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コラム連載 【九州電力による太陽光の出力抑制で考えること】

【九州電力による太陽光の出力抑制で考えること】

2018年11月15日 竹内敬二 エネルギー戦略研究所(株)シニアフェロー

 今年10月から11月にかけ、九州電力管内で、一部の太陽光発電の電気を送電線に受け入れない(買わない)「出力抑制」が行われた。風力発電も少し対象になった。出力抑制は今後、ほかの電力会社に広がっていくのは間違いない。九電の経験から得るべき教訓は何か。

◇揚水、連系線はフル活動
 出力抑制をした日は、10月13、14、20、21日。11月3、4日。いずれも週末の土曜、日曜だ。11月3日は風力も加わった。一日の最大抑制出力は40万kW~100万kWほど。

 九州電力管内では太陽光発電の導入量が約800万kW(東電管内に次いで2位)もあり、晴天日にはピークで600万kWほどの太陽光発電が記録されるようになった。一方、春と秋の休日は電力需要のピークが700万~800万kWしかなく、今年5月3日には一時、太陽光発電が需要の81%にも達した。そこでついに太陽光の出力抑制をしなければ需給調整ができなくなったのである。

 供給が需要を上回った場合の需給調整は「優先給電ルール」に従って行われる。概略、次のような順番で規制される。

石炭火力など一部の火力発電所を絞る。
揚水発電所を使う。
地域間連系線(九電の場合は関門連系線)を使って域外(中国地方)に電気を流す。
バイオマス専焼火力の抑制
自然変動電源(太陽光、風力)を抑制する。
長周期固定電源(原子力、水力、地熱)の抑制。


 日本の特徴は、原子力が最も優先されるグループにあることだ。「最後に抑制される」となっているが、日本では原発が出力を落として運転されたことはない。巨大だが調整がきかない電源だ。

10月21日(日)需給実績

 九電がどんな需給調整を行ったかは、10月21日の正午前後の需給をあらわした表(添付資料)で分かる。火力は発電が170万~180万kWになっている。これは相当に絞った結果だ。揚水発電所が180万~210万kW、関門連系線での外部への送電が約190万kW。揚水発電所の最大能力は200万kW余り、関門連系線のこの時期の運用容量は196万kWなので、両方とも、ほぼ目いっぱい使っている。ここまでしても太陽光発電を約90万kW絞らざるを得なかったということだ。

◇原発が増えて調整が難しくなった
 九州には特殊な事情がある。大手電力への電力の卸売りをしているJパワー(電源開発)が、長崎県内に松島、松浦という石炭火力発電所をもつ。合計で300万kW。Jパワーは九電、四国電力、中国電力と契約を結んで送電しているが、今回は90万kW~100万kWに絞った。契約分の電気は「九電が石炭火力ではなく、太陽光の電気に置き換えて」送ったという。
つまり、普段、連系線は主にこの松島、松浦からの外部への送電に使われているが、今回は緊急措置として、太陽光に譲ったということだろう。太陽光発電の抑制量の圧縮に向け、だれもが協力したということだ。

 そのうえで、改めて当日の発電電源をみると、原子力の大きさが目立つ。エリア(九電地域)需要が700万kW余りしかないところに、原発4基がフル運転で400万kWも発電している。

 実は九電管内の太陽光発電は、昨年も、天気のいい日は600万kWほど発電することがあったが、出力抑制はしなくて済んだ。今年は何が違うのかといえば、原発が4基動いていることだ。調整が効かない電源が増えて需給調整の柔軟性が失われ、太陽光が一部、追い出されたといえる。

◇関門連系線をもっと使えないか?
 需給調整に重要な関門連系線は、物理的には556万kWの電気を流すことができる。これを設備容量という。しかし、実際は、周波数への影響や、熱容量などほかの制約条件を考えたうえで、より小さな「運用容量」を決め、それで運用している。

 秋の九州⇒本州への運用容量は196万kW。もし関門連系線が切れると、本州側(中国電力側)からみると、200万kWの供給がへり、需要規模も一気に800万kWへるので、周波数の維持が難しくなる。したがって、196万kWは本州側の周波数制約からくる値。九州地域の電力需要が大きい夏や冬は熱容量制約で考える278万kWが運用容量になることがある。

 こうした制約は、運用容量をどう設定するかで計算が変わってくる。どこまでリスクを負うかを変えてルールも変えれば運用容量も変わる。

◇日ごろから電力会社の枠を超えて広域融通する
 再エネ先進国の欧州では出力抑制は日常的に行われている。今は九州だけだが、再エネが増えるにしたがって、抑制は日本中に広がるだろう。できるだけ多くの再エネを導入し、できるだけ合理的に需給調整して抑制量を少なく抑えるようにするには、系統運用のやり方・制度を変えることが必要だろう。

そもそも日本は基本的に各電力会社管内で需給を合わせているので、調整の柔軟性に乏しい。欧州では隣のTSO(送電会社)の情報も得て、TSO間の融通も普段から行っている。今回のように「何かあったときだけ連系線をフルに使う」のではなく、連系線も常時フルに使って、日ごろから電力会社の枠を超える系統運用に変えなければならない。


当面は連系線の利用が非常に重要。もっと短時間ならば積極的に使う(運用容量を大きくする)ことも考える必要がある。リスク評価を変え、連系線をより積極的に使うような新しいルールをつくる。


今後、再エネが増えていけば、九州ではいずれ関門連系線の「細さ」がいずれネックになる。連系線の増強も考えるべきだ。


これまでの日本では、原発は「出力を変えることができない電源」だったが、フランスなどでは週末になると原発の出力を大きく落としている。需給調整の柔軟性を確保するため、原発の運転方法の見直しも議論すべきだろう。


抑制量を少なくするためには、将来は、「ディマンド・レスポンス」(DR)を積極的に使うことも考えたい。DRといえば、電力の供給が不足するときに、消費者が電力消費を控えることをイメージするが(下げDR)、逆の「上げDR」も重要。晴天で太陽光発電が多く、電気が余りそうなときに需要家が持つ蓄電池への充電を進めるような手法だ。


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