京都大学大学院経済学研究科付属プロジェクトセンター

「経済動学研究プロジェクト(プロジェクトリーダー・佐々木啓明教授)」における研究成果の報告

2022年05月13日

「経済動学研究プロジェクト(プロジェクトリーダー・佐々木啓明教授)」における研究成果の報告

 

「経済動学研究プロジェクト」の一環として,Springer社から出版されている国際学術誌 Evolutionary and Institutional Economics Review(EIER)において企画編集しました特集 Economic Dynamics: Growth, Capital, Labor, Technology, and Money が公刊されました.本特集は,現実の経済現象を的確に捉えた経済動学理論のモデル構築を目指す研究を行う10本の論文で構成されています.
「経済動学研究プロジェクト」は,経済学における学派の枠を超え,多様な学派のそれぞれ独自の経済理論の存在を前提として,経済理論および現実の経済社会を重視し,経済社会の本質を経済動学で科学的に解明することを目指すものです.
本特集は,古典派,新古典派,ケインズ派,ポスト・ケインズ派といった多様な学派の経済動学に関連する論文で構成された新たな試みを行う特集となっています.これまで,特定の学派の論文のみを集めた特集は数多くありましたが,特定のテーマについて多様な学派から多角的・多面的に検討した論文を集めた特集は数少ないと思います.本特集の趣旨に賛同いただいた幅広い知見を持っておられる投稿者の皆様のご協力のおかげで,多様な学派から経済動学に関して論じた新たな特集の試みを実現することができました.本特集を通読していただけましたら,多様な学派のそれぞれ独自の視点から多角的・多面的に経済社会をみることができる構成となっていますので,是非お読みください.
経済学において,それぞれの学派はそれぞれに独自性を持ち,多様な学派は並存しています.しかし,近頃,経済理論の画一化や学派多様性の排除が進行しているように思われます.元来,経済学は,特定の学派や偏った見方に囚われることなく,多様な学派のそれぞれ独自の視点から,ありのままに経済社会を分析することによって,経済社会の本質を科学的に追究し,我々に気付きを与えてきました.しかし,学術の場で研究内容そのものを議論することが学術の論争であるにもかかわらず,経済学が始まって以来続けられてきた誠実な姿勢での学術的議論は,1950年代から1960年代の「ケンブリッジ資本論争」を最後として途絶えているように思います.経済学において学術的論証なき批判は意味をなさず,この論争のように,学術の場で様々な学派が互いに誠実に向き合って経済理論の中身を議論していく健全性を取り戻すべきです.そして,偏った主観的姿勢は科学ではなく,科学は本質を追究するものであり,学派多様性を尊重する公正な学術的精神が科学としての経済学を発展させます.多様な学派の多角的・多面的視点で構成された本特集が,他学派理解や学派多様性尊重の下で公正に経済社会の本質を科学的に追究する本来の経済学のあり方を取り戻し発展させる必要があるとの問いかけとなりましたら幸いです.
 
【特集題目・掲載誌】
Special feature: economic dynamics—growth, capital, labor, technology, and money Evolutionary and Institutional Economics Review, Vo. 19, No. 1, 2022.
 
https://link.springer.com/journal/40844/volumes-and-issues/19-1
 

【著者・論文題目一覧(特集掲載順)】
1. Preface, “Special feature: economic dynamics—growth, capital, labor, technology, and money” by Hiroaki Sasaki
2. “Stone–Geary type preferences and the long-run labor supply” by Tamotsu Nakamura
3. “Inequality and institutional quality in a growth model” by Takuma Kunieda and Masashi Takahashi
4. “Growth and income distribution in an economy with dynasties and overlapping generations” by Hiroaki Sasaki
5. “A two-class economy from the multi-sectoral perspective: the controversy between Pasinetti and Meade–Hahn–Samuelson–Modigliani revisited” by Kazuhiro Kurose
6. “Measuring the shift in the short-run production frontier” by Hideyuki Mizobuchi
7. “Capital-labor conflict in the Harrodian model” by Takashi Ohno
8. “Alternative monetary policy rules and expectational consistency” by Carlos Eduardo Iwai Drumond, Cleiton Silva de Jesus, João Basilio Pereima, and Hiroyuki Yoshida
9. “Keynesian and classical theories: static and dynamic perspectives” by Hiroki Murakami
10. “Numerical analysis of the disequilibrium monetary growth model: secular stagnation, slow convergence, and cyclical fluctuations” by Shogo Ogawa and Hiroaki Sasaki
11. “Purchase of government bonds by a supranational central bank: its impact on business cycles” by Masato Nakao and Toichiro Asada

 

 

 

 

 

 

 

 

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