍、英国の大学に対する外部評価関連文献(731日)。

TVライセンス
今日は、この国ではテレビを持っている限り必ず支払わなければならないTVライセンス(一年間有効)の更新を行いました。ちょうどNHKの受信料のようなものですが、徴収体制ははるかに強力です。テレビ本体や関連機器(DVDレコーダやビデオ・デッキなど)を購入すると、多くの場合、保証書の関係で住所を書きますが、それをもとに、ライセンスの確認文書が郵送されてきます。わたしたちも、日本での教材としてTV番組の録画をするためにDVDレコーダを購入しましたが、現在の住居のライセンスが大家さんの名前のままだったので、ライセンスの有無を確認する手紙が来ました。
 ライセンスは、カラー・テレビの場合、年間126.50ポンド(2005年現在)です。年金生活者向けの減免制度もあります。支払い拒否や未納の場合は、最高1000ポンド(約200000円)の罰金が科せられます。調査員は家屋に入ってテレビの存在を調査する権限も持っているそうです。
 制度の詳細や支払は、http://www.tvlicensing.co.uk/index.jsp
日本でもテレビの必要のない生活を送っていましたので、こちらでも住居にテレビがあらかじめなければ、そのまま過ごしたと思います。しかし番組を見ると、とても面白いのです。厳密に言えば、番組の内容が面白いというよりも、むしろ、比較社会論的に見ると非常に興味深いのです。
 例えば、住宅の改装番組の大流行の背後には、英国の伝統的な住宅購入観(安く家を購入してDIYで改装して、より高い家を購入するというステップ・アップが常識)や、それに拍車をかけている10年来の好景気とその結果としての住宅バブルが透けて見えます。また、スーパー・ナニーとよばれるやり手の乳母が活躍する番組は、公的保育施設の不足などから共働き家庭を中心に、誰がしつけを行うべきかが社会問題となっている現状と無関係ではありません。20年以上も続く長寿番組の存在も、この国の人々の時間感覚を表しているのではないかと感じます。また評論好きな国民性は、BBCが良質な評論にも重点を置く報道姿勢を貫く基盤となっています。つまり、どの番組にも、この国の人々の心性や社会心理が、直接的、間接的に色濃く反映しているように思います。
 そして、こちらの番組を基準に取ると、日本で、野球放送、グルメ番組、歌番組、出演者だけが話題となる月9などのドラマが主として放送される現実の背後にあるものは何か、あるいは、性教育を含むしつけは専門家の助言を得ながら親が基本的に行うべきだとする英国と、基本的には学校に求める日本との対比が意味するものはなにか、などの考察の素材がたくさんあることに気づかされます。
 ライセンスはちょっと高いような気もしますが、こうしてみると十分にモトを取っているかなとも思います(727日)。

テロ対策と誤射
繰り返し報道されているように、ロンドンでの爆発事件の犯人の一人と疑われたブラジル人が射殺されました。Tシャツにジーパンという姿で拳銃を持った「若者たち」に「捜査の過程」で声をかけられ、逃げようとしたところを、このブラジル人は撃たれたそうです。「若者たち」とは、英国の特殊部隊員でした。結局、このブラジル人は事件とは全く関係ないこと、そしておそらく、ブラジル人は彼らを警察の特殊部隊員と認識していなかったであろうこと(一説には、マフィアだと思っていた)が判明しました。当然ですが、ブラジル政府から厳重な抗議がありました。「まあ、テロの捜査ですからね〜。止むを得ないですね。人生いろいろ…」と言いながら抗議しない国もありそうですが、いずれにしても、捜査方法が適切(とりあえず適法ではあるようです)だったのかどうかを含めて、事件の真相が解明される必要があります。
 確かに、テロのような犯罪捜査の場合、悠長に構えていては事件発生を有効に阻止するのは難しいのでしょう。しかし、緊張状態の下では、異文化に属する人の所作が、異なるものとしてではなく、「不審」なものに見えやすいことも事実です。外国人に対する「違和感」一般が、今回のような悲惨な事件を再び引き起こす可能性も大きいと思います。一年間とはいえ、外国に住むもののひとりとしては、いろいろと考えさせられます。誤って射殺された方のご冥福を心より祈りたいと思います(725日)。


カレッジ巡り
今日は、ケンブリッジ初体験中のKさんと一緒に、カレッジ巡りをしました。トリニティ、セント・ジョンズ、セネト・ハウス(これはカレッジではありません)、ピーターハウス、ペンブルック、キングス、クレアのメイン・コートや教会堂を見学しました。
 久しぶりに行ったピーターハウスは、創立
1284年の最古のカレッジです。オックスフォードから移住してきた学者たちが、ケム川のほとりに居住したのがこのカレッジの始まりです。表通りからは小さなカレッジに見えるのですが、フィッツウィリアム・ミュージアムによって喧騒が遮られた広大な場所がカレッジの庭の一部になっています。6年前に、同じ指導教員の下でケンブリッジ・プラトニストの研究をしていたアメリカ人の友人にカレッジに招待されて歩いたことを思い出しました。
 その後、川沿いのパブへ行き、パント遊びの人々を眺めながら、Abbot Aleという地ビールを楽しみました。非常にゆっくりとした夏の一日でした。
 異国での厳しい研究生活を続けている
Kさん、非常に疲れた表情でした。またロンドン滞在ということで、本人が自覚している以上にテロから緊張を強いられているような気もしました。こちらでの生活が少しでも楽しくなればと思います。もちろん、享楽的という意味ではなく、意義あるという意味で。ケンブリッジの滞在で、少しでもリラックスできたのであれば嬉しいです(723)。


Kさん来る
大学の後輩のKさんは、現在、英国に長期滞在中の学振研究員です。こちらの図書館に用事があるとのことで、閉館時間に正面玄関で落ち合いました。その後、拙宅に泊まっていただき、積もる話をしました。最近のロンドンのテロ事件などで、ちょっとお疲れ気味の様子なので、短い滞在ですが、のどかなケンブリッジの雰囲気で、元気になってくれればと思います。ケンブリッジは初めてとのことなので、明日は観光に出かけます(722日)

異国での同僚との昼食(2)
3ヶ月の予定でケンブリッジに滞在予定のIさんと昼食をご一緒しました。研究や学外の仕事などでご活躍のIさん、こちらへ到着された日に街で偶然お目にかかって以来でした。そのときは大変お疲れのご様子だったのですが、今日はお元気でした。部局におけるアカデミック・ライティング教育、学生派遣などについて個人的見解を元に話し合いました。
 Iさんは大学院生向けのプログラムの充実に重点を置こうとされるのに対して、わたしは学部生の重視という違いはあったのですが、意義深い意見交換だったと思います。
 しかし話が弾みすぎて、予定よりかなり時間オーバーでしたので、帰宅後は、今日の読書ノルマ達成のため、もうひと頑張りです(721日)。


大学院合格通知
所属部局の学部生から、ブリテンの大学院に合格した旨の知らせが来ました。彼は、ゼミ生ではありませんし、また、専門もかなり異なるのですが、わたしの講義(アカデミック・ライティング入門、社会思想史各論)を熱心に聴講していた学生でした。ゼミの指導教員に加えて、もう一通の推薦書の作成を依頼され、昨年末に、ブリテンの有名大学宛ての7通の英文推薦状を作成しました。わたしの推薦状が果たして役に立ったのかどうか定かではありませんが、最終的に4校から合格通知が来たそうです。おめでとうございます。
 ブリテンの大学院は、1年制で授業課題と最終論文からなる修士(MAMPhilなど)コース、2年制で研究論文を完成する修士(MLitt)コース、そして3年制の課程博士(PhD)コースに分かれています。どのコースへの入学も、学部時代の指導教員などからの所見、学部時代の成績評価や学習内容、研究計画書、学習期間全体をカバーする学費や生活費の支払い証明(銀行の残高証明や奨学金の受取証明など)、面接(留学生は多くの場合免除)などから、合否が決定されます。もちろん留学生は、語学力証明も求められます。更に、数学を用いる一般的な経済学を専攻する場合は、数学の能力証明などが必要な場合が多いです。これらの書類をそろえて、遅くとも入学予定の半年前には出願しなければなりません。早めの準備が求められます。
 件の学生、この7月に希望の官庁から内定が出たので、就職することにしたそうです。忙しい時期に7通の推薦状を書くのは、正直言って大変だったのですが、
これもまた書類の書き方の良い訓練をさせてもらったと思っています。ともあれ前途有望な学生の将来に期待したいと思います(720日)。

書評引き受け(2)
某学会から書評依頼がありました。私の専門とは少し異なる書籍が対象なので、研究の幅を広げる意味でもありがたい機会なので、喜んでお引き受けしました。メールのやり取りをした編集委員長によれば、やはり最適任の方に断られたので私にお鉢が回ってきたそうです。経緯はともあれ、良い書評になるように精一杯がんばりたいと思います(716日)。

2分間の黙祷
今日は、7日のロンドンでの爆弾事件から一週間たった日なので、ブリテン中で、正午から2分間の黙祷が行われました。それに合わせて、ケンブリッジの市庁舎(ギルド・ホール)の前では、ケンブリッジ大学の総長代理職の人が、犠牲者への追悼の言葉を述べながら正午を待ちました。お昼がかきいれ時のサンドウィッチ屋さんなどのお店も、販売の手を止めて、黙祷の間はお客さんが店舗の外に出るよう求めていました。その場にいたのは80人くらいでしたが、マーケットのいつもの賑やかな雰囲気が2分間だけ静寂に変わりました。犯人捜査もかなり進展しているようです(714日)。


King’s College Chapel Service by the Eton School
ターム中は毎日夕方に行われているキングスの教会のサービスに行きました。1730スタートですが、いつも長い行列ができるほど人気なので裁量労働制の特典を活かして(?)ちょっと早めに研究をやめて30分前にチャペルに到着しました。しかしすでに50人くらい並んでいます。なぜ大きな教会堂なのに50人という人数を気にするかといえば、スクリーンと呼ばれる教会中央のパイプ・オルガンが設置されている仕切りより奥に座れないと、コーラスの歌声は聴きにくくなるからです。なんとかコーラス隊の横の席を確保することができたので、静かに始まりを待ちます。
 今日は特に、エリート教育で有名なパブリック・スクールであり、またキングスと関連の深い、イートン校の生徒によるコーラスです。約45分間、きれいな歌声をじっくりと楽しみました。
 教会のステンド・グラスが太陽の光で照らされるなか、幻想的な雰囲気の中で倍音などの共鳴音を伴いながらコーラスが続きます。もちろん歌詞は聖書の聖句です。ですから、こういう環境の中にいると、娯楽の少なかった時代に、教会は、行くことを義務付けられた場所というだけでなく、きれいな音を楽しめ、かつ牧師の説教を通して日々の出来事やニュースを含んだ興味深い情報を得られる場所でもあったという歴史学が教える事実を再認識することができます。しばし宗教改革期前後のイングランドの状況について思いをはせました。
 英国では、オルガンなどの鍵盤楽器がうまい人や、コーラスの能力に秀でた人は、様々な奨学金を得てキングスなどのカレッジに入学することがあります。今日の歌声のなかにも、未来のキングスの学生がいたのかもしれません(713日)。


オープン・ガーデン(King’s College
今日はキングスのオープン・ガーデンに、妻と妻のお母さんと行きました。綺麗で鮮やかな花がたくさん咲いているクレアとは違って、芝生と木々がメインの庭です。一見、ちょっと精彩を欠く気がしますが、芝生の上に根っころがってゆっくりするには最適です。キングスの院生らしき人も、芝生の上に腹這いになって、ゆったりと新聞を読んでいました。私たちも芝生の上に座って青空や木々を眺めたり、風を感じたりしてリラックスしました。そのあと、イングランド人が愛するミント・チョコチップのアイスを食べながら帰宅しました。週末の休憩は終わり、明日からまた平日です(710日)。

ロンドン爆発事件
イラク戦争に関連する爆発事件が、ついにこの国でも起きてしまいました。ロンドンの地下鉄(チューブ)やバスでの同時多発性テロです。いまなお行方不明者や身元不明者が多数います。はやく救出作業が進むことを願っています。
 もともと今日は、ロンドン大学でのある学会に出席予定だったのですが、都合により参加を取りやめていました。しかし予定通り出席していたら、事件のあったキングス・クロス駅の周辺に、事件のあった時刻にいた可能性が大きいので、かなり気分が落ち込みました。
 多数の死傷者を出した最近のJR西日本の脱線事故でも、元ゼミ生の卒業生がいつも通勤に使う列車だったそうですが、たまたま当日は休暇だったので難を逃れました。
 とりあえず日本の所属先への連絡はしたので、これから友人・知人からの安否照会への返信や、私自身も、英国にいる友人・知人の安否照会をしなければなりません。事件の真相究明と再発防止が強く望まれます(77日)。

Aさん帰る
一週間の滞在を終えてAさんがウィーンに帰りました。これまた格安料金のフライトのため、朝6時ごろのコーチ(http://www.nationalexpress.com/home/hp.cfm)に乗らなければなりませんので、早起きが少し大変でした。初めてのケンブリッジやロンドンを楽しんでもらえたでしょうか。帰宅後は、ちょっと遅れている読書の再開です(76日)。



ロンドン観光

土日の喧騒を避けるために、Aさんを連れて妻と妻のお母さんがロンドンに行きました。わたしは用事があるのでケンブリッジで留守番です。ロンドンまでは、トラベル・カードを購入して列車で行きました。約50分です。時刻表や、さまざまな種類の切符については、http://www.thetrainline.com/default.asp?href=&T2ID=892_2002131212343
 義母さんとAさんはロンドンが初めてだったので、はとバスが行くような典型的な観光名所を回ったそうです。みんな楽しんだようで、予定より早く帰宅しました。夕食後は懲りずに、深夜までのお話です。寝不足が続きます(74日)。

 

オープン・ガーデン(Clare College
今日は、綺麗な花の庭園で有名なクレア・カレッジのオープン・ガーデンに、Aさんを連れて、妻、妻のお母さんとともに行きました。クレアのフェローズ・ガーデンが公開されていました。前評判どおりの綺麗な庭で、様々な色の夏の花々が咲いていました。比較的一年を通して華やかな花のある日本のような東アジアの国では、もっと鮮やかな庭園もあるとは思いますが、冬の厳しい、そして夏の短いこの国で、綺麗な庭を維持するのは並大抵の労力ではないと思います。そんな庭師さんの陰の努力を思いながら、ゆっくりと庭園中を散策したあとで、ケム川にかかっているクレアの橋の上から、パント遊びの人々を眺めました。暑くもなく寒くもない穏やかな日曜日でした(73日)。

 

余暇の楽しみ方(2)
ケンブリッジでの余暇の楽しみ方の一つとして、パントでの川遊びがあげられます。クィーンズ、キングス、クレア、トリニティ、セント・ジョンズなどの、メイン・コートと呼ばれる正面玄関側の建物群と、バックスと呼ばれる奥庭のような場所を隔てているケム川で乗る、ヴェネチアのゴンドラを小さくしたような乗り物がパントです。
 漕ぎ方も独特で、一本のまっすぐな棒を川底に当てて、ちょうど押し漕ぐように推進力を確保します。またこの棒では舵取りも行います。ですから、ちょっとでも棒を左右に傾いた状態で押し漕ぐと、パントはまっすぐに進みません。このような漕ぎ方を続けると、だんだん円を描くように進んでしまい、他のパントや岸にぶつかったりします。
 漕ぎ方があまりに下手で、同じところをぐるぐる回っているパントもあります。そんな時、乗っている人全員が、ちょっと困ったような、恥ずかしそうな表情で乗っている光景にも出くわします。いいところを見せようとする人は、パントに乗るときは注意が必要ですね。
 パントは、ケム川沿いの何箇所かで借りることができます。道を歩いていると、かんかん帽にチェックのチョッキなどを着た学生が客引きをしているので、彼らが乗り場まで誘導してくれます。自分で漕ぐ場合は、4人乗りくらいで一時間約10ポンド、ガイドと漕ぎ手つきは一人10ポンドくらいの相場です。これからがパントのシーズンです。さあ、あなたもさっそうと漕いでみませんか?(71日)。