ケンブリッジ便り

3・4月分

4月の研究活動のまとめ
@執筆:和文論文集原稿、和文草稿2編、英文草稿。
A読書:ハリントンの著作、その関連文献、ニーダムの著作の一部、旧約聖書(律法書、歴史書)、Aレベルの歴史テキストの一部、アカデミック・ライティング関係書籍(430日)。

宅配サービス
便利になったブリテンを象徴するようなサービスです。わたしたちは、町の中心部で静かで安全なところに住む(当然家賃は高い)ことにしましたので、基本的には、自家用車を持つ予定はありません。しかし、買い物には、自動車がないと少々大変です。そんなときに発見したのが、三大スーパーの一つが提供する宅配サービスです。豆乳、オレンジジュース、トマト缶、パスタ、ワイン、スパークリング・ミネラルウォーター、トイレットペーパ、ミツカン酢(!)など、保存が利くもので重いものを中心に、サービスを利用しています。
 時間帯と曜日によって配達料が異なりますが、一回に付き、約
46ポンドの間です。重さや注文金額による違いはありません。Web上で、発注・決済から配達時間の指定までできます。商品は店頭と同じ価格ですし、ポイントカードの会員には、配達料無料キャンペーンもしばしば行われます。
 生鮮食料品などは、妻と二人で店頭へ買いに出かけます。小さいお子さんがいて買い物時間が確保しにくいご家庭でも便利だと思います(427日)。

床屋のおやじさん
表通りから引っ込んだ処で営業している床屋さんへ行きます。もう6年以上前からの知り合いです。小さいころはアトピー性皮膚炎だったので、いまでも基本的には肌が弱いわたしですが、留学を始めたころは、水が合わなかったのか、皮膚のトラブルに悩まされるようになりました。そこで、1ヵ月後に短髪にし、今に至っています。
 ブリテンでは、ベッカムの影響か、短髪がかっこいい(cool!)とされているので、ブリテン人の友人たちには好評でしたが、日本人からは、同国人と認識されることは余りありません。さしずめアジアからの謎の留学僧(?)くらいに見えるのでしょう。ちょっとした変装のようで、人間観察には便利な風貌です。
 そんな髪型なので、バリカンで10分も刈れば十分ですが、この床屋のおやじさん、とにかくおしゃべりが好きなので、引き止めるかのように、わざわざ30分くらいかけてはさみで切ります。日本での行きつけの床屋さんもそうですが、客商売のせいか、人間観察や街の噂など、話題が非常に豊富なので飽きることはありません。彼もまた、変わり行くケンブリッジと変わらないケンブリッジとを見つめているようです。
 今年65歳になったおじさん、「仕事も好きだけど、妻と一緒にいるのはもっと好きだ」ということで、現在、午前中だけの営業です(426日)。

オープン・ガーデン(Corpus Christi College
4月最後の日曜日、前回のトリニティとは趣の異なる、コーパス・クリスティのオープン・ガーデンに行ってきました。今回開放されたのは、コーパスのフェローズ・ガーデンではなく、わたしたちの住居のすぐ横の、カレッジの宿舎の庭です。芝生と、英国風庭園が綺麗でした。あとは、最近はやっているナチュラル・ガーデンという芝刈りなどの手入れをしない庭がありました。植物の成長には最適なアジアの国から来たものとしては、雑草などを刈らなくてもジャングルのようになっていない様子から、厳しい北国の気候を感じさせます。ちょっと日差しの弱い日でした(424日)。

自学自習を支えるもの(3)
自学自習は、講義とチュートリアル(個人指導)とによって促進されます。講義は、その題目(paperと呼ばれる)に関する、より一般的な内容や学習の取っ掛かりを提供することに主眼が置かれています。ですから、50人前後の聴衆を相手に、50分一コマ(無駄話は一切ありません!)で、各学期に812回で構成されています。ちなみに、わたしが聴講した社会・政治学部、歴史学部、文学(英語学)部、神学部、古典学部などでは、レジュメなどが配られる講義は余りなく、講師が話す内容をひたすら筆記する形式でした。書いて覚えるような感じです。
 また上級生向けには、よりテーマが限定された特別講義と呼ばれる、日本のゼミのような少人数の授業(1020人前後)があります。講義形式は、書籍の精読、ディスカッションなど、多様です。
 以上の講義が、学部の責任において提供されるのに対して、チュートリアルは、学生が所属する各カレッジによって実施・運営されます。伝統的には、チュートリアルは、フェロー(教員)と学生の一対一で行われるものですが、教員一人当たりの学生数が増加したことなどにより、自然科学系を中心に教員一人に対して学生23人の少人数指導が行われる場合もあります。教員も学生も真剣勝負です。
 こうした人数の違いはあるものの、ひとりひとりが課題(エッセイ)を与えられ、それに対するコメントが教員からなされ、そして議論によって次の課題を設定するという点では共通しています。その過程で、アカデミック・ライティングの基本や論理的思考力、重要書籍の提示、資料操作の基本などが、実地に行われます。チュートリアルでは、能動的な姿勢が強く求められています。
 広範な知識の効率的な伝達を目指す講義と、講義で与えられた知識の運用を徒弟的に伝授するチュートリアルとが、学生の自学自習を支えています(419日)。

自学自習を支えるもの(2)
自学自習と、図書館の学習支援機能との連関について考えたいと思います。既に触れたように、学部生に対する一般的な学習支援は、各学部図書館が担いますので、蔵書は、教科書、基本書、学術雑誌、電子資料、専門書、レファレンスなどを中心に、開架図書として配置されています。つまり、いきなり高度な専門書から読むのではなく、書籍の読者レベルの想定にしたがって、初学者向けの書籍から中級、上級へと読み進める経路が、教員などの助言がなくても、わかるようになっています。これは、標準化・体系化しにくい分野の場合は、特に重要だと思われます。
 また、重要な書籍は、授業のためであれ自学自習のためであれ、図書館から借りて読むのが基本で、学生による購入を前提としていません。したがって、一人の学生が特定の書籍を長期間にわたって独占することは望ましくありませんので、貸し出し期間も比較的短期に設定されています。こうした制度設計は、かなり多くの文献を駆使しなければ合格できない学年末の論述試験を念頭に行われています。
 そのほか、日本の大学と比較して興味深いのは、過去の論述試験問題がファイルされて、自由に閲覧できる点です。つまり、該当分野で問われる要点は、形を変えて繰り返し出題されているのが、このファイルを閲覧するとはっきりとわかります。つまり、過去の問題の組織的公開は、資料読解力や論理的思考力をシビアに問う論述試験だからこそできることなのですが、当該分野の学習のコアがわかることで、自学自習のポイントも把握しやすくなります(417日)。



同僚との異国の地での会食
(1)
ケンブリッジに短期出張中の日本の同僚と私の妻の三人で、パプとギリシャ料理屋へ行きました。金融工学の有名な専門家である彼は、ケンブリッジ大学内に新しく出来たニュートン・インスティチュートでのセミナーへ参加するために1ヶ月くらいこちらに滞在しています。専門分野が非常に異なることもあって、忙しい京都ではゆっくりとお話しする機会がこれまでありませんでした。彼の留学時代の話や、生臭い(?)部局の話まで、いろいろとお話できて楽しかったです。他大学の研究者の場合もそうなのですが、日本ではなかなか知り合う機会のない異分野の専門家と知り合えるのも、在外研究の楽しみの一つです(414日)。



自学自習を支えるもの(1)
自分で課題を設定し、それを自力で解明・追及することが、だいたい、自学自習と呼ばれる標語の意味だと思います。しかし、それを大学教育の基本とする場合、教員による助言とセットで考える必要があるのではないでしょうか。もちろん助言の内容が、学生の思考力を涵養するよりもむしろ単なる解法や解答の提示であったり、その採用が学生の自主的な選択に委ねられていない場合は、それは助言の名に値しないと思います。つまり助言は、学生自身が納得したうえで、それを採用するかどうかを含めて、自由な選択のための提言です。そして助言はまた、学生自身が、思考能力やコミュニケーション能力、他者や異文化理解力などを涵養するためのひとつの例に過ぎません。
 しかし、その助言は、その分野の専門家としての教員の教育・研究活動から抽出したものですので、何でも自分流でおこなうよりは、焦点を絞った上で、効率的に課題を達成するひとつの道案内ともなり得ます。ですから、いたずらに時間と労力を浪費するよりも、ちょうど教科書などで練習問題を解く前に例題の解法を参照するのと同様に、自分の思考力などを涵養するための「きっかけ」や「一つの解答方法」として利用するのが良いのではないかと思います。
 もちろん大学は、学生の自主的な知的活動の場所を提供するだけでよいとする考え方もあると思います。わたしはこのような意見を排除しませんが、上記のような助言の条件を満たした上で、つまり、学生自身の自主性に配慮しつつ助言を示した上で、彼ら自身の知的活動の場所を提供するべきだと思います。
 以上のような問題意識を持って、ケンブリッジ大学における、自学自習を支え促進する様々なシステムに注目してみようと思います(413日)。



図書館の役割(2)

この国では、図書館の司書(research librarian)は、各自が専門分野を持つ研究者です。博士号を持つ人も少なくありません。したがって、彼らが提供するレファレンス・サービスは非常に充実しています。特に、附属図書館では、貸し出しなどの単純業務は、基本的には、非常勤職員か学生バイトによって担われ、研究支援活動を中核に置いた人材の効率的配置が追求されています。もちろん単純業務の効率に、全く問題がないといえばうそになりますが、研究のための図書館という方針は明確だといえます。日本の大学院大学も、このような図書館体制から学ぶことが多そうです(412日)。

図書館の役割(1)
ケンブリッジ大学には、三種類の図書館があります。附属図書館(UL)と、各学部図書館、そして各カレッジ図書館です。それぞれは、異なる目的や利用想定者を持ち、この大学の学生・院生、研究者の活動を、相互補完的に支えています。
 まずULは、ブリテンの6つの納本図書館copy right libraryのひとつとして、全ての出版物を受け入れています。主たる利用者は、教員・研究者、訪問研究員、院生、そして許可を受けた最終学年の学部生のみです。基本的には、研究のための図書館として位置づけられていますので、図書の配置も専門家向けで、慣れるまでは使いにくいかもしれません。
 次に、各学部が設置する学部図書館があります。ここでは主として、学部生を対象とし、日本の大学図書館で言うところの参考図書、講義課目が指定する教科書や参考図書、そして論述試験の過去の問題などを提供しています。試験前には、多くの学部生が必死に勉強する姿を見ることが出来ます。また、以上のような学習支援的機能を主とするので、貸し出しにも一工夫され、多くの人が利用できるようになっています。非常に重要な基本書は、当日中のみの貸し出しか週末だけの貸し出し(short loan)だけであり、多くの学生が利用できるように配慮されています。それ以外の図書は、2週間くらいを上限に各図書館で決められています。基本的には所属の学部の図書館を利用しますが、他学部の図書館も、同様の手続きで簡単に図書を借りることが出来ます。また附属図書館で発行された図書カードがそのまま使えます。
 最後に、各カレッジの図書館ですが、利用は、それぞれのカレッジの構成員に限られます。閲覧だけでしたら、所属カレッジ以外のカレッジ図書館の利用も可能ですが、事前に先方の許可を得る必要があります。ここも、試験前には、学部生で溢れかえります。
 それぞれが独立した組織ですので、重要な図書は、重複して所蔵していますので、利用者は、欲しい書籍が貸し出し中の場合、別の図書館にあれば利用することが出来ます。
 ケンブリッジにおける附属図書館と学部図書館の関係は、研究と教育のそれぞれを支援する仕組みとして、日本の大学も参考にできるのではないでしょうか(411日)。



余暇の楽しみ方(1)
在外研究を無事に過ごすためには、研究以外の活動も重要になります。特に、定期的な運動や気分転換が必要になります。ケンブリッジには、市立のプールや運動施設といったハードだけでなく、運動教室なども非常にたくさん開設されています。
 パークサイド・プールは、便利な市の中心部にあります。各種の請求書や賃貸契約書など住所を証明できるものを持参すれば、会員になれます。会員は、利用料金が安くなりますので、年間を通して利用する場合はお得です。場所などは、以下を参照:http://www.cambridge.gov.uk/ccm/navigation/leisure-and-culture/swimming-pools/#parkside
 また、家族が図書館を利用したい場合は、ケンブリッジ州の図書館が市内数箇所にあり、これも住所を証明するものとパスポートを持参すれば、その場で利用証を発行してくれます。CDやDVDなどもあります。市の中心部のCambridge Central Libraryは便利なところにあります。詳細は、以下を参照:http://www.cambridgeshire.gov.uk/leisure/libraries/ (410日)。

ロイヤル・ウェディング
コンウォール公爵(チャールズ皇太子)とカミラさんの結婚式がありました。なぜこのように書くのかといえば、公式には、チャールズさんは、皇太子という地位についている公人としてではなく、保有している複数の爵位の中の一つであるコンウォール公爵として結婚したので、カミラさんは皇太子妃とはなりません。したがって、彼女は、夫が国王になったときも、女王(=国王妃)とはならず、コンウォール公爵夫人と呼ばれる予定です。これは、亡くなったダイアナさんへの国民の愛着などの世論に配慮した措置です。ちょっとややこしいですが、複数の爵位を持つブリテン貴族や王族が結婚するときにはありうる出来事です。
 しかし国民は余り興味がないようで、式の様子を放送していた番組の視聴率は、同じ時間帯に放送された長寿番組のそれに及ばなかったそうです。世論を無視できない将来の国王としては、嬉しい反面、難しい船出となりました(49日)。

法王の葬式
ローマでのヨハネ・パウロ二世の葬儀が行なわれました。新法王選出までの動向も詳細に報道されていましたが、葬儀の模様もまた、最初から最後まで放送されました。宗教の重みと役割について考えさせられました(48日)。


旧友との再会
今日は、知り合いのRegさんが拙宅へアフターヌーン・ティに来ます。彼とは、10年前に偶然知り合いになり、その後も交流が続いています。彼の職業は、キングス・カレッジのポーターです。ポーターという仕事は、オックスフォードとケンブリッジの両大学に特有の職業で、総合案内係 兼 窓口業務担当者のようなものです。かれらは、どのカレッジに入るときも必ず通過する正門の脇の事務所(ポーターズ・ロッジ)にいつもいます。困ったことがあれば、なんでも相談に乗ってくれます。またポーターズ・ロッジは、カレッジのあらゆる情報が集まる場所でもあります。つまり、ポーターさんは情報通であり、カレッジの縁の下の力持ちでもあります。
 もちろん自分が所属するカレッジとは違うカレッジのポーターさんと知り合いになることは余りありません。例えて言えば、経済学部の学生が、文学部の事務職員の方と知り合いになるようなものですから。
 ともかく不思議な縁で、自分の父親くらいの年齢のRegさんとは、家族ぐるみの交際が続いています。しかし彼は一昨年12月に、突然奥さんを亡くされ、いまは一人暮らしですが、以前と同じように、陽気な顔を見せてくれました。本来ならば、昨年4月には退職予定だった彼は、奥さんを亡くして、しばらく仕事を続けながら、これからどのように生活するかを考えるそうです。「仕事を続ければ学部生や、ヒロ(わたし)のような海外からの研究者とも話が出来るので、楽しいしね。」
 かつて日本のどこかのお役所が、独居老人宅に高速インターネットを引けば、孤独を癒せると技術偏愛的な夢想を掲げていましたが、他者とどのように関わるのかはそんなに簡単な問題ではないと改めて認識しました。
 「休みの日はどこかへいこうよ」という言葉を残して、かれはアフターヌーン・ティを後にしました。楽しくも考えさせられる午後のひと時でした(46日)。

 

Visiting Scholars Society
ケンブリッジ大学には、各国からの客員研究員などの社会生活をスムーズに始めるお手伝いをするボランティア団体があります。市内の観光ツアーの企画・実施だけでなく、コーヒー・モーニングという交流会の運営もしています。在外研究は長期間にわたりますので、配偶者や家族のメンタル・ケアも重要になりますので、同会のような組織は非常にありがたいですね。詳細は以下:http://www-accommodation.admin.cam.ac.uk/Content/Document.aspx?document_id=10
 コーヒー・モーニングは、基本的には学期中の毎週火曜日に、University Centreの一室で、紅茶などを飲みながら、地域の情報交換や、地元の人との交流、在外研究者の配偶者同士の交流などを目指して行なわれる気楽な会合です。特別な予約はいりませんので、決まった時刻にふらっと立ち寄ればOKです。この学期は26日から始まります。どんな出会いがあるのかを楽しみに、妻はその日を待っています(45日)。

平日の過ごし方
平日朝830から午後530分までは教育・研究をして週末は休憩するパターンは、日本でも基本的には維持する努力をしていましたが、忙しくなると、平日の労働時間は延び、週末も大学へ行くことになります。国立大学の法人化だけでなく、授業の準備や事務上の雑用、そして若手教員の特権(?)として、学生との様々な相談に付き合っていると、あっというまに平日の時間は過ぎてしまうからです。
 しかしこちらでは、旧ゼミ生や関係する院生とのメールでの相談や各種推薦状の作成などを除いて教育関係の仕事はありませんから、在外研究の課題の遂行に100%の時間を使うことができます。所属部局の皆さんのご協力により、非常に貴重な機会を頂いたと感謝の気持ちでいっぱいです。
 私の専門は、社会思想史という文献を使って研究する分野ですから、いまから300年以上前の貴重な書籍や、国内ではあまり使用できない二次文献などをめいっぱい使うこと、関連分野の研究者と議論をすること、そして思索を進めることが、研究の中心的活動になります。したがって、平日は、論文執筆時を除いて、図書館(UL)で過ごすことが多くなります。
 ULには、喫茶室もあり、簡単な昼食やスコーンなどがあります。わたしは昼食には一時帰宅しますが、昼食をここで採れば一日中図書館に篭ることも可能です(44日)。

オープン・ガーデン(Trinity College Fellows Garden
在外研究のリズムを保つために、平日は研究、週末は休憩を徹底しようと思っています。そこで今日(日曜日)は、豊かなカレッジの代表であるトリニティのフェローのための庭園へ妻と行きました。トリニティのフェローでもないのにどうして入れたのかといえば、普段は非公開の場所を入場料をとって公開し、その収益を福祉団体に寄付する催しがあるからです。非常に良いアイデアです。こういう形態以外にも、マラソンに出場して完走したら企業や個人から寄付を受け取り、それを寄付するものなどもあります。
 トリニティの庭園は、八重桜や山桜もあり、とても綺麗でした。こういった行事は、他のカレッジでも、一般の家庭でも、これから9月ごろまでに行なわれます。
 フェローズ・ガーデンというのは、そのカレッジの学生にも普段は公開されていない場所で、そのカレッジのフェローだけ(Aカレッジのフェローは、Bカレッジのフェローズ・ガーデンには勝手に入ることも出来ません。必ずBカレッジのフェローに招待される必要があります。)が利用することが出来ます。時には、成績優秀な学生も招待されて、フェローの野外パーティなども行なわれます。いわば秘密の花園です。
 以上のような、それ自体では金銭的利益とはならない、いわば<目に見える名誉>のために、学生たちは勉強に励みます。他にも学生を勉学にいざなう仕組みがいろいろとあります(43日)。

住宅の探し方(2)
賃貸契約で、特に注意が必要なことを、二つ追加。
 まず、特約条項がなければ、庭の管理、特に芝刈りは、借りた人の責任です。夏は、ほぼ毎日芝刈りをする必要があります。立ち木の管理については、大家さんと相談して行ないます。勝手に切るとトラブルになったりします。
 次に、窓磨きは、大家さんが手配し支払う場合と、大家さんが手配し借りた方が支払う場合、かりた方が手配し支払う場合などがあります。これも契約書に書かれている場合が多いので、注意が必要です。
 ごみ出しや家の概観・庭の手入れをいつもきちんとしておくことは、その地域の一員としての責務になります。「窓をどうしようと俺の勝手やろ」という論理は通用しません(4月2日)。

住宅の探し方(1)
10年続く労働党政権の下での住宅バブルのため、不動産価格がかなり上昇しています。それに伴って、わたしのような在外研究の研究者が借りる物件も相当値上がりしています。15年くらいまでは、大学院生で奨学金をもらっている人は、ローンを組んで小さめのフラット(日本で言うマンション)を買って、45年後に博士課程を修了するときに売却するというパターンが存在しました。ストック経済だから可能となる生活術です。わたしが院生だったころでも、まだそういった住宅購入を行なう院生は、小数になりつつありましたがいました。しかし、いまは、ケンブリッジ郊外の住居でも、平均で、日本円で3000万円くらいになり、わたしたちのような一年の滞在者が支払う家賃も、20万円くらい支払わないと、治安や利便性が十分に確保された住居に住むのが難しくなりました。
 異国での賃貸契約では、家賃だけでなく、日本の賃貸慣行と異なる点を十分承知していないとトラブルの元となります。特に英国では以下の点に注意が必要です。まず、カウンシル・タックスとよばれる住民税は、特段の取り決めがない限り、賃貸物件の場合も所有者ではなく借りる当人が支払う必要があります。金額は、在外研究者が借りるような3ベッド・ルームのフラットや一軒家であれば、月に100ポンドから150ポンドくらいです。毎年の物価上昇相当分は値上がりします。ですから、家賃+カウンシル・タックスが、住居費となります。ケンブリッジでのカウンシル・タックスの支払いは、Webからも出来ます(https://www.e-paycapita.com/cambridge/)。但し、クレジット・カード払いの場合は、2.5%の手数料が上乗せされます。
 次に、賃貸契約は、期間を決めて結ばれますが、基本的には、契約満了までの中途解約はできません。厳密に言えば、中途解約の場合は、終期までの家賃を支払う必要があります。例えば、200510月末までの契約の場合、8月末で退去する場合でも、910月分の家賃を支払わなければなりません。一ヶ月前に通告すれば中途解約できる日本の契約とは異なります。これもしっかりと契約時に納得の上サインする必要があります。
 あとは、賃貸条件の内容によりますが、furnishedと記載されている物件は、日本で言う「居抜き」で借りることになります。つまり、家具やその他の調度品、食器などを込みで借りるということです。この場合は、Inventory Checkという備品一覧書に基づく確認作業を契約時に行ないます。もしも退去時にこの一覧に記載された備品を紛失・破損していた場合、弁償する必要があります。もちろん、確認作業をきちんと行なわないと、もともとなかったものを弁償させられるということもおこります。
 最後に、どこで賃貸物件を紹介してもらうかです。ケンブリッジで物件を借りる場合は、大学のアコモデーション・サービス(http://www-accommodation.admin.cam.ac.uk/)で紹介してもらうのが、最もトラブルが少ないと思います。この場合、民間の大家さんの物件の紹介(仲介)の場合と、大学が所有する物件の紹介(大学が契約の一方の当事者)があります。経験上、日本人は綺麗に使ってくれるということで、日本人大歓迎の大家さんもいます。そういう物件には、これまでの日本人が残していった備品(炊飯器や和風の食器など)がある場合が多いので、海外生活が不安な方には特に便利だと思います。
 この紹介サービスは、在外研究を始める前からでも、登録の上、利用することが出来ます。しかし多くの方は、土地勘がないことなどから、こちらにきて最初の一ヶ月くらいはホテルなどに住んで、その間に紹介物件を内覧して契約します。ちなみにうちの場合は、土地勘もあり大体知っている物件だったので、事前契約をし、ケンブリッジ到着と同時に、現在の住居に済み始めました。
 これ以外に有益なのは、民間の賃貸物件ポータルサイト:http://property.cambridge-news.co.uk/agencies/residential.aspx です。賃貸物件の最新情報は、http://property.cambridge-news.co.uk/ などから得られます。
 ともかく、長期間過ごす家ですので、必要であれば辞書を使って、契約内容を十分理解した上で、賃貸契約を結ぶ必要があります(42日)。

大学とカレッジ(1)
ケンブリッジ大学は、31のカレッジ群から構成され、それぞれのカレッジは、固有のスタッフをもつ教育・研究のための独立経営体=事業体です。当然ですが、それぞれの歴史的経緯や財政状態、アドミッション・ポリシーなどによって、雰囲気、有名な学問分野、留学生比率など様々です。特に、学部生の場合は、どこの学部で勉強したかだけではなく、どこのカレッジに所属していたのかも重要です。
 カレッジは、その独自の財源によって、フェローと呼ばれる教員・研究者を雇用して、チュートリアルと呼ばれる個人指導(分野によっては少人数指導)を提供します。そして学生はその指導を元に学年末の3時間にも及ぶ論述試験に臨みます。各学部はいわゆる講義を提供しますが、上記の論述試験のためには、どのような質・量のチュートリアルが提供されるかがより重要になります。ですから、学年末の成績発表は、個人の到達点だけでなく、カレッジの(チュートリアルに対する)成績でもあるのです。毎年、6月ごろには、「経済学は××カレッジが一番になった」とか、「○○カレッジは、歴史学はいつもびりだ」などの会話が、大学のあちこちで交わされます。
 以上のような教育・研究上の重要性を持つカレッジは、独自の財産を持つ法人でもあります。豊かなカレッジは、固有の農場を持ち農業収入を得たり、貸しフラット(日本で言うマンション)や借地料などの不動産収入が莫大です。当然、その豊かさは、学生向けの様々な福利厚生の水準だけでなく、フェローの待遇にも影響します。
 ケンブリッジの豊かなカレッジの代表は、ニュートン、ケインズ、チャールズ皇太子などを輩出したトリニティ・カレッジです(41日)。

メモ:大学カード受領。

自己紹介
このところ、大学でもご近所でも、自己紹介の機会が多いです。効果的に自分とは何者なのかを短く簡潔に伝えるのは、英語でなくともやはり難しいです。これに関して、ジョンの人柄を表すエピソードを思い出しました。
 6年前、新入大学院生の歓迎会に参加した私は、政治学を専攻するつもりの英国人学生と話をしていたところへ、ジョンが現れました。3人とも名のった後で、わたしたちがそれぞれの自己紹介を終え、その英国人学生が、「あなたは何を研究しているのですか?」とジョンに聞きました。わたしは、政治学を勉強しようとする院生がジョン・ダンと聴いてぴんと来ないことに驚きつつも、かれがどのように応えるのか非常に興味がありました。すると、「ええと、ジョン・ロックという17世紀の思想家についての研究、ううん、最近はたいしたことはしてないな、あとは現代の民主主義論などの政治哲学的話題について考えています」と、非常に嬉しそうに、かつ、はにかんだ様に説明しました。
 「わしのことを知らんのか?」というような反応や、新参者しか自己紹介をしないことが多い国から来た学生としては、知らないから自己紹介するという当たり前のことを楽しそうにおこなう大研究者の姿に、より尊敬の念をもった夕べでした(331日)。

メモ:初期パスワード(電子メール)受領

「ジョンです」
ジョンという名前は、この国では最も多い名前の一つなのですが、私の周りには、SPS事務員のジョンさん(既に退職)と、もうひとりのジョンさん、ロック研究や民主主義論で世界的に有名なジョン・ダンさんがいるだけです。ここでの話は、私の指導教員だった、後者のジョンさんについてです。最初は、自分の父親くらいの、それも有名な研究者をファースト・ネームで呼ぶのは気が引けましたが、出会って2ヶ月くらいして、「これからはジョンと呼んでもいいですか?」と直接聞いたところ、嬉しそうな顔をして、「それは非常に良い習慣だよね」と、他人事のように話す英国風の言い方で応答してくれたことを思い出します。
 そんなジョンに挨拶するための面会予約と、以前のメールアドレスを使用していることを知らせるメールを出しました。返事はすぐに来たのですが、非常に忙しいので、4月に入ってからの方が都合が良いとのことでした。わたしの身分は訪問研究員であって、研究指導を受ける院生ではありませんので、時間が出来たときに会えるので十分だと返信しました。いまから面談するのが楽しみです。院生時代に、彼の所属するキングス・カレッジで、彼の好物のサーモン・サンドウィッチを食べながら歓談したことを思い出しました(330日)。

メモ:フラット関係の使用者名変更(カウンシル・タックス、電話、電気)

挨拶と再会
こちらへ来た日は、イースターの連休の始まりの日でしたので、一年間お世話になる古巣の社会・政治学部(SPS)の事務室への挨拶は、4日後の329日となりました。事務長さんと話していると、「その声はヒロ(私はそう呼ばれていました)でしょ!」と隣の部屋から懐かしい顔が飛び出しました。当時、大学院担当の事務職員だったシルヴァーナさんです。
 彼女は、わたしがケンブリッジを離れた直後に別の職場へ移動していたのですが、昨年秋に、学部が3学科制化されたのに合わせて、大学院・学部の教務事項の責任者として、再びもとの職場へ戻っていました。その後は、彼女の部屋で、この3年間の出来事などを話しながら、コンピュータ・ルームの入室パスワード、図書館カードの申請のための添え状の作成、大学カードの発行手続き(後日郵送)などを行なってもらいました。
 一緒に部屋を出て、この3年間に部屋の位置が変わったことなどを彼女は説明してくれました。時間があるときにそれぞれの配偶者ともども夕食でもなどと話しながら、残る手続きのためにSPSの建物を出ました。あとは、コンピュータ・ラボへいって、電子メールの再開(以前のアドレスがそのまま使えます)手続きと、図書館(UL)へ行って面接を受けてカードを発行してもらうだけです。
 メールの初期パスワードの受け取りが明日であることを確認した後で、このところ厳格になっている出入管理のため、卒業生カード(大学カードでも可、わたしはまだ発行してもらっていないので)を示し、キングス・カレッジの中を横切って図書館へ向かいます。相変わらず丁寧に管理されている芝生の緑が鮮やかです。ケム川を渡って、ULのカード発行事務室へ直行です。面接では滞在期間や研究内容などについて申請書類を元に質問されます。担当者は、以前、日本に行った事があるとかで、浮世絵の話など雑談を少し楽しみました。以前は、時間がかかった図書館カードの発行も、デジタルカメラとパソコンのお陰で、その場で写真入のものが出来上がります。
 これで大体、昼食の時間なので、自宅に帰り、生活の方のセットアップをしなければなりません。落ち着くには、もう数日かかりそうです(329日)。

メモ:電子メール(コンピュータ・ラボ)、大学カード(DAMP)、図書館カード(UL)



ローマ法王の死
日本人にもなじみの深いヨハネ・パウロ二世が死去しました。その入院生活については、かつて昭和天皇が亡くなる直前の報道のように、毎日の状態についての詳しい報道がされました。改めて、法王のキリスト教世界での重要性を再認識させられる思いです。当日は、カトリック教会だけでなく英国国教会も哀悼の意を表していました。知人は、ローマでの葬儀へ参加する準備を始めていました(328日)。



こんにちは、ケンブリッジ!

2005年3月末から、一年間、在外研究でケンブリッジに来ています。しかし実感としては、「戻ってきている」感じです。というのは、3年前まではこちらの院生として生活していたからです。3年間というのは意外に短いようにも感じますが、長いようでもあります。変わり行くケンブリッジと変わらないケンブリッジの双方について、在外生活の備忘録として、これから一年間の生活を残そうと思います(2005325日)。

メモ:SPS訪問研究員申請書類書+推薦状(SPS教員・研究員による)、ベンチ・フィー600ポンド(20045年、一ヵ年)、賃貸借契約。