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コラム連載 想定外のブラックアウトに関する海外の見方

想定外のブラックアウトに関する海外の見方

2018年11月8日 内藤克彦 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 基幹発電所の直下で起こった地震に伴い、北海道でブラックアウトが発生したことに伴い様々な議論が起こっている。最近聞いた話によると豪州の電力会社でも北海道のブラックアウトは大きな話題になっているそうで、現地の日本人は、その理由を良く聞かれるそうである。豪州の電力会社の認識では、北海道電力管内には風力発電が多数立地しており、しかも、北海道電力の政策で蓄電池もかなり導入されているのになぜブラックアウトになったのか理解できないとのことである。私が別途聞いた情報によると、北海道に最近立地した蓄電池付のメガソ-ラ-に対して、地震直後の最初の段階で、解列指示が出されたようである。北海道電力は、扱いの面倒な変動電源を真っ先に解列したうえで、需給バランスの維持を図ろうとしたように見受けられる。豪州の電力グリッドには、米国と同様なグリッドオペレ-ションソフトが持ち込まれており、先進国の標準的なグリッドオペレ-ションが行われている。ここでは、グリッドの結節点毎のバランシングを考慮して、様々な分散電源を活用するような需給調整が行われている。いわば、分散電源対応のグリッドオペレ-ションが行われているわけである。豪州の電力会社の先の疑問は、先進国で当然行われているはずの欧米型のグリッドオペレ-ションを前提とすれば、多数の風力発電等が分散立地している北海道でブラックアウトが起こるはずがないという彼らの常識に基づき発せられたものであろう。ところが、実際に行われたオペレ-ションでは、真っ先に再エネを解列する指示が出されていたわけである。これは、我が国のオペレ-ションが先進国としては唯一依然として20年前の水準の中央集権型のオペレ-ションを行っていることに依るのではないかと推察される。ブラックアウトに再エネは役に立たなかったという議論もあるようであるが、役立てる術を知らなかったから真っ先に解列したという方が当たっていよう。

 確かに、幾ばくかの蓄電池があるからと言って、大量の変動電源だけ残されたグリッドのバランシングを行うのは、水力の残存を前提にしても困難なオペレ-ションであるかもしれない。それでは、我が国にはなぜ調整に用いることができる中小の電源がないのであろうか。欧米では、大型の発電所の他に多数のコ-ジェネレ-ションの施設があり、これらの万遍なく分散した電源を調整力として使用することができる。翻って我が国の場合は、どうであろうか。

 コ-ジェネレ-ションの我が国における苦難の歴史を知っている者にとってはその理由は手に取るように理解できよう。俗に「コ-ジェネ戦争」と言われたコ-ジェネレ-ション推進派と某業界との間の数十年にわたる争いにより、我が国においては、大きな熱需要の見込める大都市域の一部を除いてコ-ジェネレ-ションは、欧米のようには普及していない。確認はしていないが、欧米では、恐らく多くの地方都市に中心となるコ-ジェネレ-ション施設がありそうである。このような施設が電力が不足し電力市場価格が高い時にはフル稼働で発電を行い、電力が余って電力市場価格が低下している時には発電はせずに熱水タンクに熱供給用の熱を貯蔵するのにエネルギ-を用いるという運用を行っている。北海道のような寒冷地では、かなりの熱需要があるので、本来は欧米並みにコ-ジェネレ-ションが普及していても良いはずであるが、コ-ジェネレ-ションに取って不利な我が国の系統接続の制度のために、今日まで大きく普及せずに来たというのが実態であろう。我が国においては、自社施設以外の周辺の他者にコ-ジェネレ-ション施設から電力を供給しようとすると特定供給の制度により、特定供給区域内でのバランシングを求められるために、区域内の需要ピ-クに合わせて発電設備を整備する必要がある。このため、設備投資が過剰となり多くのケ-スでコ-ジェネレ-ションによる地域電力供給はペイしなくなる。我が国の場合、このように調整力が足りないというよりは、むしろ某業界が長年展開してきた「コ-ジェネ戦争」が、調整力の成長を妨げてきたとも言えるかも知れない。

 欧米において、コ-ジェネレ-ションと並んで最近にわかに調整力として期待され始めたものに北海道でも積極的に導入されている蓄電池や電気自動車がある。欧米においては、既にこれらを調整力として利用できるように制度が整備され、グリッドに接続された蓄電池は発電施設と同様にグリッドを通して電力市場に参加できるようになっているし、VtoG(電気自動車→電力系統への放電)等も実現している。これらの蓄電キャパシティは、先のコ-ジェネレ-ション施設と同様に、電力が不足し電力市場価格が高い時にはグリッドに対して放電を行い、電力が余って電力市場価格が低下している時にはグリッドから充電するという運用を行うことができる。このようなメカニズムにより、調整力として機能するわけである。

 こちらの方は、我が国ではどのようになっているのであろうか。実は、我が国では、依然として蓄電池や電気自動車から系統への放電は認められていない。最近、漸くVtoH(電気自動車→家庭内配線への放電)までは出来るようになったが、これも家を系統から遮断したうえで蓄電池やEVから電力を家に供給するもので、電力系統と蓄電池やEVとの接続の関係は、家電製品と同様の「負荷としての接続」の範囲でしか我が国では認められていない。北海道の蓄電池も「発電所付属」の蓄電池が推奨されているだけで、一般の蓄電池やEVが単独で欧米のように系統に直接接続できるわけではない。これでは、欧米のように調整力としてフルに活用することはできない。ここにおいても、グリッドへの調整力の接続を排除していることになる。

 我が国では、良く変動電源を接続するには調整力が不足しているという議論が行われているが、欧米のように電力会社を跨る広域調整により調整力を確保するという議論の以前に、電力会社管内の中小の分散調整力の立地を種々の方法で抑制してきた歴史が今も続いていることを指摘しておきたい。これらの中小分散型の調整力をうまく管理するためには、豪州電力会社が常識として疑わなかった欧米型のグリッドオペレ-ションシステムの存在が前提になるのかもしれないが、それにしても片手で調整力の立地を抑制しながら他方の手で調整力が足りないから変動電源の接続は困難とするのは、米国FERCならずとも公正・公平性に疑問を呈せざるを得ない。

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