ケンブリッジ便り

6月分

6月の研究活動のまとめ
@執筆:和文草稿、英文草稿。
A読書:共和主義関連文献、西洋封建制・中世史に関する文献、大学院研究入門やアカデミック・ライティング関連文献(630日)。

Aさん来る
日本の所属部局の大学院生であり、かつ、わたしのTAでもあったAさんが、留学中のウィーンから遊びに来ました。Aさんは、厳密に言うと私の後輩に当たりますが、大学院に入ってから指導教員を変えて、いまは別の先生の下で研究を進めています。ですからお互いのことをよく知るようになったのは、わたしがTAを公募した際に応募してくれてからです。
 低賃金にもかかわらずしっかりとTAとして働いてくれたAさんには、些少ながらのお礼の意味を込めて、拙宅へ一週間滞在していただきます。ケンブリッジへ来るのに一番便利なロンドン・スタンステッド空港に到着する予定の便が、大幅に遅れ、結局こちらへ到着したのは、なんと日付が変わる少し前でした。なんでも非常に航空賃が安い便だったそうです。積もる話はあるのですが、とりあえず明日に備えてオヤスミナサイ(629日)。

ガーデン・パーティ
今日は、賃貸中の住居のオーナー宅でのガーデン・パーティに妻と行ってきました。ケンブリッジの隣町なので、タクシーで20分くらいのところです。豊かな農村地帯といった雰囲気の場所でした。近所の人々は、ケンブリッジまで仕事に通う人が多いそうです。 
 オーナーが大学関係者のため、パーティの参加者の大半も大学関係者です。司書、フェロー、訪問研究員、オーナーの趣味(音楽と芸術)の仲間など、多彩な顔ぶれでした。真っ青な芝生の上での楽しい午後の歓談でした(626日)。

クレア・ホールでの会食
今日は、日本の私立大学で古代哲学を教えている方に妻ともども招待されて、クレア・ホールへ昼食に行きました。クレア・ホールは、31あるケンブリッジ大学のカレッジのひとつで、1965年に、カレッジの中でも最古のグループに属するクレア・カレッジの資産の一部とそのフェローからの寄付を中心に、国際的な滞在型のカレッジとして創立されました。ですから、京大からも多くの方々が、これまで客員研究員として滞在してきました。
 会食では、ケンブリッジとそれぞれの日本の大学の比較や、最近のケンブリッジ事情などについて楽しい会話をすることが出来ました。わたしは、経済学部という俗っぽいところに所属しているので、俗っぽいゆえの面白さもありますが、真理の探究を地道にされている方々との会話は、自分を反省する材料であると同時に良質の研究を目指す励みともなります。こうした貴重な機会に感謝しています(622日)。

海外の大学との提携
ケンブリッジ大学のあるカレッジが、日本の大学を行脚して、将来設立する国際研究センターへの出資者にならないかどうかを打診しているそうです。出資すると、客員研究員の受け入れや、専用の部屋の確保などのメリットがあるそうです。そのため出資金はかなりの金額になるのですが、いろいろ交渉して減額を勝ち取った大学もあるそうです。研究面だけでなく、国際戦略においても、海外の大学と対等に交渉することは、これからの日本の大学の重要な課題の一つになりそうな印象を持ちました(617日)。

資料集について
これもまたS先生からのご推薦で、当初の執筆者がお亡くなりになった穴を埋める形で書かせていただく原稿です。下記の書評と同様に、隣接分野の教科書・資料集として準備される書籍なので、読者層の違いとともに編集方針にそって執筆できるかどうかを少し考えてから、緊張しつつも喜んでお引き受けしました。原稿自体は、依頼から約2ヶ月で仕上げたのですが、執筆者が多いプロジェクトなので、いまだ全ての原稿がそろっていないとのことで、今年3月の出版予定から大幅に遅れています。こういう場合、とりまとめをされる方は大変だと思います。
 しかし、こういった事情説明についても、編者の先生や編集者の方は、非常に丁寧かつ誠実に作業を進めてくださっていますし、執筆契約などもきちんと文書で交付されました。もしも選ぶ機会が与えられるならば、将来、自分の著作を出版する際にも、こういった方のいらっしゃる出版社にお願いしたいなと思いました(613日)。

書評引き受け(1)
某学会から書評の依頼を受けました。わたしの研究対象そのものではないものの、関連する重要な書物なので、喜んで引き受けました。字数が非常に限られており、また、厳密には、背負っている学史(その分野で求められる共通の枠組み)が異なる隣接分野の作品なので、主たる読者層の違いを踏まえつつ、どのようにまとめるべきかじっくり考えたいと思います。おそらく、研究・教育活動において多くを学ばせて頂いている編集委員のS先生からのご推薦で依頼が来たのだと思います。これも感謝です(67日)。

ニューズ・レター原稿送付
以下は、所属部局から依頼のあった部内報(ニューズ・レター)の原稿です。内容は、これまでのケンブリッジ便りの要約のような感じです。

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京都は葵祭りも終わり、梅雨入り前の不安定な天候を迎えているのでしょうか。わたしは現在、みなさまのご配慮・ご支援の下、3月25日より一年間の予定で、連合王国ケンブリッジ大学で在外研究に従事しております。今回の滞在は、文部科学省の在外研究員制度が改組された「先進海外教育研究実践支援プログラム」という舌を噛みそうな制度による派遣です。聞くところによれば、この制度は昨年度限りで廃止となり別のプログラムに置き換わったそうなので、最初で最後の派遣者になりました。計画に従って、こちらのアカデミック・ライティング教育から学び日本での応用可能性を探ること、そして共和主義思想と重商主義時代の経済思想の研究を行なっております。
 ケンブリッジには以前、大学院生として長期滞在していましたので、研究・生活上の困難はありませんが、今回は客員研究員という身分なので勝手が違うこともあります。例えば、大学図書館の利用証発行には面接が必要、貸し出し冊数が5冊(常勤教員や院生は10冊)、コンピュータ関係も個別申請が必要、不動産税(住民税)の納付(賃貸の場合は賃借人が支払う、学生は免除)など。ですからセットアップに若干の時間が必要でしたが、今は充実した時間を過ごしています。旧知の教員や事務スタッフから「おかえり!」と出迎えられ、豊富な資料と蔵書を気の向くまま使いこれまで重要性に気づきつつも展開できなかった研究テーマを十分に探求したり、旧友たちとの再会などなど。
 生活者としては以前に比べてさまざまな手続きが便利になり嬉しい反面、ゆとりや人々の笑顔などといった英国らしさが失われて残念に感じることもあります。格段に便利になったのは、多くの請求書(住民税、電気、電話など)がインターネットで決済可能、そして切手すらまとめて買えばクレジットカード払い、郵送無料で自宅まで送ってくれます。しかし10年来の好景気により人々からゆとりが失われ(もちろん貧富差も拡大)、苛立っている人も増えています。以前は車のクラクションを使う人はほとんど皆無でしたが、今は(京都ほどではないですが)うるさい時があります。また自宅を改装して一生の間に何度も買い換える習慣をもつこの国の人々は、さらに大きなローンを組み、そのため共働きが増え、公的保育所の不足も相まって、子育てに関する様々な問題が発生しています。若年者犯罪の増加、初等中等教育での教員への暴力事件+学級崩壊の多発、躾や家庭教育の問題など、日本と共通するものも多く、目が離せません。
 また(もちろん投票権はありませんが)5月に総選挙が行なわれ、学校給食の改善(食育キャンペーン)、犯罪増加に対応する警察官の増員、移民政策の見直しなどが主題となる、日本とは少し違った選挙戦(この国は戸別訪問も禁止されていません)を、観察者として楽しみました。そして総選挙後の議会の開催式の様子も、儀式の解説と共に詳細に報道されましたので歴史家として興味深く見ました。
 最近ではようやく最高気温が20度を超える夏らしい日が多くなり(ジューン・ブライドのイメージです)、平日は9時から5時までいる図書館の窓から覗く青空が眩しくなりました。また各地のフラワー・ショーも開催されているので、週末は妻と植物園などへ出掛けています。
 みなさまのご協力によって得られた貴重な時間を、研究や帰国後の教育活動のための調査のために有意義に使いたいと思います。訪英の折は是非ご連絡ください。ケム川でのパント(ボートの一種)くだりを一緒に楽しみましょう!

*最近、再び天候不順につき、残念ですが写真なしです(66日)。

父の誕生日
わたしの父は、今年も健康に恵まれて誕生日を迎えました。もっとも不調な箇所がないわけではありません。いまから10年ほど前に、生存率の非常に低い、上向弓部解離性大動脈瘤で緊急手術を受けました。医学的に後遺症と分類される症状は奇跡的にありませんが、やはり15時間余りの大手術は体にダメージをかなり与えました。しかし前向きに、毎日の散歩、庭仕事、むかし大学の教養課程時代に勉強したドイツ語(一高時代の先生が残っている時代なので、ゲーテなどを読んだそうです)や中国語の勉強などをしています。
 いまでこそ穏やかな毎日ですが、退職前は、自然科学系の企業内研究者として非常に忙しい毎日を送っていました。特定のプラスティック研究では日本での第一人者だったと入院中にお見舞いに来てくださった会社の方から聞きました。
 父は多忙にもかかわらず、ほぼ毎週末、わたしたちを海や山などに連れて行ってくれました。詳細は余り覚えていませんが、非常に楽しい行事だったことは鮮明に思い出します。仕事人間はいくらでもいると思いますが、家庭との両立をはかるのは並大抵の苦労ではなかっただろうと、いまわたしも仕事をしながらその難しさを実感しています(但し、わたしの場合は、教員なので、教育活動やさまざまな雑用と、自分の研究活動とのバランスのとり方が課題ですが)。
 今年もこちらに長期滞在して欲しいのですが、いまちょっと不調なので、いつものようにビジネスクラスを使っても長時間のフライトには躊躇するとの事でした。晩夏か初秋のケンブリッジもきれいで快適なので、なんとかその時期に来れることを願っています(65日)。

お義母さん来る
妻のお母さんがいらっしゃいました。拙宅は3つの寝室があるので、滞在予定のお部屋の掃除をしたりして到着を待ちます。滞在中、こちらのさわやかな夏を楽しんでもらえればと思っています(63日)。

論文集原稿についての意見交換
共和主義に関する論文集に関して、関連する章の執筆者と意見交換を始めました。お付き合いいただいているお二人に感謝です。また最近は、事後処理的な事務連絡が多かったので、こうした学問上のやり取りは刺激的で楽しいです。これをばねに、いくつか書いている草稿を今年度中に発表したいと思います(61日)。