imagine cup日本大会 ソフトウェア・デザイン部門

imagine cup日本大会ソフトウェア・デザイン部門(2010年3月9日 東京大学工学部2号館)に審査委員として参加した。その感想についてTwitterでつぶやいたのでそれを以下にまとめた。

公式ホームページ→ http://www.microsoft.com/japan/academic/imaginecup/2010/default.mspx

今回のimagine cup日本大会ソフトウェア・デザイン部門についての講評をつぶやこう。(1)全体のレベルが高いか低いかの判定は基準をどこに置くかという問題でもあるのでわからないが、昨年も関わった先生は昨年よりも進歩したと評価。 #imaginecupj

(2)今回のテーマは「テクノロジーを活用して、世界の社会問題を解決しよう」で、具体的には国連の「8つのミレニアム開発目標」に貢献すること。だから突き詰めれば、社会問題を解決できるリアリティと技術的に実装・運用できるリアリティが評価ポイント。

(3)こういうグローバルな社会問題をテーマにするというのは、マイクロソフト社のCSR事業であり、これを通じて学生たちが技術力を伸ばすとともに社会問題にコミットする姿勢を打ち出すというのは、それ自体未来を担う若者づくり(社会貢献)である。

(4)とても残念だがしかし日本社会の状況からして仕方がないことであるのが、日本の若者は総じて「内向き」であること。その意味で、本事業でグローバル社会問題にコミットするという挑戦の機会を日本の若者に与えるのは、独自の意義がある。

(5)プレゼンはビジュアルはわかりやすいものであり、トークも明確であった。しかし、社会問題の定義とソリューションの説明にとどまり、技術的説明や運用等の特徴などの説明が欠けていた。ソフトウェア・デザインという意味ではその点も不可欠。

(6)優勝は筑波大学附属駒場中高等学校のPAKENの提案した「Bazzaruino」。おめでとう。最年少中学校3年生がメンバーの一人。プレゼンをカンペもほとんど見ずに堂々としたのも彼 @CanI_61st だ。

(7)PAKENの提案はいわゆるWeb2.0、ソーシャルメディア的であるという意味で、もっとも今日的で社会問題解決のリアリティを感じた。つまり海外物資支援を旅行者が協力して運ぶというもの。旅の宿を相互提供するものと発想は同じ。

(8)PAKENのプレゼンではそのためのプラットフォームを提供するということで、特に輸送問題の最適化をLPで解くということが目玉。でも最適化が課題であるという認識は間違ってる。ソーシャルな信頼がいかに生まれるかが本当の課題。

(9)PAKENはSilverlightを使って旅行者の登録をデモ。さらに実演デモをやっていて良かった。だが、そこでは旅行者の動きにしか注目できていなかった。送り手と受け手のNPOの視点が欠如していた。

(10)PAKENの提案は現行法等のもとではあくまでも個人旅行者の自己責任で輸送するしかない。自分の荷物だということでしから処理できない。であれば送り手ー旅行者ー受け手の間で間違いなく輸送されるという認証の仕組みが安全性の確保には不可欠。

(11)PAKEN:確実に送り手の物資が受け手にわたる、違法なものが含まれていない、などが「見える化」するシステムを実装するプラットフォームの提供で、送り手、受け手、旅行者が信頼して使えるようにする必要がある。これが世界大会への課題。

(12)PAKEN:その上でステップ1、個人の善意による海外物資輸送が広がれば、ステップ2、後からそれを評価し、国内法・国際法の整備、航空会社の協力等がすすむことが期待される。そういうロードマップを示せばいい。個人が社会を変える!

(13)第2位は、同志社大学AI3の「NEREID」。水問題を解決するボール状のハードを含むソリューションを提案。技術的にはよく考えられたシステムだという評価も審査委員の中からあった。水の探索と運搬を自律的制御でこのボールが実行。

(14)AI3の提案の最大の欠陥は、これが本当に水不足、水運搬で苦しむ人々の解決につながるかというリアリティで、ボールなのでフラットなフィールドでしか使えない。坂や山、川、谷、森などでは運行不可。これでは水探索・運搬いずれでも使える場所が限定的。

(15)AI3の提案は、さらにもしフラットなフィールドなら一台の車を用意した方が集落全員の水を一挙に確保できるので、8リットルしか運搬できないボールを運用するメリットが見えない。つまり水問題の解決に貢献するのかという根本問題。

(16)AI3の提案は、したがって逆に水不足問題で苦しむエリアの状況をさらに調べ、世界の何パーセントの人々をこの提案で救うのか、そういうリアリティを持った提案であればその有効性は限定的だが意義あるものとして評価されただろう。

(17)第3位は、同志社大学NISLab#の「EduCycle」。昨年の企画を継承。初等教育の改善のために教科書不足、教員のスキル不足を解決するために、世界中の教科書を集め翻訳、教員の授業ビデオを登録し翻訳キャプション。

(18)NISLab#の提案は、初等教育の問題を解決しない。教科書はあるけどお金がなくて一人ひとりに配布できないところに、世界中の教科書を集めて意味があるのか。教員を指導する優れた教員指導者なしに授業ビデオの共有で教員は育つのか。

(19)第4位は、福島工業高等専門学校Growingの「TERAKOYA Net」。識字率問題の解決のために、日本の江戸時代の識字率の高さを実現した「寺子屋」に注目してそれをネットで展開というもので、民間の教え手を支援するのがねらい。

(20)Growingの提案はユネスコの「世界寺子屋運動」を参考にしているが、この運動の趣旨、現状と課題をふまえて、なにが問題でなにが貢献できるのかが不明。すでにある学習支援システムとなんら変わらない。教育の課題がどこにあるのかの掘り下げが弱い。

(21)審査基準「問題定義」。すべてはここから始まる。ぜひ社会問題の本やドキュメンタリー、あるいは当事者と会って話をする、海外訪問調査など、ここを分析的に掘り下げ、エモーショナルでも感じることが出発点。コンシューマー・インサイトと同じ。

(22)審査基準「ソリューションデザインおよび革新性」。実際に解決できるのかそのリアリティと革新性を評価する。まさにこれが最大の成果指標。問題が解けていない提案に価値はない。革新性とは新技術だけでなく、新アイデア、既存技術の新結合など。

(23)審査喜寿「議受的アーキテクチャおよびユーザーエクスペリエンス」。技術的な筋の良さ、拡張性、トラブル対応性、ユーザーフレンドリ、使い手にとって魅力的か、という評価。技術で解決するのだから技術レベルでも高いものが求められる。

(24)審査基準「ビジネス実現性」。技術的なだけでなく経済的実現可能性や商業可能性をみる。社会的に支持されなければ実現しないので、その仕掛けをどう組み込むか。しかし本当に社会問題解決に有効なら政府、ファンド等が動くはず。そこが最大のカギ。

(25)審査基準「プレゼンテーション」。絵がきれいなだけではダメ。必要な内容を網羅しているかどうかが最重要。そして観客との息の合わせ方と質問への回答。技術・スキルではなく、自分たちの企画の趣旨を伝えるために最良の方法を探究すべき。

(26)マイクロソフトのみなさん、このような審査の機会をいただきありがとうございました。参加チームのみなさん、ぜひ相互にフィードバックをしてください。そしてPAKENは日本代表としてベストを尽くしポーランド世界大会に参加してください!

(27)僕の講評のポイントは世界にアピールできる「筋の良さ=のびしろ」に注目していて、現時点での完成度では評価していない。それはこれからの3ヶ月で頑張ってほしい。

(28)しかしまあ、マーケティング研究者がソフトウェア・デザイン部門の審査をしていいのかどうか、という審査員適格性についてはよくわからない。僕の講評はこうだということ。ソフトの実装設計図は詳しくなくて今回は正直のところよくわからんかった。

(29)世界大会に向けての課題は何か?1)社会問題を解決できるというソリューションの具体性・革新性・実現性をどれだけアピールできるか。2)社会問題の分析・定義のシャープであること。3)技術システムの全体像や工夫した点、運用等の説明。

(30)世界大会に向けてのプレゼンでは1)結局伝えたいことは何かの整理がすべて、2)それが多様な文化、価値観の若者や審査員に伝わる工夫、3)ユーモアや楽しさ、の3点。プレゼンに正解はない。工夫あるのみ。

以上。

10/03/10 : Comment(0) : TrackBack(0)

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