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コラム連載 揚水発電に積極的な支援を

揚水発電に積極的な支援を

2019年1月17日 長山浩章 京都大学国際高等教育院教授

 2018年12月26日に開かれた資源エネルギー庁の再生可能エネルギー大量導入委員会の資料4「再生可能エネルギーの大量導入を支える次世代ネットワークの構築について」では、「特に揚水発電については、経済性の確保が困難な施設もある中、中長期的に必要となる調整力を確保する観点から、設備維持を図る方策についても検討が必要ではないか。」とされている。

 本稿では、揚水の積極的な支援のためのいくつかの対策を考えてみた。

1.ポンプロスへの託送料課金
 2016年4月からポンプロス託送料の制度が導入された。ポンプロス1の託送料は小売全面自由化した2016年4月から揚水所有者が負担し、揚水所有者はTSO(送電会社)との間で毎月積算することで、徴収されている。発電所から揚水もしくは蓄電池に電力を100供給し、蓄電するとしてその分には託送料金はかからないが、揚水もしくは蓄電池から需要家に供給する分の80、及び揚水ロス・蓄電ロスに対し託送料金がかかる。(図1

図1

 これはポンプロスの分と託送料金のダブルにコストがかかっていることになる。仮に10円/kWhで電気を調達し、揚水で水を上池に揚げた場合、10円/kWh×100/702=14.3円/kWh以上の売電価格が必要になる。ここで必要な値差は14.3-10円=4.3円/kWh。さらに、10kWhで下池から上池に揚げたものを上池から下池に落として発電する場合30%のロスが発生するため、この3kWhに対し、3kWh×7.16円がかかり、=21.5円の託送料金がかかる。これを供給のkWhでみると、21.5円/7kWh=3.1円/kWh。4.3円/kWhと3.1円/kWhの合計で7.4円/kWhの値差が必要となる。図2-1,2,3,5,6,7,10,11,12,18,19,20は2017年度で本土7エリアでの昼(13時~17時)と夜(0時~4時)のエリアプライスの最大値をとった日と最小値をとった日の価格の動きを図示したものであるが、現在のJEPXでは昼と夜の間で7.4円/kWh以上の値差が開いた日数は関西エリアで67日、北海道エリアで51日、九州エリアで74日、東日本エリアで39日であった。数年前に比べれば、増加傾向にあるものの、まだ十分でなくこの水準以下では、ポンプロスへの託送料金が行われると、揚水オペレーションは採算が合わないことになる。この点でポンプロスへの託送料金徴収は揚水の事業性を難しくしている。

2、揚水発電所への評価軸と定量的評価の必要
 図2-4,8,9,13-17,21は値差が最大の日と最小の日及びその前後1日ずつの需給を示したものである。各電力会社がどのような電源構成、連系か、またどのようなタイプ(定速機か可変速機か)の揚水プラントをもっているかによって、揚水発電のオペレーションに違いがあると思われるが、各TSOは当該時間帯の自社供給力の需給バランスを最優先し、供給余力のある時点(その時は供給過多になっているので、料金的にも安い)である 1)夜間にベース電源である原子力、石炭による余剰電力 もしくは近年はこのパターンが多いが 2)午前中から13時の昼休み明けぐらいまでの太陽光発電を吸収している。

 他方、発電時は、夕刻の急激な需要増加による需給逼迫時以外は以後の太陽光等の抑制を回避するために上池の貯水池容量を確保する目的で発電したような動きもみられる。

 このように我が国の現状においては揚水、特に定速揚水発電所への評価が、需給安定用なのか、KWhによる収益狙いなのか役割がはっきりせず、 揚水発電所単体への評価が定まりにくい。このため、個別発電所に対応する固定費の回収見込みのない揚水発電所から廃止されていく可能性もある。今後は揚水発電所への評価軸の確立と定量的評価ができるようにすべきではないだろうか?

図2-1~図2-3

図2-4~図2-6

図2-7

図2-8~図2-9

図2-10~図2-12

図2-13~図2-14

図2-15

図2-16~図2-17

図2-18~図2-19

図2-20~図2-21

3.揚水発電所での投資インセンティブ
 ドイツにおいては2011年8月4日から15年以内に運転される電気エネルギーの貯蔵のために2008年12月31日以降に建設された新しい設備は、電力供給の委託日から20年間ネットワークアクセス料金が免除される。電気ポンプまたはタービン容量が少なくとも7.5パーセント増加するか、または2011年8月4日以降に貯蔵可能エネルギー量が少なくとも5パーセント増加していることが示されている揚水発電プラントは、電気エネルギーの購入に関する委託から10年間ネットワークアクセス料金から免除される 3

 我が国においても既存の揚水発電所の稼働率を上げるために必要な投資は行うべきである。

4.ΔkW絶対値への評価
 図3-1、図3-2は電力9社の揚水の利用率4と稼働率5の代用変数(ここでは1時間コマで1分でも稼働していたコマ数をカウントし、8760時間のうち比率で計算)で比較したものである。利用率は10%程度と低いが、稼働率は可変速揚水を持つ北海道、東京、関西、九州は高くなっている。

 現在、制度設計されている需給調整市場等での調整能力の評価(精算)を30分単位のkWhではなく(瞬時の大きな出力の調整がずっと続くわけではないのでkWhで見ると多くはない)、PJMで実施しているような対応した出力の変化量(ΔkW)の絶対値6の総和で評価されるような制度設計を行えば揚水の価値も適切に評価されようになる。

 揚水発電所は運転開始後、年数が長い場合は、kW当たりの固定費が安くなり、調整力公募や、その後の容量市場、需給調整市場等を活用すれば、固定費の回収ができ、一定の競争力を持てると考えられるが、固定費の全てを回収できるかは不透明となる。このため需給調整市場の1次もしくは2次調整力においてΔkW絶対値への評価ができるようにすることが必要である。

5. 無効電力提供への評価
 現在の電力取引市場において、取引対象となっているのは有効電力(kWh)のみであり、無効電力(Var)については取引(評価)の対象となっていないのが実態である。

 しかしながら、電力系統を維持していくためにはこの無効電力の調整が不可欠であり、その調整に高い性能を発揮している揚水発電が評価されない仕組みとなっているため、 無効電力調整の対価を一切得ることができていない。揚水発電所が提供する無効電力への評価についても検討していく必要があるのではないだろうか。

6.まとめ
 以上をまとめると以下の5点のようになる。

 (1)揚水発電のポンプロスへの課金は再考すべき。
 (2)調整力公募やその後の容量市場and/or需給調整市場で固定費回収ができる制度設計にすべき、
     特にΔkW絶対値への対応力をマネタイズする需給調整市場における制度設計
 (3)ドイツのように揚水発電の稼働率を上げるための投資へのインセンティブを与えるべき
 (4)揚水発電所への評価軸と定量的評価の必要
 (5)可変速揚水への特別な配慮

 揚水は我が国に29GW存在し、その役割は、現状「そこにあって当然」のような扱われかたをしているが、発送電分離を控え、その役割を分解(De-compose)し、役割ごとの価値をそれぞれ個別の市場で合理的に評価していく制度設計が必要になるだろう。

 これに合わせて揚水発電はTSOが所有する案もあるが、容量市場の設計や、国民負担への影響、当日市場の拡充、卸市場のあるべき価格水準等も見据えながら、一層の議論が必要になろう。

図
1
下池から上池に揚水を行うために使った電力量と、上池に貯水された水によって発電された電力量の差分のこと。

2
水車・ポンプと発電機のみを考えた場合は理論上は揚水発電機の最高発電効率(水車効率×発電機効率)、最高揚水効率(水車効率×電動機効率)は、共に約85~88%程度のためロスは1-0.85×0.85=0.2775となるが鉄管での損失等を加味し、「発電電力量」/「ポンプアップに要した電力量」が0.7程度とした。ただ、実際の運用では、ポンプアップした水の量と発電に要した水の量を正確に誤差なく測定することは難しい。

3
(電気・ガス供給に関する法律(エネルギー産業法 – EnWG)第118条暫定規制)Law on Electricity and Gas Supply (Energy Industry Act – EnWG)Section 118 Transitional regulations)

4
設備利用率 Capacity Factor (Annual) (%) = (Annual generation kWh/station rated output kW x 8760) x 100=年間発電電力量(KWh)/(定格出力KW×24時間×365日)

5
稼働率=事故や点検や点検を除いて稼働している時間/ 24時間×365日)Utilization Factor (Annual) (%) = (Annual Operation hour/8760) x 100

6
「出力の変化量(ΔkW)の絶対値の総和」とは 「30分単位のkWh」の評価であれば、例えば30分間の間にポンプアップで-50kWhの調整を行った後、その後急に供給力が足りなくなり、発電で+50kWhの調整を行った場合、評価値は合計の0kWhとなり、これでは揚水の働きが全く評価されていないことになるため、kWhではなくΔkW(プラス側マイナス側関係ない絶対値の総和)で評価すべきということである。


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