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コラム連載 10月15日の衝撃

10月15日の衝撃

2018年11月22日 山口祐一郎 日本政策投資銀行 企業金融第5部

 10月15日に経済産業省で開催された「第9回再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」に衝撃を受けた金融関係者は多かったのではないか。同委員会での提案内容は、新聞各紙でもそれなりに大きく取り上げられたものの、ファイナンス、就中プロジェクトファイナンス(以下「PF」)への影響に焦点を当てていたわけではないことから、本稿にて、短期的、中長期的なPFへの影響について考察してみたい。

 同委員会では、いくつかの提案がなされたが、PFへの影響が大きいのは、「太陽光発電の未稼働案件への対応」であった。以下にまずは経済産業省提案のポイントについて記載する。1

<提案のポイント>
1.施行日

  2019年4月1日
2.対象案件
  2012年度~2014年度に認定を受けた未稼働の事業用太陽光発電(10kW以上)案件
  (FIT価格40円、36円、32円案件)
  ※ただし運転開始期限(3年ルール)の適用案件を除く
3.措置の概要
基本的な考え方として「運転開始日時点のFIT価格を適用すべき」という発想に転換。ただし、
諸般の事情に配慮し、「事業者側の準備は全て整っていて、あとは送配電事業者に発電設備を系統に接続してもらい通電するだけという状況に至った時点」を基準(「基準時」)に、「当該時点の2年前に適用されていたFIT価格(※基準時が2019年度であれば、2017年度の21円/kWh)を適用」する(施行日前に基準時が到来した場合は、従来の価格が維持される)
「基準時」とは、事業者が、送配電事業者に対し、「系統連系工事の着工申込み」を行い、送配電事業者が当該申込みを不備なく受領(「着工申込みの受領」」した日とする
その上で、「基準時」から1年間(※施行日前に基準時を迎えた案件は、施行日から1年間)の運転開始期限を適用する


 若干わかりづらいので、FIT価格32円~40円の未稼働案件の、状況に応じた影響をまとめると、以下の通りとなる。
I.
施行日(2019年4月1日)までに「着工申込みの受領」がなされ、施行日から1年以内に運転開始に至った案件については従来のFIT価格が維持(影響なし)。

II.
施行日以降に「着工申込みの受領」がなされた案件については、着工申込み受領日から1年以内に運転開始となる前提で、着工申込み受領日の2年前のFIT価格(受領日が2019年度であれば、2017年度の21円/kWh)。

III.
上記に関わらず、なんらかの計画変更により「着工申込み」を再度行わざるを得ない場合、当該「新・着工申込み受領日」時点の2年前のFIT価格に変更


 従って、短期的なPFへの影響という観点では、例えば、すでにファイナンス組成済みで、建設工事中の案件が対象となる。これらの案件は、現時点でも相応の件数があるものと考えられるが、2019年度中の運転開始に間に合わない場合、もしくは今年度中に「着工申し込みの受領」がなされなかった場合(※)には、FIT価格がファインナンス組成のタイミングで想定していた32~40円から21円以下へと低下し得る。これは、事業者にとっては事業性の大幅な悪化にとどまらない。大抵のPFの融資契約には、FIT価格の変更自体が表明保証違反や貸付前提条件の未充足とみなす規程が入っているため、事業者は金融機関から資金実行を止められる、最悪の場合、期限の利益を剥奪され、デフォルト(債務不履行)状態に陥る可能性すらある。

 ※11月19日現在において、「着工申込み」に必要な要件の詳細は明らかになっていない。

 また、中長期的なPFに及ぼす影響という観点でポイントとなるのは、FIT価格の確定が保守的には運転開始のタイミングまで確定しないという点にある。従前、FIT価格は建設着工前に確定していたため、そのタイミングでのPFの組成が可能となっていた。しかしながら、上記「II」や「III」にあるとおり、今後は建設中の「計画変更」や、1年以上の工事遅延によりFIT価格は変更され得るわけで、結果的にもしPFでの資金調達を検討する場合、建設中は事業者の信用力による資金調達を行い、FIT価格が確定する運転開始のタイミングでようやくPFとして借り換える必要が生じる。

 これは、資金力のある事業者にとっては大きな問題にはならないかもしれないが、信用力の乏しい事業者については致命的であり、信用力の乏しい事業者が、今後大規模な太陽光案件を事業化するのは困難になる可能性がある。

 なお、本稿のテーマと直接関係ないが、実は資金力のある事業者にとっても、運転開始までFIT価格が固まらないのはやっかいな問題であり、今後は、「収益」ではなく、「再エネ電源の確保」を目的する事業者でない限り、太陽光発電事業は行えないということになる可能性もある。

 このように、10月15日の経済産業省提案は、金融関係者のみならず、太陽光発電事業全体のゲームチェンジャーにもなり得るわけで、本提案は現在11月21日〆切で意見公募手続の最中であるが、パブリックコメントへの回答とともに提示されるであろう改正案に注目である。

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